「…………っ」
目が覚めると、そこには青空が広がっていた。
雲が一つも見当たらず、鳥が見せつけるように滑らかに旋回して、視界の中を行ったり来たりしている。
ぼんやりと眺めていると、何かを告げるように額がずきずきと痛んできた。
「ってて……」
どうやら俺はどっかのベンチで寝かされていたようだ。
「やっと起きましたか」
痛みに顔を顰めていると、上から声が降ってきた。
首を傾けると、そこには黒髪の少女と天使が立っていた。あ、天使じゃなくて戸塚だ。そしてこの黒髪は確か……。
そこで何があったかをはっきりと思い出し、のろのろと立ち上がる。
「はあ……」
「ひ、人の顔を見るなり溜息ですか!?失礼な!」
「いや、いきなり、人が気絶するような頭突きする暴力女の方が……」
「何ですか?今、暴力女とか聞こえてきましたが」
「あん?」
「潔く自分の罪を認めたらどうですか?言い訳は男らしくありませんよ」
「そっちこそ、いきなり頭突きとか……本当に女かよ。アマゾネスなんじゃねえの?」
「ほう……まだ懲りてないようですね。さっきのは威力を抑えていたのですが……」
「え、マジ?」
「ええ、1割の力です」
「お前はあと5段階変身を残してんのかよ」
「さあ、覚悟しなさい」
鋭い双眸に射すくめられ、思わずビビりそうになったが、ここで引くわけにはいかない。戸塚の前で変態扱いされそうになっているのだ。
「ふ、二人共落ち着いて……」
戸塚が猛獣を怖がる小動物のように震えながら、俺達の間に割って入ろうとする。
「……わかったよ」
「ふぅ……私も……少し熱くなりすぎたかもしれません」
ひとまず深呼吸して落ち着く。熱くなりすぎて、このままでは俺のこの手が真っ赤に燃えて、勝利を掴めと轟き叫んで、爆熱しすぎてヒートエンドしてしまいそうだ。
「八幡、もう行こうよ。材木座君も用事済ませてると思うし」
「あ、ああ、そうだな」
「…………」
黒髪はまだ何か言いたげな顔をしていたが、こんな平行線な言い争いを続けるより、ここはさっさと立ち去る方が良さそうだ。変態扱いは癪だが、旅の恥はかき捨てと思えばいい。あとこの女に力づくで来られたら、一生もののトラウマを植えつけられそうな気がする。
「……俺、もう行くけど、いいか?」
くっ!こんな時まで律儀に確認をとってしまう俺……まあ、嫌いじゃない。いっそのことタイトルを『真っ直ぐな少年と猟奇的な少女』に変えてもよくない?
「え、ええ。さっさと消えてください。そして、二度と私の前に姿を見せないでください」
「……まあ、その……俺も悪かった」
「ふんっ」
黒髪はぷいっと顔をそむけ、目を閉じる。
それを見届けた俺は、振り返る事もせずにその場を立ち去った。
……二回目の頭突きが来なくてよかった。いや、マジで。
*******
「ふう……まったく何なのですか、あのハレンチな男は。信じられません」
そういえば男子と話すのは久しぶりでしたね。とは言っても、中学時代もそんなに話したことはありませんが。
最近知ったのですが、穂乃果曰く、怖がられていたとか……私、何かしましたっけ?確かに穂乃果やことりに不埒な輩が近づこうとした時は、全力で対処していましたが……。
いや、今はそんなことはどうでもいいのです!
よりにもよって……だ、だ、男子に胸を触られてしまいました……女子ならいいというわけではありませんが。
おまけにあんなところに顔を埋められ……私は汚されてしまいました!
考えていると、沸々と怒りがこみ上げる。やっぱりもう一撃、きついのを入れておけば……一応、謝って行きましたけど。
家に帰ろうと思い、一歩踏み出すと、足に違和感を感じる。何かを踏んだようです。
「おや……これは……」
財布、ですか……もしかして、さっきのハレンチな彼が……。