さぁ、真の第1話、その前篇を送信……!
Realization
勇気リンリン!直球勝負!!キュアマーチだよ!
さすがはキュアブラックに鍛えられただけのことはあるね……
曲がった風に真っ向から向かっていく……無鉄砲だけど、あたしは好きだよ、そういうの!
「立ち止まっても、立ち尽くしても、その先がある!!」
「あたしは―――――取り戻す」
「キュアマーチ、キュアっとレスキュー!」
残りは49人……みゆきちゃんやあたしのかけがえのない友達、そして、サーバー王国で出会ったみんな。
みんなを助け出すまで、戦いは終わらない。あたしに出来ることは限られてるけど、応援するよ……!
でも……アイツらは……ジャークウェブはまだ、本気を出してない……
ここからが正念場だよ、メモリア……!
『インストール@プリキュア』、キックオフ!
―――――――――
PLAYER SELECT
⇒ LINK TOUDOH
CURE-MEMORIA
??????
??????
―――――――――
遠足から3日ほどたった朝―――――
《りんく!り~ん~く!起きてっ。見て見て!》
ん~…………目覚まし、ちょっと早くない?7時に起こしてって言ったよね、メモリア……
うっすら目を開けて、部屋の時計を見ると、6時ちょっと前。1時間早い……
「…………。も~ちょっと寝させて~……」
はい二度寝入りまーす。まだ朝寒いし、こんな時間から起きてられましぇ~ん……
《りーんーくーッ!起きてよーッ!!りーーんーーくーーー!!》
どんなに大声出されても、人類は眠気には勝てないんですよねぇ……。
メモリアはコミューンの中にいるわけだし、このまま―――
―――ごん!
「
カタいものが頭に打ちつけた。しかも1回だけでなく、2回、3回。
見ると、ネットコミューンがひとりでに動いて、私の頭をガンガン叩いてる!?
《起~きろ~!声で起きないならガンガンしちゃうぞ~!!》
「もうガンガンしてるクセにっ……!!」
いったいドコでそんな技を身に着けたんだか……というか……
「ネットコミューンを動かせるなんて聞いてないんですけど!?」
驚きとともに跳ね起きると、コミューンが直立し、ディスプレイの中で、ちっちゃいメモリアが腕組みしてドヤ顔で立っていた。
《ふっふ~ん♪プリキュアは常に進化しているのです♪ふんす!》
鼻息荒く自慢しちゃって。ますますおばあちゃんからもらったスマホがオカルトアイテム化していっちゃうんですけれど……
私は眠い目をこすりながら、メモリアにたずねる。
「……まったく、こんなに早く起こして、何の用?」
《うふふっ♪じゃ~ん!見て見て!》
コミューンがぴょ~んと跳びはねて、私の机の上に立った。そこには、私の愛用のタブレット端末が充電状態で置いてあるはずだけど……
「……え……!?えええええええええ!?!?!?」
思わず、二度見した。そこに置いてあったはずの私のタブレット端末は―――既に存在していなかった。
その代わりに置いてあったのは、全体がピンク色で、それっぽい装飾が施された、『財団B』が女の子向けに販売していそうな、それはそれはオモチャめいたタブレット端末でしたとさ―――
「こ……これって……」
《えへへっ♪キュアネットからいろいろ勉強してね、徹夜でがんばって、“つくりなおした”んだよ?名付けて、『キュアットタブ』!ねぇねぇ、どう?スゴいでしょ~!》
つまりこれは―――メモリアがひと晩かけて、私のタブを改造しちゃったってこと……!?
この子、どこまで賢くなっちゃうの……!?ってか、中身はともかく外側はどうやってイジッたんだろう……。
「さわってみて、いい?」
《もちろん!りんくのタブだもん♪》
電源ボタンを押した瞬間―――一瞬でデスクトップが出てきた!?いくらなんでも起動速すぎ!!これがサーバー王国脅威のメカニズム……!?
