捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第65話

 俺から……告白?ドア越しに?

 いや、そんなはずはない。

「海未……告白ってお前からじゃなかったっけ?」

 俺の言葉に海未は小さく笑う。

「も、もうっ、照れているのですか?私の事をどう思っているか聞いたら、貴方は好きだと言ったではありませんか」

「……俺、あの時……材木座と電話してたんだが」

「え?」

 海未の顔が笑顔のまま、ピキッと固まる。やっべえ、すごい恐いんだけど。いやしかし、ここで誤解させたままなのも悪い。

 笑顔のままの海未は汗を一筋流した。

「あ、貴方は……材木座さんという方が好きなのですか?」

「絶対に違う!!」

 そこは全身全霊で否定させてもらう。

「材木座は男だ」

「そ、そそ、そうですか……八幡は……男の方が……」

「だから違うっての」

 ダメだ、こいつ……はやく何とかしないと。

 俺は深呼吸をして、京都の夜の冷たい空気を吸い込む。それでも、胸の奥のよくわからない熱は冷める事はなく、心臓の鼓動をより速くした。

 その波打つ感情に任せ、海未の両肩に手を置き、しっかりと目を見る。

 彼女は無言になり、同じように見つめ返してきた。

 風が竹の葉をかさかさ揺らす音が響き、世界に二人だけみたいな気持ちになった。

 後は、気持ちが自然と口から零れた。

「…………俺が好きなのは……お前だ」

 そのまま、以前の海未の行動をなぞるように、頬に浅く口づける。ほんのり優しい温もりが唇を通し伝わってきた。海未は身じろぎもせずに、じっと身を任せてくれていた。

「「…………」」

 顔を離し、また見つめ合うと、さっきより頬が紅く、少し震えだす。

 海未の瞳は、優しく濡れていた。

「私も、です。貴方が……好き」

「…………」

 目が閉じられ、何かを待つように顔がこちらに向けられる。薄紅色の唇は、今まで近くにいながら気づかなかった自分が恥ずかしいくらい、綺麗に整った形をしていて、目が吸い寄せられた。

 ここに自分のものを重ねるのは、正直躊躇われるが、ここで逃げるほど、男として腐ってはいない。

 手を繋ぎ、そのままゆっくりと……

「はちま~ん!はやく帰って我とUNOをするぞ!!」

「「!」」

 慌ててお互い飛び退く。

 それと同時に、ふわふわした空気は霧散して、辺りに飛び散っていった。

「「…………」」

 つい、二人して材木座を睨んでしまう。

「あ、なんか、すいません」

 奴は素に戻っていた。

 

「送ってくれて、ありがとうございます」

「……ああ」

「帰りは、大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。多分、俺とかいない事に気づかれていないし」

「それはそれで……」

 海未が泊まっている宿の前で、別れを惜しむように会話を引き延ばす。

 妙にくすぐったい時間が流れ、それは微笑みに変わる。

 俺と海未の関係は、確かに変わろうとしていた。

 

「ことりちゃん、私達忘れられてるよね……」

「うん……そうだね……」

 




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