『廻し蹴り』にカテゴライズされる『鎌刀術』のひとつで、空現流本来の技『甲技』。
跳躍から強烈な廻し蹴りを見舞う、所謂『旋風脚』。
イーネルギー噴射による加速により、通常の旋風脚とは比べ物にならない破壊力を生み出す。
手練れの者が扱えば、一撃で相手の首を刎ね飛ばせるらしいが、さすがにソコまでの境地にほくとは至っていない。
『防御術』にカテゴライズされる『防楯術』のひとつで、空現流本来の技『甲技』。
氣をまとった握り拳で地面を叩いて大地を板状にそそり立たせることで、飛び道具を防いだり、相手の侵攻を阻む障壁とする。
土の地面、つまりは未舗装地で使用することが前提の技であるが、気の練り込み次第では舗装されたアスファルトやコンクリート、金属の地面すら叩き起こせる。
中学生であるほくとは当然この技を知ってはいても使えなかったが、キュアデーティアに変身したことで使えるようになった。
――――――――――
シンカリオンが終わってしまった……
土曜の朝が寂しくなりますね……
どうも遅れまして申し訳ありません、稚拙です。
お待たせしました!
ついに『あの人』がインプリに登場します!!
1万8千字の大増量、送信です!!
もはや言葉は不要……ただこの瞬間を味わうがいい!
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昼休み―――――
給食を食べ終えてから、鷲尾さんから東堂さんに渡すプリントを受け取って、残り時間はさてどうしようかと廊下に出た、その時だった。
《ほくと!大変よ!!》
「ッ!?」
廊下に響き渡るキュアビートの声に、ギョッとして辺りを見回す。驚いたような、あるいは不審な視線が5つか6つ、僕へと突き刺さってくる。
「……………………~~~……////」
顔から火が出そうだった……
僕はポケットの上からネットコミューンをコツンと叩くと、一目散に廊下の突き当りにある男子トイレ、その『個室』へと駆け込んで、コミューンを取り出した。
発信元はキュアットタブだった。
「いきなりなんなのっ……!?」
《ご、ごめんなさい……もしかして授業中だったの?》
「違うけどっ……それよりどうしたの?」
《りんくとメモリアが急に苦しみだして……さっきまで静かに寝てたのに……!》
《夜更かししてたりんくはともかく、メモリアも……っていうか、コミューン自体がビリビリしててヤバイんだって!!》
《メモリアの様子を見るために何回もコミューンに行こうとしたんだけど、弾き返されて入れないの!》
《りんくさんのご両親は共働きで、おふたりとも夜まで帰ってこれません!頼りになるのは、ほくとさんしか……!》
《お願い!早くりんくちゃんのおうちへ―――――!》
プリキュアたちが助けを求める声が矢継ぎ早にコミューンから飛んで、突然通信が途切れてしまった。
「ちょ!?……みんな!?」
《――――――――――――――――――――――――――――――》
無情にも、ディスプレイには『通話終了』の文字が浮かんだ。
《メモリアのコミューンにも発信ができねぇ……タダ事じゃねェぞ、コイツは……!!》
考えるよりも先に、身体が動いた。
《ほくとっ!?》
『個室』を、トイレを飛び出した僕は、自分の教室に戻って荷物をまとめる。
「ほくと!?どしたよ!?」
「ごめんモモ、急用ができたから帰る!先生には言っておいて!」
「おい!?ほくと!?」
モモに短く伝言を頼んで教室から出る間際、鷲尾さんとむぎが連れ立って歩いていた。目が合ったむぎが間髪入れず声を掛けてくる。
「え!?ほくとぉ!?」
「急用ができた!今から帰る!」
「りんくん
「後で寄る!」
……というか、そこが目的地だ。
全速力で学校を駆けだした僕は、東堂さんの家へと走る。
この間、ジェミニさんに呼び出された時の帰りに、東堂さんを家まで送っていったから、家の場所は覚えてる。僕の家に帰るまでの途中だ。
―――――東堂さん……!
ただの風邪で寝込んでいてこじらせただけなら、プリキュア達がわざわざ連絡してくるはずがない。
とすれば、尋常ならざる『ナニカ』が起きた……それも、『彼女たち』絡みの事件と考えるのが自然だ。
今こうしている間にも、東堂さんの家では確実に異変が起きている。そして……進んでいる。
学校から僕の家までは歩いて40分、通学路を外れて近道をして、かつ走っても30分ほどの距離がある。本来は自転車通学してもいい距離だけど、トレーニングも兼ねて自転車通学はしていない。今日ばかりはそれがもどかしくてならない。
途中にある東堂さんの家までは、20分ほど……といったところか。
《どうするほくと!?いっそ変身してくか!?》
ポケットから飛ぶデータの声に、とっさに周囲を見回した。
ちょうど今、大泉駅前商店街の入ったばかりで、買い物をするお年寄りや、店先でお店の店員さんと談笑するおばさんなど、夕方ほどではないけど人通りが多い。
「……いや、ダメだ……!このまま行く!」
こんな往来のド真ん中で変身なんてできるワケが無い。僕は商店街をまっすぐ、貫くように駆け抜けた。
―――――待ってて、東堂さん……!
