捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第18話

「ふむ……これでゲームセンターデートは達成しました」

 園田がメモを確認しながら呟く。

 しかし、そう言いながらも視線はプリクラコーナーにチラチラと向けられていた。

 さらに、ばれてないと思っているのか、こちらにも同じように視線を向けてくる。いつものようにはっきりしない辺りが色々と鬱陶しい。

「はあ……行くぞ」

「どこにですか?

べ、別に私は……」

「いや、そういう面倒くさいのいいから。これも参考資料だろ?」

「で、でも……」

「別にあんなの写真撮るだけだろ」

「むぅ……」

「ほら、行くぞ」

「…………す」

 園田の言葉は聞き取れなかったが、とりあえずこれでいいと思った。こいつの彼氏になるのは謹んで遠慮するが、今日は園田の作詞の為の恋愛体験みたいなものだ。中途半端にやってグダグダ感を出すのは真っ平ごめんだ。何の為に惰眠を貪るのを止めたかわからなくなる。

 園田から視線を感じるのは気のせいという事にして、プリクラコーナーへ向かった。

 

 コーナーに入り、適当な機種を選ぶ。そういや、前に戸塚と撮影したなぁ。また撮りたいなぁ。

「見ろよ、あの子。めっちゃ可愛い」

「ちきしょー、ぼっちのクセに」

 周りの視線がチクチク突き刺さる。また失礼な奴がいたような……万死に値する。

 園田は俺以上に視線を感じるようで、さっさとカーテンをくぐり、中に入ってしまった。見た目がいい奴なりの苦悩というやつだろう。

 

 フレームなどの選択は彼女がやってくれた。

 しかし、それにしても……

「…………」

「どうしました?驚いた顔をして」

「いや、ちゃんと操作できるんだな、と思って」

「貴方はさっきから、私を何だと思っているのですか?家は和風ですが、普通の女子高生ですよ」

「魂を抜かれるとか言ったらどうしようかと思ったんだが」

「それはお年寄りでは……それより、失礼ですよ!射抜かれたいのですか!」

「冗談でも怖いから止めてね……」

「全く……では撮りますよ」

「お、おう……」

 さっきまであれだけ躊躇っていた癖に、撮る段階になると、園田はやたら体を寄せてきていた。俺が意識しすぎなだけかもしれないが、微かに触れた肩が妙に熱く感じる。

「……あ、あまりこっちを見ないでください」

「悪い……」

 出てきた写真に写る二人は、無表情で肩を寄せ合い、控え目に言っても気味が悪かった。 

 

「何とか終えました……」

「ああ」

 ゲームセンターを出た俺と園田は、何かを乗り越え、一つ成長したような充足感があった。きっと周りから見たら小さな小さな一段だろうが。

「あの……」

「?」

 園田は俺の肩を掴み、もじもじしている。

「トイレなら戻って済ませてこいよ」

「貴方は本当にデリカシーがないですね!違います!」

「いたたたたたたたたっ!?」

 肩が、肩が割れちゃうっ!!

「その……気を遣っていただきありがとうございます」

「あん?……ああ、別に……小町がμ'sのファンなんでな」

「じゃあ、小町さんにも感謝ですね。それで……貴方は誰が……その……こ、好みなのですか?」

「A-RIZEの優木あんじゅ」

「…………」

 今度は理不尽に蹴られました。

 

「なあ、写真は……」

「こ、こ、これは私が預かっておきます!貴方に渡すとどんな破廉恥なマネをするかわかりませんから!」

「いや、しないから。写真に破廉恥なマネって……」

「とにかく!これは私が誰にも知られる事なく処分しておきます!」

「お、おう……」

 

 次に訪れたのは、いかにもなオシャレカフェだ。ぼっちがこういう場所に来ると、店員や客からドヤ感を感じてしまう。我ながら卑屈だ。

「ほら、行きますよ……って、何を怒っているのですか?」

「……いや、怒ってないけど」

「今、親の仇を見るような目を向けていましたよ」

「いつもの癖だから気にすんな」

「それは……かなり重症ですね」

「それよか、このカフェに何かあるのか?」

「ええ、カップル専用のメニューがあると聞きました」

「カップル専用……ね」

 嫌な予感しかしない。

 

「お待たせしました~」

「「え?」」

 そこには、色鮮やかなトロピカルジュースの入った大きなグラスに二つのストローが差してあった。

 まさか、こんな定番イベントが発生するとか。

「「…………」」

 二人して固まる。

「じゃあ、どうぞ……」

「いや、先に……どうぞ」

「いえいえ、殿方から先に……どうぞ」

「いやいや、レディーファーストって言葉を俺は大事にしてるんで。つーか、メモにはこういう場合、どうするって書いてあるんだ?」

「これは予想外です。流石に二人で同時に、というのは躊躇われますね」

「……確かに。本物のカップルでもないしな」

「ええ。貴方といる時間は決して嫌ではないのですが」

「…………まあ、俺も嫌いじゃない。面倒くさいことは多々あるがな」

「へえ、面倒くさいとは何の事でしょうか?」

「はやく飲めよ」

「話を逸らそうとしましたね。……もう、お互い喉も渇きましたし、一緒に飲みますよ」

「はいはい」

 

 周りの客

『お前ら、何なんだよ』

 

 ふふっ。何故かこの人といると、時間がはやく過ぎてしまいますね。穂乃果達といる時とはまた違った楽しさ……あれ、楽しい?

 確かに私はこの時間を楽しんでいる。

 出会いは最悪だったのに、彼との時間が日常に変わりつつある。

 私はこの温かい気持ちが何なのかを知りたかった。

 

 急に俯いた園田が、またすぐに顔を上げ、ジュースに乗っかっているクリームを掬い、こちらに差し出してきた。

「はい……あ、あ~ん……」

「は?」

 何が起こっているのか、理解が追いつかずにいると、園田は手を奮わせながら小さく呟いた。

「こ、これもプランに入っていますので……」

「ま、まじかよ……さっきと言ってることが……」

「ほら、早く!」

「…………」

 渋々口を開く。

「あれ……海未ちゃん?」

「○×△*♪!?」

 園田がわけのわからない叫び声をあげる。

 あまりの声のボリュームに、周りの目がこちらに向いた。かなり恥ずかしいんだが。

 しかし、園田はそんな事はお構いなしに、口をぱくぱくさせ、声をかけてきた人物を指差す。

「ほ、ほ……穂乃果」

「…………」

 そこにはμ'sのメンバー、高坂穂乃果がいた。





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