捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第33話

「はあ……はあ……」

「ふふっ……もうバテたのですか?私は、全然、満足、してませんよ!」

「お前……どんだけ元気なんだよ……鍛えすぎだろ」

「そんな事言いながら貴方だって……一緒に……している内に……いつの間にかこんなに固くなって……」

「半分以上お前のせいだ。シゴきすぎなんだよ」

「そうですね。扱くのは好きかもしれません。さあ、続きを……」

 いきなり道場の扉が開かれる。

 そこには園田の母親・美空さんが立っていた。彼女は焦ったような顔をしていたが、筋トレをしている俺達を見て、キョトンとした顔になる。

「ど、どうしたのですか、お母さん?」

「いえ、何でもないのよ。ふ、二人共、あまり……根を詰めすぎないようにね……」

「わかりました」

「っす……」

 美空さんは扉をゆっくり閉めていった。

「これは……孫を期待してもいいのかしら……で、でもまだ早いわよね、うん」

 何かぶつぶつと呟きが遠ざかっていった。まあ、心配する気持ちはあるだろう。年頃の娘が夜に男と二人で筋トレとか。海未の父親は飲みに誘われているらしいし。

 まあ実際のところ、色気のある展開など全くない。俺は先程まで園田の手が触れていた腹筋に手をやる。

 ……こんなの俺の腹筋じゃねえ。

 なんて言いたい所だが、まあ、成果は素直に受け止めよう。

 自分自身に感心していると、園田がスマホで時間を確認し、立ち上がった。

「確かに、熱中しすぎましたね。ではそろそろ止めにしましょうか」

「ああ、そうしてくれると助かる……ふう……」

「それではシャワー……」

「先に浴びてきてくれ」

「はい」

 ……なんか変なやり取りだ。俺が気にしすぎなだけかもしれんが。ほ、本当に意識なんてしてないよ?ハチマン、ウソ、ツカナイ。

 気を取り直すように、飲み物を取りに立ち上がると、疲れからか、足が思いきり道場の床を滑る。

「っ!」

「きゃっ!」

 そのまま予定調和のように海未を巻き込んで倒れた。

 手に微かな温もりと膨らみ。

 俺はしっかりと園田の胸を掴んでいた。

 さらに焦るあまり、それを軽く握ってしまった。

「ひゃうっ!」

 手に感じる薄く柔らかい感触と共に、海未が小さな悲鳴を上げる。

 海未の熱い吐息が耳にかかり、理性をガンガン揺さぶる。

 こちらが謝ろうとすると、意外なくらい落ち着いた海未の声が耳に届いた。

「ふぅ……そういえば、貴方はそういう所がありましたね」

「こ、困ったもんだよな……」

 後の事はご想像にお任せします。

 

 シャワーを浴び、用意された部屋に向かう途中、海未が縁側に腰掛け、夜空を見上げていた。その表情は、公園で会った時よりも明るく、その様子を見ているだけで、胸の中に温かな何かが灯った気がした。多分、ここに来たのは、あの衝動は間違っていなかったのだ。

 しばらくそのままでいると、彼女が俺に気づいたので、人一人分くらいの間隔を開け、腰を下ろす。

 それとほぼ同時に、海未が沈黙を破った。

「は、八幡」

「……どした?」

 自分から名前呼びを提案しておいて照れるとか……こっちが余計に意識してしまうから止めていただきたいんですが。

 彼女は伏し目がちに俯いたまま、呟くように言った。

「今日は……本当にありがとうございます」

「さっき聞いた」

「相変わらずの反応ですね」

「そりゃあな」

「ふふっ……貴方のそういう所、好きですよ」

「……は?」

「え?あ!ち、違います!貴方など嫌いです!」

「いや、そこまで違うのかよ……」

「あ、ご、ごめんなさい!なんというか……」

 園田はぼんやりと浮かぶ満月を見上げながら、言葉を丁寧に紡いだ。

「……貴方といると飽きませんね」

「……そりゃどうも」

 夜風が吹き抜け、また海未の髪や草花をさらさらと揺らす。

 さっきより涼しくなった風が、今日の二人を労るように、優しく包んでいた。

 





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