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それでは今回もよろしくお願いします。
「バカ……」
由比ヶ浜は駆け出し、振り返る事はなかった。
その背中を見ながら、溜息を吐く。
自分で自分の言葉を止める事が出来なかった。
俺は知らず知らずの内に、拳を強く握り締めていた。
数日後……。
「どうかしたのですか?」
「いや、何でもねーよ」
タオルで汗を拭いながら尋ねてくる園田に、内心を悟られないように答える。てか、休日に男女二人が道場で筋トレって……。こいつと色っぽい展開などハナから期待はしていない俺でも萎える。そう、これは下心とかではなくただの習慣なのだ。
「…………」
園田が何も言ってこないので、誤魔化せたと思い、安心していたら、首筋に冷たいペットボトルを押しつけられる。
いきなりの刺激に体が跳ね上がり、気持ち悪い声が出た。
「お、おい!」
「嘘をつくのが下手すぎますね」
「いや、別に……」
こちらが反応に困っていると、するりと隣に移動してきた。その白い頬を汗が伝っているのを見て、何故か顔が熱くなった。淡く甘い香りはいつも通りすぎて、同じ運動をしていたのが信じられないくらいだ。
園田は再び汗を拭い、口を開く。
「無理に聞き出す気はありません。ですが、話して楽になることもあります」
「…………」
彼女の目を見る。
こいつの性格からして当たり前といえば当たり前なのだが、その瞳には好奇心などではなく、純粋な気遣いが見てとれた。
その瞳を数秒間眺めていたら、自然と言葉が零れてきた。
「……少し長い話になる」
「なるほど……」
話を聞き終えた園田は、折り曲げた人差し指を顎に当て、しばらく考え込んでいた。さすがスクールアイドルというべきか、一枚の絵になりそうな可憐な構図だ。……ジャージでさえなければ。
あまり重い空気にするのは気が引けたので、軽い感じで口を開く。
「まあ、あれだ。前の関係に戻るってだけの話だ。俺にとってはよくある事だ」
「果たして、そうでしょうか?」
意外な事に、やんわりと否定してきた。
「……どういう事だ?」
園田は俺の目をしっかりと見つめてくる。
深い碧のような優しさを伝えてくる瞳に秘められた感情は読み取る事が出来なかった。
そして、彼女は一文字一文字噛み締めるように言葉を紡ぎ出す。
「その……由比ヶ浜さんという方の貴方に対する感情は、同情なんかじゃないと思いますよ」
「…………」
「
貴方は、その……もう少し自分に自信を持っていいのではないでしょうか」
「…………」
「貴方の過去の出会いが貴方を卑屈にしてしまっても、明日出会う人は貴方の本当の価値を見つけてくれるかもしれません。貴方が自分を貶めてばかりいては、却ってその人を傷つけてしまうかもしれません」
「…………」
「少し偉そうでしたね。ただ、私は……」
「園田」
「はい?」
「その……ありがとな。割と楽になった」
俺の感謝の言葉に、園田は口をモゴモゴさせ、小さく頬をかいた。
「や、やけに素直ですね……どういたしまして。じゃあ、続きをしましょうか」
「そこは手加減しないんだな……」
「当たり前です。でも貴方も最近体力がつきましたね。すごいと思いますよ」
「そうですか」
「そうです!さ、始めますよ!」
俺は何も考える事が出来なかった。
胸の辺りが妙な感じだ。
決して不快ではない。
温かな何かが心をくすぐっていた。
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