捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第36話

 俺達は程なくしてプールに到着した。

 手早く着替えを済ませ、美少女4人の着替えを待っていた。あれ、美少女は4人じゃない?そんなはずは……

「八幡、今変な事考えてなかった?」

「い、いや気のせいだ。それより早かったな」

「僕も男の子だからね。そんなに手間はかからないよ」

 戸塚は白い大きめなパーカーを着ていて、いつも通り可愛らしい。これだけでここに来た甲斐があるというものだ。

 ほんわかとした幸せを噛み締めていると、ハキハキしたよく通る声が飛んできた。

「お待たせ~!」

 高坂さんのこちらを呼ぶ声に、周りの男子共が少しどよめいた。しかし、その気持ちもわからなくはない。

 高坂さんはオレンジ。南さんは黄緑。そして、二人の背に隠れ、恥ずかしそうにしている海未は、青のビキニを着ていた。三人共、そのすらりとした肢体を惜しげもなく太陽の下に晒している。これで人目を引くなというのが無理だ。

「うわ、めっちゃ可愛い」

「あのオレンジの子いいよな」

「緑の子のスタイル、最高」

「俺はあのパーカーの子が……」

「ちきしょう、ぼっちの癖に美少女独り占めしやがって」

「あの青い水着の子、すらっとしててとても綺麗よね~」

 おい、誰だよ。ぼっちとか言った奴。そろそろ正体を現せよ。

 戸塚は目を輝かせ、三人を褒める。

「わあ、皆可愛いね!」

「ありがと!ほら、海未ちゃん!いつまで恥ずかしがってるの?」

「いや、私は二人の陰で……」

 海未は性格からして、肌の露出が恥ずかしいのか、二人の背に隠れようと必死になっている。勿論、全然意味はなく、その姿は余計に人目を引いてしまう。

 高坂さんはその様子に溜息を吐いた。

「はいはい。わかったから」

 南さんは海未を励ますように頭を撫でる。

「海未ちゃん。可愛いから大丈夫だよ」

 そして、二人して海未を押し出した。

「えっ!ちょっ……!」

 二人に押し出された海未が、その勢いで目の前にやってきた。彼女は羞恥で頬を紅く染め、もじもじしながらこちらを窺う。

「…………」

「…………」

 気まずい沈黙。額を伝う汗は暑さのせいだけじゃないだろう。

「……な、何か言ってください」

「……いい感じだ」

「そ、そうですかそうですか……ありがとうございます」

「あ、ああ……」

 顔が熱いのに知らんふりをして、さっさとプールへ向かう事にする。

「あら、皆。偶然ね」

 いきなり声をかけられ、立ち止まると、高坂さんが真っ先に反応した。

「絵里ちゃん!?」

 そこには金髪碧眼の高校生離れした美人がいた。

 白いビキニを身に纏ったその姿は、そこらの芸能人でも太刀打ちできないくらいの美しさがある。

「久しぶり、比企谷君」

「ど、どうも……」

「隣の君は……」

「あ、はい。僕は……」

 戸塚と自己紹介の挨拶をしながら近寄ってくる絢瀬さん。近い近い近い近い!わざとじゃないかと思うくらいだ。 

 そして、絢瀬さんの近くには、もう一人高校生離れしたスタイルの女性が立っていた。紫色に包まれた豊満な肢体に、彼女連れの男も見惚れ、彼女に叱られていた。

 ちなみに本人はそういう視線に慣れているのか、あっけらかんとしている。

「これも神様のお導きやね」

「あ、希ちゃん!」

「二人も来ていたのですね」

 戸塚に自己紹介を終えた絢瀬さんが、何故かまた距離を詰めてきた。肌と肌が触れ合いそうになり、かなり緊張感が走る。

「むっ」

 しかも海未の視線が怖い!中学時代ならうっかりツンデレと勘違いしちゃうレベル。

「ふぅ、素晴らしい偶然ね。神に感謝するわ」

「そ、そこまでですか?」

 絢瀬さんの空を仰ぐ姿に海未はやや引いていた。俺も引いている。

 しかし、彼女はそんな視線は意に介さず、海未に向き直る。

「ところで海未」

「はい?」

「貴方と比企谷君は……その……どこまで進んでいるのかしら?」

「「?」」

「何というか……もう既にドキドキしながらトキドキ、トキメキスしちゃう関係なのかしら?」

「な、何ですか?その歌いたくなるようなフレーズは……」

 歌いたくなるのかよ……。

「まあ、要するに付き合っているのかってことよ」

「「付き合っていません」」

 つい一緒になって否定してしまう。何をどうしたらそう見えるのか。やれやれだぜ。

 絢瀬さんは何故か頬をひくつかせながら、念を押してきた。

「そ、そう?」

「「はい」」

「……本当に?」

「「そんなわけないです。冗談は止めてくださいよ」」

『…………』

 辺りが急に静まり返る。

 沈黙の中、沢山の視線が突き刺さるというのは、ぼっちでなくとも辛い。つまり、ぼっちなら倍は辛いという事だ。

 そんな中、絢瀬さんはようやく笑顔を見せ、こちらに向け、頷いた。

「……わかったわ。し、信じましょう」

 

『信じた!!まだ心が折れていないだと!!』

 




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