でも、デスクトップのメニューは、今までのタブとほとんど変わらない。……あ、でも、アプリが増えてる。
《ネットコミューンとキュアットタブを、ケーブルでつないでみて?》
言われたとおりに、私はケーブルでコミューンとタブをつないだ。すると、コミューンのメモリアが消えて、タブの画面に瞬間移動してきた。転送速ッ!
《コミューンでできることのほとんどはタブでもできるようにしておいたし、それから、こんなのもつけたの!》
メモリアが知らないアプリのアイコンを指し示すと、アプリが起動した。リストのようなものが表示されている。51の欄があるけれど、全部空欄だった。
「これは?」
《今までに助けて、回収したキュアチップのリストだよ!スロットにチップを入れてみて!》
私は机の上に置いていた、キュアロゼッタとキュアマーチ、2枚のキュアチップを、立て続けにタブのスロットに差し込んだ。
《ひだまりポカポカ!キュアロゼッタ♪!》
《勇気リンリン!直球勝負!!キュアマーチ!!》
2人のプリキュアのキメ台詞がタブから流れた。画面の51の欄のうち、2つが色で染まって埋まった。すると……
《あら?あらあらまぁまぁ……》
《う~ん……よく寝たぁ~……ここ、ドコ?》
寝起きと思しきふたりのプリキュア―――ロゼッタとマーチが、キュアドール体型でタブの画面の中に現れた!
……にしてもマーチのキュアドール体型、コドモニナ~ルの回を思い出しちゃうなぁ……うふふ、かわいい❤
《ロゼッタ!マーチ!おはよう!》
《まぁ、メモリア♪おはようございます♪》
《スマホの中じゃないみたいだけど……ここは?》
《キュアットタブの、“プリキュアルーム”の中だよ!ちょっとセマいかもしれないけど、ここならみんな、サーバー王国にいた時と同じように暮らせるよ!》
そっか、このタブは助けたプリキュアの『避難所』なんだ。でもフツー、カードのスロットって1枚しか入らないハズ。さっき、2枚入った。このタブのカードスロット、4次元か何かにつながってるとでも……??
「でも……どうしてこんな……?」
こんな大掛かりな改造をタブにするには、それなりの理由があるハズって思って訊いてみた。メモリアは私が怒ってると思ったのか、ばつが悪そうに答えた。
《だって……みんな、プリキュアなんだもん。チップなんかじゃ、ないんだもん……チップになったままだったら、動けないし、しゃべれないし、笑ったりすることもできないんだよ?……だからせめて、『みんながみんなのまま』で、サーバー王国が元通りになるまで過ごせる場所があればいいなって、そう思って……》
「……メモリア……」
私は思わず、タブの画面の中のメモリアの頭を、指でナデナデしてあげた。《ちょ、くすぐったいよりんく~♪》と、メモリアが笑う。あ、画面のタッチならOKなんだ。
「ぐっじょぶだよ♪……みんなのことを想って、みんなが暮らせる場所をこうしてつくってあげたんだから……私だって、動けなかったり、しゃべれなかったりするだけでも、イヤって思うもん」
《りんく……♪》
この子はホント、プリキュアたちのことを尊敬して、自分なりに何ができるか、考えてるんだ……。プリキュアたちのためにタブを改造したのなら、怒るに怒れない。むしろ、ナイス!
