ネガキュアバグスター(ステージ3:ネガキュアバグッチャー)
ふたりのネガキュアバグスターに、何者かによってキュアチップが埋め込まれ、さらに大量のワルイネルギーを投与されたことで、バグスターとバグッチャーの複合体といえる存在へと突然変異した存在。CRの面々は『合併症』という通称を付した。
無理やり埋め込まれたキュアチップとワルイネルギーからの膨大なデータにバグスターの人格データが圧迫されている為か、理性は殆ど崩壊状態となっており、目についたモノすべてに襲い掛かる野獣のような存在となっている。
通常形態(バグスターモード)での戦闘能力は大幅に向上、さらに歴代プリキュアシリーズに登場した戦闘員を模した雑兵バグスターを生み出せるようになった。
また、キュアチップの力に由来した変異形態(バグッチャーモード)へと即座に変化し、バグッチャーとしての力を行使することが可能。この際『ブラック』は『キュアスカーレット』を模した炎を自在に操り、自身を火の鳥へと変える能力を、『ホワイト』は『キュアマジカル』を模した魔法能力や、自身を無数のコウモリへと変えて撹乱する能力を、それぞれ行使する。
永夢のゲーム攻略により判明したこの2体を完全攻略する方法は、『2体同時に撃破する』こと。しかし、通常形態時はプリキュアの攻撃を、変異形態時はライダーの攻撃をそれぞれ無効化してしまう厄介な特性を持つため、この2体を攻略するには、『プリキュアとライダーの力を兼ね備えた攻撃を2体同時に叩き込む』という、現状極めて困難な手段が必要となってしまっている。
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……コロナを必要以上に恐れる父によって映画館に行くのを止められ、劇場版ゼロワン&セイバーが配信待ちになった稚拙です……。
それでもパンフレットは通販で入手、配信開始まで開封しないつもりでおります……
さて、トロプリがついに始まりました!
第1話を見終わって抱いた印象は『明るく楽しいプリキュア』といった感じですな。……某プロレス団体のキャッチコピーっぽい……
今回、一ヶ月以上お待たせしたのは間違いなくバトルがあるから……
そして注釈欄に凝ってしまったからです、ハイ……
さて、今回は投稿後に寝ます……稚拙は基本、この時間以降は起きていられません……
送信……おやすみなさ~い……
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ゆうべ、一刻も早くCRに行きたいと思いながら床についたからか、朝5時に目が覚めてしまった。
向かいにあるむぎの家―――――『稲上ベーカリー』から、パンを焼く香ばしい匂いが流れてきている。
今日は土曜日、学校も休みだ。むぎもきっと、早起きして手伝いをしてるんだろうな。
せっかく早起きしたんだし、早朝ランニングするのも悪くない―――――そう思って布団から起きあがる―――――
《ほくとくんっ!!》
「ぅわぁっ!?」
いきなり背中から叫ばれた。心臓が強く打ってびっくりする。僕はその声の元だろう枕元のネットコミューンを反射的に見ていた。そこには―――――
「ど、どうしたの……ピース……?いつの間に……??」
コミューンの画面の上に、真剣な眼差しで僕を見上げる、立体映像のキュアピースが立っていた。ゆうべはCRのキュアットタブに泊まってたはずだけど、いつの間に戻ってきてたんだろうか。その疑問を口にする前に、ピースは―――――
《ワタシ、ようやくわかったの!ワタシがホントに好きなコト、『カッコいい』ってなにかが!それに、それにねっ!?》
「ちょ、ちょっと待ってピース……まだこんな時間……!師匠達が起きちゃうよ……!」
《あ……ご、ゴメンね……》
あわてて口元を両手で覆うピース。そのまま申し訳なさそうに、潤んだ上目遣いで僕を見てくる。
この仕草……確かに"守ってあげたいオーラ"が出てるなぁ……ピースの人気がトップクラスという話、わかる気がする。
……でも、その金色の瞳からは、昨日までのどこか迷いを含んでいた色が、確かに消えていた。
《実はね、ほくとくん……》
ピースは、それまでデータにしか話していなかったことを、僕にも語ってくれた。
他のプリキュアたちが、サーバー王国に来てから16年の間に編み出した『究極の技』を、ピースだけはどうしても編み出せなかったこと。
そして、昨日ネガキュアバグスターと戦った時にも、ピースの中に『焦り』があったから、上手くチカラを貸せなかったかもしれないこと。
でも、ピースはこれまでの人生や戦いを振り返って、見つめ直して、ピースの中の『理想の自分』を、ようやく見いだせて、心の中で『カタチ』にできたことを―――――
《今まで……ごめんなさい!……ワタシ、ちょっとどうかしてたみたい……!ワタシにとっての夢とか、『カッコいいこと』とか、全部ワタシ、知ってたの……知ってたのに、心の奥に閉じこめて、見えないようにフタしてて……でも、もう―――――》
その、澄んだ金色の瞳が、真っ直ぐ僕を射抜いた。
《大丈夫》
「ピース……」
《……さては、永夢センセーにハッパかけられでもしたか?》
突然、ピースの隣に立体映像のデータが立った。
《!データ……》
《抱え込んでんじゃねぇかって、ミラクルが心配してたぜ?……でもその様子じゃ、いいアドバイスをもらえたみてぇじゃねぇか》
《うふふ♪ちょっと、ネ♪》
「ね、ねえ!永夢先生と話したの!?どんな話したの!?」
《ソレはナイショで~す♪》
ピースの告白を聞いて、僕は彼女のみならず、レジェンドプリキュアたち全員に詫びねばならないと思った。
忘れかけていたんだ。
『レジェンドプリキュアたちも、人間なんだ』ということを。
僕の中で、『伝説の戦士』という彼女たちを表現する称号が、独り歩きをしてしまっていた。雲の上の、それこそ物語の主役として映像化されるほどの手の届かぬ存在に、僕の心が勝手に昇華してしまっていた。
でも、違っていたんだ。世界を守るために戦い抜いた彼女達だって、未だに『完成』されていない。否、おそらくこの先も、『完成』される時は未来永劫やってこない。だからこそ、迷って、足掻いて、悩んでいたんだ。
ピースは今、確かにひとつの『壁』を破壊して、高みへと昇った―――――僕たちの次元を、またひとつ引き離して。
そしてそれは、僕とデータ、東堂さんとメモリアが超えるべきひとつの『壁』が、より強靭になったことを意味する。僕たちが強くなるのを、彼女たちも座して待ってるワケじゃない。
『プリキュア』は、無限に強くなっていく―――――
僕たちが彼女たちを捉えるのが先か、彼女たちが僕たちの届かぬ境地へと達するのが先か―――――
不謹慎かもしれないけど、こう思ってしまった。
―――――面白くなってきたな。
そして同時にこうも思った。
―――――う、うらやましい……ッッッ。(涙目)
僕が永夢先生と話せたのは、バグスター関連の話題だけだったのに……プライベートのこととか、色々話したんだろーか……僕も永夢先生と話したりゲームしたりしたい……ッ!!
