今日、プリキュア放送してるよね?
ジオウもリュウソウジャーも中止じゃないのに、どうして『こんニチ』が投稿されてるの?
……そんなアナタは知らないだけなのです。
今朝、全国でただ1局、ニチアサを放送していないテレビ朝日系列局があることを……
そしてその局はあろうことに、プリキュアの制作局だということを……
そのために、笑顔を奪われた子供たちがいることを……
じゃぁ、その『理由』が無かったら?
……『無くなって』しまったら?
そうすれば、子供たちの笑顔は取り戻せるのか?
これは、ひとりの少年が、『憧れ』と『大人の事情』に葛藤しながら、信念を貫く『聖地』をめぐる戦いを繰り広げた、ひと夏の物語である―――――
……なんてシリアスに書いておりますが、『こんニチ』なのであんまり肩肘張らずにお読みください♪
その日―――――
令和元年8月11日、朝―――――
高校球児たちの『聖地』、『阪神甲子園球場』は―――――
兵庫県西宮市甲子園町1番82号から―――――
忽然と、その姿を消していた―――――
困惑と悲嘆、驚愕と無力感に苛む多くの人々が『そこ』に集う中、季節外れの吹雪が舞う。
それは、無数の長方形の紙切れだった。人々はそれを拾い上げた。
紙切れには、洒落た書体でこう書かれていたのだった―――――
――――――――――
僕―――――八手ほくとは、扇風機の風に吹かれながら、リュウソウジャーの放送を見終わった。
見終わると同時に、据え付けのビデオデッキから音がした。録画も終わったらしい。
これには理由があって、のんに頼まれたからだ。
プリキュア大好きで、特撮には興味の無いのんがどうして?と疑問に思って訊ねると、こども園のみんなでケボーンダンス*1を踊って、応募するらしい。
こども園だけで練習するのに飽き足らず、家でも練習したいからと、僕にビデオの録画をせがんできたわけだ。
デッキからテープを取り出して、ラベルを貼って、マジックで『ケボーンダンス』と書いておいた。これならのんでもわかるだろう。
さて、『朝の日課』も終わったことだし、お昼ごはんまで夏休みの宿題を少しでもこなそうかと、居間を出て自分の部屋に戻ろうと階段を上りかけた―――――
《電話だぜ》
振動とともに、ポケットの中からデータの声が響く。反射的に、コミューンに手を伸ばすと。
《……ん?ちょっと待て》
「どうしたの?」
《非通知だ。胡散臭ぇ電話かも知れねぇから気をつけろよ》
「わかった。ありがとう」
こういう時、データのアドバイスはありがたい。最近、この手の電話を使った犯罪が増えてるらしいから、気を付けないと……
自室に戻った僕は意を決して、画面の緑色の受話器のアイコン―――――『通話』ボタンを押した。
「……もしもし?」
"電話に出る時、最初に自分の名字や名前を言わない"―――――家の電話の受話器にそう書いたメモが貼ってあったのを思い出しながら、電話の向こうにいる人物の出方を窺った。
《やぁ。予告状通り、『聖地』はいただいたよ。八手ほくと君。……いや、"キュアデーティア"と呼んだ方がいいかな?》
「……!?」
成年男性の声で、いきなり僕の"核心"に触れられた。心臓がひときわ大きな鼓動を打つのが感じ取れ、間髪入れずに僕はコミューンに返した。
「聖地って……!?それに、どうして僕のことを……!」
《よく思い出してみたまえ、2ヶ月前……令和元年6月16日の日曜日……あの日は雨だった……キミの部屋の窓際に予告状を投げ込むのには苦労したんだよ》
「予告状……それって……!」
思い出した……!