《メモリアっ!》
《わぷ!?マーチぃ!?》
マーチがメモリアにぎゅっと抱きついた!あら^~
《ほんと、よくデキた後輩だよ!ありがとう!これならみんなが戻ってきても、淋しくないよ!》
《うふふ♪みなさんをここにお招きするのが、楽しみですわ♪》
《えへへ……♪》
あぁ^~~…………私のタブレット端末の中で、プリキュア同士がイチャイチャしている…………
これって、夢ですか?夢なら一生、覚めなくてもいいや……❤❤
キュアキュアのあまり………………プリキュアオタクの東堂りんく、昇天しちゃいそうです~~…………❤❤❤
―――――――――
しかしここは天国ではない。いつまでも萌えシチュにウツツを抜かしてられない。
時間が少し飛んで、この日の晩―――
私とむぎぽん、そらりんは、川村さんから招待されて、この度リニューアルオープンするという、財団Bの博物館『Bミュージアム』へとやってきた。
明日グランドオープンするその前に、私達3人だけを招待して……いったい何が目的なのやら。
「ワタクシの招待に応じていただき、感謝しますわ!“プリキュアトリオ”の皆さん!」
これまた大仰な態度で、私達の前に姿を見せた川村さん。私服もいい感じにお嬢様してますねぇ……
ってか、私達3人、“プリキュアトリオ”で確定?
「皆さんには、明日オープン予定のこのBミュージアム……その目玉である屋上プラネタリウムの試写会にお付き合いいただきますわ!」
「プラネタリウムって、天文台とかにあるあれやねぇ~」
「なんでまた、アタシたち3人だけを招待したワケ?」
「う゛ッ……それは……」
考えてみれば、むぎぽんのツッコミは当然だ。どうせなら、クラスのみんなとか招待すればいいのに。
「あッ、貴女達のような“特定の趣味を持っている方”にも感動していただけるか、その検証でもありますのよ!おほほほほ……」
下心が見え見えだ。それって口実なんでしょ?お嬢様。プリキュアトークに加わるための……
「さ、行きますわよ、ギャリソン!」
「かしこまりました、お嬢様。……皆様、こちらへ」
川村さんのそばに、まるで影のように立つ男の子が、私達を奥へと案内してくれる。
彼、ギャリソンくんは川村さん専属の執事さんらしい。私達と同じ14歳の中学2年生。黒髪のイケメンだ。
もちろん本名ではない。川村さんが自らつけたコードネームだとか。川村さんのお家では、5歳になると執事やメイドがひとり、専属で配属されるという。それも、同年代の子が。このギャリソンくんも、川村さんが5歳のころから、身の回りの世話などを担当しているらしい。働き者だねぇ……
「おねーさま」
少し歩くと、物陰から1人の女の子が姿を見せた。
「あら、貴女もいらしてたのね?来るなら来ると事前に連絡をお寄越しなさいな」
「“ぷいきゅあ”がすきなかたがたがくると、ぎゃりそんからききまして、とんできたですの。おはなしをしたくてきましたですの」
その姿はまさに、川村さんのクローンそのもの。川村さんをそのまま幼稚園の年長さんくらいに縮小したくらいの、まるでお人形さんのような子だ。
「かわいい~!もしかして、川村さんの妹さんなん?」
思わず笑顔になるそらりん。うんざりした顔を浮かべる川村さん。
「……さち。お客様にご挨拶なさい」
「はいですの、おねーさま。……おはつにおめにかかりますですの。かわむらさち、5さいですの。おねーさまが、いつもおせわになっておりますですの」
くるりと回って、スカートの両端をつまんであいさつするさちちゃん。か、カワイすぎる……!!
こりゃ、アニメにすれば相当人気出そうな感じがするなぁ……
「……つもるはなしは、どうちゅうでしますですの。……くいんしぃ」
「はい!」
「すまほをおもちなさいですの」
「かちこまりまちたので、おじょーたま!」
と、物陰からはこれまたカワイイ、さちちゃんと同い年くらいの女の子が出てきた。とてとてと歩いて、さちちゃんにスマホを渡した。
でも、その服装はギャリソンくんと同じ執事服。ちっちゃいながらも『男装の麗人』だ。
「……妹のクインシィです。この春から、さちお嬢様の専属執事に任じられました」
ギャリソンくんが付け加えるように説明する。なるほど、妹さんか……にしては、あんまし似てないけど。
疑問に思って、私は横で歩いているギャリソンくんに小声で訊ねた。
「ねえ、聞いてもいいかな?」
「どうぞ」
「普通、女の子ならメイドさんだよね?どーして執事さんに?」
「最初はメイドとしてさちお嬢様のお世話役となる予定でしたが……執事がしたいと駄々をこねましてね……仕方なく、このような結果に」
なるほど……でも、執事とメイドって割と役割似てなくないかなぁ?クインシィちゃん、どうしてメイドじゃなくって執事がしたいって……?
