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それでは今回もよろしくお願いします。
「…………」
「……お、おい」
「…………」
「いや、怖いんだけど」
先程の園田の号泣からしばらく時間が経ち、ようやく泣き止んだかと思えば、今度は思いきり、こちらを睨んでいらっしゃる。怖い。そして怖い。え、何?次は俺が号泣すんの?
とりあえず園田の肩に縋りつき、泣こうかと考えていると、彼女が口を開く。
「悔しいです」
「?」
その呟きには、まだ涙の湿り気が残っていた。
それでも彼女は言葉を紡ぐ。
「貴方相手にこのようなみっともない姿を見せてしまうなんて……」
「……お前、さっきまで落ち込んでた癖に……まあ、いい。そんだけ元気があるなら大丈夫だろ。俺、もう行くわ」
時間を確認し、もう帰ろうとすると、園田に手首を掴まれた。
「……どうした?」
「…………い」
「はい?」
「きょ、今日は泊まっていきなさい」
何を言っているんだ、こいつは。
「いや、明日学校が……」
「明日は日曜日ですよ」
「いや、小町が……」
「今日、貴方のご両親は早く帰宅しているはずですが?」
……やべえ。
うっかり家庭内の事を話しすぎて、幼なじみヒロインばりの知識を持っていやがる。どっかで変なフラグでも立っていたんですかねえ。
「いや、ほら……年頃の男女が同じ部屋とか……」
「な、何をバカな事を言っているのですか!貴方など離れや倉庫で十分です!」
「泊まる意味がなさすぎる……!」
「と、とにかく来てください!お父さんもお母さんも家にいるはずなので」
「いや、何だよその重大イベント。そこに安心する要素はどこにもねえからな」
「ち、違います!そういう意味ではなくて……そ、そうです!こ、今夜はそう……激しい運動がしたくてたまらないのです!!」
「…………」
間違いなく園田が言っているのはただの筋トレだろうが、卑猥な意味にしか聞こえないのは俺のせいだけではないはず。天然って怖い。
このまま言い合いをしても、時間の無駄にしかならないので、観念する事にした。
「……わかったよ」
「じゃあ、行きますよ」
園田は俺の手首を掴んだまま歩き出した。
「おい、園田……」
「…………あの」
「?」
「私の事は……海未と呼んでください」
「……園田」
園田は手首を握る手にギリギリと力を込め始めた。
「わ、わかった……海未」
「ふふっ、それでいいのです」
園田は俺の手首を解放し、一歩進んでから振り返った。夜の街灯の明かりに、長い黒髪が流れ、生温い風が吹き抜けていった。
「……今日は……ありがとうございます……八幡」
満足そうに微笑む園田……海未は、今までで一番綺麗だと思った。
夜空には星々が敷き詰められ、今の何ともいえないむず痒い気持ちを彩り、帰り道はやけに短かった。
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