胸騒ぎをして、捨てずにとっておいた"それ"を、僕は慌てて机の引き出しから取り出した。
《そう、それさ。……テレビを見てみたまえ。こんな時でも、予定通り8時30分から『ニチアサキッズタイム』を放送したテ〇ビ朝日には素直に敬意を表したいがね》
《平常運転のテ〇東はともかく、他の局は朝から大騒ぎだぜ……!居間に戻ってテレビ点けてみな!》
データに促されて、僕は居間に戻ると、父さんが神妙な顔でテレビ画面を見ていた。
N〇Kのニュース番組だった。でもこの時間、高校野球を生中継しているはずだけど……
《……お伝えしておりますとおり、今朝6時ごろ、兵庫県西宮市の甲子園球場が消失しているのを、管理会社の阪〇園芸の従業員が気付き、警察に通報しました。人的被害は確認されていないとのことですが、阪〇園芸の従業員によりますと―――――》
「…………(;゚Д゚)」
瞬間、僕は唖然とした。自然と口が半開きになっていた。
ニュースは淡々と、甲子園球場が一夜にして消え失せ、まるで最初からそこには何も存在していなかったかのような、広大な更地になっていたことを伝えている。
「むぅ…………困ったことになったなぁ」
ニュースを見ながら、父さんが唸る。
「どうしたの……?」
「いやな?今日、俺の母校が試合する予定でな……昔のクラスメートとかもあっちに応援に行ってるんだが―――――」
「お父さん~?浦部さんから電話~!」
「おう、すぐ出る!……浦部……確か息子が野球部だったか……」
母さんが父さんを電話口に呼ぶ声がして、座布団に座っていた父さんは立ち上がり、居間を後にする。
《まぁ、そういうことさ》
電話の向こうが得意気に言った。
「"これ"を……あなたが!?」
《そう言っているじゃないか。少しは人の言うことを聞きたまえ》
《で?こんなたいそれたことをして、ほくとに何させよーってんだ?つーかてめー誰だ?》
《そうした諸々のことは、こうして電話越しに話す事ではないからね。……どうかな?僕達と会ってくれないかい?》
《行くなよ?絶対行くなよ!?》
―――――データ、それって某3人組お笑いトリオの前フリだよ……フツーそれは、『行け』って言ってるのと同じで……
……ごほん。
もっとも本気で取り合うつもりは僕も無い。それにどうせ、場所は甲子園だろう。今から兵庫県の西宮まで行くにしても、一体どれだけ時間とお金がかかるのやら。
変身して飛んで行っても3時間前後かかるだろうし、ネット経由で行こうにも場所がわからないから―――――
と、コミューンの画面に地図と場所が表示された。
《この場所に来てくれたまえ》
「行きます」(即答)
《おォい!?》
即断即決―――――
この場所なら……
――――――――――
……ってなわけで、ここから先はアタシ、キュアデータが地の文だ。
ほくとは2階の自分の部屋に駆け上がるといきなり変身して、ウイング最大速度で夏空をカッ飛ばし、1時間もかからずにこの場所にたどり着いた。
ま、郊外とはいえ関東近郊だ。ここなら甲子園よりも近場だからな……
変身を解いたほくとは、改めて周囲を見渡した。
《圧倒される………………》
そこには、『何もなかった』。
強いて言えば、切り立った岩場に囲まれた、十数人が乱闘出来そうな、砂利の地面の広場だった。
マップが示している場所は、『栃木県栃木市岩舟町畳岡』。そう、ここは―――――
《『岩船山採石場跡地』……こんな形で来ることになるとは思わなかったけど……来て……よかったぁ……!(T T)》
特撮ファンだったら見たことがあるよな?『いつもの採石場』。それがココだ。
車で行くなら、東北自動車道の佐野・藤岡ICから車で15分、電車ならJR両毛線岩舟駅から徒歩10分のトコだ。
ロケをしてない時だったらいつでも誰でも入れるから、気軽に『聖地巡礼』したいヤツはハイキングがてら登ってみるといいぜ!