――――――――――
……さすがに息が上がってきた……
学校から家まで……いや、途中の東堂さんの家まで、こんなに距離があっただろうか……?
足が止まる。肩が弾む。汗が流れる。アスファルトの、黒灰色の地面に汗が落ちて、シミを作るのが見える。
この感じ……たぶん、僕が『プリキュアに慣れてしまった』故の違和感だ。
いくら体を鍛えたとて追いつけない『領域』の身体能力を体感し、それに慣れてしまったんだ。
キュアデーティアに変身すれば、このくらい走ったところで息一つ切らさないだろう。それだけじゃない、今頃とっくに東堂さんの家に着いている。
逆に僕は、無意識にそれを『当然』と思ってしまっていた。まさかこんな弊害があるなんて……!
「…………行かなきゃ……早く……行かなきゃ……!」
無意識に口から出ていた。
今この瞬間にも、東堂さんの身に何かが起きている……立ち止まっている、時間は……!
「あれ?にぃ?」
「……!?」
ふいに、のんの声が飛び込んできて、僕は思わず振り返った。
早く東堂さんの家に向かうことが頭の中を占めて、『どこを走っているのか』が完全に頭から抜けていて、周りの景色も見えなかった。
ここは―――――大泉こども園の正門前だった。
「どーしたの?がっこーは?」
「え、えぇと……」
「ののかちゃん?誰とお話してるの?…………あら、ほくとくん!こんな時間にどうしたの?」
今度は向こうから園長先生までやってきた。どうしよう……?
確かに、この時間なら中学生は普通学校にいる。学生服姿の僕が真昼間に街をうろつくのは考え物だ。
僕自身、何が起きているのかよくわからないのに、どうやって説明したものか……?
それに、ここで立ち止まってる場合じゃ……―――――
「……あら?ちょっとごめんなさい」
ふと、園長先生がスマホを取り出した。その画面をざっと流し見したと思うと、
「……急いでるみたいね。車を出すから、裏に回って」
と、僕をこども園の裏手へと招いた。
「え……??」
……どういうこと?僕は何も言ってないのに……
不審に思いながらも、僕は案内されるがままにこども園の裏の駐車場に止めてあった、園長先生の軽自動車の助手席へと座った。
園長先生は事務の秋谷先生に一言二言何かを伝えると、運転席に乗り込み、エンジンをかけ、車を発進させた。
いつもの通学路が高速で流れていく中で、僕は園長先生に尋ねた。
「あの……どうして……?」
いろいろと訊きたいコトがあって、逆に言葉が出てこない。それを察してくれたのか、園長先生は笑って応えてくれた。
「データちゃんがメールしてくれたのよ♪りんくちゃんが大変だ、ってね」
《こんなこともあろうかと、園長センセとメアド交換しといたんだぜ♪》(ドヤァ)
「そうだったんだ……ありがとう」
このドヤ顔が、今この時にまぶしく見える。お礼を言わなきゃ、バチが当たると思ったほどに。
「それで、りんくちゃんの様子はどうなの?」
「それが……プリキュアたちから連絡があって、それっきりで……」
《こっちからも、りんくのコミューンやタブに連絡が入れられなくなっちまってる。切羽詰まった状況ってのは間違いなさそうなんだけどな》
《みんな……大丈夫かな……》
見ると、心配げにうつむいているピースの姿。ピースだけは僕のコミューンにいたおかげで助かったみたいだけど……
ほどなく、東堂さんの家の前に到着した。車が止まるのを待てずに、僕は助手席から飛び出し、ドアノブを握って捻った。
……!開かない!
右に捻ろうが左に捻ろうが、ガッチリと固められたドアノブが僕の突入を阻んでいる。
……当然か。今日日、平日昼間に鍵をかけずに外出している家なんてない。家に残っているのが病気の人で、安静にしなければいけないならなおさらだ。
「どうしよう……!?合鍵なんて無いし……!」
《今の時代、『鍵』なんて使ってんのはほくとん
言われて見れば……このドア、どこにも鍵穴が無い。
「…………(;゚Д゚)」
……愕然とした。我が家と他の家との生活水準の差に。
家の蔵の鍵にも南京錠を使っている我が家は、やっぱり時代に取り残されているんだろーか……この僕も含めて……
《コミューンをドアに向けてみな》
データに言われるままにコミューンをドアに向けると、コミューンの画面が切り替わって、何かの文字が入力されたと思うと、ドアから『ガチャッ』という小さな音が響いた。
「開いた……!?」
《こ・ん・な・こ・と・も・あ・ろ・う・か・と、りんくからセキュリティコードを貰っといたんだぜ♪》(超ドヤァ)
「せ、せきゅ……??」
《あ~……要は"合鍵"だよ、あ・い・か・ぎ!……ホンットアナログ人間なんだからよォ》
データと出会ってからはや2ヶ月、まだまだこうしたコトバに疎い自分が情けなくなってくる……
つくづく、僕はデータに頼りっぱなしなんだなと自覚する。
でも、こうして"合鍵"をもらえたってコトは、僕は東堂さんの家に出入り自由ってコトになる……のか……!?
