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それでは今回もよろしくお願いします。
「八幡」
「お、おう……」
八幡の顔が引き攣る。まったく、なんて顔をしているのですか。せめて笑顔くらい……それをこの男に期待するのは至難の業でしょう。私も人の事はあまり言えませんし。
「頑張ってますね」
「まあ、仕事だからな。面倒くさくてもやるしかないんだよ」
「休憩はいつ頃ですか?」
「クラスの方の出し物もあるからな。正直休めるかもわからん」
「そうですか……」
予想はしていたのですが、やはり残念ですね。い、いえ!一緒に見て回りたいとかじゃないんですからね!
「そういやお前、一人で来たのか?」
「実は、穂乃果とことりが……あれ?」
さっきまで隣にいたはずの二人の姿が……ない。
「あれ、どこに?」
キョロキョロと辺りを見回していると、ポケットの中のスマートフォンが震えだし、慌てて画面を確認。すると、穂乃果からのメールでした。
『海未ちゃん、ファイトだよ!!』
穂乃果ぁ~~~~!!!
普段気遣いなどは一切見せない癖に、こんな時ばっかり……。
「おい、どうした……」
「いえ、何でもありません」
穂乃果には後できつく言っておきましょう。
さて、どうしたものかと思案していると、八幡が口を開く。
「……そういや、腹減ったな」
「?」
「いや、俺……実行委員会の方が忙しくて、あまりクラスの方に関わっていないんだよ……」
「はあ……」
「だから……まあ少しくらい抜け出してもばれない。つーか、クラスで俺の事知ってる奴少ないしな」
「そ、それはどうなのですか?色々と……」
寂しすぎます……。
グラウンドの方では食べ物の屋台が多数あり、総武高校の生徒数の多さや、イベントへのモチベーションの高さなどを改めて実感でき、先程の決意が改めて強くなります。そして、このような場にいながらも全くモチベーションが上がらない八幡の精神状態が心配になります。いい意味で言えば、周りに流されないという事になるのでしょうが。
「では私が買ってきましょう。八幡が意外と頑張っているようですからね。今日は私のおごりです」
「意外は余計だ。てかいいのか?」
「いいから待っててください。何か食べないと午後から持ちませんよ」
「あ、ああ……」
焼きそばを二つ買って、飲食用に設けられた場所で、席を確保している八幡の方まで早歩きで駆け寄る。
「どうぞ」
「おう、その……ありがとな」
「ふふっ、どういたしまして」
二人揃っていただきますを言い、食べ始める。
少し味は濃いめで、油っこさを感じますが、なんというか、高校生の文化祭らしさみたいなものを感じ、美味しく感じます。
「賑やかですね」
「ああ、具合が悪くなりそうだ」
「またそのような……でも貴方も毎日大変だったようですね」
「ただの下っ端だけどな」
「仮にそうだとしても……見直しました」
本当はもっと言うべき言葉があるように思えたのですが、それを引っ張り出す事は出来ませんでした。
「どうしたんだよ、珍しい。まだ雪に降られちゃ困るんだけど」
この男……失礼な。
「それでは、これまで見せてこなかった優しさを込めて、今後はさらにトレーニング量を増やしましょう。そうすれば、私の優しさがさらに伝わる事でしょう」
「すいませんでした。勘弁してください。いや、マジで」
「よろしい。でもまだ言うべき言葉があるはずですが?」
「海未さん最高。マジ女神世界一の美少女スーパーアイドル大好き」
「なっ……だ、だ、何をいきなり……!」
「?」
「トレーニング量は3倍にします」
「お、おい……」
顔が熱いのは、きっとまだ冷めきらない夏の名残のせいでしょう。本当に困ったものです。
八幡と別れてからは、すぐに穂乃果達と遭遇し、お説教を挟みながら、校内ほぼ全ての催し物を楽しみました。穂乃果に振り回される形で……。
そして、気がつけば、文化祭終了も間近に迫ってきていました。
「いや~楽しかった~!!」
「それは何よりです」
「う、海未ちゃ~ん、顔が怖いよ~」
「ごめんね~?」
「まったく……いきなりいなくなったかと思えば……」
「そ、そういえば!何かいい事あった?」
「いい事?」
「海未ちゃん、なんだか嬉しそう!」
「な、何を……もう知りません!」
「ご、ごめんってば」
「じゃあ、帰りに穂乃果のおごりで飲み物でも買ってもらいましょうか」
「わ、私だけ!?」
「当たり前です」
ふと視界の端に走る人影が見つけた。
あれは……八幡?
その顔は一瞬しか見えなかったが、その人影は間違いなく八幡で、表情には焦りのようなものが見てとれた。
彼の滅多に見せない表情に、胸の奥がざわつき出す。
不思議と躊躇いはなかった。
「ちょっと行ってきます!」
「海未ちゃん!?」
「どうしたの?」
余計な真似かもしれません。
そう思いながらも、自然と足が動き出し、私は校舎の方へと向かって行きました。
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