捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

53 / 106

 感想・評価・お気に入り登録・誤字脱字報告ありがとうございます!

 それでは今回もよろしくお願いします。


第52話

 

「八幡」

「おう……」

 閉会式を終え、奉仕部に少しだけ顔を出し、もう帰ろうと思い、自転車を押して校門を出ると、海未が校門から少し離れた場所で待っていた。

 少しだけ冷たくなった風に、さらさらと泳ぐ長い黒髪が、いつもより儚げに見えた。

 そのまますたすた近寄り、声をかける。

「……他の二人は?」

「先に帰りましたよ」

「お前は、いいのか?」

 尋ねると、彼女は小さく微笑み、一歩だけ距離を詰めてきた。それによって、斜陽が伸ばした影が、じんわりと溶け合う。

 彼女はもちろん、そんな事は気にかけず、小さな微笑みを浮かべたまま、淡々としていた。

「悪ければここにはいませんよ。早く行きましょう」

「どこにだよ」

「甘い物を食べに、ですが。確か約束しましたよ。頑張ったら御褒美に甘い物を奢ると」

「……んな約束したか?」

「したんです。さ、行きましょう。遅くなってしまいますよ」

「……わかった」

 奢りと言われて断る理由などない。タダで食う物が一番上手い。何より、こんなに真っ直ぐに見つめられては、約束が嘘かどうかなど、どうでもよくなる。

 俺達は、自然と並んで、同じ歩幅で歩き出した。

 

 駅前の喫茶店に入った俺達は、それぞれケーキを注文し、何となくお互いの学校のこれからの行事について話し始めた。

「なるほど……来月には体育祭があるのですね」

「ああ、つっても文化祭ほどの盛り上がりはないけどな」

「日頃の鍛錬を試すチャンスですね!」

「いや、何でそんなに嬉しそうなんだよ……」

「音ノ木坂には体育祭がないから、羨ましいのですよ」

「いや、そっちの方が羨ましいんだけど」

「またそういう事を……まあ、その方が貴方らしいですが……」

「わかってくれるなら助かる」

「じゃあ、トレーニングを体育祭用に……」

「ちょっと待て。会話が繋がってない」

「何だかんだ文句を言いながらも、つい真面目にやるところが貴方らしいと思っていますよ」

 またさっきのように微笑んでくる。その優しく労るようで、そっと背中を押すような微笑みを見ていると、得も言われぬ気持ちに胸の中をかき乱されてしまう。

 自分の頬の熱さが気になったが、何でもないように話を続ける。いつも通りと言い聞かせるだけ、いつも通りじゃない事には見て見ぬふりをした。

「……善処する。そういや、そっちは修学旅行なんだろ?確か場所は……」

「沖縄です」

「そっか」

「お土産は買ってきますので、楽しみにしていてください」

「え?マジで?じゃあ……」

 運ばれてきたケーキに手をつける事も忘れ、しばらく他愛ないやり取りをしていた。

 何故かはわからないが、どんよりと肩にのしかかった疲れが抜けていく気がした。

 

 





 読んでくれた方々、ありがとうございます!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。