捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第68話

 私達は……恋人同士じゃ……ない?

 形容しがたい不安が胸の中に膨らみ始め、私は落ち着かなくなり、その場を右往左往し始めてしまいました。

「穂乃果穂乃果穂乃果……も、もしかしたら私は……とんでもない勘違いをしていたのでしょうか?」

「だ、大丈夫だよ!ほら、キスしてたし!」

 穂乃果の発言に、他のメンバーが色めき立つ。

「キス!?」

「そ、そこまで……」

「大人にゃー……」

「ほ、穂乃果、何をいきなり……!」

 確かに事実ですが……。

「さ、練習始めるよ!今日は皆、普段とは違う自分になるんでしょ!」

 

 俺は音ノ木坂学院の門の前……から少し離れた自動販売機の陰にいる。さすがに門の近くに寄りかかって待つような真似はできない。この態勢もかなり怪しいが。

「あのー……」

「っ!」

 いきなり声をかけられ、慌てて飛び退いてしまう。

 するとそこには、ショートカット、ポニーテール、ツインテールの女子3人組がいた。もちろん、不審者を見るような冷たい眼差しで。

 その中でも、一番気の強そうなショートカットの女子が、また距離を詰めてきた。

「うちの学校に何か御用ですか?」

「え?いや、あの……」

 どう言い訳したものかと考えていると、後ろのポニーテールの子がこちらを見て、何かに気づいたような表情を見せる。

「あれ?この人……」

「海未ちゃんの知り合い、だよね?」

「あ、ああ……」

 ホッと胸を撫で下ろす。よかった。ここで最終話を迎えるところだった。

 しかしそれも束の間、3人が一気に詰め寄ってくる。近い近い近い近い!

「ねえねえ、本当の所どうなの?」

「……何がだ?」

「決まってるじゃない。二人、付き合ってるの?」

「よく二人で一緒にいるよね?」

「ああ、あれだ……色々あるんだよ……」

「「「その色々が聞きたいんだよ!」」」

「お、おう……」

「うち女子校だし、周りが色っぽい話無いから」

 そうなのかもしれない。

「私達のルート、三人で一つになりそうだし……」

 それは何の事だかわからない。

「ね?お願い!何なら、学校の中に侵入させてあげるから!」

「……今から……ちゃんと恋人になりたいと思ってる」

 俺の言葉を聞いた3人は、笑顔で頷いてくれた。

「よし、じゃあついてきて!」

 

 音ノ木坂学院校内。

 俺はメタルギアみたいにダンボールに隠れて、台車で運んでもらっているのだが……

「あれ、どうしたの?その荷物」

「せ、先生に頼まれちゃってさ!あははー」

 誤魔化すのが下手すぎる!

「じゃあね~ごきげんよう~」

 ヒヤヒヤしたが、何とかやり過ごした。皆もヒヤヒヤしたんじゃなーい!?……はあ……。

「おい、早くもピンチなんだが……」

「大丈夫だって」

「そうそう。生徒数も今は少ないし。バレないって!」

「比企谷君転校してくれば?楽しいよ!」

「いや、遠慮しとく」

 女装でもしろというのか。

「あ、いたよ!」

 穴から見えたのは、今まさに階段を昇ろうとする園田海未の後ろ姿だ。

 待ちきれずに箱をどかし、台車から下り、3人組に会釈した。

「さ、行ってきな!」

「男を見せろ!」

「フラれたら慰めてあげるよ!」

 3人組の声援を受け、思いきり走り出す。意外とすぐに追いつき、その手首を掴む。

「えっ?」

「どうしても……今日言わなきゃならない事がある」

 照れくさくて、顔を見れずに俯いたまま、言葉を紡ぐ。後ろでこっそりついてきていた3人組が何か言っているが、今はそれどころではない。

「……俺と付き合ってくれ……ちゃんと言っておきたかった」

「……え?」

「は?」

 そこにいたのは、海未と同じジャージを身に着け、かつらを装着した高坂穂乃果だった。

 彼女は薄く頬を染め、視線をあちこちに彷徨わせる。

「えーと……」

「……」

「は、は、はちはち、八幡!?」

「え?お前、その格好……」

 海未はいつもと違い、やけにガーリーなレッスン着を身に着けていた。

「今日は気分を変えようという事で……それより今……」

「いや、違う。悪かった、高坂さん」

「う、うん、びっくりしちゃったよ……」

「八幡の馬鹿!」

 海未は階段を全速力で駆け上がる。

「比企谷君、何やってんの!」

「間違ってるって言ったじゃん!」

「……面目ない!」

 人の話はちゃんと聞きましょう!

 海未の姿は見えないが、一番上の扉が閉まる音がした……なんて速さだ。

 急いで階段を登りきり、屋上の扉を開け放ち、ありったけの想いを叫んだ。

「俺と付き合ってくれって言いに来たんだよ!」

「「「「え?」」」」

 扉を開けたすぐそこにいたのは、南さん、西木野真姫

、 東條さん、矢澤さん、絢瀬さんの5人だ。海未は奥の方にいて、驚愕の目でこちらを見ていた。

「あはは、いきなり言われても……海未ちゃんがいるし……」

「オ、オコトワリシマス!」

「ん~?比企谷君はウチが好きやったん?」

「それよりアンタ!男子の癖にどこから入って来たのよ!」

「ボリショイパビエータ!!!」

「八……幡……」

「いや、待て海未。事故だ。皆さん申し訳ございません」

「八幡のアホンダラ~~!!」

 海未は縮地ばりの速さで俺の脇をすり抜け、階段を駆け下りた。

「くっ…!」

 慌てて追いかけるが、階段を降り、曲がった所で、人とぶつかる。

「ぴゃあっ!」

「にゃにゃっ!?」

 勢い余って、女子二人を床ドンをしてしまっていた。顔を見ると、μ’sの小泉花陽と星空凛だった。二人は顔を真っ赤にして、目をオロオロさせている。

「ダレカタスケテェ……」

「り、凛にはまだ……はやいよ……」

「わ、悪い!」

「…………」

 恐ろしい気配に顔を上げると、海未はすぐそこにいて、こちらを見下ろしていた。

「八幡、起立」

「はい」

「とりあえず、貴方の破廉恥な行いに関しては一旦置いておきましょう。まず、何故ここにいるのですか?」

「……話がある」

「それは……」

 海未の瞳を見つめ、学校の廊下という事も忘れ、はっきりと言う。

「俺と付き合ってくれ」

「…………」

 彼女はポカンとした表情になる。……そりゃそうか。まあ、俺の不安は的中せずにすんだからよしとしよう。

「あの時、言い忘れてた。悪い」

「それをわざわざ……学校に侵入してまで?」

「これは……成り行きだ」

「…………」

 海未は俯き、ブルブルと震えている。

 どうかしたのかと思い、肩に手を置くと、顔を上げ、キッと睨みつけてきた。

「貴方はいつもいつも私の心をかき乱して……!私を……こんな気持ちにさせて……!」

 海未は俺の頭を左右から鷲掴みにした。この感触を俺は覚えている。初めて出会った時の事だ。

 間近で見つめ合った海未の瞳は濡れ、唇は震えていた。

「貴方なんか……貴方なんか……」

 俺は来るべき衝撃に備え、目を閉じた。

「……ん」

「……っ」

 待っていたものは来ない。

 代わりに衝撃がきたのは額ではなく唇。

 彼女の柔らかな唇が俺の唇に強く押しつけられていた。





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