だ……ダメだ。今はバグスターを倒して、東堂さんとキュアマジカル、キュアスカーレットを助け出す、それに全力を尽くさないと。
大丈夫、時間はある。何しろこの日本、それも車で行けるくらいの距離に、聖都大学附属病院が実在していることがわかったんだ。僕は本物の仮面ライダーにいつでも会いに行ける機会を得られたんだ。この件が終わったら、永夢先生たちの仕事の邪魔にならない程度に、CRを訪ねればいい―――――
―――――この時の僕は、架空の存在だと思っていた偉大な先達が、本当に実在していたことに興奮していて、何もわかっていなかった。
『プリキュア』と『仮面ライダー』が、"同じ世界に同時に存在している"ことが、如何に『
そして、そんな『奇跡の日々』を長々と続けさせてくれるほど―――――
『世界』は、都合良くできてはいなかったということを―――――
――――――――――
「……検査結果が出たぜ」
その日CRに着いてすぐ、僕は貴利矢先生に呼ばれた。
「ニラんだ通り……ほくと、お前の血液にも"例の細胞"が存在していた。……オトコらしからぬカワイイ細胞がな♪」
「カワッ…………!!?////」
昨日、僕は念のためと思って、貴利矢先生に僕の血液検査をお願いしていた。貴利矢先生も渡りに船だったらしく、即座に了承してくれた。
そして結果は―――――予想通りだった。
顕微鏡で拡大された僕の血液サンプル写真には、それはもう見事なハート型の細胞が写し出されていたのである。
「りんくお嬢ちゃんに続いてお前からも"コイツ"が検出されたことで確信した……コイツはプリキュアだけが持つ免疫細胞だ。プリキュアが持ってる『イーネルギー』……だっけか?それに長時間曝された白血球が変異したんだろうよ。名付けて『イーネ細胞』といったところか」
「はぁ……」
「ンでさっそく、この細胞が持つ抗体を電子化したデータと、昨日リサーチしたプリキュアのデータを元にして、あちらの"カミサマ"が何やらこさえてるみたいなんだが―――――」
貴利矢先生はCRの一角、ゲームルームに視線を向けた。そのゲームマシンの画面の中には、ラベルが貼られておらず、塗装もされていない真っ白なガシャットを前に、難しい顔で唸る黎斗神さんがいた。
「―――――……逆転の切り札、未だ完成せず、ってところだ」
「……」
あからさまに不安が顔に出てしまったのか、貴利矢先生は笑って言う。
「そんな顔すんなって!そのトシであんまりネガティブに考えんなよ?いざ人を"ノせる"って時、そんなんじゃ誰もノってこねえぜ?」
「……はい」
「出来るコトからすりゃいいんだよ。諦めず、ブレーキ踏まずに足掻いてりゃ、必ず道は見えてくるモンさ。あとはその道をアクセル全開で突っ切りゃいい。気負えとは言わねえけど、期待はさせてもらうぜ、『伝説の戦士』さんよ♪」
貴利矢先生は僕の肩を手のひらでポンポンと叩いて椅子から立ち、CRの奥へと戻っていった。
「……出来るコトから、か……」
《金言だな。ヒーローの基本だぜ》
「……そうだね」
データがポケットの中から言う。
僕に出来るコトは限られている。それは僕だけじゃなくて、ここでバグスターと戦っているCRのドクターたちも同じなんだ。
そして―――――今、僕に出来るコトは―――――
――――――――――
「……気分は、どう……?」
こう僕が訊ねると、ベッドの上の東堂さんは、笑って応える。
「うん、ちょっとダルい感じはするけど……まぁまぁ元気、かな?」
《いっぱい寝たからかいちょーかいちょー!》
《ったく、入院患者らしからねぇな……》
コミューンの上で健在をアピールするメモリアに、呆れ顔でデータが笑う。
―――――そう、永夢先生たちが東堂さんのゲーム病を治すために必死で戦っている中、バグスターと直接戦うこと以外で僕が出来るコトは、ただひとつ。
東堂さんの傍にいること、それだけだ。
少しでも、彼女が負っているストレスを和らげることしか、CRにいる僕が出来るコトはないから。
東堂さんが入院したのが昨日だというのに、ベッドのそばの机にリンゴが置いてあるのが目に留まった。誰が持ってきたんだろうか。気が早いなぁ……
「リンゴ食べる?」
「うん!……皮むき、できるの?」
「任せてよ」
子供の頃から、自然とリンゴの皮がむけるようになっていた。最近はどれだけ切らずにつなげられるか、にも密かに挑戦中だけど、なかなか上手く行かないもんだ。
「ほくとくんって、割と女子力高めだよね」
「!?じょっ!?」
急にそう言われて、手がすべりかけた。危うく果物ナイフを取り落とすところだった……危機一髪だ。
「だってほら、こないだの合同調理実習の時に見てたけど、お料理手慣れてる感じだったし……今も皮むき上手だし……私なんか包丁持っただけで
