感想・評価・お気に入り登録・誤字脱字報告ありがとうございます!
それでは今回もよろしくお願いします。
「はあ……はあ……」
「ふふっ……もうバテたのですか?私は、全然、満足、してませんよ!」
「お前……どんだけ元気なんだよ……鍛えすぎだろ」
「そんな事言いながら貴方だって……一緒に……している内に……いつの間にかこんなに固くなって……」
「半分以上お前のせいだ。シゴきすぎなんだよ」
「そうですね。扱くのは好きかもしれません。さあ、続きを……」
いきなり道場の扉が開かれる。
そこには園田の母親・美空さんが立っていた。彼女は焦ったような顔をしていたが、筋トレをしている俺達を見て、キョトンとした顔になる。
「ど、どうしたのですか、お母さん?」
「いえ、何でもないのよ。ふ、二人共、あまり……根を詰めすぎないようにね……」
「わかりました」
「っす……」
美空さんは扉をゆっくり閉めていった。
「これは……孫を期待してもいいのかしら……で、でもまだ早いわよね、うん」
何かぶつぶつと呟きが遠ざかっていった。まあ、心配する気持ちはあるだろう。年頃の娘が夜に男と二人で筋トレとか。海未の父親は飲みに誘われているらしいし。
まあ実際のところ、色気のある展開など全くない。俺は先程まで園田の手が触れていた腹筋に手をやる。
……こんなの俺の腹筋じゃねえ。
なんて言いたい所だが、まあ、成果は素直に受け止めよう。
自分自身に感心していると、園田がスマホで時間を確認し、立ち上がった。
「確かに、熱中しすぎましたね。ではそろそろ止めにしましょうか」
「ああ、そうしてくれると助かる……ふう……」
「それではシャワー……」
「先に浴びてきてくれ」
「はい」
……なんか変なやり取りだ。俺が気にしすぎなだけかもしれんが。ほ、本当に意識なんてしてないよ?ハチマン、ウソ、ツカナイ。
気を取り直すように、飲み物を取りに立ち上がると、疲れからか、足が思いきり道場の床を滑る。
「っ!」
「きゃっ!」
そのまま予定調和のように海未を巻き込んで倒れた。
手に微かな温もりと膨らみ。
俺はしっかりと園田の胸を掴んでいた。
さらに焦るあまり、それを軽く握ってしまった。
「ひゃうっ!」
手に感じる薄く柔らかい感触と共に、海未が小さな悲鳴を上げる。
海未の熱い吐息が耳にかかり、理性をガンガン揺さぶる。
こちらが謝ろうとすると、意外なくらい落ち着いた海未の声が耳に届いた。
「ふぅ……そういえば、貴方はそういう所がありましたね」
「こ、困ったもんだよな……」
後の事はご想像にお任せします。
シャワーを浴び、用意された部屋に向かう途中、海未が縁側に腰掛け、夜空を見上げていた。その表情は、公園で会った時よりも明るく、その様子を見ているだけで、胸の中に温かな何かが灯った気がした。多分、ここに来たのは、あの衝動は間違っていなかったのだ。
しばらくそのままでいると、彼女が俺に気づいたので、人一人分くらいの間隔を開け、腰を下ろす。
それとほぼ同時に、海未が沈黙を破った。
「は、八幡」
「……どした?」
自分から名前呼びを提案しておいて照れるとか……こっちが余計に意識してしまうから止めていただきたいんですが。
彼女は伏し目がちに俯いたまま、呟くように言った。
「今日は……本当にありがとうございます」
「さっき聞いた」
「相変わらずの反応ですね」
「そりゃあな」
「ふふっ……貴方のそういう所、好きですよ」
「……は?」
「え?あ!ち、違います!貴方など嫌いです!」
「いや、そこまで違うのかよ……」
「あ、ご、ごめんなさい!なんというか……」
園田はぼんやりと浮かぶ満月を見上げながら、言葉を丁寧に紡いだ。
「……貴方といると飽きませんね」
「……そりゃどうも」
夜風が吹き抜け、また海未の髪や草花をさらさらと揺らす。
さっきより涼しくなった風が、今日の二人を労るように、優しく包んでいた。
読んでくれた方々、ありがとうございます!