捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第32話

 

「…………」

「……お、おい」

「…………」

「いや、怖いんだけど」

 先程の園田の号泣からしばらく時間が経ち、ようやく泣き止んだかと思えば、今度は思いきり、こちらを睨んでいらっしゃる。怖い。そして怖い。え、何?次は俺が号泣すんの?

 とりあえず園田の肩に縋りつき、泣こうかと考えていると、彼女が口を開く。

「悔しいです」

「?」

 その呟きには、まだ涙の湿り気が残っていた。

 それでも彼女は言葉を紡ぐ。

「貴方相手にこのようなみっともない姿を見せてしまうなんて……」

「……お前、さっきまで落ち込んでた癖に……まあ、いい。そんだけ元気があるなら大丈夫だろ。俺、もう行くわ」

 時間を確認し、もう帰ろうとすると、園田に手首を掴まれた。

「……どうした?」

「…………い」

「はい?」

「きょ、今日は泊まっていきなさい」

 何を言っているんだ、こいつは。

「いや、明日学校が……」

「明日は日曜日ですよ」

「いや、小町が……」

「今日、貴方のご両親は早く帰宅しているはずですが?」

 ……やべえ。

 うっかり家庭内の事を話しすぎて、幼なじみヒロインばりの知識を持っていやがる。どっかで変なフラグでも立っていたんですかねえ。

「いや、ほら……年頃の男女が同じ部屋とか……」

「な、何をバカな事を言っているのですか!貴方など離れや倉庫で十分です!」

「泊まる意味がなさすぎる……!」

「と、とにかく来てください!お父さんもお母さんも家にいるはずなので」

「いや、何だよその重大イベント。そこに安心する要素はどこにもねえからな」

「ち、違います!そういう意味ではなくて……そ、そうです!こ、今夜はそう……激しい運動がしたくてたまらないのです!!」

「…………」

 間違いなく園田が言っているのはただの筋トレだろうが、卑猥な意味にしか聞こえないのは俺のせいだけではないはず。天然って怖い。

 このまま言い合いをしても、時間の無駄にしかならないので、観念する事にした。

「……わかったよ」

「じゃあ、行きますよ」

 園田は俺の手首を掴んだまま歩き出した。

「おい、園田……」

「…………あの」

「?」

「私の事は……海未と呼んでください」

「……園田」

 園田は手首を握る手にギリギリと力を込め始めた。

「わ、わかった……海未」

「ふふっ、それでいいのです」

 園田は俺の手首を解放し、一歩進んでから振り返った。夜の街灯の明かりに、長い黒髪が流れ、生温い風が吹き抜けていった。

「……今日は……ありがとうございます……八幡」

 満足そうに微笑む園田……海未は、今までで一番綺麗だと思った。

 夜空には星々が敷き詰められ、今の何ともいえないむず痒い気持ちを彩り、帰り道はやけに短かった。

 

 





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