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それでは今回もよろしくお願いします。
「いてー……」
「ダメだよ、比企谷君!ああいう時はちゃんと褒めてあげなくちゃ!」
痛む脛をさする俺を高坂さんが叱りつけてくる。園田は怒って、仕事に戻っていった。今は厨房で洗い物をしているらしい。……後で謝っておいた方がいいのかもしれん。
「お待たせいたしました、ご主人様♪」
甘ったるい声と共に、アイスコーヒーが運ばれてきた。そこにいたのは、μ'sのメンバーの一人、南ことりだ。……何だろう。μ's以外で見たことあるような……。
「ふふん!比企谷君。ことりちゃんは伝説のメイド・ミナリンスキーなんだよ!」
「ああ、そういや聞いた事があるな」
材……なんとかが写真持ってたな。
「やっぱりことりが一番似合うわね」
絢瀬さんが大人びた微笑みを向けながら、南さんのメイドっぷりを賞賛する。たまに俺の肩や背中を触るのはきっと気のせいなんだろう。きっとそうに違いない。
南さんとも互いに自己紹介をすませると、高坂さんが南さんの隣に立った。
「比企谷君。ことりちゃん、とっても可愛いよね!」
さっきと同じ質問か。俺は目を逸らしながら答える。
「ああ、そりゃあ……伝説だし」
「あはは、ありがと♪」
南さんはきっと言われ慣れているのだろう。にっこりと笑い返してくれた。
「むぅ、私もメイド服を着ようかしら」
「あはは……」
一息ついてアイスコーヒーを口に含むと、急に寒気を感じた。
「…………」
うわぁ……。
園田が思いきりこっちを睨んでいる。
はっきり言ってやばい。
スカウターが壊れんばかりの戦闘力をひしひしと感じる。何なら覇気だけで気絶させられちゃうレベル。
「ひ、比企谷君。大丈夫!まだ汚名は挽回できるよ!私もあんな怒り方は見たことないけど!」
「ベタすぎる間違いをどうも。あと不安を煽るのは止めてくんない?」
「ファイトだよ!」
「つっても今は……」
別に仕事が終わってから謝るのでもいいかもしれないが、何故かできるだけはやく謝りたかった。まったく自分らしくない。
タイミングを窺っていると、南さんがぽんと掌を合わせた。
「あ!それじゃあ、外で待ってて!」
俺は南さんの指示で、ビルの裏側のゴミ捨て場に行かされた。陽当たりはあまり良くなく、街の賑わいはやけに遠く感じた。
程なくして彼女はゴミを片手にやってきた。
「…………む」
「お、おう……」
「ふん……」
小さく手を挙げてみたが、彼女はつんとそっぽを向いてしまい、ゴミを手早く捨てて立ち去ろうとする。
「あ、おい!」
「……何ですか?」
本気で怒っているというより、機嫌を損ねているという言い方がしっくりくるような感じだ。
俺は園田から目を逸らさないように気をつけながら、謝罪を口にする。
「さっきは悪かった。少し調子に乗りすぎた」
「別に構いません。私と貴方はいつもあんな感じですからね。ただ……」
「?」
「自分でもよくわからないのです。貴方がすんなりとことりを褒めた時、つい苛ついてしまいました」
「…………」
何を言えばいいのかわからず、温い沈黙が降りて来始めると、園田は小さく微笑み、背を向けた。
「仕事に戻りますね」
自然と口が開いた。
「園田」
「はい?」
「その……あれだ。いいと思う……その格好」
彼女は俺の言葉に大きく目を見開き、少しオロオロしていた。しかし、すぐに気を取り直し、こちらを向いた。
その顔は笑っていた。
「あと3時間くらいで終わりますので、中で時間を潰しててください。そして、甘い物を奢ってくれたら許してあげます」
「さっき怒ってないって……いや、わかったよ」
口で言う程の不満は感じなかった。むしろ、胸のつかえがとれ、心の風通しがよくなり、清々しい。
そして俺は、園田が視界からいなくなるまで、その華奢な背中を眺めていた。
「ふふっ。いいと思う……ですか」
園田海未は、自分が笑顔になっているのにも気づかなかった。
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