捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第64話

 

「右手がぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 右手を押さえながら、ジタバタを繰り返していると、辺りが急に静かになった気がする。目をやると、いつの間にか、戸部と海老名さんはその場を立ち去っていた。おい、一言くらい声かけろよ。

 あれ?そういや由比ヶ浜と雪ノ下は……

「ねえ、ゆきのん!明日一緒に朝御飯食べよ!」

「朝御飯は自分の班で食べるのではないの?」

「いいじゃん、いいじゃん!ね?」

「ふぅ……仕方ないわね」

 二人は仲良く会話しながら、さっきまでの事がなかったように和やかな雰囲気を纏っている。

 仲いいね、君達……。

 いや、いいんだけどさ。

 その無情な背中を見送っていると、葉山が沈痛な面持ちで声をかけてくる。

「すまない。君はこんなやり方しかできないと知っていたのに……」

 いや、お前……これを予想してたの?むしろ感心しちゃうんだけど。

 葉山が去った後、最後にもう一回叫ぶ事にした。自棄である。

「右手がぁーーーーーーーーーー!!」

「いつまでやっているのですか?」

「あん?」

 声の方を振り向くと、海未がいた。

 その表情には、呆れたような微笑みと、労るような眼差しが混ざり、それにホッとさせられる。

「なんだよ……」

「それはこっちのセリフですよ。なんですか、さっきのは?」

 海未がこちらに手を差し出してくる。

 俺はその手を握り、ようやく起き上がる。

「……見てたのか?」

「ええ、ばっちりと」

「偶然……じゃないんだよな」

「ええ、戸塚君に聞きました。ごめんなさい。勝手な真似をして。ただ、その……」

「いや、いい。こっちも心配かけて悪かったな……まあ、あれだ。さっきのは、忘れてくれると助かる」

「はい。穂乃果とことりにも言っておきますね」

「え、マジ?あの二人にまで見られたの?」

「はい」

「しばらく旅に出て来るわ」

「もう旅先ですよ。旅の恥はかき捨てでいいではありませんか」

「……はあ……まあ、いいか」

「それより、少し歩きませんか?」

 

「いい夜ですね」

「……ああ」

 海未が振り返りながら、こちらに微笑みかけるその姿は、ほんのりとオレンジに照らされ、この寒さを溶かすような温もりを感じた。

 胸の高鳴りを押さえ込むように、ポケットに手を突っ込み、並んで歩き出す。

 風は穏やかに竹林を抜け、京都の街へと流れていく。

 そんな静寂の中、先に口を開いたのは海未だった。

「あの……この前の事なんですが……」

「あ、ああ……」

 この前の事と聞いて、つい頬に手を当ててしまう。今なら、ちゃんと言える気がした。 

「貴方から、ドア越しに……好きと言って貰えた時……嬉しかったです」

「…………え?」





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