捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第9話

 

「はぁ……はぁ……」

「はぁ……はぁ……」

「も、もうダメだ。げ、限界だ」

「何を言っているのですか?私はまだ満足していませんよ」

「お前……スタミナ……ありすぎだっての……」

「貴方はなさすぎです。全て出しきってください」

「んな事……言われ……てもな……」

「さ、口を動かす前に体を動かしてください」

 俺は腰が砕けそうになるのを必死にこらえて……

 

 ひたすら走っていた。

 園田に散々追い回され、厳しい罰を受けた後、10キロのランニングに付き合わされる羽目になった。

 しかし、俺は部活動で真面目に運動した経験などない。そんなただの帰宅部に10キロとか酷というか獄というか……何でこいつは平然としているんだよ。

 それでも何とか食らいつき、ひたすら住宅地を走り、川沿いを走り、しばらくすると、公園に到着した。

 一歩足を踏み入れると、そこは街の喧騒から切り離されたような緑溢れる空間だった。木々や草花は優しい風にサラサラと揺れ、さっきまでとは違う空気で体が満たされていく気がする。休日という事もあってか、そこそこ人は多い。俺達と同じように走っている男性や、犬の散歩をしている女性もいる。ベンチでうつらうつらとしているお年寄りもいた。

 中央には池があり、のんびりとボートを漕いでいる二人組がいた。今日みたいな日にあそこで寝るのは気持ちいいかもしれない。

 周りを見ている内に、前を走る園田がスピードを緩め、自販機の前で立ち止まった。

「はぁ……はぁ……どした?」

「ふぅ……一旦休憩しましょう。あなたの体力も限界のようなので」

「そっか……」

 こいつ、いいとこあるじゃん。なんて考えていたら、園田はびしぃっと自販機を指差した。

「ここで奢ってくれたら、先程の事は水に流してあげます」

 先程の事……水色。

「…………」

「な、何を卑猥な顔をしているのですか!」

「お前……卑猥な顔って……」

 目が腐っているどころの話じゃねえぞ。いや、確かに色々と思い出したんだけどさ……。顔を真っ赤にして怒っている園田を見ながら、ふとある事に思い至る。

 ジュース一本で着替え一回見れるって思春期男子的にはかなり素晴らしい気がするんですが!いや、変な事は考えてないけどね!

「ちなみに次に同じ事をしたら、道場のリフォーム代を払っていただきます」

「何だよそれ……」

 着替え一回で数百万になるというのか。どんな着替えだよ。胸小さいくせに。

 まあ、自分が悪いのも事実なので、大人しくスポーツドリンクを2本買い、一本を園田に渡す。

「あ、ありがとうございます……」

 自分から言った癖に、意外そうな顔でスポーツドリンクを受け取った園田は、近くにあるベンチに座った。俺も一人分くらいの幅を空けて腰掛ける。

 ちょうどその時、少し強めの風が吹き、園田の長い髪をざわざわと揺らしていった。汗をかいているはずなのに、淡く甘い香りが漂い、こちらの心を揺らしていく。

「どうかしましたか?」

「……いや、何でもない」

 慌てて目を逸らした俺はスポーツドリンクで喉を潤し、数分後に待ち受ける復路に備えた。





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