「家の環境でたまたま、だよ……家族で家事を持ち回ってれば、ね」
「いいなぁ……私もプリアラ見てからお菓子づくりやってみたけど、あんまり上手く行かなくって……」
「……」
皮をむく手が、ふと止まる。
「ほくとくん?」
―――――ほくとが作ったお菓子……甘く、ないね……
「どうしたの?ほくとくん??」
「…………え?……あ……ううん、なんでもないよ……ごめん、手が止まって」
―――――……今のは……そうか。
何年か前、小学生の時の―――――
ある程度料理が出来る僕が、『お菓子』だけは作れなくなってしまったきっかけになった、あの―――――
その時、僕の心を
《ほくと!》
その胸のイーネドライブが、赤々と光っていた。
――――――――――
僕は永夢先生、飛彩先生、貴利矢先生と一緒に、聖都大学附属病院の駐車場へと出た。
件のふたりが、そこにいた。
『モヤス……スベテヲモヤシツクス……』
『マホウ……モット……マホウ……!』
紅蓮の炎と漆黒の影。さながら、自然現象そのものが女の子のカタチになって、敵意を向けてきているかのようだ。
怪訝そうな表情で、貴利矢先生はふたりのバグッチャーを睨む。
「なるほどな……確かにバグスター反応が無いな。つまり今は"バグッチャー"の状態、ってコトか」
「変身していなくてもわかるんですか?」
「自分、バグスターだからさ。"同類"かそうでないかは雰囲気でわかるんだよな」
「元社長が突貫で『ゲームスコープ』*1とゲーマドライバーにインストールした『バグッチャー探知システム』も、問題なく作動しているようだ」
飛彩先生がゲームスコープに目を落としながら言う。
昨日の戦いでは、ブレイブとスナイプがバグッチャーを探知できず、対応に苦慮する様を僕は間近で見た。黎斗神さんはその問題に早速対応したらしい。あのカミサマは『出来るコト』をするのがホントに早いんだよなぁ……。
「子供番組のキャラからだいぶかけ離れたな。こんな姿のプリキュアを見せられた日には、テレビの前のお茶の間のガキ共はギャンギャン咽び泣くだろうな」
大我先生も姿を現し、永夢先生を見やって訊く。
「……ゲンムが作ってる"切り札"は?」
「まだ、完成していません……今のぼくたちが、あのバグスターを攻略できる手立ては、現状――――――――――ありません」
「ニコから聞いたぜ。こういうゲーム、『無理ゲー』とかいうらしいな」
「確かにそうです。……でも、無理ゲーでも、やるんです。たとえクリアできなくとも、ぼくたちが戦った時間の分、必ず"次"へとつながるんですから……!」
永夢先生は、隣に立つ僕を見る。
「ほくと君……ここはぼくたちが戦って時間を稼ぐ。だからきみは―――――」
「いえ、大丈夫です。僕もみなさんと戦います。……出来るコトからするって、決めましたから。……ですよね、貴利矢先生」
「!……よく言った。お前、ノってるじゃねぇか♪」
「ノせられましたからね♪」
見習いとて、僕も頭数に入っている。
それに、今の"ヤツ"の姿は"バグッチャー"だ。まともに通用する攻撃を放てるのは僕しか―――――プリキュアしかいない。
「……わかった。お互い、無理をしないように戦おう」
「はい!」
永夢先生たちがゲーマドライバーを装着して、ガシャットを取り出すのを見て、僕もコミューンをこの手に取った。
―――――……いよいよだ。
ガシャットの起動キーが押され、周囲にゲームエリアが波紋のように広がるのが見える。
《本物の仮面ライダーと同時変身たぁ、ファン冥利に尽きるじゃねぇか……!なぁほくと!》
「……ああ……!」
緊張感と高揚感に板挟まれる中、僕は少し力が入った手で、コミューンにキュアチップをセットした。
僕と4人のドクターたちは、まっすぐに2体のバグッチャーを見据えたまま、静かに、そして鋭く変身の
《《
《《
《
《
《
《
《CURE-DATA! INSTALL TO HOKUTO!!》
眩い閃光が周囲へと迸り、構築された『ゲーマ』がブレイブとスナイプへと装着される。そして、エグゼイドの顔を象った一際巨大なゲーマへとエグゼイドが吸い込まれ、即座に人型へと変形し、地響きを立てて着地する。
その隣で、僕もプリキュアの姿へと変わり、ここに5人の戦士が並び立つ。
―――――仮面ライダーブレイブ・ファンタジーゲーマーレベル50*2。
―――――仮面ライダースナイプ・シミュレーションゲーマーレベル50*3。
―――――仮面ライダーレーザーターボ・バイクゲーマーレベル0*4。
―――――そして、仮面ライダーエグゼイド・マキシマムゲーマーレベル99*5。
歴戦の戦士たちが、僕を中心に並び立つ―――――
……って、僕がセンター!?
ちょ、ま、待ってって……!?
