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それでは今回もよろしくお願いします。
アメリカでの夜から数日、俺も海未も日本に無事帰国してきた。無事ですまなかったのは、海未の父親のへそくりと家庭内ヒエラルキーと、向こう3ヶ月のお小遣いくらいだ。ドンマイ、それとありがとう。
あとは、一つだけ問題が……
「八幡……私達はしばらくデートはできないのでしょうか……」
「まあ、少なくとも秋葉原じゃ無理だ。千葉でも駅周辺は避けた方がいいかもな……」
受話器から切ない吐息と共に漏れてくる海未の声に胸を痛めながら、厳しい現実について説明する。
アメリカから帰国してきたμ'sを出迎えたのは、大勢のファンだった。そう、先日のニューヨークでのライブは想像以上の効果を発揮した。μ'sの9人は瞬く間に女子校生の憧れとなり、スクールアイドルの知名度は飛躍的に向上した。
ただ……
「うぅ……まさか、四六時中誰かに声をかけられるなんて……うぅ……」
「…………」
μ'sは秋葉原の街を歩いただけで人だかりができ、とてもデートなどできる状態ではない。千葉駅周辺も危ないと言ったのは、近くの商業施設の大型スクリーンで、彼女達のライブが繰り返し再生されていたからである。思わず3時間見てしまった。てへっ!
「まあ、その内落ち着くだろうから……」
「ええ、そうですよね。あの……八幡、実は明後日なんですが……」
「?」
「いえ、何でもありません。それより、私に会えないからといって、たるんだ生活を送っていてはいけませんよ?」
「大丈夫だよ。それよか、お前はお前の心配してろ」
「ふふっ、ご心配ありがとうございます。それじゃあ、明日も電話していいですか?」
「ああ」
「そ、それじゃあ、また明日」
「……お休み」
俺は通話を切った後、日付を確認し、一人で頷いた。
「え?比企谷君に誕生日教えてないの?」
「ええ、とてもそれどころではありませんからね。今は、μ'sを全うするのみです」
ラブライブの規模の拡大に伴い、スクールアイドルの知名度の向上させ、より活動を活発化させる。
その目的の為、μ'sはあと少しだけ活動することになりました。
本当は彼に真っ先に祝って欲しかったのですが、私は彼と添い遂げる覚悟はできてますので、まだ祝ってもらえる機会は沢山あります。
「今年はこちらに集中しますよ。詞の方も早急に書き上げなければ」
「海未ちゃん……」
「別に寂しくなんかないです。寂しくなんかないですし、寂しくなんかないです。ええ、寂しくなんかありませんとも。今度思いきり抱きしめてもらえれば、それだけで十分です」
「海未ちゃん……病んでる?」
誕生日当日。
私はなるべく誕生日という事を意識しないように、皆からの祝いもそこそこに、作詞とダンスの振り入れに没頭しました。あっという間に時間は過ぎ、寂しさを感じる暇がなかったのが唯一の救いでしょうか。
……私もすっかり、恋をしてるのですね。
改めて自分の心の在り方を確認し、玄関の扉を開ける。
「ただいま戻りました」
「おう、おかえり。誕生日おめでとう」
「ええ、ありがとうございます」
「練習やら何やら忙しそうだな」
「ええ、でもここが踏ん張り時ですから」
「そっか……あ、これプレゼントな」
「あ、ありがとうございます!開けてもいいですか?」
「……少し照れくさいから、後にしてくれると助かる」
「え?ま、まさか……下着、でしょうか」
「俺にそんな度胸ねえから」
「そうですよね。ふふっ…………え?」
私は目の前にいる人物を確認する。
「この猫背。不機嫌そうな声……濁った目……」
「おい。いきなり面と向かって悪口かよ……」
「八幡!?」
誕生日の件をどうやって知ったのかも、今はどうでもいいのです。
今、彼がここにいる。いてくれる。
私は目の前にいる恋人に無我夢中で抱きついた。
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