捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第69話

 

「………………」

「……ん……ん」

 しばらく唇を重ねている内に、自分達は今初めてのキスを交わしているのだという事実に思い至る。柔らかな感触が脳を支配し、甘やかな時間が過ぎていく。

「ぴゃああ……」

「にゃにゃにゃにゃ……」

「海未ちゃ……ええ!?」

「わあ……」

「ここ、学校なんだけど……」

「あわわわ」

「○×△□*!?♩♡……」

「エ、エリチ!?」

「わお!」

「ヒューヒュー!」

「おめでとー!」

 周りからの声が聞こえた所で、どちらからともなく、そっと唇を離す。

 海未はややふてくされ気味の顔をしながら、小さく呟いた。

「大嫌い……」

 そのまま、俺の胸に額をこつんと当ててくる。

「……そっか」

「でも……それ以上に大好きです」

「……あ、ありがとう」

「ふふっ、なんか色々とすっきりしました」

「?」

 海未は一歩引いて、俺から距離を取り、思いきり指差してきた。

「八幡、私の恋人になりなさい」

「……あ、ああ」

「何ですか、その煮え切らない返事は?貴方に拒否権などありませんよ」

「了解」

 俺は頷くと、すぐに海未を抱き寄せ、二度目の口づけを交わす。彼女はすんなり受け入れ、背中に手を回してきた。

 ……告白もキスも海未からとか、俺らしいヘタレっぷりに呆れてしまいそうだ。

 まあ、これが俺達らしい形なのかもしれない。

 周りからは、そこそこ色めき立った声が聞こえてきたが、今はどうでもいい……

「さて、これはどういう事かしら?」

 事はありませんでした。

「助けて~!エリチがはぐれメタルみたいになっとる!」

 

 俺達は南さんの母親でもある理事長に、一時間以上たっぷり搾られた。

「ふぅ……まあ、今回は校内侵入の件も、キスの件も不問にします。今後は気をつけてください」

「「はい」」

 μ’sのメンバーや、他の生徒からもフォローしてもらい、何とか許してもらえた。

 とはいえ、さすがに今回は考えがなさすぎた。4月には、こんな事をしでかすなんて、想像もつかなかった。

 理事長は椅子から立ち上がり、隣に来て、肩に手を置いた。

 そして、殊更真剣な声音で告げた。

「比企谷君」

「はい……」

「私の娘の親友を泣かしちゃダメよ?」

「……はい」

 その言葉になるたけ力強く頷くと、理事長は笑みを浮かべ、ウインクして、俺達の肩をポンッと叩く。

「じゃあ。もう行っていいわ。学校の外でも節度ある交際を心がけてね」

「「は、はい……」」

 

 二人で並んだまま無言で歩いたが、校門を出た辺りで、ようやく緊張が解ける。

「あー、助かった……」

「まったく……後先考えなさすぎです」

「……自分でもよくわからん。てか、練習はいいのか」

「皆、どうやら近くのファミレスにいるようです。一旦仕切り直しとか……」

「そっか」

「ちなみに八幡も強制参加です」

「は!?」

「当たり前です!メールには、色々聞かせてと書いてあります!このまま私一人で行けば……考えただけでも恐ろしい……」

「お前なら大丈夫だ」

「何を爽やかに言っているのですか!いいから行きますよ!」

 これは逆らえそうもない。つーか、変な事話されても困るし。

「はあ……じゃあ、行くか」

 俺は自分でも情けないくらい、躊躇いがちに手を差し出す。さっきの大胆さはどこへやら、と言いたいぐらいだ。

 でも、彼女は優しい笑顔を向けてくれた。

「……はい!」

 海未が俺の手を握り、二人はまた同じ歩幅で歩き出す。夕陽に伸びる影が溶け合い、一つになっていく。そこを風がさらさらと撫でていった。

 こうして俺と海未は恋人同士になった。

 

 





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