捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第37話

「じゃあ、行きましょうか比企谷君」

「はひゃい!!?」

 別に名前を呼ばれただけで気持ち悪い声が出たわけではない。

 何故か絢瀬さんからいきなり腕を組まれ、肘の辺りに豊満な胸を押しつけられたからだ。てか、な、なな何してんでしょうかね、この人……!

 突然の事に顔が火照り出す途中、鋭い声が飛んできた。

「え、絵里!?何をしているのですか!?」

 海未はその怒声に周りの人がビビるのも気にせず、絢瀬さんに詰め寄る。つーか、近くにいる俺にまで威圧感がビシビシ押し寄せてきて怖い……。

 それに対応する絢瀬さんは至って涼しげで、艶のある笑みまで見せている。

「どうかしたの、海未?」

 その問いかけに、海未はびしぃっと絢瀬さんの腕を指さした。俺の腕は悪くない。悪くないったら悪くない。

「その腕です、その腕!何故八幡と腕を組むのですか!」

「あら、つい私としたことが。それより海未……今、八幡って言ったわね?」

「え?あ、はい。言いましたけど……」

 海未が首肯すると、絢瀬さんは軽くよろめく。その動きはどこかコントじみていた。

「くっ……迂闊だったわ。海未の性格からして、進展なんてないと思っていたのに……」

 そのPVで見せる姿とのギャップに、皆はリアクションにただひたすら困っていた。

「絵里?」

「エリチ……」

「「絵里ちゃん……」」

「あはは……」

 ……何故だろう。俺は当事者のはずなのに置いてけぼりを喰らっているこの感じ。これもぼっちの才能の成せる業なのだろうか。それにしても、絢瀬さんはイメージと違い、割と……いや、かなり人懐っこいというか、スキンシップが激しいというか……さらに、何となくポンコツっぽい……。

 スキンシップに慣れていないので、対応に困っていると(決して胸の感触が嬉しいわけじゃない!ハチマン、ウソ、ツカナイ!)、今度はがら空きになっていた左腕を取られる。それと同時に、かなり控え目な膨らみが押しつけられた。

 左に顔を向けると、海未の顔がすぐ近くにあった。

 いきなりの事に心臓の鼓動が暴発したかのような錯覚に陥ってしまう。

「は?お、おい……」

「な、何ですか?なにか文句でも?」

「いや……」

「さあ、絵里。早く離すべきです。この男は破廉恥極まりないので、何をされるかわかりませんよ」

「おい」

 別に極まってねえよ。

「そ、それぐらい受け止めるわ」

「む、胸を触られたり、股間に顔を、突っ込まれたりされますよ!」

「むしろどんと来いよ!」

「「……は?」」

 つい海未とハモってしまった。

 今、この人何て言った?いや、きっと俺の聞き間違いなんだろうけど。

 そこで、人影が割り込んでくる。

「はいはい、エリチ。そろそろ大人しくしようね」

「はい」

 東條さんが絢瀬さんの頭を撫でて、落ち着かせる。え、何?この二人、親子なの?

「ちょっとこの子を落ち着かせてくるね」

 東條さんはそう言い残して、絵里さんと連れたって休憩所へと向かった。

 嵐が過ぎ去り、ようやく一息つく。プールに入る前か

ら身体が疲れるとか。

「ふぅ……あの二人、なんかすげえな」

「……馬鹿」

 海未が小さく何事か呟いている。

「どうした……てか海未さん」

「?」

「恥ずかしいので、そろそろ離してもらえませんかね」

「……!」

 海未はようやく気づいたのか、慌てて腕を離し、距離を置く。

 彼女はこほんと咳払いをした。こちらも首筋に手を当て、視線をそらす。たまにこいつとの距離感がわからなくなる事があるのは、俺だけのせいではないはずだ。

「さ、さあ、行きましょうか」

「ああ……あれ、戸塚は?」

「穂乃果とことりもいませんね……」

 キョロキョロと辺りを見回しても、それらしき人物はいない。呆れて先に行ったのだろうか。

「「…………」」

 周りの賑やかな声が少し遠く聞こえた。





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