「あなたがとーどーりんくさんですの?」
私の足元から声がした。見ると、小さなお嬢様が私を見上げている。ジト目で。
「そ、そーだけど……なぁに?」
「おねーさまからおうかがいしましたですの。あなた、“ぷいきゅあ”におくわしいですの?」
ぷいきゅあ……あぁ、プリキュアのことか。たぶん、間違って覚えちゃったんだろうなぁ……
「もっちろん!プリキュアのことなら何でもおまかせ、誇りあるプリキュアオタク、東堂りんくとは私でーす!」
胸をたたいて、堂々と自己紹介。オタクであることを隠すなんてもう古い、オタクももっと前に出る時代なんですよ、お嬢様!
しかしそれを聞いてか聞かずか、さちお嬢様はスマホを私に突き出していた。
「あの……これは?」
「めっせのあどれすをいれてほしいですの。あなたとは、“ぷいきゅあ”のことでもっとかたりあいたいですの」
あぁ、この子、小さいながらにプリキュアファンなんだ。この間の川村さんは、プリキュアを『妹に付き合って見てる』って言った。つまりは妹さんは熱狂的ファンということか、なるほど……
スマホの操作に慣れてないのか、この子は私にアドレス入力を要求した。あの、まだ5歳の子にスマホを持たせるのもどうかと思いますけど……
川村家の教育方針にツッコんでも仕方ない。私はメッセのアドレスを入れて、返してあげた。
「かんしゃいたしますですの。……ふふふ、これでまた、“ぷいきゅあ”ますたーにちかづいたですの」
「おめでとーございますので、おじょーたま!」
にっこりほほえむクインシィちゃん。この子もまた、オタク受けしそうだなぁ……
「……“ぷいきゅあ”のこんてんつをもっともっときょーかして、『ざいだんびー』をさらにおおきくするですの。ふっふっふ♪」
ぞくり。な、なんか、5歳の女の子にしては凄まじく野心的な発言を聞いた気がするんですが……!?
この子も幼いながら、財団B経営者一族のひとり……普通のファン以上の、何かを感じる……ニヤリと笑うその顔、5歳児とは思えない凶悪オーラを放ってるんですけど……!?
「積もる話はあとにしてくださいませ。着きましたわよ」
物々しい扉をギャリソンくんが開くと、その中には―――
高さ10mくらいの空間。その中心に、大きなプラネタリウムの映写機がそびえ立っていた。
「ふわぁ……」
現実離れした空間。映画館に似てるけど、“匂い”からして、違う。
そういえば小さいころ、家族でプラネタリウム見に行ったっけ。暗くなるのが怖かった記憶がある。今はそんなに怖くないけど、ね。
私に小さい頃を思い出させてくれるこの空間に、私は懐かしさを感じていた。
―――――――――
……ENEMY PHASE
―――――――――
飛んで火にいる夏の虫とはこういうことか。
まさか、あの『人間の子供』がこの場に現れようとは……
「……俺はまだ、運に見放されていないようだな……丁度いい。このプラネタリウムの映写プログラム、利用させてもらう……!」
俺はキュアチップを取り出し、映写プログラムとともにワルイネルギーを充填した。
「煌めく夜空の星々よ!この安穏なる世界を、脆く、無慈悲に、醜く変えろ!!バグッチャー、ユナイテーション!!!」
《バァァァグッチャ~~?》
《P-40》のキュアチップ……このプログラムとの相性がいいようだ。
これなら―――目的も達成できる。
「人間の子供とプリキュアよ……絆が貴様たちの枷になるのだ。救いたければ、擲ち戦え……!!」
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PLAYER CHANGE
⇒ LINK TOUDOH
CURE-MEMORIA
??????