……にしても、ほくとのヤツ…………あぁ~あ、久々にボロ泣きしてやがる……稚拙が泣き虫設定忘れてたのはナイショな。
そりゃまぁ、『聖地』だもんな……こんな機会でもなきゃ行くヒマ無かったもんな。宿題もしなきゃならんし、拳法修行もこなして、部活も……それに加えてプリキュアやってんだから、夏休みに入っても忙しいんだよな、ほくと……
《写真!写真撮ろうよデータ!アプリ、起動してよ!ねぇ!》
「(-_-;)あのなほくと……泣きたくなるくらいうれしいのは分かるがな、一体何のためにここに来た?」
《その"見習い"クンの言う通りだ。観光なら後にしてくれたまえ》
さっきの電話口と同じ声が響いた。ほくとが振り返った先には、ひとりのニンゲンの男が立っていた。
《……!!あ……!!!》
その男を見た瞬間、ほくとは目を見開き、歓喜に震え、そして―――――
……ワンパターンなんだが、やっぱり、泣いた。
《あなたは……!仮面ライダーディエンド……海東大樹さん!?》
軽薄そうな薄ら笑いを浮かべたナンパな男。何か見たことある上に、ほくとのこの反応……マジかよ。
そーいや、こないだ仮面ライダージオウに出てたな。髪を染めててチャラ度が増してたけど。
……にしても、心底嬉しそうな泣き顔だこって。まさに憧れの人を生で見れた、絵に描いたような感激リアクションだ。
《流石は、将来スーツアクターを目指している八手ほくとクンだ。僕のことも熟知してくれているようで光栄だね》
《その声……電話で話していたのも……?》
《ああ、僕さ。君にはどうしても僕に……いや、》
海東大樹は、ドラマの中同様のイジワルな笑みを浮かべながら、ほくとに視線を促した。
《"僕達"と会ってほしかったからね》
振り向いた先に、しゅた!と降り立つ、暗い青色のタキシードを着た怪しさ満載の男。
ソイツにも見覚えがあった。
《待ち
でもって―――――
やっぱりほくとは歓喜に涙した。
《透真さん……ルパンブルーの宵町透真さんですよね?!》
そして、その反対側には―――――
《心配してソンしたわ》
ネコ耳を生やした青髪の、ほくとと同じ年頃の女が立った。
で、その女を見たほくとは―――――
《………………………………………………》
一瞬で泣き止んだ。
《……………………誰?(・ ・;)》
《がくっ……予想はしてたけど、いざ面と向かって言われるとちょっとヘコむにゃん……↷》
落胆して肩を落とす女だったが、すぐさま立ち直って、得意げな顔で自己紹介を始めた。
《ワタシはユニ。『スター☆トゥインクルプリキュア』のキュアコスモよ。プリキュアに詳しいお友達から聞いてなかったのかしら?》
……ちょっと待ったコールだ。
……どーして『プリキュア本人』が、こうして目の前に立ってる?
アタシたちはそもそも、キュアチップにされちまったプリキュア達をジャークウェブから取り戻すために戦ってるハズだ。
キュアチップにされてるハズのプリキュアがどーしてここにいるんだ?
