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それでは今回もよろしくお願いします。
「八幡」
「おう……」
閉会式を終え、奉仕部に少しだけ顔を出し、もう帰ろうと思い、自転車を押して校門を出ると、海未が校門から少し離れた場所で待っていた。
少しだけ冷たくなった風に、さらさらと泳ぐ長い黒髪が、いつもより儚げに見えた。
そのまますたすた近寄り、声をかける。
「……他の二人は?」
「先に帰りましたよ」
「お前は、いいのか?」
尋ねると、彼女は小さく微笑み、一歩だけ距離を詰めてきた。それによって、斜陽が伸ばした影が、じんわりと溶け合う。
彼女はもちろん、そんな事は気にかけず、小さな微笑みを浮かべたまま、淡々としていた。
「悪ければここにはいませんよ。早く行きましょう」
「どこにだよ」
「甘い物を食べに、ですが。確か約束しましたよ。頑張ったら御褒美に甘い物を奢ると」
「……んな約束したか?」
「したんです。さ、行きましょう。遅くなってしまいますよ」
「……わかった」
奢りと言われて断る理由などない。タダで食う物が一番上手い。何より、こんなに真っ直ぐに見つめられては、約束が嘘かどうかなど、どうでもよくなる。
俺達は、自然と並んで、同じ歩幅で歩き出した。
駅前の喫茶店に入った俺達は、それぞれケーキを注文し、何となくお互いの学校のこれからの行事について話し始めた。
「なるほど……来月には体育祭があるのですね」
「ああ、つっても文化祭ほどの盛り上がりはないけどな」
「日頃の鍛錬を試すチャンスですね!」
「いや、何でそんなに嬉しそうなんだよ……」
「音ノ木坂には体育祭がないから、羨ましいのですよ」
「いや、そっちの方が羨ましいんだけど」
「またそういう事を……まあ、その方が貴方らしいですが……」
「わかってくれるなら助かる」
「じゃあ、トレーニングを体育祭用に……」
「ちょっと待て。会話が繋がってない」
「何だかんだ文句を言いながらも、つい真面目にやるところが貴方らしいと思っていますよ」
またさっきのように微笑んでくる。その優しく労るようで、そっと背中を押すような微笑みを見ていると、得も言われぬ気持ちに胸の中をかき乱されてしまう。
自分の頬の熱さが気になったが、何でもないように話を続ける。いつも通りと言い聞かせるだけ、いつも通りじゃない事には見て見ぬふりをした。
「……善処する。そういや、そっちは修学旅行なんだろ?確か場所は……」
「沖縄です」
「そっか」
「お土産は買ってきますので、楽しみにしていてください」
「え?マジで?じゃあ……」
運ばれてきたケーキに手をつける事も忘れ、しばらく他愛ないやり取りをしていた。
何故かはわからないが、どんよりと肩にのしかかった疲れが抜けていく気がした。
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