捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第4話

 

「何か言い残す事はありますか?」

 あ、俺死んだ。

 いや、待て。まだだ。ひとまずこの態勢を何とかしよう。頭がクラクラしておかしくなりそうだ。

「わ、悪い!」

 慌てて手を道着から抜き取る。

「っあっ……」

 黒髪が微かな吐息を漏らすが、今はそれどころではない。……今、何か触れた気がするが、全ては後回しだ。

 まずは対話を試みる。

「お、おう……久しぶりだな。げ、元気だったでしゅか」

 訳のわからない噛み方をしてしまった。

「ほう……この前逃げおおせたからといって、いい気になっているようですね」

 対話失敗。

「じゃあ、俺はこれで……」

「それで本当に逃げられるとでも?」

 逃亡失敗。

 なら別の話題に切り替えよう。

「そういやさっきのラブアローシュートって何だったんだ?」

 ラブアローシュートという単語を聞いた瞬間、黒髪の顔がにっこりと笑顔になった。お、もしかして助かるのか?

「うんうん、わかります。あなたは私をそうやって怒らせているのでしょう?」

 どうやら怒りの炎に油をぶち込んだみたいだ。恐ろしい殺気に足を竦ませながら、打開策を考える。

「どうやら辞世の句はラブアローシュートでよろしいとみました」

 絶対に嫌だ。そもそも句になってないし。

 そうこうしている内に、少女が拳を握り締める。やばい。ファイナルヘヴン級の威力がありそう。

「園田さん、そろそろ始まるよ」

 俺が死を覚悟していると、背後から声がかかる。

 振り返ると、道着の上に胸当てをしたポニーテールの女子がいた。おそらく弓道部だろうか。

「もう皆集まってるわよ」

「あ、はい!今行きます!」

 さっきの殺気(ダジャレのつもりはない)はどこへやら、黒髪は俺を解放し、何事もなかったかのように背を向ける。

「知り合い?」

「いえ、何でもありません」

 その上級生と思われる女子の元へ向かったかと思うと、何かを思い出したかのようにピタリと立ち止まり、こちらへ戻ってきた。

 そして俺を睨みつけ、聞いてくる。

「あなたの名前を教えなさい」

「は?」

 いきなり君の名は?なんて聞かれても、反応に困る。もしかし前前前世から俺を探してたとか?んなわけないか。

「練習試合が終わったら、あなたを消しにいきますので。名前を聞いておけば、もし逃げても、すぐに探せるでしょう」

 先にそっちが名乗るのが礼儀だろ?なんて定番のセリフは言えずに、威圧感に負け、答えてしまう。

「比企谷八幡だ……」

「わかりました。では比企谷八幡。首を洗って待っていなさい」

 こいつが言うと、本当に首を刎ねられそうだ。

「なあ……」

「何ですか?」

「そっちの名前はなんだよ」

 俺の言葉に黒髪は驚いた顔を見せる。俺自身、どうしてそんな事を言ったのかはわからない。ただ、口が勝手に動いただけだ。

 だが黒髪は黙って背を向ける。

「貴方のような変態に名乗る名などありません」

「…………」

 にべもない対応に俺が立ち尽くしていると、黒髪は顔だけこちらに向けた。

「……園田海未です」

 黒髪……園田はぽつりと躊躇うように名前を口にして、足早にその場を去って行った。俺はその名を口にするでもなく、命が助かった事に安堵し、脱力してベストプレイスへと戻る。

 嫌な偶然もあるもんだ。だがそれ以上に気になっているのはただ一つ。

 ……ラブアローシュートって何だ?





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