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それでは今回もよろしくお願いします。
「何か言い残す事はありますか?」
あ、俺死んだ。
いや、待て。まだだ。ひとまずこの態勢を何とかしよう。頭がクラクラしておかしくなりそうだ。
「わ、悪い!」
慌てて手を道着から抜き取る。
「っあっ……」
黒髪が微かな吐息を漏らすが、今はそれどころではない。……今、何か触れた気がするが、全ては後回しだ。
まずは対話を試みる。
「お、おう……久しぶりだな。げ、元気だったでしゅか」
訳のわからない噛み方をしてしまった。
「ほう……この前逃げおおせたからといって、いい気になっているようですね」
対話失敗。
「じゃあ、俺はこれで……」
「それで本当に逃げられるとでも?」
逃亡失敗。
なら別の話題に切り替えよう。
「そういやさっきのラブアローシュートって何だったんだ?」
ラブアローシュートという単語を聞いた瞬間、黒髪の顔がにっこりと笑顔になった。お、もしかして助かるのか?
「うんうん、わかります。あなたは私をそうやって怒らせているのでしょう?」
どうやら怒りの炎に油をぶち込んだみたいだ。恐ろしい殺気に足を竦ませながら、打開策を考える。
「どうやら辞世の句はラブアローシュートでよろしいとみました」
絶対に嫌だ。そもそも句になってないし。
そうこうしている内に、少女が拳を握り締める。やばい。ファイナルヘヴン級の威力がありそう。
「園田さん、そろそろ始まるよ」
俺が死を覚悟していると、背後から声がかかる。
振り返ると、道着の上に胸当てをしたポニーテールの女子がいた。おそらく弓道部だろうか。
「もう皆集まってるわよ」
「あ、はい!今行きます!」
さっきの殺気(ダジャレのつもりはない)はどこへやら、黒髪は俺を解放し、何事もなかったかのように背を向ける。
「知り合い?」
「いえ、何でもありません」
その上級生と思われる女子の元へ向かったかと思うと、何かを思い出したかのようにピタリと立ち止まり、こちらへ戻ってきた。
そして俺を睨みつけ、聞いてくる。
「あなたの名前を教えなさい」
「は?」
いきなり君の名は?なんて聞かれても、反応に困る。もしかし前前前世から俺を探してたとか?んなわけないか。
「練習試合が終わったら、あなたを消しにいきますので。名前を聞いておけば、もし逃げても、すぐに探せるでしょう」
先にそっちが名乗るのが礼儀だろ?なんて定番のセリフは言えずに、威圧感に負け、答えてしまう。
「比企谷八幡だ……」
「わかりました。では比企谷八幡。首を洗って待っていなさい」
こいつが言うと、本当に首を刎ねられそうだ。
「なあ……」
「何ですか?」
「そっちの名前はなんだよ」
俺の言葉に黒髪は驚いた顔を見せる。俺自身、どうしてそんな事を言ったのかはわからない。ただ、口が勝手に動いただけだ。
だが黒髪は黙って背を向ける。
「貴方のような変態に名乗る名などありません」
「…………」
にべもない対応に俺が立ち尽くしていると、黒髪は顔だけこちらに向けた。
「……園田海未です」
黒髪……園田はぽつりと躊躇うように名前を口にして、足早にその場を去って行った。俺はその名を口にするでもなく、命が助かった事に安堵し、脱力してベストプレイスへと戻る。
嫌な偶然もあるもんだ。だがそれ以上に気になっているのはただ一つ。
……ラブアローシュートって何だ?
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