そ、それって…………つまり………………………………
―――――ゴンッ!!
「!!ッッ~~~~~~~~……………………」
僕の手からコミューンが飛び出してアゴに直撃した。
……データの仕業だ。
《妄想に浸ってる場合じゃないだろ、さっさと行くぞ!》
……そうだった。こんなところで足を止めてる場合じゃない!
僕は宙に舞ったコミューンをあわててキャッチして、東堂さんの家を見上げた。
東堂さんの家……来るのは二度目だ。
でも、前回来た時は変身していて、2階にある東堂さんの部屋に直接送っていったから、こうして玄関から入るのは初めてだ。
意を決して手前開きのドアを開けて、靴を脱ぐ。目の前に、2階へ向かう階段がある。
ためらうことなく階段を駆け上がる。東堂さんの部屋はどこだ……?
―――――簡単に見つかった。
階段を上ったすぐそばに、『LINK'S ROOM』と書かれた、ピンク色の看板がかかったドアがあったから。
思わずドアノブを握りかけたけど、看板の下にはこう書いてあった。
〈入るときはノックしてね❤特にパパ!〉
……あ、あぶないあぶない……
こうした礼儀はきちんとしておかないと……。
僕は呼吸を落ち着かせてから、ドアを右手で軽く2度叩いた。
…………返事はなかった。
「……ごめん……、入るよ、東堂さん!」
中の東堂さんに聞こえるように少し強めに言ってから、僕はドアを開けた。
「―――――……ッ!」
前に来た時には真っ暗で、しかも窓から入ったからわからなかった、東堂さんの部屋―――――
そこに入った瞬間、眩暈のような錯覚に陥った。
壁や天井にこれでもかと貼りたくられた、プリキュアたちのポスターの数々。
棚に並び立つ数十体のフィギュア。
本棚にはプリキュアのマンガ版だろうか、関連本がぎっしりと詰められ、ラックには数多くのブルーレイディスクの箱が整然と立てられていた。
…………これが……東堂さんの部屋の全容―――――……!
《ほくとっ!》
僕を呼ぶ声に、持っていかれそうになる意志を戻すと、向かって右側の学習机の上に、半透明のプリキュアたちの姿があった。
そして左側には……―――――
「東堂さん!」
「………………ほく……と、くん………………?」
ベッドの中でうっすらと目を開けた東堂さんが、僕を見上げる。ハッとしてその顔を見ると、ものすごい汗をかいている。息も苦しそうで、話すのもやっとじゃないだろうか。
……『ただのカゼ』で、ここまでこじらせるモノなのか……!?
もしかしてインフルエンザとか、肺炎とか、もっと重い病気なんじゃ……!
「あ…………もぉ夕方かぁ………………ごはん、たべなきゃ……ごほっ!ごほっ……!」
「大丈夫!?……まだお昼だよ!……みんな、東堂さんにいったい何―――――」
――――――――――バチッ……。
机の上のキュアットタブに振り返ったその時、何かがスパークするような音が、ひときわ強く耳に入った。
ハッとして、ベッドの東堂さんに視線を戻した僕は―――――
「そんな、バカな…………!!!」
東堂さんの身体の表面―――――そこに、オレンジ色の四角い光が、浮かび上がっては消える。
まるで、電波障害を起こしたテレビの映像のように、東堂さんの姿『そのもの』が、ノイズがかったように乱れては元に戻る―――――
ザ、ザ、ザ……と、不気味な音を立てながら。
「…………ほくと……くん……?」
戦慄が背筋を這い上がる中、僕はキュアットタブに声を絞り出していた。
「何が…………あったの………………」
《つい、30分ほど前までは割と元気だったんだけど……いきなり……!》
「メモリアは!?コミューンなら東堂さんのお父さんかお母さんに連絡できるんじゃ……!」
《それが……》
ロゼッタが視線をうながす先には、東堂さんの右手―――――に握られた、ピンク色のネットコミューンがあった。
《おい、メモリア!こんな時にいったい何やって―――――》
データはそこで絶句してしまった。不審に思って東堂さんのコミューンをのぞき込むと、そこには―――――
《う……うぅぅ……寒いよぉ……あたまいたいよぉ……!けほっ!》
《メ……メモリア!?》
《あ゛…………データぁ…………なんか、さっきからヘンなの……あたまガンガンするし、のどがイガイガするし、すっごく寒いし……どーなっちゃったの、あたし……?》
《…………メモリア……》
顔を真っ青にして、せき込むメモリア。その身体には、東堂さんと同じオレンジ色のノイズが走っていた。
