捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第72話

 

 海未のあまりの可愛さに、質問攻めは収まり、その場はお開きとなった。ちなみに、彼女はその魅力にまったく無頓着で……

「あの……皆は一体どうしたのでしょうか?」

 などとのたまっている。

 しばらくゾロゾロと歩いてから、高坂さんが俺達二人に笑顔を向けてきた。

「じゃあ、私達はこっち行くから!二人はごゆっくり~!」

「また明日ね!」

「はあ……さよなら、私の初恋」

「絵里ちゃん、シュンとしないで!ねえ、話聞くにゃ!」

「美しい友情の始まりやね」

「明日は明日の風が吹くもんね」

「色々混ざってない?」

「海未!恋愛もいいけど、次のライブ頼んだわよ!」

「ええ!任せてください!」

 矢澤さんの言葉に海未は力強く頷く。それを見て、3人組がヒューヒューと囃し立てた。ちなみに、A-RISEのメンバーは一足早く店を出た。最後にあんじゅ編がどうのこうのとか言っていた気がするが、何の事だろうか。

「じゃあね、ハッチー!海未ちゃんをしっかり送り届けるんだよ!」

「まだ高校生ってこと忘れちゃダメだよハッチー!」

「ハッチー、ファイト!」

「ハッチーって……」

 そんな恥ずかしい名前の人は知らない。

「ハ、ハッチー……」

「いや、お前まで呼ばなくていいから……」

 海未にツッコミを入れ、いくつかの視線を背に受け、二人で並んで、歩き出した。

 

 俺も海未も黙って、とぼとぼと彼女の家までの道を歩く。空は少し薄暗くなり、もうしばらくすれば、夜の帳が下りてきて、この街も、俺の住む街も優しく包み込むのだろう。

 ふと隣を見るのと同時に、海未が口を開いた。

「八幡……」

「……どした?」

「私達……本当に恋人になったんですよね?」

「あ、ああ…………っ」

 海未は突然俺の手を強く握り、細い路地へと連れ込み、自分の唇を俺の唇に、さっきより強く押しつけてきた。

 咄嗟の出来事に、俺は海未を押しとどめる。

「ご、ごめんなさい、嫌でしたか?」

「……んなわけあるか。でも、まあ、あれだ……いきなりどうした?」

「…………から」

「?」

「貴方の事が……大好きだから」

 真っ直ぐすぎる言葉に心があっさり貫かれる。

 海未の目はとろんとしていて、上気した頬を一筋の汗がすーっと流れた。制服の下で呼吸に合わせて動く胸も、やけに艶めかしい。

 理性を保っていられる自分は、割とすごいと本気で思う。

「…………俺も、同じ気持ちだから……っ」

 言い終えると同時に、また口を塞がれる。柔らかな感触がどんどん馴染んできて、脳に深く刻みつけられていく。

 唇を離した彼女は、また同じようにうっすら濡れた瞳を向けてきた。

「……はちまぁん……」

 ……反則すぎる。

 結局、海未を送り届け、自宅に帰る頃には、日を跨ぎそうな時間になっていた。

 

 





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