捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第1話

「…………っ」

 

 目が覚めると、そこには青空が広がっていた。

 雲が一つも見当たらず、鳥が見せつけるように滑らかに旋回して、視界の中を行ったり来たりしている。

 ぼんやりと眺めていると、何かを告げるように額がずきずきと痛んできた。

 

「ってて……」

 

 どうやら俺はどっかのベンチで寝かされていたようだ。

 

「やっと起きましたか」

 

 痛みに顔を顰めていると、上から声が降ってきた。

 首を傾けると、そこには黒髪の少女と天使が立っていた。あ、天使じゃなくて戸塚だ。そしてこの黒髪は確か……。

 そこで何があったかをはっきりと思い出し、のろのろと立ち上がる。

 

「はあ……」

「ひ、人の顔を見るなり溜息ですか!?失礼な!」

「いや、いきなり、人が気絶するような頭突きする暴力女の方が……」

「何ですか?今、暴力女とか聞こえてきましたが」

「あん?」

「潔く自分の罪を認めたらどうですか?言い訳は男らしくありませんよ」

「そっちこそ、いきなり頭突きとか……本当に女かよ。アマゾネスなんじゃねえの?」

「ほう……まだ懲りてないようですね。さっきのは威力を抑えていたのですが……」

「え、マジ?」

「ええ、1割の力です」

「お前はあと5段階変身を残してんのかよ」

「さあ、覚悟しなさい」

 

 鋭い双眸に射すくめられ、思わずビビりそうになったが、ここで引くわけにはいかない。戸塚の前で変態扱いされそうになっているのだ。

 

「ふ、二人共落ち着いて……」

 

 戸塚が猛獣を怖がる小動物のように震えながら、俺達の間に割って入ろうとする。

 

「……わかったよ」

「ふぅ……私も……少し熱くなりすぎたかもしれません」

 

 ひとまず深呼吸して落ち着く。熱くなりすぎて、このままでは俺のこの手が真っ赤に燃えて、勝利を掴めと轟き叫んで、爆熱しすぎてヒートエンドしてしまいそうだ。

 

「八幡、もう行こうよ。材木座君も用事済ませてると思うし」

「あ、ああ、そうだな」

「…………」

 

 黒髪はまだ何か言いたげな顔をしていたが、こんな平行線な言い争いを続けるより、ここはさっさと立ち去る方が良さそうだ。変態扱いは癪だが、旅の恥はかき捨てと思えばいい。あとこの女に力づくで来られたら、一生もののトラウマを植えつけられそうな気がする。

 

「……俺、もう行くけど、いいか?」

 

 くっ!こんな時まで律儀に確認をとってしまう俺……まあ、嫌いじゃない。いっそのことタイトルを『真っ直ぐな少年と猟奇的な少女』に変えてもよくない?

 

「え、ええ。さっさと消えてください。そして、二度と私の前に姿を見せないでください」

「……まあ、その……俺も悪かった」

「ふんっ」

 

 黒髪はぷいっと顔をそむけ、目を閉じる。

 それを見届けた俺は、振り返る事もせずにその場を立ち去った。

 ……二回目の頭突きが来なくてよかった。いや、マジで。

 

 *******

 

「ふう……まったく何なのですか、あのハレンチな男は。信じられません」

 

 そういえば男子と話すのは久しぶりでしたね。とは言っても、中学時代もそんなに話したことはありませんが。

 最近知ったのですが、穂乃果曰く、怖がられていたとか……私、何かしましたっけ?確かに穂乃果やことりに不埒な輩が近づこうとした時は、全力で対処していましたが……。

 いや、今はそんなことはどうでもいいのです!

 よりにもよって……だ、だ、男子に胸を触られてしまいました……女子ならいいというわけではありませんが。

 おまけにあんなところに顔を埋められ……私は汚されてしまいました!

 考えていると、沸々と怒りがこみ上げる。やっぱりもう一撃、きついのを入れておけば……一応、謝って行きましたけど。

 家に帰ろうと思い、一歩踏み出すと、足に違和感を感じる。何かを踏んだようです。

 

「おや……これは……」

 

 財布、ですか……もしかして、さっきのハレンチな彼が……。


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