い、いいのかな……ホンモノの仮面ライダー達を差し置いて、僕が戦隊で言うトコロのレッドのポジションに……っっ……///
『ノーコンティニューでクリア……は、今は出来ない……けど、ゲームオーバーには絶対にならないぜ!』
エグゼイドのいつもの決め台詞も、今回ばかりは少し違う。
現時点では絶対にクリアできない―――――勝利条件のない戦いに、僕たちは挑むんだ―――――
『場所を移すぜ……!』
《STAGE SELECT!》
レーザーターボがスイッチを起動し、周囲の景色が文字通り一変、駐車場から、きわめて見覚えのある岩場になった。
《おお、コレがホンモノのステージセレクトか!生の特撮ワープ*6が体験できるとはなぁ。この感じ岩船山*7か?》
『何の話だ?』
『い、いや、なんでも……』
レーザーターボの問いにしどろもどろする中、2体の"ネガキュアバグッチャー"が咆哮し、無数のザコバグスターを生み出したと思うと、嵐のようなビームの弾幕が視界を埋め尽くす。
刹那、爆音が鼓膜を震わせ、背後から熱気が豪風とともに無遠慮に追い巻き、僕の長髪とマフラーを乱れ靡かせる。
―――――これこそ、魂を屠る光。
―――――命を侵す、戦の熱。
それに急かされ、背を押されるように―――――
『行くぜ、ほくと!!』
『……はいッ!!』
―――――憧れの声とともに、駆け出す。
同時に、またも爆発が巻き起こる。
僕の右側面から、スナイプが砲弾を一斉射し、左側面からブレイブが放つ魔法の光が、灰色の砂利地を色とりどりに染め上げる。
そして眼前には、視界と殺風景を埋め尽くし、奇声を叫びながら殺集する異形の
『『『『『『『『バグゥゥゥァァァァア!!!!』』』』』』』』
いつ終わるかもわからない、勝ち目の見えない戦いに、僕らは今、身を投じた。
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さっき、軽口を叩いて悪かった。
コイツはヤバい。
これまでアタシたちが戦ってきた中で、間違いなく最大級の難戦だ。下手すると―――――否、十中八九、プリキュアたちが敗れ、アタシとメモリアが落ち延びるキッカケになった、ジャークウェブの『第二次サーバー王国侵攻』……それに匹敵するヤバさだ。
何しろ、今のアタシたちにとって、勝つための条件がまったく揃っていない。やれることは時間稼ぎだけだ。ゲームみてぇにザコ狩りまくって経験値が手に入るならまだしも、残念ながらそんな気の利いたシステムはこの現実様には実装されてねぇんだと。非情だ。
それでいて、負ける可能性だけが残されてるとか、冗談だと思いてぇ。隣に『準最強フォーム』のマキシマムゲーマーのデカいガタイが立ってても、まったく安心できねえ。
歴代プリキュアがノしてきたザコキャラを不恰好に真似たザコバグスターが、ゾンビめいて殺意を向けてくる。
ほくととエグゼイドが雄叫びを上げながら殴り、蹴り、投げちぎって叩きつける。スナイプに目を向けると、全身の砲塔から閃光が奔り、次の瞬間、10体くらいのザコバグスターが爆発と同時に木っ端のように舞い上がって吹っ飛ぶ。反対側ではブレイブがマントを翻すとともに無数の魔法陣が浮かび、そこから剣や槍、矛や斧を持った別のザコバグスターの一群が召喚され、"ネガキュアバグッチャー"率いるザコ共と交戦を開始する。別の地点では、レーザーターボが"双刃烈破"ガシャコンスパロー*8を手に、撃っては蹴り、斬っては殴るの大暴れ。
これを、100体以上のザコの大軍相手にやっている。しかもザコは"ネガキュアバグッチャー"から無尽蔵に補充されてくるときた。
岩船山めいた広大な荒れ地が戦場と化す。だがコイツは、レジェンド大戦*9のような見てて心躍る戦いじゃねぇ。
ハッキリ言ってやる。この『インストール@プリキュア!』が『小説』で良かったよ。
―――――こんな地獄絵図を映像化できてたまるか。
《!?なんて数だ!?》
《増殖能力が昨日より格段に向上している……!このままだと数に押し切られるぞ!!》
《目に入るヤツ全部が敵だと思えッ!手も足も止めるな、ノンストップでブチのめせ!!》
《言われるまでも無ェ!!》
《無秩序に増殖する……まるでガン細胞だ……!!》
爆音や喧騒に紛れて、ライダーたちの怒号が通信で飛び交う。
《これは……ヤバいかもしれない……!》
『永夢先生……!?』
アタシたちをフォローするためか、さっきからアタシたちと離れず戦ってくれているエグゼイドの呟きが聞こえた。
《ゲームエリアの"容量"は無限じゃない……!このままバグスターが増殖し続けたら、"容量"がパンクしてゲームエリアが崩壊する!》*10
『それって……!?』
《ここで増殖したバグスターが全部エリアの外に放出されて―――――》
最悪のシナリオが、アタシとほくとの脳裏によぎり、背筋に戦慄が走る。
『!!…………聖都大学附属病院に、こいつらが殺到する……!!!』
アタシたちが
それに加えて、病院にいる何百人というニンゲンの命が危険に晒されるコトになるたぁ……!!
……このハードさ……このシリアスさが、『仮面ライダーの戦い』ってヤツ、なのかよ……!!
《レーザー!?テメェどうした!?押されてるぞ!!》
スナイプの爆音雑じりの声が通信越しに響く。ほくとは余裕が無いから、アタシが"中"からそちらを見やると、ザコの大群の中、勢いに押されて一歩、また一歩と後退するレーザーターボの姿が一瞬だけ確認できた。
《チッ……!プロトガシャットは全部返しちまったからな……!かといってギリギリチャンバラは
『どういうことです……!?』
《レーザーターボは基礎スペックこそ高いが、本分は機動力で攪乱する高速戦闘だ。乱戦には致命的に向いていない》
《飛彩センセーバッサリだねェ……》
確かに、レーザーターボの華奢な体で、こんな大乱闘は酷というものだ。よくスパロー一本で凌いでる。もっとも……ほくとは素手なんだが。
《それなら、コレをレーザーに届ければ……!》
エグゼイドが、群がるザコをブッ飛ばし、合間に一本のガシャットを取り出した。
《……く……!いつの間にこんなに引き離されたんだ……!?レーザーが孤立している……!》
『僕が届けますッ!』
「お、おい!?」
《ほくと!?》
ほくとはエグゼイドの手からガシャットを
左手のキュアットサモナーに、ほくとは青いキュアチップを呼び寄せた。
『キュアチップ、『キュアマーメイド』!キュアッと……―――――!』
『バグゥゥァァ!!!』
目前のザコにチップをはね飛ばされた……!
それだけでなく、足を止めたほくとの手足に、我先にとザコが喰らいついてくる。
『ぐッ!?』
「ほくとッ!!」
『なぁ、めるなぁぁーーーッ!!!』
両手脚からイーネルギーを噴き出し、群がるザコを吹っ飛ばし、目の前のザコの肩と頭を踏み台にして跳び上がり、空中でチップをキャッチした。
『―――――、変ェン、身ッッ!!』
《澄みわたる、海のプリンセス!キュアマーメイド!》
水色の閃光が迸り、身体に水魚の装束を纏って着地する―――――!
