捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第59話

 秋の京都は、やはり世界有数の観光都市らしく、大勢の観光客で賑わっていた。正直、大人しく京都駅内の喫茶店で本でも読んでいたい気分だ。

「ヒッキー、またバカな事考えてたでしょ?」

「……今、お前にだけは言われたくない単語ナンバーワンが含まれていた気がするんだが」

「ちょ、どうでもいいでしょ!そんな事は!」

「つーか、そこまで顔に出てたか?」

「うん。ヒッキー、最近その辺りが感情豊かっていうか……」

「…………」

 まじか。

 ポーカーフェイスを意識して、これまで生きていたつもりだったのだが……いや、多分由比ヶ浜の言う通り、少しだけ変わったのだろう。そして、それが何によるものかは明白だった。

 あれから、まだ連絡を取っていない。向こうからも。

 せめて修学旅行が終わるまでには答えを…………いや、今は考えるのは止めておこう。

 今やるべきは、クラス一のお調子者・戸部の、実る確率が殆どゼロに近い恋心の処理……もとい、戸部と海老名さんが両想いになるよう、アシストする事だ。

 両想い、という言葉が頭によぎった時、少し顔が熱くなった気がした。

 いや、そうも言っていられない。

 実は修学旅行の前日に、海老名さんが部室にやってきた。一件、ただ駄弁りにきただけに見えるが、去り際の彼女は、明らかに『依頼』を残していった。しかも、雪ノ下と由比ヶ浜は気づいていない。

 ……まあ、やれるだけやってみるか。

 

「♪♪♪」

「…………」

「穂乃果?どうしたのですか?ずっとこちらを見ていますが……」

「…………」

「こ、ことりまで……視線が恐いですよ」

 京都に向かう新幹線の車内。

 幼馴染み二人が向けてくる視線に、こちらを探るようなものを感じる。一体何があったのでしょうか?

 穂乃果は顔を耳元に近づけ、少し声のボリュームを落とし、

「海未ちゃん、最近何かあった?」

「何が、と言われましても……」

「その……比企谷君と……」

「え?そ、そんな……ふふっ」

 先日、彼に……想いを告げた後の事を思い出す。

 自分でも信じられないスピードで駅に到着し、ジャージ姿のまま電車に乗り、駅を出てからも猛スピードで自宅まで走りました!ちなみに、この時は頭の中が真っ白で、何も考える余裕がありませんでした。

『た、ただいま戻りました、お母さん!』

『どうしたの?そんなに急いで……あと顔真っ赤よ?』

『はわっ!』

 ……そのまま私は、ベッドの中に潜り込んでしまいました。

 ど、どうしましょう!ついに言ってしまいました!あ、しかし、八幡は既にわかっていると言ってましたし……そ、それに……私の事が……好き……って……す、好きって……しかし、彼の好きは私のとは違う意味かもしれませんし……でも、もう言ってしまいましたし……何より……彼の頬に……キ、キ、キスを……。

 それからは、自分のテンションが異常なまでに上がったり、下がったりで、八幡からの連絡を待つ日々。とは言え、まだ1週間くらいしか経っていませんが。あまり考えたくはありませんが、もしかしたら……迷惑だったのでしょうか?

 

「海未ちゃん?」

「今度は落ち込んじゃったね……大丈夫?」

 二人の気遣わしげな声が、俯いた私の耳朶を撫でる。

 あまり心配をかけるのも、申し訳ない気がします。先日のことりの件もありますし、一人で思い悩むのも、良くない気がします。

「あの、二人共……よかったら、話を聞いていただけませんか?」

「……うん!」

「もちろんだよ!」

 二人はそう言って、いつものように笑ってくれる。

 今さらですが、私は幼馴染み達に、初めての恋愛相談をする事にしました。

 

「…………」

「ほら、あなた。泣かないの。海未だってそういう年頃なんだから。ね?」




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