捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第38話

「まったく……黙ってどこかへ行ってしまうなんて……」

「ごめ~ん。つい、はしゃいじゃって……」

 ぷんすか怒る海未に対して、高坂さんは申し訳なさそうに手を合わせ、南さんは苦笑いでそれを見守っている。その様子を3姉妹に例えるなら、長女は南さん、次女は海未、三女は高坂さんといったところだろう。

 俺の隣では、戸塚がその様子をにこやかに見守っている。

「そういや戸塚もどこ行ってたんだ?」

 俺が尋ねると、戸塚はほんの僅かだけ肩を跳ねさせたが、すぐに気を取り直したように笑顔を向けてきた。

「あはは、高坂さん達と話してたら自然とはぐれちゃって……ごめんね?」

「お、おう……」

 そのあまりに可愛らしい謝り方に、胸が一杯になるが、戸塚のその様子には幾分か嘘が混じっているような気がしたが、スルーしておく。いや、戸塚になら騙されるのも大歓迎!峰不二子に騙されるルパンの気持ちが今ならすごくわかっちゃう!

 海未の説教から解放された高坂さんは、南さんと小声でひそひそとやり取りをしていた。

「やっぱり仲いいよね!」

「うん、でも海未ちゃん恥ずかしがり屋さんだから」

「だよね!……あまりやりすぎると怒られちゃうかも!」

「うん、そうだね。でも、さっきの海未ちゃん可愛かったなぁ」

 こちらから会話の内容までは窺えないが、何やら色めき立ったような表情だ。まあ、あまり女子同士の会話に聞き耳を立てるのも趣味が悪い。俺が悪いのは目つきだけで十分だ。あと性格。

 海未の方に目をやると、二人に訝しげな視線を向けていたが、やがて小さく微笑んだ。その口元には、安心感みたいなものが見られた。

 俺はそっと距離を詰めて、声をかけた。

「……仲直り、出来たみたいだな」

「ええ、貴方のおかげです」

 そんな事を言って、真っ直ぐにこちらを見てくる。かなり近い距離なのだが、海未はいつもと違い、目を逸らしたりしなかった。

 名前のごとく、深い碧を宿したような優しい双眸に捉えられ、何と言えばいいのかわからなくなる。

 太陽がジリジリ肌を焼く感触が、さっきより強調された気がした。

 それでも何とか言葉を搾り出した。

「…………いや、俺は何もしてねーよ」

「そうですね」

「…………」

 すぐに返ってきた返事。

 あれ、何この手の平返し。

 しかし彼女は、今度は一転して、悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

「でも、貴方がいてくれてよかったと思っていますよ」

「……!」

 海未は、一瞬だけ俺の手首の辺りをきゅっと握ってくる。

 陶器のように白く、意外なくらい細く柔らかな指は、すぐに離れていった。

「きょ、今日は楽しみましょう……」

「あ、ああ……」

 手首には確かな熱が残り、心臓の鼓動を加速させた。




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