アタシの隣に青い『部屋』が形成され、その中にキュアマーメイドの姿が現れる。
「……始まったのね」
「あぁ……好評決戦中だ。すまねぇけど、今は時間稼ぎにしかならねぇ……スカーレットを助けるのは―――――」
「それで充分よ」
「!」
マーメイドは、凛とした笑みをアタシに向けていた。
「それが、最後にスカーレットとマジカルを取り戻すための布石になるのなら……これからほくとが打つ手は無駄ではないと……私も信じるわ」
「……ありがてぇ……ッ」
こんな、時間稼ぎのためだけに力借りるってのに、何もかもわかってくれてるマーメイドには頭が下がる。何としても、必ずスカーレットを助け出す。……必ずだ。
『流れの
ほくとの足元から水柱が立ち、アタシたちは宙に舞った。天高く身体を翻すその様は、
「さて跳んだぜ……ここからどうするよ?」
『そのまま跳び続ける!』
「それって……!?」
『この状況にピッタリの技があるんだ!データ、マーメイド、行くよ!!』
最近流行りの"全集中"、足先に全神経を尖らせて―――――
ほくとは『ザコの頭のてっぺん』に着地し、さらにバック宙で跳ぶ。跳躍の瞬間、水飛沫が飛び散る―――――
ザコの頭のみを足場に、上半身を一切使わず、脚のバネだけを使った後方宙返りだけで、大乱戦の中を跳んでいく奇技―――――
さながら、水面を跳ねる魚だ。なるほどこれなら、ごった返しの3密状態だろうと関係なしに進める。その上常にイレギュラーな軌道で空中を跳ね回るから、狙撃も当たりにくい利点がある。
もっとも―――――
《ぅぉわ!?なんだァッ!?》
この光景を見たニンゲンは確実に腰抜かす。何しろ、『ごった返す人混みの中、その頭だけを足場に、美少女が連続バック宙しながら迫ってくる』ってビジュアルだぜ。案の定、貴利矢センセーはドギモを抜かれたようだ。
『永夢先生からの、お届けモノ―――――ッ!!』
最後の跳躍から、レーザーターボに躍り掛かろうとしていたザコの背中目掛けてライダーキックを放って足蹴飛ばし、レーザーターボの横へと着地して―――――
『……です❤』
と、満面の笑みでガシャットを差し出すもんだから、レーザーターボの複眼部分がふっと消え、真っ暗になるのが見えた。コレ、無表情になってるな。
《お前……本当は男装のなんちゃらじゃねぇよな……?》
『ち、違いますっ!』
さっきも地の文でさりげなく言ったけどさ、『キュアデーティア』って掛け値無しの美少女だ。まぁ、変身した姿なんざ鏡で見る機会なんてほとんど無いだろうから、最初に変身した時以来、ほくとはまともに『キュアデーティア』の顔を見てねぇ。……というか、意識しないようにしてるのかもな。
ともかく、ニコッと笑いかけりゃ、老若男女の9割はコロッと惹かれるくらいには、『キュアデーティア』はカワイイ。
……い、言っとくがな、自画自賛ぢゃねーんだぜ!?ほくとが女体化しちまうのはアタシのせいじゃぁねぇ!アタシも『変身アプリ』を何度も調べてみたけど『異常ナシ』の一点張り……ともかく、クイーンを助けて詳しく訊いてみるっきゃねぇんだ……
『そ、それよりもコレを使ってください!』
慌ててほくとが差し出したガシャットを、レーザーターボは手に取る。少し、複眼が怪訝げに変わる。
《おいおい、コレか……自分と相性悪いだろ、コレ……まぁでも、この状況にゃ打って付けか……永夢センセープロデュースなら、ノるっきゃないっしょ!!》
右手の指をガシャットのグリップに引っ掛け、クルクル回して小粋に構え、そのガシャットの起動スイッチをレーザーターボは押した。
そう、コイツは『ゲキトツロボッツガシャット』。エグゼイドはコイツをレーザーターボに使わせたかったというワケだ。
だが揃いも揃ってKYなザコ敵軍団は、『変身中は手出し無用』っていう暗黙の了解すらどこ吹く風、理性も品性も微塵も感じさせない奇声を上げて殺到する。
―――――まったく……。
『
ほくとはクリスタルプリンセスロッドを手に取り、思い切りジャンプすると、
『貴利矢先生!跳んで!!』
《!》
何をしようとしてたかは完全には伝わらなかったろうけど、『何かやる気だ』ってのは貴利矢センセーも悟ったようで、ガシャットを持ったまま真上に跳躍した。流石はひと跳び52.1メートルのハイスペック、アタシたちのジャンプ高度をアッサリ超えていった。それを見たほくとはニヤリと笑む。やはりほくともはこのジャンプ力を把握してた上で貴利矢センセーに跳んでもらったか。
ロッドにキーを捩じ込み、冷気が空気を巻き込み始める。
一瞬にして巨大な氷塊……否、『氷山』がロッドの先に形成されたと思うと、ほくとはそれを地面に向け、思い切り蹴落とした。当然それは重力に従って降下し、群がっていたザコを圧し潰しつつ、重々しい音を響かせて叩き落ちた。視界の片隅の『撃墜カウント』が『28』増えた。
《やるゥ……》
『まだ、ここからです!』
後は落下するだけ―――――だと思ったか?
