捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第11話

 

 園田の家での謎のトレーニングから早一週間。

 俺は自室にて穏やかにベッドで寝転がっていた。

 そう、これが正しい休日の過ごし方。これを俺は望んでいたのである。暴力女から小突き回される休日など断じて望んでいない。やっぱり平和が一番だ。

 そんな事を考えながら、徐々に眠りの世界へと意識が誘われようとしたその時……

 コンコンとドアをノックする音がした。

「おはようございます」

 凛とした声がドア越しに聞こえてくる。小町じゃない。戸塚でもない……よし。

 だが俺は返事をしないただの屍になった。

「……失礼します」

 何とその声の主は、こちらが許可もしていないのに勝手にドアを開け、部屋に入ってきた。RPGのキャラクター並みに失礼な奴だ。

 しかし気を遣ってくれているのか、足音を立てる事もなく、ベッド脇へやってくる。

「まだ寝ているのですか?」

「…………」

 危ねえ。うっかり返事しちゃうところだった。だがそんなお約束をしでかす俺ではない。

「どうやら寝ているようですね」

 あれ?この子あっさり信じちゃったよ……。

「まったく、寝顔までハレンチですね」

 どんな寝顔だよ!え、何?もしかして家族が誰も俺を起こさなかったり、カマクラが俺の布団に入ってこないのも寝顔のせい?頼むから嘘であってほしい。

「…………」

 何やら人の気配が近くなった気がする。

 侵入者……園田の呼吸音の位置が低くなった。

「目は汚れていますが、それ以外は……」

 こいつ……人が眠っていると思って言いたい放題だな。

 どうせもう逃げられないので、諦めて目を開ける。

 すると、思いっきり園田と目が合った。

「「…………」」

 呼吸が止まるような張り詰めた沈黙に包まれる。

 園田の目は驚きに見開かれたまま、逸らされる事はなかった。ほんのりと紅い唇もぴたりと閉じられている。

 そして、そんな長いような短い時間も終わりが訪れた。

「っ!!」

 園田は尻餅をつき、声を出そうとしても出ないのか、口をパクパクさせている。

 こっちも朝から無駄に心臓が跳ね上がり、上手く思考が働かない。

「あ、あ……」

 ようやく園田の口から声が出てくる。

「貴方は寝たふりをしていたのですか!」

「いや、寝てた」

「嘘をつかないでください!」

「…………」

「あ、こら!二度寝なんてさせませんよ!」

 布団を剥ぎ取られ、カーテンと窓を全開に開け放たれる。梅雨も消え去ったのか、というくらいの澄んだ朝陽の光と、生温い風が、この部屋に新しい一日を告げた。

「さ、顔を洗ってきてください」

 珍しく微笑む園田を見ながら、何となく声をかけた。

「なあ……」

「何ですか?」

「お前……俺の事好きなの?」

「…………」

 再び時が止まる。

 もちろん本気で言った訳ではない。だが目の前の暴力大和撫子にはそんな冗談など通じるはずもなく、次第に不自然なくらい優しい笑顔を浮かべた。

「面白い事を言いますね。貴方は」

 その後、園田のチョップが脳天に炸裂し、立ち直るのにしばらくの時間がかかった。

 さっきの胸の高鳴りなど欠片も残っていなかった。





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