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それでは今回もよろしくお願いします。
「右手がぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
右手を押さえながら、ジタバタを繰り返していると、辺りが急に静かになった気がする。目をやると、いつの間にか、戸部と海老名さんはその場を立ち去っていた。おい、一言くらい声かけろよ。
あれ?そういや由比ヶ浜と雪ノ下は……
「ねえ、ゆきのん!明日一緒に朝御飯食べよ!」
「朝御飯は自分の班で食べるのではないの?」
「いいじゃん、いいじゃん!ね?」
「ふぅ……仕方ないわね」
二人は仲良く会話しながら、さっきまでの事がなかったように和やかな雰囲気を纏っている。
仲いいね、君達……。
いや、いいんだけどさ。
その無情な背中を見送っていると、葉山が沈痛な面持ちで声をかけてくる。
「すまない。君はこんなやり方しかできないと知っていたのに……」
いや、お前……これを予想してたの?むしろ感心しちゃうんだけど。
葉山が去った後、最後にもう一回叫ぶ事にした。自棄である。
「右手がぁーーーーーーーーーー!!」
「いつまでやっているのですか?」
「あん?」
声の方を振り向くと、海未がいた。
その表情には、呆れたような微笑みと、労るような眼差しが混ざり、それにホッとさせられる。
「なんだよ……」
「それはこっちのセリフですよ。なんですか、さっきのは?」
海未がこちらに手を差し出してくる。
俺はその手を握り、ようやく起き上がる。
「……見てたのか?」
「ええ、ばっちりと」
「偶然……じゃないんだよな」
「ええ、戸塚君に聞きました。ごめんなさい。勝手な真似をして。ただ、その……」
「いや、いい。こっちも心配かけて悪かったな……まあ、あれだ。さっきのは、忘れてくれると助かる」
「はい。穂乃果とことりにも言っておきますね」
「え、マジ?あの二人にまで見られたの?」
「はい」
「しばらく旅に出て来るわ」
「もう旅先ですよ。旅の恥はかき捨てでいいではありませんか」
「……はあ……まあ、いいか」
「それより、少し歩きませんか?」
「いい夜ですね」
「……ああ」
海未が振り返りながら、こちらに微笑みかけるその姿は、ほんのりとオレンジに照らされ、この寒さを溶かすような温もりを感じた。
胸の高鳴りを押さえ込むように、ポケットに手を突っ込み、並んで歩き出す。
風は穏やかに竹林を抜け、京都の街へと流れていく。
そんな静寂の中、先に口を開いたのは海未だった。
「あの……この前の事なんですが……」
「あ、ああ……」
この前の事と聞いて、つい頬に手を当ててしまう。今なら、ちゃんと言える気がした。
「貴方から、ドア越しに……好きと言って貰えた時……嬉しかったです」
「…………え?」
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