??????
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「……おかしいですわね」
席に着いてから、もう5分くらい経つ。川村さんが席を立ったようだ。
「ギャリソン、どうなっておりますの?試写が始まらないじゃありませんの!?」
「そ、それがお嬢様……キュアネットに接続されている、映写機のプログラムに不具合が発生しておりまして……」
あちゃー……ここでトラブル発生ですか……明日がオープンなのに大丈夫かなぁ……
「ちょっと見せて?」
たまらず私は、映写機の制御パネルを見せてもらうことにした。ネットコミューンを取り出して、ケーブルでつないで、ネットチェッカーを起動すると……
「何コレ……!?」
制御プログラムが―――まるまる無くなってる……!?これじゃ、動くものも動かない。
「ギャリソンくん、プログラムを最後にチェックしたのっていつ?」
「つい2時間ほど前です……その時には、何の異常も……」
それじゃ、プログラムがなくなった原因って……
いやな予感がした私は、コミューンのキュアネット可視化モードを起動した。
このプラネタリウムのキュアネット空間、そこにいたのは―――!!
「!!アラシーザー!!」
またあんたか!!とツッコみたかった。キントレスキーとガメッツのいいトコ取りみたいな鎧のオジサン!
《気付いたようだな、人間の子供よ!さぁ、プリキュアをこちらに寄越せ!そして戦え!!》
コミューン越しに、私に向かって宣戦布告。でも―――
「何かあったんですの?」
コミューンのディスプレイを、川村さんがのぞき込もうとしてきた。あわてて私はコミューンの画面を隠した。
「あ!そ、それがね!?ちょ~っとやっかいなコトになってるみたいで、直すのにも時間かかりそうで……」
私のまわりには、むぎぽんにそらりん、川村さんにギャリソンくん、さちちゃんとクインシィちゃんもいる。
こんなところで、みんなの前で、メモリアをキュアネットに送ることはできない……メモリアのこと、みんなにバレちゃう……!
《来ないというのなら―――――》
アラシーザーの声がして、悪寒が背すじを這い登る。私は川村さんに見られないように、コミューンのディスプレイを見た。そこには―――
〈!!!CAUTION!!!:BUGUCCHER REALIZATION LIMIT:00:50〉
見知らぬ警告表示があった。数字はどんどんカウントダウンしていく……!?
「…………!?」
《……このバグッチャーは覚醒からもうすぐ5分……この静かなる空間に潜めておいた甲斐があったというもの……!》
ど、どうしよう……!?今からでもメモリアを送った方がいいの……!?でも…………!!
切羽詰まった私の心は、決断力を鈍らせる。やがてそのカウントは―――
―――00:00―――
警告音ののち、女の子の合成音声が、プラネタリウムの中に響いた。―――瞬間―――
プラネタリウムの映写機の『下』から、黒光りする巨体が、椅子や映写機を吹っ飛ばしながら屹立した。
その両の目が辺りを見渡し、私達に向けられ、そして―――
咆哮とともに、空気が震えて―――
私達の『現実』が―――こわれた。
ネットの中の怪物だったバグッチャーが…………私達の世界に―――
『現実』に、姿を現した…………!!
「か、か、か!怪物~~~~~~~~~~~ッッッ!!!」
むぎぽんの悲鳴がきっかけだった。せきを切ったように逃げ始めるみんな。
一番近くにいた川村さんは一瞬で白目をむいて気絶してしまった。とっさにギャリソンくんが川村さんをかかえた。
「皆様、こちらへ!!」
みんな、一目散に出入り口に飛び込んだ。最後は運動オンチの私……
『バグッチャァァァァァァ!?!?』
振り返ると、バグッチャーの巨大な拳が私に向かって振りかぶられている!?