そして時折コミューン自体が異状を知らせるように、オレンジ色の光を走らせる―――――
《メモリアもほとんど同時にビョーキになっちゃって……しかも、メモリアのコミューンにも入れなくなっちゃったの……!》
《りんくのお父様とお母様の連絡先を知らなかったから……ほくと、貴方だけが頼りだったのよ》
《ほくとさん……もしかして、りんくさんとメモリアに何が起こっているのか、知ってるんですか!?》
そう―――――僕はこの"症状"を―――――知っている。
でも、それは"あり得ない"はずだ。この病気が"実在"することは、決して―――――
心の中の嵐を何とか鎮めながら―――――"現実"と"架空"の境界に折り合いのつかない現状の中で、僕はレモネードのすがるような視線に、重々しく頷いた。
「"ゲーム病"だ……―――――」
《"ゲーム病"……!?》
《な……何よソレ!?ゲームのやりすぎ依存症!?この世界のゲーム依存症って"こんな"のになっちゃって死にかけちゃうヤバい病気なワケ!?ってかふたりとも、ゆうべ一晩ぶっ続けでゲームしてただけじゃん!!》
「マリン、違うよ…………正確には……"バグスターウイルス感染症"…………コンピューターウイルスが原因の病気だよ」
《"バグスターウイルス"……?バグッチャーとは別のウイルスってこと?》
《……アプリアンのメモリアが、コンピューターウイルスに感染するのは理解できるのですが……何故、りんくさんにも症状が……?》
《簡単なリクツさ、ビューティ。バグスターウイルスは、"人間にも感染する"コンピューターウイルスだからな》
《感染したヒトのカラダと記憶を通して、現実の世界に実体化するの……でも、ワタシたちじゃどうしようも……》
《ね、ねぇ……どうして、わたしたちが知らない、"この世界のコンピューターウイルス"のことを、データとやよいちゃんが知ってるの……!?》
不安げに訊ねてきたハッピーに、僕は答えた。
それが、たとえ彼女たちにとって、そして僕自身にとって―――――
―――――"非現実的"であろうとも、僕はこう言う他無かった。
「バグスターウイルスは……『仮面ライダーエグゼイド』に出てくるコンピューターウイルスだから」
プリキュア達が、にわかに表情を変えるのが見えた。
「だから……厳密には"この世界のコンピューターウイルス"じゃない……"テレビの中"の、空想の産物…………その、ハズなんだ…………―――――」
自然と僕は、この部屋の隅にある、薄型液晶テレビ、そしてそこに接続されているゲーム機へと視線を向けていた。
そばには、プリキュア達が描かれているゲームソフト―――――『ベストフレンドプリキュア!』とタイトルが書かれていた―――――のパッケージがあった。これが"感染源"……なのだろうか。
もちろんこの世界に、幻夢コーポレーションは存在しないから、ガシャットで稼働するゲームが存在するはずはない。パッケージも、よく普及しているディスク式だった。
つまり東堂さんとメモリアは、ガシャットではないこのゲームから、ゲーム病に感染したことになる、のか……?
《そんなコトって……!?特撮ヒーロー物の病気が現実に出てくるなんて……》
《……この世界のニンゲンたちにとっちゃ、アンタ達プリキュアも『アニメのキャラクター』だぜ?それが『この世界に実際にいる』時点で今さらじゃねーか》
《……!》
データの実に理に適った返しに、疑問を口にしたマーチをはじめ、プリキュア達は皆溜飲を下げたようだった。
そう、これは、ある意味『同じ』だ。
こうやって、『アニメのキャラクター』と思っていたプリキュア達が、僕や東堂さんの身近に現れたことと、同じこと。
今回、架空から現実になったのが、『バグスターウイルス』だった―――――それだけのことだ。
―――――でも。
―――――どうすればいいんだ……!?
当然だけど―――――この世界に仮面ライダーはいない。
否、厳密には"いる"。でも、"いない"。
『テレビの中』や『ヒーローショー』という"虚構"の中にしか、東堂さんを苦しめているウイルスを駆除し、治療することのできる、『彼ら』は存在しないんだ。
当然そんな虚構の存在に、この事態の解決を頼むことはできない。かと言って―――――
僕がプリキュアであろうと、できるのはそのチカラで街や人々を守って、バグッチャーを倒すことのみだ。バグスターウイルスを東堂さんの身体から追い出すなんて、そんなこと―――――できない。
―――――僕は……なんて無力なんだ……!
