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それでは今回もよろしくお願いします。
私達は……恋人同士じゃ……ない?
形容しがたい不安が胸の中に膨らみ始め、私は落ち着かなくなり、その場を右往左往し始めてしまいました。
「穂乃果穂乃果穂乃果……も、もしかしたら私は……とんでもない勘違いをしていたのでしょうか?」
「だ、大丈夫だよ!ほら、キスしてたし!」
穂乃果の発言に、他のメンバーが色めき立つ。
「キス!?」
「そ、そこまで……」
「大人にゃー……」
「ほ、穂乃果、何をいきなり……!」
確かに事実ですが……。
「さ、練習始めるよ!今日は皆、普段とは違う自分になるんでしょ!」
俺は音ノ木坂学院の門の前……から少し離れた自動販売機の陰にいる。さすがに門の近くに寄りかかって待つような真似はできない。この態勢もかなり怪しいが。
「あのー……」
「っ!」
いきなり声をかけられ、慌てて飛び退いてしまう。
するとそこには、ショートカット、ポニーテール、ツインテールの女子3人組がいた。もちろん、不審者を見るような冷たい眼差しで。
その中でも、一番気の強そうなショートカットの女子が、また距離を詰めてきた。
「うちの学校に何か御用ですか?」
「え?いや、あの……」
どう言い訳したものかと考えていると、後ろのポニーテールの子がこちらを見て、何かに気づいたような表情を見せる。
「あれ?この人……」
「海未ちゃんの知り合い、だよね?」
「あ、ああ……」
ホッと胸を撫で下ろす。よかった。ここで最終話を迎えるところだった。
しかしそれも束の間、3人が一気に詰め寄ってくる。近い近い近い近い!
「ねえねえ、本当の所どうなの?」
「……何がだ?」
「決まってるじゃない。二人、付き合ってるの?」
「よく二人で一緒にいるよね?」
「ああ、あれだ……色々あるんだよ……」
「「「その色々が聞きたいんだよ!」」」
「お、おう……」
「うち女子校だし、周りが色っぽい話無いから」
そうなのかもしれない。
「私達のルート、三人で一つになりそうだし……」
それは何の事だかわからない。
「ね?お願い!何なら、学校の中に侵入させてあげるから!」
「……今から……ちゃんと恋人になりたいと思ってる」
俺の言葉を聞いた3人は、笑顔で頷いてくれた。
「よし、じゃあついてきて!」
音ノ木坂学院校内。
俺はメタルギアみたいにダンボールに隠れて、台車で運んでもらっているのだが……
「あれ、どうしたの?その荷物」
「せ、先生に頼まれちゃってさ!あははー」
誤魔化すのが下手すぎる!
「じゃあね~ごきげんよう~」
ヒヤヒヤしたが、何とかやり過ごした。皆もヒヤヒヤしたんじゃなーい!?……はあ……。
「おい、早くもピンチなんだが……」
「大丈夫だって」
「そうそう。生徒数も今は少ないし。バレないって!」
「比企谷君転校してくれば?楽しいよ!」
「いや、遠慮しとく」
女装でもしろというのか。
「あ、いたよ!」
穴から見えたのは、今まさに階段を昇ろうとする園田海未の後ろ姿だ。
待ちきれずに箱をどかし、台車から下り、3人組に会釈した。
「さ、行ってきな!」
「男を見せろ!」
「フラれたら慰めてあげるよ!」
3人組の声援を受け、思いきり走り出す。意外とすぐに追いつき、その手首を掴む。
「えっ?」
「どうしても……今日言わなきゃならない事がある」
照れくさくて、顔を見れずに俯いたまま、言葉を紡ぐ。後ろでこっそりついてきていた3人組が何か言っているが、今はそれどころではない。
「……俺と付き合ってくれ……ちゃんと言っておきたかった」
「……え?」
「は?」
そこにいたのは、海未と同じジャージを身に着け、かつらを装着した高坂穂乃果だった。
彼女は薄く頬を染め、視線をあちこちに彷徨わせる。
「えーと……」
「……」
「は、は、はちはち、八幡!?」
「え?お前、その格好……」
海未はいつもと違い、やけにガーリーなレッスン着を身に着けていた。
「今日は気分を変えようという事で……それより今……」
「いや、違う。悪かった、高坂さん」
「う、うん、びっくりしちゃったよ……」
「八幡の馬鹿!」
海未は階段を全速力で駆け上がる。
「比企谷君、何やってんの!」
「間違ってるって言ったじゃん!」
「……面目ない!」
人の話はちゃんと聞きましょう!
海未の姿は見えないが、一番上の扉が閉まる音がした……なんて速さだ。
急いで階段を登りきり、屋上の扉を開け放ち、ありったけの想いを叫んだ。
「俺と付き合ってくれって言いに来たんだよ!」
「「「「え?」」」」
扉を開けたすぐそこにいたのは、南さん、西木野真姫
、 東條さん、矢澤さん、絢瀬さんの5人だ。海未は奥の方にいて、驚愕の目でこちらを見ていた。
「あはは、いきなり言われても……海未ちゃんがいるし……」
「オ、オコトワリシマス!」
「ん~?比企谷君はウチが好きやったん?」
「それよりアンタ!男子の癖にどこから入って来たのよ!」
「ボリショイパビエータ!!!」
「八……幡……」
「いや、待て海未。事故だ。皆さん申し訳ございません」
「八幡のアホンダラ~~!!」
海未は縮地ばりの速さで俺の脇をすり抜け、階段を駆け下りた。
「くっ…!」
慌てて追いかけるが、階段を降り、曲がった所で、人とぶつかる。
「ぴゃあっ!」
「にゃにゃっ!?」
勢い余って、女子二人を床ドンをしてしまっていた。顔を見ると、μ’sの小泉花陽と星空凛だった。二人は顔を真っ赤にして、目をオロオロさせている。
「ダレカタスケテェ……」
「り、凛にはまだ……はやいよ……」
「わ、悪い!」
「…………」
恐ろしい気配に顔を上げると、海未はすぐそこにいて、こちらを見下ろしていた。
「八幡、起立」
「はい」
「とりあえず、貴方の破廉恥な行いに関しては一旦置いておきましょう。まず、何故ここにいるのですか?」
「……話がある」
「それは……」
海未の瞳を見つめ、学校の廊下という事も忘れ、はっきりと言う。
「俺と付き合ってくれ」
「…………」
彼女はポカンとした表情になる。……そりゃそうか。まあ、俺の不安は的中せずにすんだからよしとしよう。
「あの時、言い忘れてた。悪い」
「それをわざわざ……学校に侵入してまで?」
「これは……成り行きだ」
「…………」
海未は俯き、ブルブルと震えている。
どうかしたのかと思い、肩に手を置くと、顔を上げ、キッと睨みつけてきた。
「貴方はいつもいつも私の心をかき乱して……!私を……こんな気持ちにさせて……!」
海未は俺の頭を左右から鷲掴みにした。この感触を俺は覚えている。初めて出会った時の事だ。
間近で見つめ合った海未の瞳は濡れ、唇は震えていた。
「貴方なんか……貴方なんか……」
俺は来るべき衝撃に備え、目を閉じた。
「……ん」
「……っ」
待っていたものは来ない。
代わりに衝撃がきたのは額ではなく唇。
彼女の柔らかな唇が俺の唇に強く押しつけられていた。
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