――――――――――って、画面の前のお前たちなら察してくれてるよな。
ほくとも同じ疑問を持ったようで、アタシの代わりに問い質してくれた。
《どうして……プリキュアはみんなキュアチップにされてるハズじゃ……!?》
《う~ん……まぁその辺りは『本筋』じゃないってコトで……画面の前のお友達も、カンベンしてちょうだいにゃん♪》(カメラ目線)
《本筋……??……それに誰と話してるの?(- -;)》
……つまり、この話が『本筋』じゃなく、『こんニチ』だから登場できたってコトか。メタに片足……いや、どっぷり両足どころか全身ツッコんでるな。
まぁ、今回コイツが出てきたのは、そういうネタを垂れ流すコーナーだからこそ許される『ノリ』ってこった。笑って許してくれぃ。
さて……仮面ライダー、スーパー戦隊―――――そして、プリキュア。
―――――この状況を形容するに相応しい言葉がある。
「……『ニチアサキッズタイム』勢揃いかよ……」
日曜朝の子供たちの楽しみ、そこから1人ずつメンツが集まりやがった。
だが、どうしてこの3人が―――――って、これも今更説明なんざ必要ねぇか。
《あなたたちは……いったい……!?》
唖然として問いかけるほくとに、海東はフッと笑い、
ほくとが身構えるとともに、いつの間にか海東の両隣に立った透真とユニが、それぞれの変身ツールを手に取り、そして―――――
閃光が迸り、何かの衝撃波がアタシとほくとにぶつかってきて、ほくとが怯むのが見えた。
しかもユニとかいう女の歌声まで聞こえてくるもんだから、一体何が起きてるのやら……
そうこうしている内に、3人の『蒼い戦士』が、アタシとほくとの眼前にその偉容を現したのだった。
三者三様の名乗りを披露した後、ディエンドを中心に集結した3人は、改めて決めポーズを取り、高らかに宣言する―――――
瞬間、こいつらの背後で青い煙を放つ爆発が巻き起こった。戦隊シリーズでお馴染みの『色爆』だな。昔だと『科学戦隊ダイナマン』とかで使われた、セメント爆発*2に色粉を混ぜたヤツだ。怪盗のくせにハデ好きな野郎どもだ……
《蒼の……怪盗団……!?》
それにしても面白い芸名だな。
『怪盗ライダー』のディエンド、『快盗戦隊ルパンレンジャー』のルパンブルー、そして『怪盗ブルーキャット』を名乗っていたキュアコスモ―――――確かに3人全員、『ニチアサキッズタイムに出てくる"蒼い怪盗"』という共通点がある。
だがこの3人、共通点はあれども『一匹狼』気質のクセ者だ。―――――ユニはこの後の展開次第でどうなるか知らんが。
そんな連中が、こうして徒党を組んでアタシ達の前に立つ理由―――――
そしてそれが、『甲子園消失』と無関係じゃないのは確かなこと―――――
「さぁ聞かせてもらおうじゃねぇか。アンタ達が、どうしてあんなコトをしたのかをよ。……オラ、ほくとも何か言ってやれ!」
景気づけに、ほくとを促した。一歩、ほくとは神妙な表情で前に出た。
まったくわからんだらけの状況だが……とりあえず、窃盗は犯罪な。今回甲子園が盗まれたおかげで、一体どれだけのニンゲンが迷惑被ったと思ってやがる。
このドロボーどもに、仮面ライダーディケイドよろしく説教かましてやるのも悪くねぇ。
ほくとなら、正義の味方ってヤツがどうあるべきか、堂々と言うことができるはずだ―――――
そう思って、アタシはほくとの顔を見上げた―――――
《………………………………、》
……………………………………(ノ∀`)
……そうだった。
コイツ―――――
特ヲタだった。
次回予告
高校球児たちの聖地といえる甲子園を盗んだ『蒼の怪盗団』の目的とは……!?
そして、憧れのディエンドとルパンブルーを相手に、ただの特ヲタと化してしまったほくとは戦えるのか?!
あと、仮にもメインテーマであるプリキュアの一員であるにもかかわらずアウトオブ眼中なキュアコスモに見せ場はあるのか!?『フシャーーーッ!!(# ゚Д゚)』
次回『こんしゅうのニチアサはおやすみです。』、『キュアデーティア 対 蒼の怪盗団 後篇』!!
―――――正義の味方は大人の事情に勝てるの?
――――――――――
というわけで、ちょっと短いですがこんなの書いてみました。
マジでほくとくんの泣き虫設定を忘れちゃっておりまして、この際なので感激の涙を存分に流していただきました。
さて『こんニチ』としてはまたしても『つづく』となりました。次回は来週か再来週にでも……
P.S. 高岩さん、お疲れさまでした!