『知っているけれど、全く未知の現象』に、ただ立ち尽くすしかないなんて。
いくら東堂さんを助けたいと思っても、"それ"を行使できる力が手元にないことが、こんなにもどかしく感じるなんて―――――
『力無き心は無力』―――――拳法を習い始めて最初に聞いた師匠の
「…………大丈夫よ」
背後から掛けられたその一言に、ハッとして振り返る。
東堂さんが感染しているバグスターウイルスをどうにかできるかもしれないという『安堵』と、本当に解決できるのか?という『疑惑』。
背反する思いが渦巻く心中のまま向けた視線のその先には―――――園長先生。
「私の知り合いに、これの治療法を知ってるお医者さんがいるわ」
「え……!?でも……―――――」
「急ぎましょう……!取り返しのつかないことにならないうちに、早く……!」
有無を言わさず、園長先生は僕を促す。
先生といっしょにどうにか東堂さんを車の後部座席に乗せて、僕はもう一度助手席に座った。それを見て、園長先生は車を急発進させた。
―――――なんて手際の良さだ。
園長先生が昔、お医者さんだったのは知っているけど、察しの良さから何から何まで、段取りが良すぎる……というのは考え過ぎだろうか?
未だ混乱収まらぬ車中で、僕は先生に尋ねていた。
「先生……この病気を……"ゲーム病"を知ってるんですか!?でも、この病気は―――――」
「……こども園のOBにね、ちょっと変わった病気を専門に治療してくれる先生がいてね。まだ研修医なんだけど、腕は確かよ」
そして、「―――――ほくとくんも、
そう言われても、僕にお医者さんの知り合いはいない。精々、行きつけのお医者さんくらいだ。
行きつけのお医者さんは、よくいるフツーのお医者さんらしい60代半ばくらいのおじいさんだったし、今しがたそのお医者さんの病院の前を車が通過していった。となると、僕の知ってる人じゃない……―――――
《自分で言っといて何なんだけどよ……本当に……りんくとメモリアがかかってんのは、"ゲーム病"なのか……?》
ふと、データがポケットの中から呟いた。
「どういうこと……?」
《症状がよく似た病気を"
データらしくないことを言うと思ったけど、その気持ちは分かる。
―――――『認めたくない』ことを。
もし、この"症状"が"ゲーム病"と認めてしまえば、その時点で絶望する他ないからだ。
治す方法がない、今の僕にはどうすることもできない―――――そんな無力を『認めたくない』のは、データも同じなんだ―――――
《現に……ドラマん中じゃ、人間に感染こそすれ、コンピューターのプログラムには何の影響もなかったろ?……なのに、メモリアが……リアルワールドに出られないメモリアも同時に感染してるリクツがわかんねぇんだ》
「………………キミが見せてくれた、"CURE-TUBE"の『エグゼイド』のスピンオフ……『ヴァーチャルオペレーションズ』の第5話……グラファイトがシミュレーションシステムの中にいただろ……?……元々コンピューターウイルスなんだし、ある意味、人間よりもアプリアンの方が感染しやすいのかもしれない……」
《でも、そりゃ……―――――》
「僕だってわかってるよ!……まだ僕たちが判断するのは早い…………早いんだ……」
園長先生の知り合いというお医者さんが誰かは知らないけれど、すべてはその人に東堂さんを診察してもらってからだ。
素人の僕たちでは、判断はできない―――――
「………………う、うあああぁぁぁぁぁ…………!!!!!」
その時、後部座席の東堂さんが急に苦しみだして、リクライニングで横倒しにしていた後部座席から上体をがばりと起こしたと思うと―――――
―――――ドガァッ!!!!
変身もしていないのに、腰が入っていない左腕一本だけで後部座席のドアを吹っ飛ばしたのだ。
車を発進した時に、ドアには自動でキーロックがかかっていた。それを、レバーに触れることなく、拳一発で……!!