ほくとはこれだけじゃ終わらねぇ男だよ。
右の拳を強く握り締め、ただ一点を見据える―――――
叩き落ちた巨大氷山に、自由落下の勢いを乗せた渾身の下段突きが打ち込まれた瞬間、砕かれた氷山が無数の徹甲弾と化し、全方位に放たれる。『陣形裂断』とはよく言ったもので、密集隊形だったザコ集団がそれはもう見事に吹っ飛んだ。視界の片隅の『撃墜カウント』が、一気に『79』増えた。
「………………凄い、わね……」
マーメイドには刺激が強かったか、顔をひきつらせてヒイている。『巨大氷山にジャンピング瓦割りブチかますキュアマーメイド』なんて
ともあれ―――――
『……露払いました……!』
「カッコよく変身してくれよな!!」
《……まったく、ノせ上手なこって!》
ザコがひしめくゲームエリアの中、ポッカリと"ウルトラ広場"*12よろしく『穴』が空いた場所にアタシたちとレーザーターボが降り立つ。同時にアタシたちの全身から蒸気が噴き出し、視界を覆う。
レーザーターボは待ってましたとばかりに―――――
《
《
《
衝撃波とともに白煙が散る。
鋼鉄の左腕が目を引く真紅の拳闘士―――――『仮面ライダーレーザーターボ・ロボットバイクゲーマーレベル0』の爆誕だ。
更なる『原作未登場フォーム』の登場に、ほくとはまたも見とれちまってる。
《さァて……ノせる代わりに、全員まとめてノしちゃうぜ!!》
群がるザコの群れへと突撃したレーザーターボは、左手の"ゲキトツスマッシャー"*13を最初に見定めたザコの土手ッ腹に叩き込み、吹っ飛ばす。それはもう美しい直線を描いてザコ集団に突き刺さり、ボウリングのピンのように四方八方に飛散する。見てて景気のいい光景だ。
殴り散らされるのは御免と、ザコ集団の中のノットレイタイプのヤツがビームを撃ちかける。だがそこは脚力自慢のレーザーターボ、残像が見えるほどのスピードで光の弾幕をかいくぐり、ザコ軍団を殴り潰していく。一瞬動きが止まった―――――ところに死角から光迅が閃く―――――が。
《見えてるぜ》
突き出したゲキトツスマッシャーの掌に、ビームが受け止められてスパークしているのが見え、やがてぐしゃりと握り潰された。
《言ったろ?全員ノす、ってな!》
レーザーターボはザコ軍団を見据えると、キメワザスロットにガシャットを差し込み、右手でゲーマドライバーを触発させる。
《
左腕にエネルギーが火花めいて溢れ出し、思い切り振りかぶった構えから射出された。ブースターに点火したゲキトツスマッシャーが先頭のザコに命中して殴り倒し、Uターンして戻ってくる。
そこでレーザーターボは、ゲキトツスマッシャーをジャンピングソバットで蹴り返し、再びザコを殴らせる。あとは繰り返しだ。まるで足だけでテニスのラリーでもしているかのように、ゲキトツスマッシャーがレーザーターボとザコ軍団の間を凄まじいスピードで往復する。
『凄い……!』
唖然とするほくとを後目に、レーザーターボは高々と跳び、それをゲキトツスマッシャーが追いかける。そして―――――
《うぉぉぉうりゃぁぁぁぁあ!!!!!》
空中で一回転し、ライダーキックの体勢に入りながら急角度で降下してくる。そのライダーキックの足先に、なんとゲキトツスマッシャーが金属音を立てて合体、足先に握り締めた鉄拳が装着された、『ライダーキックの体勢で放つライダーパンチ』という、斜め上過ぎる技がアタシたちの前に顕現したのだった。
ブースターの加速がノせられた爆撃の如き急降下攻撃が、ザコ軍団のド真ん中に『着弾』し、土煙とともに爆発と衝撃波が巻き起こり、四方八方にザコが舞った。
『僕達も!……代わるよ、マーメイド!』
「わかったわ!」
アタシたちも見物してるヒマはない。殺到するザコの攻撃をかわしながら、ほくとは次なるキュアチップをコミューンに叩き込む。
『キュアチップ、『キュアトゥインクル』!』
《きらめく星のプリンセス!キュアトゥインクル♪!》
『キュアっと……変身ッ!!』
今度はトゥインクルスタイルにチェンジだ。思えば、キュアデーティアになって初めてのレジェンドインストールがコレだったな。……さて、初心に返ってどう立ち回るか。
『少し目が回るけど、ちょっとだけガマンして!』
「え?えええ!?」
いきなり呼び出されてこれなら、トゥインクルが困惑するのも無理はない。
ほくとは星の力を練り込んで目の前に回転をかけて放ち、その高速回転する『☆』に、両手を重ねて突っ込み、『☆』の回転に乗って全身を回転体と化し、ザコ共の群れに突撃する―――――!
場所を埋め尽くす『敵』を、もはや『人』とは
ほくとと一緒に蔵ン中の書物でこの技の図解を見た時ゃ、『こんな技、ニンゲンが出来るわきゃねーだろwww』って草生やしてたが……
や り や が っ た 。
回転エネルギーをトゥインクルの技から引き出すたぁ……ほくとのアイデアが眠る脳内在庫は売り切れとは無縁だ。……逆に、ほくとのじーさんやオヤジさん、生身ひとつでコレが出来るのか……??
そんなわけで、アタシたちはゲームエリアにひしめくザコの群れを、ドリルのように掘り進んでるワケだが……
つーか、ほくと―――――
「ドコ向かってんだ!?」
まさかと思ってレーダーを見ると、『敵』を示す無数の赤い光点の中に、一際目立つ巨大な2つの赤点へと、アタシたちは真っ直ぐ向かっていた―――――!
