捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第40話

 

「お兄ちゃ~ん」

「…………」

「もしも~し」

「…………」

「こりゃダメだ」

「…………」

「……海未さんと何かあった?」

「っ!」

「お、お兄ちゃん!?か、顔から湯気が出てるよ!!」

 

「海未ちゃ~ん」

「…………」

「もしも~し」

「…………」

「も、もしかして怒ってる?」

「…………」

「そんなぼ~っとした顔で首を振られても……」

「…………」

「もしかして、比企谷君と何かあった?」

「っ!」

「う、海未ちゃん!?どうしたの!?顔から湯気が出てるよ!」

 

 顔が熱い。

 プールでの一件から三日経ったが、まだ頭の中はこんがらがって、まともな思考が出来ていない。もこもこした淡く青い雲に取り囲まれたような妙な感覚のまま、夏休みらしく、ジョギング以外に家からは出ずに過ごしていた。

 そのせいか、ベッドに寝転がっても、眠気が中々やってこない。

 溜息を吐き、頬に掌をそっと当てる。最早何度繰り返したかわからないその動作は、あの時の柔らかな衝撃を思い出させるだけであった。

「…………」

 スマホを手に取り、電話帳を開く。大した人数は登録していないので、目的の名前にすぐ行き着いた。

 しかし、彼女の名前を眺めるだけで終わってしまう。

 電話したところで何を話せばいいのだろうか。

 そもそも俺は何を迷っているのだろうか。

 中学時代のように自惚れていないだろうか。

 おそらく、本人に会わない限り、何もわかりはしないのだろう。

 とりあえず……何もなかった風の態度を装おう。

 我ながら情けない決意を胸に、頭の中でその時のシミュレーションをしてみた。

 

 顔が熱い。

 三日前のプールでの一件以来、頭が上手く働いてない気がします。さすがに自分でも予想していませんでした。

 ベッドに寝転がっても、眠気が中々やってこない。

 指先で唇をそっと撫でる。

 そこにある微熱を確かめるような拙い行為は、却ってあの瞬間を思い出させるだけでした。

「~~~~!」

 枕に顔を押しつけ、何度もベッドの上を転がる。

 こ、これでは私があの男の事が……八幡の事が気になって仕方ないみたいじゃありませんか!

 ……いや、しかし……

 実際のところ、彼は気づいているのでしょうか?

 もしかしたら、頬に何かぶつかったくらいにしか思っていないかもしれません。

 もしそうだとしたら、私はただ自惚れていただけという事になってしまいます。

 さすがにそれは恥ずかしい。

 こうなったら……何事もなかったように振る舞ってみるしかないですね。

 

 ……ぼんやりと目が覚める。

 どうやらいつの間にか寝落ちしていたらしい。

「おはようございます」

「……ああ、おはよう」

「…………」

「…………は?」

 丁寧な朝の挨拶に反応してしまったが、それが海未の声である事に気づき、一瞬で意識が覚醒する。

 起き上がり、声がした方に顔を向けると、そこにはジャージ姿の園田海未が正座していた。





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