それでは今回もよろしくお願いします。
大晦日。
いよいよ一年の終わりが目前となり、行き交う人々は、残された時間で何かをしようと慌ただしく動いているように見える日。もやもやした白い吐息が風に流されるのを見ながら、俺は駅前にて人を待っていた。
相手は言うまでもなく……
「八幡!」
「……おう」
冬の街並みによく似合う真っ白なコートに身を包んだ海未が、俺と同じように白い吐息を風に溶かしながら、小走りで駆け寄ってくる。心なしか、いつもよりテンションが高いようだ。
「ご、ごめんなさい。待たせてしまいました……」
「いや、大丈夫だ」
弾む息を整えながら、海未はこちらを窺うような上目遣いを向けてくる。
「えーと……まあ、あれだ……」
「?」
つっかえて出てこない言葉に対して、海未は小首を傾げる。
「……その……コート、よく似合ってる」
「あ、ありがとうございます!」
頬を赤く染め、やわらかく微笑んだ海未は笑顔で手を差し出してきた。
「で、では、その……」
「ああ……」
俺はその手を取り、握り締めた。
あの日、μ’sはラブライブ決勝大会行きを決めた。その後は打ち上げやらなんやらで、二人っきりになる暇などもちろんなく、クリスマスデートを兼ねたデートを今日にすることになった。
目的地までの距離を、他愛ない会話で埋めながら歩いていると、海未がはっと何かに気づいたような表情になる。
「そういえば、八幡」
「どした?」
「私達がこういう普通のデートをするのは初めてではないですか?」
「……確かに。前にお前が作詞の題材とかいって連れ回された事があったが……」
「ああ、ありましたね。ふふっ、あの時はこうなるとは思ってもみませんでした」
「まあ、そんな昔でもないけどな」
「ふふっ、貴方が破廉恥な事ばかりするから、その記憶に埋もれていったのでしょう」
「……行くか」
「はいはい」
海未の苦笑を聞き流し、颯爽と歩く。
別にあんなことやこんなことを思い出して気恥ずかしくなったからではない。
デスティニーランドは、年末のカウントダウンパレード目当ての客で溢れ、混雑を極めていた。なんというか……うん、ひたすら歩きづらそう。
「場所……変えるか」
「変えませんよ」
手をぎゅっと握られ逃げることが出来なくなる。
「いや、ほら……動きづらそうだったんで……っ!」
「…………ん」
唐突すぎるキス。
唇を塞ぐ温もりに、手足は硬直し、意識はとろけていく。
離れてからも、しばらく意識がぼぅっとなってしまい、言葉を紡ぐのにも一苦労だった。
「お、お前……いきなり……」
しかし、俺の抗議など虚しく、彼女の人差し指が唇に置かれる。
「今日は……たくさん、したいです」
「っ……」
「さ、さあ行きましょう!」
海未に手を引かれ、光と音の波の中へ飛び込んでいく。甘い囁きは頭の中で何度も反響し、それにつれて、鼓動も大きく高鳴っていった。
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