「ボス狙いか……!でもよ!」
『わかってる!"勝つ"方法はない!でも違うだろ?僕達は見習いとて『プリキュア』だ!―――――』
"ザコの壁"を突っ切った先に―――――そいつらは立っていた。
『"想い"を伝える……それが、僕達の戦いだ!!』
「……!」
忘れかけてた。
アタシたちはプリキュアなんだ。
周りがライダーだらけだからって、無理に合わせるこたぁねぇ。
殴る蹴るの肉体言語は『手段』に過ぎねぇ、プリキュアの本質は『心を伝えるコト』なんだって、"お師さん"もそう言ってたっけか。
そして、その伝えるべき『心』は―――――
「トワっち!……リコりん!」
―――――『鍵の姫』の、『真心』で。
「いっしょに帰ろっ……!みなみんとみらいっちも……他のみんなも待ってる……!そんなトコに閉じこもってないでさ!」
《…………プシュゥゥゥゥ………………?》
トゥインクルのその言葉に反応したのか、触れるモノを容赦なく灼かんとする赤黒い炎を全身から舞い上がらせている"スカーレット"が、くい、と、こちらに視線を向けてくる。何か、ガスが抜けるような吐息も添えていたが。
《…………キ、ラ……、ラ…………―――――》
「……!」
通じた、のか。
―――――否、ミラクルの時と同じだ。
『違う』のはもう知ってる。
今までのもそうだったが、バグッチャーは取り込んでるプリキュアのキメ台詞やら名言やら、さらには『声が似てる"別の誰か"』の台詞まで、何の脈絡もナシにベラベラと、そのプリキュアと『同じ声』で口走ってくる。しかしそれには何の意味もない。クルマや機械の
……わかっちゃいる、いるんだが―――――
ニンゲンってのは、そうしたコトに、滅法……ッ。
「トワっち……!!」
涙目のトゥインクルが叫ぶ。
《…………………………メ……、》
凶々しい双眸がアタシたちを捉えた時には―――――
もう、遅かった。
《メカラ、ビーム》
言葉通りに"スカーレット"の両目から赤黒い光線が噴き、無防備なアタシたちの鳩尾あたりに叩き込まれた。ほくとの呻きと苦悶の声が重く響き、同時にアタシとトゥインクルにも衝撃と灼熱が襲いかかった。
『ぐぅぅぁ………………ッッッ!!!』
「がッッッ……………………!!!!!!」
「うぅぅぅっっ…………!!!!」
カラダが骨すら残さず融かされると錯覚するほどの悍ましい『熱』が、アタシとほくととトゥインクルが一緒くたになったキュアデーティアの全身をのた打ち回って荒れ狂う。
「……トワっちと……リコりんに……アタシの声……届かなかった……ゴメン…………ゴメン……みなみん……みらいっち…………―――――」
星色の燐光を残して、アタシの隣からトゥインクルの姿がかき消えた。同時にレジェンドインストールも解除されてしまった。
倒れた先の地面の砂利が、刺々しくて素肌に刺さるようだ……。
《チッ、何やってやがるプリキュア!?》
スナイプの怒号が飛んでくる。それでも援護射撃も飛ばしたか、アタシたちの周囲に群がるザコが爆風に吹っ飛ぶ。
《中学生!ペースを乱すな!》
《ったく、調子にノるのはいいけどよ、周り見ずに先走ってクラッシュしてちゃしゃぁないだろ!》
ブレイブとレーザーターボの有り難い説教が身にしみる。そりゃ、ライダーのセンセー方からすりゃ、勝手に独断専行して勝手にやられたようにしか見えねぇだろうからなぁ……"プリキュアの心ライダー知らず"ってトコか。
さらにアタシたちが視界に入って危険を察知したからか、ふたりのバグッチャーが進撃を開始した。ひしめくザコ共をかき分け、最後方で砲撃しているスナイプ目掛け、一直線に突貫してくる。
《!させるかッ!!》
それを見るや、エグゼイドが一瞬で進路上に仁王立った。マキシマムゲーマーはその巨体に反して俊敏で、100mを0.99秒で駆け抜ける。遮蔽物さえなけりゃ、このゲームエリアならドコでも一瞬だ。アタシたちにはエグゼイドが瞬間移動してきたようにしか見えなかった。
『永夢先生……まさか!?』
突っ込んできた"スカーレット"と"マジカル"の前に立ちはだかったエグゼイドは、その
《リプログラミングだッ!!!》
―――――その手があったか!
『リプログラミング』―――――エグゼイド・マキシマムアクションゲーマーレベル99の真髄とも云える
バグスターの遺伝子を解析して、それを書き換え、能力を弱体化させたり、無力化させたりすることができる権能だ。
ホントーはもっと複雑な事情やら設定やらが山ほどあるんだが、地の文でも注釈でもとても語りきれねぇから端折らせてもらう。一言で言えば―――――まぁ、『チート*14』だな。もっとも、コレはエグゼイドのチートの『その1』にすぎないんだけれども。
ともかく、この手が通用すれば、倒せなくとも弱体化くらいは―――――
《うォッ!?》
だが、エグゼイドの両手がスパークして弾かれた。それを隙と見たふたりのバグッチャーは、掌底を同時にエグゼイドに叩き込んだ。
《くぅッ!》
身長256cmの『最大級のパワフルボディ』が土煙を上げて10メートルほど押し飛ばされ、片膝をつくその様は、アタシを、そしてほくとを慄然とさせるのに十分なインパクトを持つ絵面だった。
『永夢先生ッ!?』
《リプログラミングが……通用しなかった……!》
『……!』
《何だと……!?》
ドラマの中でも、数々のトンデモ能力を発揮して、エグゼイドを勝利に導いてきたリプログラミングが、コイツには通用しなかった―――――
もっとも、アタシにとっちゃある程度は想定内だったが。今のコイツらは『バグッチャー』の形態だ。対バグスターに特化している仮面ライダーの攻撃は通用しない状態で、果たしてどうだ、とは思ったが……やはり、か。
しかも意地悪なことに、コイツらはさっきからずっと『バグッチャー』のままだ。こっちのメイン戦力が仮面ライダーだってことを見越してやがる。『この姿なら倒されない』コトをパーペキに理解してやがるのか。
……完全にナメられてる。畜生がッ。
《モエテ、キエロ……!!》
《ウゥゥゥ……!グゥゥゥゥゥァァァァ!!!》
ふたりのバグッチャーが同時に炎と五色の怪光線を放ち、ザコ軍団がそれに合わせてレーザーを一斉発射した。目が眩むと同時に轟音が耳を塞ぎ、殺人的な爆発熱が全身を灼く―――――
