捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第62話

 

 告白当日。

 わかりきっていた事ではあるが、戸部本人以外は大した手応えを感じないまま、この日を迎えてしまった。

 そして今、俺は葉山と川原に佇んでいる。夕陽はもうかなり傾いて、京都の街を赤く照らし、昼間とは違うノスタルジックな表情を作っていた。

「じゃあ、君はどうする?」

「…………」

 葉山からの真っ直ぐな問い。

 別に答える必要などない。ここまで来た以上、やる事は決まっている。

 しかし、頭の中に浮かんでいるのは、戸部や海老名さんでもなく、お節介で自分にも周りにも厳しく、それでいて優しい、真っ直ぐな奴の顔だった。

 

「君には頼りたくなかったんだが……」

「お互い様だよ……馬鹿野郎」

 彼はその場を立ち去り、振り返る事はありませんでした。先日の屋上でのやり取りの時にも思ったのですが、この二人の間には、仲が良いとか悪いとかではない、不思議な距離感があるように思えます。

 しかし、こんな場面に遭遇してしまうとは……。

 せっかく京都に来たのだから、歌詞を一作くらいは完成させようと思い、一人で散策していたら、偶然八幡を見つけてしまった。偶然にしてはできすぎていて、穂乃果が何かしたのかと、疑ったくらいです。

 とりあえず声でもかけようかと近寄ろうとすると、彼は真剣な面持ちで、この前屋上にいた男子と話していました。

 そして、悪趣味とは思いながらも、こっそり近寄って、話を聞いてしまい、今に至ります。

 推測による所も多々ありますが、おそらく八幡は、戸部君という男子の告白を手伝おうとしていて、もう一人の男子はそれを止めたいが、人間関係の問題でそれができない。

 八幡はその落とし所を思いついてはいるようですが、私にはそれが何なのか、想像もつきません。

 ……私はその場を見届けようと決め、必要な情報を得るため、ある人に連絡を取りました。

 

 自分の班の部屋に戻り、鞄の近くに腰かけ、時間を確認する。

 やる事は決まっている。

 しかし、何故かそれをやりたくない自分がいる。

 小学校の授業で、作文を音読した時と同じように、何の感情も込めず、決められたことを読み上げればいいだけだ。誠意などいらないし、相手と目を合わせる必要もない。なのに……

 考えていると、不意に背中をちょんちょんつつかれた。

 慌てて振り向くと、そこには戸塚がいた。

「おう」

「八幡、いよいよだね。何だかドキドキしてきたよ」

「…………」

 いかん。危うく戸塚に告白するところだった。

「そういえば、場所はどこなの?」

「あー、竹林の道だ」

「そっか……じゃあ、頑張って!」

「頑張るのは戸部だ」

「あはは、そうだね」

 柔らかな笑顔につられ、こちらも苦笑してしまう。

 戸塚と話している内に、少しだけ心が軽くなった気がした。

 





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