捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第46話

 

「…………ん?」

 ぼんやりと目を覚ますと、沢山の人の声や足音が耳に入ってきて、割とすんなりと意識が覚醒する。

 それとほぼ同時に、溜息と声が降ってきた。

「やっと起きましたか」

 海未がこちらを見下ろしている。

「……あれ、何で?」

「貴方は倒れたのですよ」

「な、何故……」

 真っ先に疑問が沸く。

 すると、海未がポカンとした表情になった。

「何も……覚えていないのですか?」

「確か……お前の水着を選びに……そして、絢瀬さんが……あれ?」

 おかしい。記憶の風景に靄がかかり、上手く思い出せない。スピリチュアルやね!

「まったく、あれぐらいで興奮して気絶するなんて……貴方は本当に破廉恥なんですね」

「え、何?本当に何があったの?すげー気になるんだけど……」

「ふふっ、忘れてしまうのならその程度の事です。ちなみに、絵里は希と亜里沙につれて行かれましたよ」

 

「いやだ~!エリチカおうち帰らない~!比企谷く~ん!」

「お姉ちゃん!最近なんかおかしいと思ってたら……さっきの人は誰!?亜里沙にも紹介して!!」

「なっ!?認められないわ!!」

「お姉ちゃんの冷蔵庫にあるプリン食べちゃうよ!」

「くっ……それは反則よ!」

「エリチ……変わったなぁ……」

「じゃ、じゃあ、亜里沙、一緒に戻りましょう?」

「ダメだよ!もっとオシャレしてからじゃないと……」

「はいはい、二人共。早く帰るよ」

 

「そういえば八幡……そろそろどいて欲しいのですが……」

「へ?」

 今さらになって、自分が置かれている状況を理解する。

 海未は俺を見下ろし、頭には柔らかい感触。

 つまり、俺は彼女に膝枕されていた。

「わ、悪い!」

「…………」

 慌てて起き上がると、彼女はそっぽを向いたが、それも数秒で、すぐにいつもの調子に戻った。

「ま、まあ、困った時はお互い様です。さっきは水着選びを手伝ってもらいましたし。そういえば、貴方が眠っている間、貴方のお友達に声をかけられましたよ」

「お、おい、マジか。つーか、お友達って……」

 お友達とやらに心当たりはないが、クラスの誰かに、さっきまでの状態を見られたのは、かなりまずい気がする。何がまずいのかもわからないが。

「……どんな奴だった?」

「えーと、まず茶色い髪にお団子が特徴のかなり可愛らしい方でしたよ」

「…………」

 由比ヶ浜か……。

「も、もう一人は……

ポニーテールのすらりとした綺麗な方です」

 川……なんとかさんか。

 ただでさえ交流の少ないクラスメートの中から、あえてその二人を遭遇させるとか……神様もイタズラ好きすぎるだろ。

「そういや、声をかけられたって……」

「何と言いますか、まず貴方かどうか確認をして……私との関係を聞いてきました」

「……そ、それで?」

「トレーニング仲間……という事にしておきました」

「あ、ああ……」

 変わった括りである。

「ああ、そういえばあの方達は貴方の名前を知らないようでした」

「?」

「私が八幡と言ったら、何故か不思議そうにしていましたから」

「…………」

 何故だろう。誤解を生んでいる気がしてならない。いや、自意識過剰だろうか。

「それにしても……随分、魅力的な方達と知り合いなのですね」

「あ?あれは……まあ、クラスや部活が一緒で……」

「貴方を見る目が親しげだったと言いますか……去り際に足がふらついていたのが心配でしたが」

 ……二人して夏バテだろうか。トレーニングを変わってやりたい気分だ。

「まあ、親しげっつーか、顔見知りだから、あれだ。普通なんじゃねーの?」

 自分でもよくわからない言い訳じみた言い方になりながら、立ち上がり、海未の方を向く。

 すると、彼女は頭を抱えていた。

「わ、私は何を……べ、別に、学校が違うのだから、私の知らない知り合いがいるのは当然なわけで……」

「おーい……」

 夏休み最後のイベントは、予想より賑やかに、それでいてどこか穏やかに過ぎていった。





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