捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第23話

「いてー……」

「ダメだよ、比企谷君!ああいう時はちゃんと褒めてあげなくちゃ!」

 痛む脛をさする俺を高坂さんが叱りつけてくる。園田は怒って、仕事に戻っていった。今は厨房で洗い物をしているらしい。……後で謝っておいた方がいいのかもしれん。

「お待たせいたしました、ご主人様♪」

 甘ったるい声と共に、アイスコーヒーが運ばれてきた。そこにいたのは、μ'sのメンバーの一人、南ことりだ。……何だろう。μ's以外で見たことあるような……。

「ふふん!比企谷君。ことりちゃんは伝説のメイド・ミナリンスキーなんだよ!」

「ああ、そういや聞いた事があるな」

 材……なんとかが写真持ってたな。

「やっぱりことりが一番似合うわね」

 絢瀬さんが大人びた微笑みを向けながら、南さんのメイドっぷりを賞賛する。たまに俺の肩や背中を触るのはきっと気のせいなんだろう。きっとそうに違いない。

 南さんとも互いに自己紹介をすませると、高坂さんが南さんの隣に立った。

「比企谷君。ことりちゃん、とっても可愛いよね!」

 さっきと同じ質問か。俺は目を逸らしながら答える。

「ああ、そりゃあ……伝説だし」

「あはは、ありがと♪」

 南さんはきっと言われ慣れているのだろう。にっこりと笑い返してくれた。

「むぅ、私もメイド服を着ようかしら」

「あはは……」

 一息ついてアイスコーヒーを口に含むと、急に寒気を感じた。

「…………」

 うわぁ……。

 園田が思いきりこっちを睨んでいる。

 はっきり言ってやばい。

 スカウターが壊れんばかりの戦闘力をひしひしと感じる。何なら覇気だけで気絶させられちゃうレベル。

「ひ、比企谷君。大丈夫!まだ汚名は挽回できるよ!私もあんな怒り方は見たことないけど!」

「ベタすぎる間違いをどうも。あと不安を煽るのは止めてくんない?」

「ファイトだよ!」

「つっても今は……」

 別に仕事が終わってから謝るのでもいいかもしれないが、何故かできるだけはやく謝りたかった。まったく自分らしくない。

 タイミングを窺っていると、南さんがぽんと掌を合わせた。

「あ!それじゃあ、外で待ってて!」

 

 俺は南さんの指示で、ビルの裏側のゴミ捨て場に行かされた。陽当たりはあまり良くなく、街の賑わいはやけに遠く感じた。

 程なくして彼女はゴミを片手にやってきた。

「…………む」

「お、おう……」

「ふん……」

 小さく手を挙げてみたが、彼女はつんとそっぽを向いてしまい、ゴミを手早く捨てて立ち去ろうとする。

「あ、おい!」

「……何ですか?」

 本気で怒っているというより、機嫌を損ねているという言い方がしっくりくるような感じだ。

 俺は園田から目を逸らさないように気をつけながら、謝罪を口にする。

「さっきは悪かった。少し調子に乗りすぎた」

「別に構いません。私と貴方はいつもあんな感じですからね。ただ……」

「?」

「自分でもよくわからないのです。貴方がすんなりとことりを褒めた時、つい苛ついてしまいました」

「…………」

 何を言えばいいのかわからず、温い沈黙が降りて来始めると、園田は小さく微笑み、背を向けた。

「仕事に戻りますね」

 自然と口が開いた。

「園田」

「はい?」

「その……あれだ。いいと思う……その格好」

 彼女は俺の言葉に大きく目を見開き、少しオロオロしていた。しかし、すぐに気を取り直し、こちらを向いた。

 その顔は笑っていた。

「あと3時間くらいで終わりますので、中で時間を潰しててください。そして、甘い物を奢ってくれたら許してあげます」

「さっき怒ってないって……いや、わかったよ」

 口で言う程の不満は感じなかった。むしろ、胸のつかえがとれ、心の風通しがよくなり、清々しい。

 そして俺は、園田が視界からいなくなるまで、その華奢な背中を眺めていた。

 

「ふふっ。いいと思う……ですか」

 園田海未は、自分が笑顔になっているのにも気づかなかった。

 

 





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