捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第50話

 

「八幡」

「お、おう……」

 八幡の顔が引き攣る。まったく、なんて顔をしているのですか。せめて笑顔くらい……それをこの男に期待するのは至難の業でしょう。私も人の事はあまり言えませんし。

「頑張ってますね」

「まあ、仕事だからな。面倒くさくてもやるしかないんだよ」

「休憩はいつ頃ですか?」

「クラスの方の出し物もあるからな。正直休めるかもわからん」

「そうですか……」

 予想はしていたのですが、やはり残念ですね。い、いえ!一緒に見て回りたいとかじゃないんですからね!

「そういやお前、一人で来たのか?」

「実は、穂乃果とことりが……あれ?」

 さっきまで隣にいたはずの二人の姿が……ない。

「あれ、どこに?」

 キョロキョロと辺りを見回していると、ポケットの中のスマートフォンが震えだし、慌てて画面を確認。すると、穂乃果からのメールでした。

『海未ちゃん、ファイトだよ!!』

 穂乃果ぁ~~~~!!!

 普段気遣いなどは一切見せない癖に、こんな時ばっかり……。

「おい、どうした……」

「いえ、何でもありません」

 穂乃果には後できつく言っておきましょう。

 さて、どうしたものかと思案していると、八幡が口を開く。

「……そういや、腹減ったな」

「?」

「いや、俺……実行委員会の方が忙しくて、あまりクラスの方に関わっていないんだよ……」

「はあ……」

「だから……まあ少しくらい抜け出してもばれない。つーか、クラスで俺の事知ってる奴少ないしな」

「そ、それはどうなのですか?色々と……」

 寂しすぎます……。

 

 グラウンドの方では食べ物の屋台が多数あり、総武高校の生徒数の多さや、イベントへのモチベーションの高さなどを改めて実感でき、先程の決意が改めて強くなります。そして、このような場にいながらも全くモチベーションが上がらない八幡の精神状態が心配になります。いい意味で言えば、周りに流されないという事になるのでしょうが。

「では私が買ってきましょう。八幡が意外と頑張っているようですからね。今日は私のおごりです」

「意外は余計だ。てかいいのか?」

「いいから待っててください。何か食べないと午後から持ちませんよ」

「あ、ああ……」

 

 焼きそばを二つ買って、飲食用に設けられた場所で、席を確保している八幡の方まで早歩きで駆け寄る。

「どうぞ」

「おう、その……ありがとな」

「ふふっ、どういたしまして」

 二人揃っていただきますを言い、食べ始める。

 少し味は濃いめで、油っこさを感じますが、なんというか、高校生の文化祭らしさみたいなものを感じ、美味しく感じます。

「賑やかですね」

「ああ、具合が悪くなりそうだ」

「またそのような……でも貴方も毎日大変だったようですね」

「ただの下っ端だけどな」

「仮にそうだとしても……見直しました」

 本当はもっと言うべき言葉があるように思えたのですが、それを引っ張り出す事は出来ませんでした。

「どうしたんだよ、珍しい。まだ雪に降られちゃ困るんだけど」

 この男……失礼な。

「それでは、これまで見せてこなかった優しさを込めて、今後はさらにトレーニング量を増やしましょう。そうすれば、私の優しさがさらに伝わる事でしょう」

「すいませんでした。勘弁してください。いや、マジで」

「よろしい。でもまだ言うべき言葉があるはずですが?」

「海未さん最高。マジ女神世界一の美少女スーパーアイドル大好き」

「なっ……だ、だ、何をいきなり……!」

「?」

「トレーニング量は3倍にします」

「お、おい……」

 顔が熱いのは、きっとまだ冷めきらない夏の名残のせいでしょう。本当に困ったものです。

 

 八幡と別れてからは、すぐに穂乃果達と遭遇し、お説教を挟みながら、校内ほぼ全ての催し物を楽しみました。穂乃果に振り回される形で……。

 そして、気がつけば、文化祭終了も間近に迫ってきていました。

「いや~楽しかった~!!」

「それは何よりです」

「う、海未ちゃ~ん、顔が怖いよ~」

「ごめんね~?」

「まったく……いきなりいなくなったかと思えば……」

「そ、そういえば!何かいい事あった?」

「いい事?」

「海未ちゃん、なんだか嬉しそう!」

「な、何を……もう知りません!」

「ご、ごめんってば」

「じゃあ、帰りに穂乃果のおごりで飲み物でも買ってもらいましょうか」

「わ、私だけ!?」

「当たり前です」

 ふと視界の端に走る人影が見つけた。

 あれは……八幡?

 その顔は一瞬しか見えなかったが、その人影は間違いなく八幡で、表情には焦りのようなものが見てとれた。

 彼の滅多に見せない表情に、胸の奥がざわつき出す。

 不思議と躊躇いはなかった。

「ちょっと行ってきます!」

「海未ちゃん!?」

「どうしたの?」

 余計な真似かもしれません。

 そう思いながらも、自然と足が動き出し、私は校舎の方へと向かって行きました。

 





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