『『『『『うあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』』』』』
レベル99やレベル50のライダーたちが、為す術無く膝を折って倒れ伏す―――――
つまりは、それほどまでの脅威ってことか、『アレ』は―――――
《く……くぅッ……!!》
絞り出すような永夢センセーの声とともに、倒れたエグゼイドが砂利を被る。
《時間稼ぎ……どころじゃないな……!》
《このままだと遠からず……逆にこちらが制圧されてしまうぞ……!》
《でももうリタイアもリトライも出来ねえ……!やれるだけのことをやってコレかよ……ッ!》
歴戦のドクターライダー達までも、その口から勝機を出せなくなっている。
《まだだ……!!》
突っ伏したままのエグゼイドが、開いていた手を拳に握る。
《まだ、オレは諦めない……!!》
『!』
《約束だから……!オレ達が運命を変える……必ずゲーム病を治すって、オレはりんくとほくとに約束したんだ……!!オレは……!絶対に諦めない……!食らいついてでも、オレはこの場を耐え凌ぐ……!!たとえこの戦いが"負けイベント"*15だとしても……!!》
雄々しく立ち上がったエグゼイドは、肩を揺らしながら身構えると、バグッチャーを睨んで―――――
《ゲームオーバーには……簡単には……なってやらないぜ……ッ!!》
『……永夢先生……!』
そうだな―――――
アタシたちのヒーローは、決して諦めないんだ。
でなけりゃ、アタシとほくとが―――――そして彼の戦いを固唾を呑んで見守ってきた子供達が、憧れねぇワケねぇんだよな。
その憧れのヒーローと、肩を並べて戦ってるってんならさ……
『……いつまで寝てんだ、僕ってヤツは……』
おぼつかない脚になんとか力を入れて、ほくとは立ち上がる。
『負けられない……!マジカルを待ってるミラクルのためにも……!スカーレットを待ってるマーメイドとトゥインクルのためにも……!そして……!東堂さんとメモリアに、元気になってもらうためにも―――――』
全身にもう一度、イーネルギーを迸らせ―――――
『笑ってもらうためにも!!』
一歩、ほくとは前に出て、"スカーレット"と"マジカル"を見据える。
まだ、立ち向かう気概ってヤツは、尽きちゃいない―――――
『お前たちが放つ焔も、魔法も……!それは孤高を気取った冷たい城に過ぎない……!痛くない!熱くない!!今こうして、僕達はまだ立っている!!ここが絶望の淵だろうと、希望は灯ったまま消えちゃいない!!……必ず…………キミ達を助け出す―――――』
ふっと、ほくとは険しかった表情を緩めて、優しく呟いた。
『………………待ってて、スカーレット……マジカル…………東堂さん』
その時だった。
ほくととエグゼイドは2人分くらい間を空けて立っていたが、その間を、突然ピンク色のビームが後ろから突っ切っていき、ザコ共の群れを消し炭にしながらふたりのバグッチャーに直進して、命中した。
「な……!?」
アタシもほくとも瞠目していた。それはエグゼイドも同様だったようで、まずはふたりのバグッチャーを見た。まるでなんちゃらの十戒のようにキレイな直線がポッカリと出来上がり、その先でバグッチャーが唸り声を洩らしながらよろめいているのが見えた。さっきのビームが効いているのか。
そして次に見たのは、そのビームの発射源と思しき後方。その先にいたのは―――――
『!!!!』
……この、声は……!!
そして、このイントネィションは……!!
「何故君がプリキュアに変身しているのか……何故傷だらけでバグスターの攻撃を耐え凌いでいるのか……何故ゲームエリアの中で戦っているのくワァ!その答えはただ一つ…………ァハァ…………」
…………まったく。
どうやら遅刻癖持ちなのは、ヒーローだけじゃないらしい。
この邪悪なテンプレが、今のアタシにはマジで神託に思えた。
SAVE POINT……
キャラクター解説
仮面ライダーレーザーターボ ロボットバイクゲーマーレベル0
仮面ライダーレーザーターボが、『ゲキトツロボッツガシャット』を使用して召喚した『ロボットゲーマ』を装着、変身した形態。
エグゼイドのロボットアクションゲーマーレベル3同様、左腕の強化アーム『ゲキトツスマッシャー』を使用した格闘戦を展開する。
また、胸部に装備された『ガードアクチュエーター』によって単純な防御力も向上している。
それまでレベルアップに用いていたギリギリチャンバラガシャットがレーザーターボのレベルアップに対応しておらず、檀正宗から渡されたプロトガシャットはCRに返却したため、結果的にレベルアップができず、多数の敵への対処に苦慮していたレーザーターボにエグゼイドが渡したガシャットによって変身した本形態だが、敢えて装甲を削ぎ落して瞬発力と機動力を重視したレーザーターボと、攻撃を受け止めつつ真っ向から攻め込むゲキトツロボッツガシャットは全く正反対の特性を持っており、ブレイブ・コンバットクエストゲーマー同様にバランスが悪い組み合わせである。
だが今回の戦闘の主目的は『時間稼ぎ』であり、物量で攻めてくる敵に対して、回避でやり過ごすより、ある程度攻撃を喰らうことを前提として、耐え凌ぐ方が得策―――――と、貴利矢は『爆速判断』、この形態が顕現することとなった。
もっとも、元のバイクゲーマーレベル0も瞬間的なパワー出力はエグゼイドのアクションゲーマーレベル2を上回るため、攻撃力自体はエグゼイドのロボットアクションゲーマーレベル3を遥かに凌駕する。
必殺技は、『ゲキトツスマッシャー』を射出、テニスのラリーのように複数回蹴り返して攻撃、最後は飛び上がってのライダーキックにスマッシャーを装着して攻撃する『ゲキトツクリティカルストライク』。
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今回地の文がヤケに尖ってた気がします……劇場版ゼロワンが配信待ちになった腹いせ、でしょうか……。
降臨、満を持して―――――(違)
次回、神の恵みが来ちゃいます。