「りんくちゃんっ!?」
驚いた園長先生は、車を急停止させた。この場所は―――――
この間、ジェミニさんと戦った、橋のたもとの土手だった。
東堂さんはなおも苦しみながらふらりと車から降りると、転げ落ちるように土手を下っていった。
「……東堂さんっ!!」
慌てて僕も土手を下る。それを待っていたかのように、東堂さんがこちらに振り返った。
「ほ……くと……くん………………逃、げ…………うぁ、あああああああああああ!!!!!!」
その一瞬、東堂さんの両の瞳が、いつもの濃い紅色から、血のような赤色に染まるのを、僕は確かに見た。
そして、東堂さんの全身からオレンジ色の球体が湧き出て、東堂さんの全身を覆って―――――弾けた。
「…………!!!」
僕の目前で―――――東堂さんは『変身』した。
無言でこちらに振り返ったその姿は―――――"キュアメモリアル"だった。
否―――――"キュアメモリアル"に似て非なる"ナニカ"であることは、すぐに理解できた。
右半身が黒、左半身が白―――――その色彩は、仮面ライダーW・ファングジョーカーを否応なしに想起させる。
そして、右が白、左が黒の仮面を被り、表情が窺い知れなくなっている。
プリキュア的表現をするならば―――――"ダークメモリアル"といったところか。
《変身しやがった…………!!》
「……データ……バグッチャーの反応は……―――――」
データも動揺しているのがわかる。僕の右手を通じて、データの心の震えが伝播する。
何秒間かの沈黙を経て、データはひとことだけ絞り出した。
《…………………………無ぇ》
つまりこの"存在"は…………"バグッチャー"じゃない。
そして、僕が知る限りでは、こうして"人間に感染するコンピューターウイルス"は、ひとつしかない。
バ グ ス タ ー ウ イ ル ス
『…………私は……―――――』
"そいつ"は、東堂さんの声でそう言った。
―――――瞬間、僕の心は極まった。
僕は無意識に"そいつ"に向かって走り出し、
『全ての"プリキュア"に絶望をもたらし、あらゆる未来を摘み取る"プリキュアの影"―――――』
右足で大地を蹴って跳躍し―――――
『ネガky―――――バシィィィィィィ!!!!!!
"そいつ"の側頭部に一撃を放った。
『………………初対面の女の子が自己紹介してるところに
不満げな声が、仮面越しに発せられた。
――――――――――
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―――――ほくとのヤツ、一瞬で沸騰しやがった。
こういう時―――――『誰かが理不尽にいなくなるコト』ってのに、ほくとは過敏に怖がってる。
のんがネンチャックにさらわれた時のブチギレシーン、思い出すか読み返してみな。……アレの再現だな、今回は。
『変身中や名乗り中の攻撃はご法度』っていう『お約束』さえ、堂々と破るくらいには見境が無くなっちまう。
そりゃ、『最愛の人』が闇堕ちすりゃ、是が非でも取り返したいって思うよな。
……って、アタシも茶化してる場合じゃねぇ。
あの"闇堕ちメモリアル"からは、メモリアの気配もする。メモリアもまた、ウイルスに感染してたってコトだ。
つまりコイツは、単純に"2人分"の戦闘能力を持った奴……という可能性が高い。
コイツが仮にバグスターだってんなら……こんなヤツ、『仮面ライダーエグゼイド』の本編にはいなかったが……どういうこった……!?
《………………初対面の女の子が自己紹介してるところに
挨拶代わりにほくとが放った跳び廻し蹴りは、左腕一本で止められてた。
まぁ、ほくとの身体能力は生身でも高いけど、だからって"怪人"相手に通用するレベルじゃねぇ。
ほくともそれをわかってたようで、さして驚いた顔はしてない―――――が。
《"その声"で喋るな》
ほくとは底冷えするような声で返すと、宙返りして着地した。
《ふふふ、まぁいっか。この私……『ネガキュア』の相手に足るのなら、プリキュアじゃなくても文句は言わないよ》
《"その顔"で笑うな》
意に介せず、『ネガキュア』と名乗った"闇堕ちメモリアル"は1歩、2歩と、ほくとに歩み寄ってくる。
《"その足"で歩くな……"その手"を振るな……"その
《ちょっと何よさっきからアナタ!?……するなするなするな、ダメダメダメって……何様のつもり!?》
《お前は知らないと思うがな…………―――――》
凄惨な目つきで、ほくとは"ネガキュア"を睨みつけた。
《その姿は……『プリキュア』は……東堂さんにとって特別な意味を持ってるんだ……!東堂さんにとっての、夢、希望、憧れ……そして目標なんだ……それを勝手に使うことを……僕は許さない!!東堂さんを……返せッ!!》
《へぇ……❤》
ほくとの言葉に、何かを悟ったのか"ネガキュア"は不敵に笑う。
《ご心配なく。私達バグスターにとって、"宿主"は誰よりも大切な存在……"この子"が死んじゃったら、私も消えて無くなっちゃうんだし。傷つけはしないし、傷つけさせもしないわ―――――で・も》
……でも今、明らかに『バグスター』って言いやがった。つまりコイツはバグスターで確定か……!!
