それでは今回もよろしくお願いします。
それからしばらくして、3着の水着を選んだ海未は、試着室のカーテンを勢いよく開いた。
「では、行って参ります」
「お、おう……」
目の前でカーテンがぴしゃりと閉まる。
そこまで覇気を出さなくても、と思わないでもないが、余計な事を言うと、痛い目を見そうだったので、軽く手を挙げるだけにしておいた。店員さんの視線が少し冷たいのは気のせいではないのだろう。
俺は更衣室に背を向け、瞑目し、自分の世界に入り込む。単に視線の置き場所がないだけである。
視覚をシャットダウンすると、今度は聴覚が強調され、背後からは衣擦れの滑らかな音が耳朶を撫でる。
それでもやっぱり居づらい……絢瀬さん早く来ねえかなぁ。
「おう、八幡よ!ここで会ったが百年目!」
「…………」
「八幡!実は昨日最新作が書き上がったのだ!これも何かの縁、読ませてやろう!」
「…………」
「いや、ごめん。無視は止めて?俺がただの不審者に見えちゃうから。心折れちゃうから」
「何だよ、材木座……」
はい、唐突な材木座の登場である。
残念ながら材木座である。
何が残念かはわからないが、残念ながら材木座である。
相変わらずウザい程人目を引き、店員さんのこちらを見る目がより一層冷たさと鋭さを増す。勘弁してくれ。
「いや、たまたま貴様を見かけてな。普段入りにくい場所ではあるが、勇気を出して入ってみたのだ」
「……そうか」
「ふむ、貴様はこんなところで何をしておるのだ?はっきり言って場違いすぎてかなり痛々しいのだが……」
「お前にだけは言われたくねえよ」
「さて、着替え終わったことですし……よし!」
「八幡!それでは……開けますよ」
「よし、それではこれが我の新作……」
「ちょっと待て、後にしろ」
「え?な、何故ですか!」
「む、何故だ。八幡よ」
「いや、あれだ。楽しみにしすぎて、見たらもう、目が離せなくなるというか……」
「なっ……い、いきなりなんですか!馬鹿な事を、い、言わないでください!」
「むぅ、あからさまな嘘をつきおる……」
「そんな事ねーよ。お前は最高だ!」
「な、ななな、も、もう!今日はどうしたというのですか!その……べ、別に嫌とかではないのですが……」
「さ、最高……ま、まあ、悪くはない響きである。ふぅ、しかし暑いな」
「じゃあ、さっさと脱いじまえよ」
「はぁ!?な、何を……も、もしかして別の色がよかったということですか?」
「仕方ない、脱ぐとしよう……この紫色に輝くオーラを……」
「いや、無色だ」
「無色!?す、透けているではありませんか!」
「つーか、お前そろそろ行けよ。店員さんの目がこっちにロックオンされてるから」
「お、おお……ではな」
材木座の背中を見送り、そろそろだろうかと海未に声をかける。
「なあ、海未。まだ着替えてんのか?」
「ま、まだ覚悟が……」
「は?いや、水着姿ならこの前……」
「さ、さすがに裸を見せるのは……」
「あぁ…………は!?」
この後、お互いが状況を理解するに、少し時間がかかった。
「と、とうとう私のターンよ!」
読んでくれた方々、ありがとうございます!