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それでは今回もよろしくお願いします。
「…………」
「ど、どうかしましたか?」
ぼーっと眺めていたら、海未が恥ずかしそうに身を捩りだした。その様子にこちらが恥ずかしくなり、その感情を紛らわせるようにカーテンを開け、さらに窓も開ける。朝の穏やかな光と爽やかな風が、この雰囲気を変えてくれそうな気がした。そんな都合よくいかない事は気づいているけれど。
海未が咳払いをする音が隣から聞こえてきた。
「今日はやけにのんびりしているのですね」
「いや、そっちが早すぎるんだが……」
まだ朝の7時である。
「……いつからいたんだ?」
「30分前くらいでしょうか」
「ああ……なんか悪い。待たせたみたいで……」
「べ、別に謝る必要はありませんよ。どうかしたのですか?」
「いや、叩き起こされなくてよかったなって思っただけだ……」
「ではお望みどおりに……」
「はい今すぐ起きますとりあえず着替えたいので出てもらえませんかね」
「ふふっ、では玄関で待ってますね」
海未は穏やかすぎる微笑みを残し、流れるような滑らかな動きで部屋を出て、扉を閉めた。
ほのかな甘い香りに胸の奥を刺激され、着替えをする動作が焦ったような動きになる。頬の熱がまた目を覚ました気がした。
「はっ……はっ……」
「はっ……はっ……」
走り始めると、言葉はいらなくなるので、特に気まずさみたいなものを感じる事はなかった。
隣から聞こえる足音と、呼吸の音が規則正しいリズムを作り上げ、それに合わせて体を動かすだけで、どこまでも走っていけそうな気がした。
そしてリズムを刻み続ける内に、あっという間に公園に到着する。
そこでリズムは急に途切れた。
振り返ると、海未が何か言いたそうな瞳を真っ直ぐに向けてくる。
「あ、あの……」
「…………」
その先に続く言葉が予想できずに、周りから何もかも遮断されたような、切り取られた沈黙が訪れる。
しかし、それも数秒の事だった。
「こ、この前のプール……た、楽しかったですね」
「……あ、ああ」
らしくない慌てた口調に、自然と頷く。
きっと俺は間抜け面をしているだろう。
「ま、また行きましょう」
「……おう」
口元を手で隠しながらそんな事を言われると、もう確信するしかなくなってしまう。
しかし、彼女はその上で一旦忘れようと……気まずい空気を取り払おうとしている。
いつか手首を握ってきた時のような温もりがその声に込められていた。
彼女はまだ言葉を紡ぎ続ける。
「も、もしくは海でもいいかもしれません。遠泳などの特訓も出来ますし……」
「……自己紹介?」
「怒りますよ」
「ごめんなさい」
「……帰ったら、歌詞を見ていただけますか?」
「……わかった」
多分、帰りも同じようなリズムを刻むのだろう。
そして、今はその穏やかなリズムの中で心地良く過ごしていたかった。
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