"ネガキュア"のバグスター―――――『ネガキュアバグスター』って奴か―――――
《『私』が『私』になるために……この子の『スベテ』を貰うわね……❤だから安心なさい。"そのあと"はアナタの望みどおりにしてあげてもいいんだから……❤》
《……!!!……ッッ!!!!東堂さんは返してもらう!!お前を東堂さんから引き剥がして!!やろう、データ!》
ほくとがひと際強く、コミューンを握るのを感じた。
「いいのか―――――」
アタシは訊き返しながらほくとの顔を見上げた―――――
「……!!」
その表情は―――――燃え上がるような怒りを、どこまでも静かに湛えた顔。
見苦しい苛々顔でも、冷め切った無気力顔でもない。怒りを溜め込んで、いつでも出せるようにしている―――――
―――――完全に頭に血を上らせず……オーバーフロー寸前でキープしている状態、だろうか。
「……ほくとくん……滾ったね」
静かに、ピースが呟いた。
「ああ……!完全にキてるな。だが、今までの"単純に頭に血が上ってる"のとは違うぜ」
「うん……」
ピースも、今までのほくとと違うことは理解してくれてるようだ。
ほくとはキュアデーティアのチップを取り出し、スロットにセットした。
《START UP! MATRIX INSTALL!!!》
コミューンが唸りを上げて輝く。今日のほくとは―――――一味も二味も違うぜ……!
《CURE-DATA! CURE-PEACE!! INSTALL TO HOKUTO!!》
……ん!?
コミューンの音声、なんか違くないか…………!?
――――――――――
『どーなってんだ、こりゃ……』
いつもの『変身空間(仮)』が展開されたまではいつものことだったんだが……
『なんでココにピースが……!?』
ほくととアタシだけしか入れないハズのこの空間に、何故か元の頭身に戻っていたキュアピースまでもが一緒に入っていた……!?
『コレって……!もしかして!?』
……なるほど、そういうことか!
ピースも伊達にこの数日でライダー傑作選をイッキ見してねぇな、ヒーロー特有の超速理解で助かる!
「やろう―――――」
ほくとが、右の拳を突き出して、決意の表情で言った。
「僕たちで……東堂さんを取り戻すんだ!」
『……そうだな。でも―――――』
忘れてもらっちゃ困る。あのバグスターに感染してるのが、『誰と誰』なのかを―――――
『アタシだって、メモリアを取り戻したいんだ……付き合ってもらうぜ』
「今さらなんだよ、もう……」
険しい表情がふっと和らいだ。アタシがほくとに拳を合わせると、3つ目の『グー』がそこに合わさってきた。
『なんかコレって、『仮面ライダー剣』の後期オープニングみたいだね♪』
『"心に剣、輝く勇気"……ってか?』
「1人足りないけどね」
『言うなよオイ……』
3人で笑い合うと、なんか余計な力が抜けた。
後は託すぜ―――――ほくと!!
――――――――――
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《CURE-DATEAR! INSTALL COMPLETE!!》
いつもの変身と―――――違った。
電流が体中から迸り、黄金色の稲妻が視界を切り裂く。
光の球体から降り立った僕は、まっすぐに"ネガキュア"を見据えた―――――
『…………………………………………』(満面の萌え萌えスマイルのまま硬直、滝のように流れ出す汗……)
……………………………………………………………………な―――――
『なんだコレはぁぁぁぁぁ~~~~~!?!?!?』
この一連の行動、もちろん僕が意識してやったコトじゃない。身体が勝手に動いた。
いつものレジェンドインストールとは全然違う前口上とこのポーズ、どこかで聞き覚え、見覚えが……―――――
《なるほどな。あらかじめ"先輩方"がコミューンの中にいる時にマトリクスインストールをすりゃ、直接レジェンドインストールできるってことか……!》
『え……?えぇっ……!?』
《そっか!『ジオウ』に出てくるライダーたちと一緒ってことね!ほら、ライドウォッチをセットしておけば直接アーマータイム出来るアレよ!》
ピースが目を輝かせて解説してくれたおかげで、僕でもなんとか呑み込めた。
彼女がネットコミューンの中にいたから、今こうしてピーススタイルへと直接変身したんだ。
『ふぅん……最初からキュアピースの力を使うなんて、もしかして"尺"押してる?』
『……あぁ、そうだね―――――東堂さんを助けるための時間が無くなる……だから―――――』
僕に―――――『キュアデーティア』に、東堂さんをバグスターから分離できる能力があるかどうかはわからない。
でも……僕に出来ることは、
『お前を、倒す』
僕は蹴り出し、一瞬で間合いを詰め、右の拳を放った。
でも、その拳はすらりといなされ、相手の右上段蹴りが確実に僕の側頭部を捉えに来る。
まともに食らうわけには……!
左腕で防ぐも、音と同時に筋肉を通じて骨にまで響く衝撃―――――
『……、ッッ……!!』
まだだ―――――!
