それでは今回もよろしくお願いします。
あの地獄の鬼ごっこから早一週間。俺は数学の中間試験の補習を受けに来ていた。正直だるいのだが、先週のイベントと違い、理不尽でもなければ命の危険もないので、気持ちはやけに落ち着いている。
しかし、とんでもない暴力女だ。二次元ならともかく、現実であれでは嫁の貰い手がないんじゃなかろうか。いや、俺が心配する事でもないんだけど。
まだ補習まで時間があるし、この前の答案なら暗記したので、いつものスポットで時間を潰す事にした。
MAXコーヒーを飲みながら、風に吹かれ、グラウンドを眺める。今日はどうやらテニス部は休みらしい。何だよ、戸塚はいないのかよ。サッカー部は練習をしているようだが、そちらはスルーで。
「ラブアローシュート!」
…………気のせいか。
俺がいくらプリキュア好きとはいえ、あんな訳分からん必殺技みたいな空耳が聞こえるとか。
「ラブアローシュート!バァン♪」
「…………」
……うわぁ、痛い奴がいる。それも材木座レベル。
本来なら無視しておくべきだ。
しかし、今は好奇心が上回っている。
別に中二病でも恋をしたくなるような美少女を期待しているわけではなく。
ひとまず声のする方へ足を運ぶ。
「みんな~、ありがと~♪」
人気のない校庭の片隅。
そこにいたのは、道着姿で壁に向かって手を振る暴力黒髪女だった。
驚きで後退り、足元に落ちていた枝を踏んでしまう。
そのパキッという音に反応して黒髪がこっちを向いた。
「え?あ、あ、あなたは……!」
「お、おう……」
「見ましたね」
「な、何を?」
「見たんですね!」
俺はこの時、思い出した言葉がある。
好奇心は身を滅ぼす。
黒髪は殺意の波動に目覚めたように、ジリジリと寄ってくる。捕まったら間違いなく瞬獄殺を喰らうだろう。
「そういえば、この前は逃げられましたね」
「いや、あれは俺のせいじゃ……」
「問答無用!」
黒髪は俺の方を目がけて駆けだした、がしかし……石に躓き、バランスを崩した。
「あっ……」
「くっ!」
何とか一歩踏み出し、受け止める。そこには意外な華奢さと、淡く漂う甘い香りがあった。
「あ、ありがとうございます……」
予想外の近距離から声がかかり、心臓が跳ね上がるが、何とか落ち着いて答える。
「あ、ああ、そっちは大丈夫か?」
「ええ……!」
黒髪が腕の中で震えている。案外怖かったのかもしれない。腕にかかる艶やかな髪と、右手にある柔らかい感触が…………柔らかい感触?
そこではっとして、視線を下げる。
俺の右手は黒髪の道着の襟元に突っ込まれ、間違いなく胸を触っていた。
……GAMEOVER。
読んでくれた方々、ありがとうございます!