……この瞬間、私は一つの真理に辿り着いた気がした……
アニメやマンガの実写化がコケる理由だ!!
アニメやマンガのヴィジュアルは、アニメやマンガの中だからこそ許されてるのであって、こんな風に実写化しちゃったらいろいろと台無しになるッ!!所謂『コレジャナイ感』が倍増されるんだ〜〜〜!!
―――ドゴオオォオォォォォォォオォォン!!!!
―――なんてことを思いながら、私は右方向へと横っ飛びしていた。バグッチャーの鉄拳は、出入り口のドアをひしゃげさせてしまっていた。
「「りんく(ちゃん)!!!」」
悲鳴めいたむぎぽんとそらりんの声が、ドアのすき間から洩れてくる。
『フン……やはり人間の子供、実体化したバグッチャーには無力だな』
よろめきながら見上げると、アラシーザーがバグッチャーの肩に乗っている。アイツも実体化したの!?
『……まぁ、このような弱き者、後でどうとでも潰せる。まずは―――リアルワールドでのバグッチャーの稼働データを採取せねばな』
稼働データ……!?何を言って……!?
私が訊ねる間もなく、バグッチャーは反対側の壁を破壊して、外へと飛び出していった。外は―――市街地だ。
「…………!!」
ほどなく、私の視界の外で、悲鳴と爆発音がこだまし、夜闇が赤く染まっていく光景が見えた。
私は―――無力感と脱力感で、立ち上がれずにいた。
私が……私が決断をしなかったから、みんなが……街が…………
「りんく!りんく!!」
「東堂さん!?ご無事ですの!?ご無事でしたらお返事をなさい!!」
むぎぽんと川村さんの声が、ひしゃげたドアを隔てて聞こえる。
「私は…………大丈夫。でもごめん……ドアが開かなくって…………」
「わかっておりますわっ……!ギャリソン、すぐに救助隊の手配を―――そこでお待ちになっててください!助けを呼びますわ!」
川村さん、手際がいいな。やっぱ、誰かの上に立つヒトって、判断力や決断力もすごいんだね……
それにくらべて……私は……
「むぎぽんたちは、先に避難してて……ここに残ってても、あぶないから……」
「でも―――」
「―――行って!」
強い口調で、私はみんなの避難を促した。
「絶対……絶対無事でいてぇな!助けは必ずくるからぁ!」
遠ざかる足音と、そらりんの気遣いの言葉。みんなの気配が無くなって、私はネットコミューンを取り出した。
「…………………………メモリア…………私…………間違えちゃった…………そのせいで、みんなに迷惑かけて、街も…………どうしたらいいの!?」
コミューンの中のメモリアも、無力感に歯噛みしていた。
《あたしも……何もできないあたしが情けないよ……!!ネットの中だったら戦えるのに……まさかバグッチャーがリアルワールドに出ていくなんて、思わなかったから……!!》
そうだ。メモリアも、思いは同じなんだ。この、ネットと現実のカベを隔てていても、気持ちだけは通じ合ってる。
リアルでは何もできない、私達の無力感―――このまま、街が壊されていくのを何もできないまま見ているだけなんて、出来ない……
《―――――――――ひとつだけ》
「……………………?」
《ひとつだけ、方法があるかもしれない》
ぽつりとメモリアは呟いた。おそるおそる、私は訊ねた。
「……それって?」
《クイーンから聞いたことがある、あたし達、サーバー王国のプリキュアだけが使える最後の手段―――『マトリクスインストール』……それを使えば……》
マトリクス……インストール?
なんだかスゴそうな言葉の響き。だったら、それに賭けるしかない!
