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それでは今回もよろしくお願いします。
何とか数学の追試を終え、教室を出る。まさかこの短時間の試験を受けに来ただけなのに、○害予告されるとは思ってもみなかった。人生楽ありゃ苦もあるさという事だろうか。
その『楽』の部分を思い出す。
……そんな素晴らしいものでもなかった。
右手に僅かに残る感触に胸が高鳴るが、何だよ、この複雑な感情。1/3の純情な感情は置いといて、残りの2/3は……いや考えるのはよそう。雪ノ下よりは大きいだろうし。
それよかさっさと学校の敷地内から出よう。今ならまだ逃げられる。逃げなきゃだめだ、逃げなきゃだめだ、逃げなきゃだめだ。
そんな事を考えながら、何の気なしに窓の外を眺めていると、あの黒髪……園田が制服姿でうろうろしていた。
反射的に体が後退るが、どうやらこっちには気づいていない。代わりに近くにいた女子生徒が驚き、逃げるように駆けだした。……まあいい。
もう一度園田を見下ろすと、地面を見ながらキョロキョロしている。……落とし物か?
しかし、これは好機だ。この隙に学校の敷地内から出てしまえば、おそらくは安心だ。向こうも東京からそう何度も探しにきたりはしないだろう。神は俺に味方したようだ。さすが俺。普段からぼっちやって人に迷惑かけてないだけはある。
「ふう……」
「ない……一体どこで落としたのでしょう」
「……何、探してんだ?」
「!」
声をかけると、園田は物凄い勢いで振り返り、こちらに向けて構えた。
「比企谷八幡……ここで会ったが100年目!」
「お前はいつの時代の人間だよ……」
「自分からノコノコ出てくるとはいい度胸ですね」
「他校の制服着た不審者がうろうろしていたから気になってな……」
「あ、貴方に不審者などと言われたくはありません!」
「……どうかしたのか?」
「貴方には関係ありません」
「そうか」
「…………」
ぷいっとそっぽを向いて、作業に戻る園田。
別にこのまま帰ってもよかったが、自分の精神衛生上よくなさそうなので、もう一度声をかける事にした。
「何を落としたんだ?」
「……御守りを」
こちらを見ずに小さく呟く。
「御守り?」
「ええ、親友からもらった大事な御守りです」
「…………」
まあ、こいつがここを探してるなら、この辺りなんだろう。
「な、何故貴方まで探し始めてるのですか!?」
「……別にお前には関係ない」
「…………」
無言で御守りを手渡す。
御守りは俺のベストプレイスの付近に落ちていた。どうやらさっきのいざこざが原因らしい。
「あ、ありがとう……ございます」
「……あ、ああ」
微かに触れた手はひんやりしていた。
御守りを大事そうに見つめる少し潤んだ目が、春の日差しに儚げに煌めいて、心臓の鼓動がまた跳ね上がる。不意に、もっと違う出会い方をしていれば、なんて考えてしまった。
「私は……貴方を誤解していたようですね」
「お、おう……」
「少し不本意ではありますが、これまでの事は水に流そうと思います」
園田は頬を少し赤らめ、右手を差し出してくる。
……まあ、特別な意味はないんだろうけど。
一度だけ自分に言い聞かせ、俺も右手を差し出した。その手はやはりひんやりとしていて、離れていく時に、少し名残惜しい気持ちにさせられた。
「それでは」
「おう」
しかし、俺は忘れていた。
この時間、この場所は……強い風が吹くという事を。
先週と同じように風が園田のスカートを捲っていく。
「きゃっ!」
「……青」
慌て口をつぐむが、時既に遅し。
「ふう……あなたは風を操っているのですか?」
「いや、違う違う!」
そんな能力も魔道具も持ち合わせていない。
「ふふふ……」
「…………」
やはりここは心の中でこう叫ぶのがいいだろう。
不幸だぁ~~~~~!!
この後、校舎の中まで縦横無尽に駆け回る鬼ごっこが始まった。
ラブアローシュートも超電磁砲も飛んでこない事が唯一の救いだろう。
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