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それでは今回もよろしくお願いします。
園田は俺を見て、小走りに駆け寄ってきたが、信じられない、というような顔をしていた。何か長い物を背負っていて、どうやら今日は弓道部の方に顔を出していたらしい。
そして、彼女は現実を確かめるように呟いた。
「どうして……」
「…………」
俺は何も答えない。
実際のところ、何と言えばいいのかわからなかった。
「あの……」
「……偶然通りかかっただけだ」
苦し紛れに適当すぎる理由を口に出すと、園田はポカンとした顔になった。
「…………」
「…………」
おぅ……冷たい沈黙……。
ここまで凍りついたのは、中学時代……
「……ふふっ」
俺が辛い回想をする前に、園田の笑い声が沈黙を破ってくれた。
彼女はからかうような視線を向けてくる。
「随分変わった寄り道ですね。電車まで使ってこんな所に来るなんて」
「ああ、だからぼっちなんだろ」
「いえ、それは全然関係ありません」
「そこは冷静にツッコむのかよ……」
「でも、どうしたのですか?穂乃果は大事には至らなかったですし、廃校は取り止めになりました。何も心配する事など……」
「はあ、そっか……」
「ええ、そうです」
「それで……お前は本当に大丈夫なのか?」
「……!」
園田の目が一瞬見開き、小さく唇が動いた。人間観察が趣味の俺でなくとも、何かあったかなど一目瞭然だった。
「いえ、別に……」
「そういうのいいから」
否定の言葉をピシャリと封じる。ここで引き下がると、これまでにない後悔をしてしまいそうな気がした。
園田はしばらく俺の目をじっと見て、やがて小さく息をつき、俺の隣に腰を下ろして言った。
「少し……長くなりますよ」
俺はさっきより星が増えた夕空を見て、重い空気になりすぎないように返した。
「どうせ暇人だよ」
園田は一つ一つ噛み締めるように、今μ'sに起こっている事を話してくれた。南さんの留学。それを高坂さんに言うタイミングがなかった事。そしてケンカになった事。さらに高坂さんのμ's脱退宣言とそれに怒った園田の……
「私は……どうすればよかったのでしょう?」
園田は消え入りそうな声で呟いた。いつもの大人びた凛々しさはどこにもなく、年相応のか弱い女子に見えた。その無自覚な上目遣い止めてくれませんかねぇ……。俺は、不謹慎だとわかっていながら高鳴る鼓動を、必死に見て見ぬふりをした。
「貴方なら、どうしますか?」
「俺がそんな風に仲間と感情ぶつけ合ったりしてる奴に見えんのか」
「見えません」
「いや、だから即答って……合ってんだけど……」
「ただ……貴方ならどうするかと」
「それを聞いても意味ないだろ」
「ふふっ、確かにそうですね。私ったら……」
「いや、別にいいんじゃねえの?」
「何がですか?」
「お前はいつも頑張ってるから……お前が馬鹿みたいに真っ直ぐなのは……一応、知ってるつもりだ」
「そ、そうですか……馬鹿みたいに……まあ、いいですけど」
馬鹿みたいにという言葉に対する反論を飲みこんだ園田に鞄から缶コーヒーを取り出す。
「ほれ」
「これは……なんですか?」
「いいから飲めよ」
彼女は銘柄を確かめる事なく、缶の中身を口にする。
「甘っ!?」
予想通りのリアクションが喜ばしいような、悔しいような……まあ、いい。
「な、何ですかこれは!」
「MAXコーヒー」
「これが例の……」
「ああ、疲れた時には甘い物っていうだろ」
「……そうかもしれません」
「なあ、園田…… 」
「はい?」
「お前……南さんに留学して欲しくないし、高坂さんに戻ってきて欲しいし、μ's……続けたいんだろ?」
「……はい」
「なんつーか……お前、もう少しわがままでもいいんじゃねーの?」
「…………」
「いつも頑張ってんだから、たまに本音ぶちまけたって、バチは当たらねーよ。俺みたいなのでも平穏無事に暮らしてる」
園田はしばらく俺を見つめた後、そっと距離を詰めてきた。気恥ずかしくなり前を向いていると、今度は肩に重みを感じた。どうやら額を押し当てているようだ。長い黒髪が甘い香りを撒き散らしながら、膝の辺りに垂れてきて、吐息の熱さがやけに切なく感じた。
「まったく、貴方は……………………うっ…………わぁぁぁぁぁん!!」
肩を湿らす温もりは、この切ない泣き声は、俺が初めて見た本当の園田海未だった。
夕陽はもうとっくに沈みきっていた。
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