「それだよ!!ねぇ、どうすればいいの!?私は何すればいいの!?」
《それが…………あたしにもわかんないの》
えぇ~~!?ここにきてそれはないよ!!やり方もきちんとクイーンから聞いといてよね……
《それに、クイーンは言ってた……これをすると、ユーザー……つまり、にんげんさんも危なくなるって……だから、よほどのことが無ければ使っちゃいけないって……一人前のプリキュアになったら、やり方を教えてあげるって……》
「今さらなによ!とっくに私、危険な目に遭ってるよ!それに、今が『よほどのこと』!今使わずにいつ使うの!?今でしょ!?……私、何もできないのはイヤ!メモリアだって、そうじゃないの!?」
《……!りんく…………!!》
覚悟ならとうに決めてる。51人のプリキュア、全員を助け出すって決めた、あの日から。
あなたと私、ふたりで戦い抜いて、プリキュアたちを助け出す―――そう、決めたよね―――
その瞬間―――
〈USER:LINK TOUDOH〉
〈SYMPARATE:100%〉
《…………ぁ》
メモリアの表情が、初めてユーザー契約したときの表情に変わった。焦点が定まってない、“あの目”が私を射抜く。
そして、コミューンのディスプレイ、オペレーションアプリのアイコンの横に、握手をしている手のような、金色のアイコンが現れた。
《……たっぷしながら、となえて。『ぷりきゅあ・まとりくす・いんすとーる』……》
「メモリア……まさか……!?」
これは、最後の手段。
これを使って、何が起こるか、何が変わるかわからない。
でも、この無力な現状を変えるために―――
―――私は、ためらわない!
アイコンに指を乗せて、私は覚悟とともに叫んだ。
―――一拍置いて、ネットコミューンの画面が光を噴いた。
ピンク色の光を放出して、振動機能なんかでは説明がつかないほど、右に、左に、上に下にと、私を振り回す。
「え!?ええっ!?ちょっと!?きゃ~~?!」
コミューンに引っ張られるように、私はプラネタリウムの中心に立った。すると、コミューンの動きが止まった。
「おさまった……?」
と思ったのは一瞬だった。今度は私に向かって、コミューンが突っ込もうとしてる!!
両手でコミューンを握りしめ、私は必死に抵抗する。いったい何をするつもりなの、メモリア~!?
しかし筋力なんかゼロに等しい私の細腕で止められるはずもなく、コミューンは私の胸の真ん中に突っ込んできた。
「ぐふっ」
痛い、と思ったのは一瞬だった。その時私が見たのは、とんでもない光景だった―――
光を放つネットコミューンが、私の胸へとめり込んで入っていく……!?
熱い、でも、痛くない。強烈な熱が私の意識を持って行って、ピンク色の光が私の視界を染めていった―――
―――――――――
……………………ん………………
気がつくと私は、ふわふわと浮いていた。
地面に足がつかない。
見渡すと、巨大な光の球体が、私をすっぽりと包みこんでいた。煌めきを放つ気泡が、時折私の視界を下から上へとスライドしていく。
水の中というか、お風呂の中というか……なんだろう、すっごくあったかくって、懐かしい感じがする。
こんな表現、ヘンかもしれないけれど―――ママのおなかの中にいるみたい……
「なにがあったの…………私………………メモリア……!?」
ふと前を見ると―――私と同じように、メモリアも空間に浮いている。…………って、
「メモリアが……こっちに出てきたの……!?」
最後の手段、成功したみたい……!これなら、メモリアもこの世界で戦える!
でも、私のこの状況……どうなってるの……?
