Thebirthdayの新曲『抱きしめたい』が格好良すぎる。
それでは今回もよろしくお願いします。
ジャージに着替え、リビングへ降りると、園田が母ちゃんとにこやかに話していた。
意外すぎる組み合わせに驚いていると、二人は俺に気づき、笑顔を向けてくる。
「おはよう、八幡」
「おはようございます、比企谷君」
「……お、おはよう」
うわ、母ちゃんのそんな優しげな挨拶は久々に聞いたよ……。それに、園田もさっきと違い、態度が柔らかい。何なんだよ、これ。変な相乗効果が生まれてやがる。何故かはわからないが、朝から軽く不快だ。この二人から同時に説教をされたら、発狂してしまうだろう。
ソファーに腰掛けると、洗濯物を干し終えた小町が入ってきた。
「あ、お兄ちゃん、おはよ!」
「どうしたんだよ、あれは」
「あはは……お母さんが海未さんを気に入っちゃって……」
「気に入った……ね」
「……まあ、大事なお義姉ちゃん候補だからね」
「?」
「いや、何でもない何でもない!それより、海未さん待ってるんだから、はやく朝ご飯食べる!」
「へいへい」
消え去った平和な休日を憂いながら、俺は朝食を普段よりゆっくりと味わった。
「はあ……はあ……」
「はあ……はあ……」
先週と違い、千葉の見慣れた街並みを園田と並んで走る。平日も軽く走っていたのもあってか、体が軽く感じる。もちろん、隣の鬼軍曹には遠く及ばないが……。
「この先に公園はありますか?」
話しやすいペースに速度を落とした園田が、距離を詰めてくる。こっちは汗だくなので、あまり近寄るのは避けたい所ではあるが、園田はあまり気にした様子はなかった。
「いや、わからん……」
「貴方はここに住んでいるのでしょう?」
「この辺りはあまり来ないんだよ。ジョギングの時は近い所を行ったり来たりするだけだ」
「…………」
「何より休日は殆ど家から出ないからな」
「…………はあ」
呆れたような溜息に、何だか申し訳なくなってくる。
それと同時に、園田の長い髪がふわりと跳ね、甘い香りを撒き散らしているのに気づく。さすがに何度も同じような事があったので、今さら顔が赤くなる事はない。この香りも少しだけ心地良く感じられた。
しかし、それでも千葉の街を二人で走るというのは、いまいち現実味が湧かないイベントだ。
暴力キャラが俺の中では定着しているが、控え目に見ても園田は美少女の部類に入る。これまでの立ち振る舞いを見る限り、頭もいいし、運動もできるだろう。そんな奴がわざわざ休日に家まで俺をしごきに来るとか……。
「あ、比企谷君!前!」
「は?」
突然、割と強い衝撃が来た。
「……つつ」
「まったく。余所見をしながら走るからです」
「……ああ」
はい。前方不注意で電柱にぶつかりました。園田が声をかけてくれたおかげで、そこまでひどくはならなかったが、やはり痛い。
「どうせ、近くにいた女性に見とれていたのでしょう。どこまでハレンチなんですか」
「別に見とれてねーよ。つーか、寝転がりたいからずれてくんない?」
「これ以上は無理です」
「じゃあ、いいや」
普通に座ろうと思い、ベンチに腰を下ろすと、園田が無理矢理俺を寝かせた。
自然と俺の頭は園田の太股に乗っかる形になる。
思っていたよりも、弾力のある柔らかさを後頭部に感じ、体が強張り、顔が熱くなる。
「…………」
「な、何を……」
「こ、こ、これは応急処置です!」
「いや、さすがに……」
「それ以上ごねると、強制的に眠らせますよ?」
「はい、ありがとうございます」
命の危機を感じたので、大人しく従っておく事にする。柔らかい感触がくれる居心地の良さと、人生初の膝枕の緊張感は、悪い気分ではなかった。
「……さっきは何を見ていたのですか?」
「流れ星」
「清々しいくらいの嘘ですね」
「幽霊」
「はいはい、わかりましたから」
さすがに鬼軍曹とは言えなかった。俺が言ったところで甘酸っぱいシチュエーションなどにはならず、黒歴史を増やすだけだろう。
「まったく……」
「……悪いな」
「何がですか?」
「膝……」
「っ!べ、別に気にしなくていいのです!貴方には散々ハレンチな事をされているのですから」
「いや、あれはわざとじゃ……」
「まだ言いますか!男らしく認めなさい!」
「諦めるのは男らしいのか?」
「この場で使っても格好良くない台詞ですね」
「知るか。大体ハレンチって言う奴がハレンチなんだよ」
「そんな理屈が通るとでも?」
しんみりした空気が一転、口喧嘩が始まる辺り、やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
しかし、神は俺を見捨てなかった。
「八幡?」
そこには天使がいた。
読んでくれた方々、ありがとうございます!