捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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 Thebirthdayの新曲『抱きしめたい』が格好良すぎる。

 それでは今回もよろしくお願いします。


第12話

 ジャージに着替え、リビングへ降りると、園田が母ちゃんとにこやかに話していた。

 意外すぎる組み合わせに驚いていると、二人は俺に気づき、笑顔を向けてくる。

「おはよう、八幡」

「おはようございます、比企谷君」

「……お、おはよう」

 うわ、母ちゃんのそんな優しげな挨拶は久々に聞いたよ……。それに、園田もさっきと違い、態度が柔らかい。何なんだよ、これ。変な相乗効果が生まれてやがる。何故かはわからないが、朝から軽く不快だ。この二人から同時に説教をされたら、発狂してしまうだろう。

 ソファーに腰掛けると、洗濯物を干し終えた小町が入ってきた。

「あ、お兄ちゃん、おはよ!」

「どうしたんだよ、あれは」

「あはは……お母さんが海未さんを気に入っちゃって……」

「気に入った……ね」

「……まあ、大事なお義姉ちゃん候補だからね」

「?」

「いや、何でもない何でもない!それより、海未さん待ってるんだから、はやく朝ご飯食べる!」

「へいへい」

 消え去った平和な休日を憂いながら、俺は朝食を普段よりゆっくりと味わった。

 

「はあ……はあ……」

「はあ……はあ……」

 先週と違い、千葉の見慣れた街並みを園田と並んで走る。平日も軽く走っていたのもあってか、体が軽く感じる。もちろん、隣の鬼軍曹には遠く及ばないが……。

「この先に公園はありますか?」

 話しやすいペースに速度を落とした園田が、距離を詰めてくる。こっちは汗だくなので、あまり近寄るのは避けたい所ではあるが、園田はあまり気にした様子はなかった。

「いや、わからん……」

「貴方はここに住んでいるのでしょう?」

「この辺りはあまり来ないんだよ。ジョギングの時は近い所を行ったり来たりするだけだ」

「…………」

「何より休日は殆ど家から出ないからな」

「…………はあ」

 呆れたような溜息に、何だか申し訳なくなってくる。

 それと同時に、園田の長い髪がふわりと跳ね、甘い香りを撒き散らしているのに気づく。さすがに何度も同じような事があったので、今さら顔が赤くなる事はない。この香りも少しだけ心地良く感じられた。

 しかし、それでも千葉の街を二人で走るというのは、いまいち現実味が湧かないイベントだ。

 暴力キャラが俺の中では定着しているが、控え目に見ても園田は美少女の部類に入る。これまでの立ち振る舞いを見る限り、頭もいいし、運動もできるだろう。そんな奴がわざわざ休日に家まで俺をしごきに来るとか……。

「あ、比企谷君!前!」

「は?」

 突然、割と強い衝撃が来た。

 

「……つつ」

「まったく。余所見をしながら走るからです」

「……ああ」

 はい。前方不注意で電柱にぶつかりました。園田が声をかけてくれたおかげで、そこまでひどくはならなかったが、やはり痛い。

「どうせ、近くにいた女性に見とれていたのでしょう。どこまでハレンチなんですか」

「別に見とれてねーよ。つーか、寝転がりたいからずれてくんない?」

「これ以上は無理です」

「じゃあ、いいや」

 普通に座ろうと思い、ベンチに腰を下ろすと、園田が無理矢理俺を寝かせた。

 自然と俺の頭は園田の太股に乗っかる形になる。

 思っていたよりも、弾力のある柔らかさを後頭部に感じ、体が強張り、顔が熱くなる。

「…………」

「な、何を……」

「こ、こ、これは応急処置です!」

「いや、さすがに……」

「それ以上ごねると、強制的に眠らせますよ?」

「はい、ありがとうございます」

 命の危機を感じたので、大人しく従っておく事にする。柔らかい感触がくれる居心地の良さと、人生初の膝枕の緊張感は、悪い気分ではなかった。

「……さっきは何を見ていたのですか?」

「流れ星」

「清々しいくらいの嘘ですね」

「幽霊」

「はいはい、わかりましたから」

 さすがに鬼軍曹とは言えなかった。俺が言ったところで甘酸っぱいシチュエーションなどにはならず、黒歴史を増やすだけだろう。

「まったく……」

「……悪いな」

「何がですか?」

「膝……」

「っ!べ、別に気にしなくていいのです!貴方には散々ハレンチな事をされているのですから」

「いや、あれはわざとじゃ……」

「まだ言いますか!男らしく認めなさい!」

「諦めるのは男らしいのか?」

「この場で使っても格好良くない台詞ですね」

「知るか。大体ハレンチって言う奴がハレンチなんだよ」

「そんな理屈が通るとでも?」

 しんみりした空気が一転、口喧嘩が始まる辺り、やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。

 しかし、神は俺を見捨てなかった。

「八幡?」

 そこには天使がいた。





 読んでくれた方々、ありがとうございます!

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