『う……う~ん…………りんく?』
メモリアも気が付いたようで、私を見てくる。
「やったよメモリア!これでメモリアも、こっちの世界で戦えるよ!」
『ほ、ホント!?……ってか何コレ?ふわふわしてうまくうごけないよ~……』
ともかく、ここから出ないと何も始まらない。早くメモリアと外に出ないと……
『ぁ』
その時、じたばたと焦っていたメモリアが、“あの表情”になった。一瞬脱力したと思うと、こちらを向いて、右の手のひらを私に向けてきた。
『……たっち』
「へ?」
『ぱーで、たっち』
い、いきなり何を言うのこの子?タッチって……
見ると、メモリアの右の手のひらに、『ハートの集積回路』が浮かび上がっている。そして、私に右手を伸ばしてくる。
なんだかわからないけど……でも、『しなきゃいけない気がする』……
私も、右手をメモリアへと伸ばした。そして、ふたりの右手が、そっと触れ合った。
やわらかい、感触だった。想像通りの、あったかい手……
『……あれ?』
メモリアの目がいつもの感じに戻った、その時―――
メモリアの体が光を放ち、少しずつ光の粒子になって消えていき始めた……!?
「メモリア!?」
ま、まさか、こんなコトってアリ!?私、また、何か間違えたの……!?
メモリアが消えちゃう!恐怖が心をずきりと痛めてきた。でも―――
『……大丈夫みたい……あたし、全然痛くないし、なんだかとっても気持ちいいの……』
「え……?」
『見て』
メモリアが目くばせしたのは、私の胸の真ん中だった。さっき、コミューンが突っ込んで、体の中へと入っていった場所に、コミューンの形に型抜きされた『光る穴』が空いていて、そこからメモリアが『分離した』光の粒子が、吸い込まれるように入っていくのが見える。
『あたし……りんくの中に入っていってる……』
「私の中って……ん……」
とたん、私の体が強い熱を帯びてきた。
痛くないし、熱さに不快感も感じない。
あったかくて、優しくて、力強くて……
そんな『メモリア』が、私の体に浸透していく―――
信じられないけれど、わかる。私の体が、『別のナニカ』に、書き換わっていくのを―――
人間でも、アプリアンでもない、新しい『ナニカ』へと―――
細胞のひとかけら、DNAの一本一本―――『ふたりぶん』がやさしく解きほぐされて、ていねいに編み合わされて、『ひとりぶん』になっていく。
やがて、メモリアの『すべて』が、私の中に吸い込まれると、残ったイーネドライブが反転して、私の『光る穴』にかちりとはめられた。
瞬間、全身を覆っていたピンク色の光が消え、濃いピンク色のインナーに変わった。周りに漂っていたイーネルギーの粒子が体を包み込んで、膝上までのブーツに、肘まで覆うグローブに、全身を覆うスカートワンピースに変わる。
すらりと伸びた髪の毛がまとめられて、整えられた。
―――――――――
そして、『
《INSTALL COMPLETE!!》
『
『
『
たぶん、どちらも、ちがう。
でも、ちがっていて、あってる。
『
『
『―――――――――!』
メモリアが経験した辛い記憶。
りんくが経験した苦い思い出。
ふたりぶんの、りんくとメモリアの想いのシンクロ―――
『
『そう―――『
少しずつ、2人分の想いが、『
わかった―――『
そして、『
『
―――この世界を、守ること―――!!
この世界は、あらゆる『記憶』の積み重ねでできている。ヒトも、モノも、それらすべてが―――
理由なくそれらが壊されることを、誰も望みはしない。
『今』を生きる生命が失われることは、この世界は望んでいない。
『心』のままに―――私は、世界を守るために戦う!
私は―――この世界に、今生まれ変わった、私自身を解した。
この日―――私は、もう一度この世界に生を受けた。
この世界に―――現実の世界にはじめてあらわれた、『プリキュア』として―――
……SAVE POINT
ついに、この日が来ました。
キュアメモリアル―――彼女こそ、この小説の『真の主人公プリキュア』です。
この、『プリキュアがアニメでしかない』世界に、本当にプリキュアが現れ、物語は加速していきます―――
ここから本当の、『メタフィクションプリキュア』が始まります……!
それでは、また……!!