それでは今回もよろしくお願いします!
6月。
梅雨に突入し、この街も連日雨に見舞われていた。
今朝は晴れていたのだが、午後になると、それが当然と言わんばかりに雨が降り始めた。
傘を片手に行き交う人々の顔は、どれも鬱っぽく見え、皆一様に梅雨明けを願っているように見える。
雨の音だけの静かな空間は嫌いではないのだが、こうも続くと、ベストプレイスでの食事が出来なくなってしまう。
そのベストプレイスという単語に身震いしてしまった。
今となっては憩いの場だけではなく、トラウマの発生地となった場所。いや、それを言えば校舎全体が……だって男子トイレに逃げても追いかけてくるんだぜ?長い黒髪を揺らしながら、男子トイレを闊歩する園田の威圧感まじぱねえわー。
「ふう……どうしましょう。傘をわすれてしまうなんて」
そうそう。あんな長い黒髪。…………は?
見間違いなんかじゃない。
そこには僅かな雨宿りスペースで困り顔をしている園田海未がいた。
「…………っ」
あ、目が合った。
しかし、ポケモントレーナーみたいにこちらに歩いてきて、勝負を申し込んでくる事はなく、ただじぃ~っとこちらを見ている。案外、このまま気づいてないふりして逃げられるんじゃないかしら。
「…………」
「はあ……」
俺は溜息を一つ吐き、園田の元へ緊張しながら、頭突きに備えながら歩いていく。
「……何……してるんだ?」
「こちらに来るまでにやたら躊躇していた上に、ずっと警戒してるのが気になりますね。比企谷八幡」
「……随分な言い草だな」
いや、当たってるんだけどね。
「……どうかしたのか?」
「あなたには関係ありま……くしゅっ!」
よく見れば園田はずぶ濡れだった。トレードマークの黒髪もしっとりと濡れていて、少し頬に張りついているのが、妙に艶めかしい。
「………!」
「どうかしたのですか?」
気づいてないようだが、上着が濡れて、完全に下着が見えている。ピンク!意外!
「何を赤くなっているのですか…………っ!」
園田は俺の視線に気づき、胸元をさっと隠す。
「わ、悪い!」
「あなたは女性に会う度にハレンチな事をしないと気がすまないのですか!?」
「いや、見てない!何も見てない!」
「む……そうですか」
優しい嘘をついたが、何とか俺の言葉は聞き入れてもらえたようだ。その事にほっと一安心しながら、視線を余所に向ける。
「まさかこんなに降るとは……」
「天気予報見てないのかよ」
「確認し忘れただけです。朝は晴れてましたからね」
「そっか……」
「ちなみに何色でした?」
「ピンク」
「…………」
「…………」
はっ!まさかこれが誘導尋問!?
隣を見るとニヤァッと邪悪な笑みを浮かべる鬼がいる。
「嘘をつきましたね?そこに直りなさい」
「…………」
「あ、さり気なく逃げようとしないでください!」
細い体型から想像もつかない力で、肩をしっかりと掴まれたその瞬間、よく通る妹ボイスが響いた。
「あれ?お兄ちゃん、何してんの?」
そこには兄を気遣うふりをしながら、目は俺の状況を楽しんでいる小町がいた。
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