間合いを離さず、立て続けに拳と蹴りを放つ。それをわかっているのか、相手もこちらの打撃の隙間を縫うように、的確に『狙って』くる。
全てをいなすことは不可能だ。ほんの数センチ、ほんの数ミリ、一撃一撃の打点をずらす。『致命点』に叩き込まれなければ、喰らったところで立て直しは可能だ。
攻撃と防御、その双方に、僕は『本能的に神経を割いていた』。
『ふぅん……実力は互角ってところかしら?』
『…………………………悔しいけど…………そうだね』
本当に―――――悔しい。
"こんなヤツ"に東堂さんが利用され、その実力が僕と『互角』だということが。
『素』の力で、"コイツ"を凌げる『点』が……僕には無い。
『でも……お前は僕にまともに触れられたくないようだ』
『当たり前でしょ?今のアナタは"ピーススタイル"……触れれば最後、電撃ビリビリだし』
『……………………………………』
『ま、アナタの攻撃のパターンは、"この子"が教えてくれてるからね……ふふふ♪』
―――――そういうことか。
コイツはバグスターだ。東堂さんの記憶を、もう吸い上げ始めているということか……!
『それなら……東堂さんも見たことの無い技なら通用する道理だね。……データ、ピース……前に話してた"アレ"を使うよ』
《"アレ"か……大丈夫か?》
『原理ははっきりしてるんだろ?だったら実践あるのみさ―――――ピース、"加減"は任せるよ』
《……う、うん!》
心の中の半分涙目のピースが、上目遣いで頷く。
それを見て取った僕は、息遣いを整え、ネガキュアバグスターを見据えた。
『僕自身を―――――『
6~7mくらいの間合いを、僕は一気に詰めた。瞬間目前に迫るのは、"アイツ"の仮面に覆われた顔が、驚きでのけぞりかける様―――――
―――――成功だ。
瞬時に左側方に回り込み、右の掌底、槍の如く、
―――――ダンンンン!!!!!
『向こう側』まで突き抜ける、衝撃の余韻。
木っ端のように吹っ飛ぶ様を
『追い抜く―――――!』
《―――――もっと速く!!》
足先へと伝わる『電流』。グン!!と衝撃を受ける僕の身体。
そして一瞬で―――――"アイツ"が吹っ飛んでいく、その先―――――20mほど向こう側へと回り込めた。
一足飛びに駆けた後の地面が黒く焼け焦げ、跡のように残っているのが、視界の隅に入る。
『
《全開パワーで……!!》
《行けェェェェェ!!!!》
両の拳に迸る雷光。吹っ飛んでくる相手目掛けて―――――
『うおおぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!』
有りっ丈の両拳を叩き込んだ。それも、ただの乱打ではない―――――
腕の骨が―――――否、全身の骨と筋肉が軋む音が、鋭敏になった僕の耳に染みてくる。
この『技』は―――――僕だけで編み出した技じゃない。
データの知識と、ピースの能力が無ければ、創り得なかった技だ。
最初は『ピースの能力をどうにか応用できないか』という、データの提案だった。
―――――電気を操れるんなら、例えば……そうだな、
理屈は既に完成していた。そして今、実戦で試してる。
人間が、命の危機を感じた時に無意識に発揮する、所謂『火事場の馬鹿力』―――――
この『潜在能力』を、脳から中枢神経を通して、全身の筋肉へと伝達する『電気信号』をピースのチカラで操って、増幅・高速化することで、半強制的に引き出し、行使する―――――
つまりはゴレンジャースーツと同じ原理を、ピースのチカラで再現したわけだ。
でも―――――プリキュアの身体能力は、『もともと人間を超えて』いる。
その状態で、
―――――ギシ……ッ。
身体中の、『プリキュアの身体』の筋肉や骨が悲鳴を上げる。
常人を遥かに超えた身体にさえ、瑕疵を入れるほどの負担を強いるこの『
この身体が、『
一際強く―――――
ただひたすらに、強く―――――
全身の『氣』を、右の拳に集束する。
握力『そのもの』で、僕自身の拳が粉砕されそうなほどに、右腕の筋肉全体が張り詰める。
限界の速度を―――――
限界の瞬発力を―――――
限界の筋力を―――――
その全てを超えた『
"
これが―――――
僕達が作り出した―――――
『僕』という名の『武器』!!
――――――――――!!!――――――――――
最後の、渾身の正拳。
でも―――――
心の中に、ひとかけらだけあった―――――『
僕の『切っ先』を鈍らせていた―――――
『惜・し・い❤』
最後の正拳の手首を、取られた―――――
『もっとも?並みのウイルスならともかく、レベルアップしてる私にそんなの効かないけど―――――』
グン!と身体を振られ、僕の上体が崩れ、そして―――――
『―――――ねっ!』
天地がそっくり返り、左腕一本で上空へと投げ上げられた……!
受け身を取る間もなく、"アイツ"が放ったのか、真っ黒なエネルギーの弾丸が僕目掛けて繰り出される。身を固めて防ぐも、立て続けにエネルギー弾が命中し、爆音とともに炸裂する。
『残念だけど……"私のゲーム"すら知らないアナタに、ゲームの住人たる私を倒せる道理はないの。アナタはココで―――――』
爆音に雑じった"アイツ"の声が、不意に―――――
『ゲームオーバーよ』
―――――耳元から囁かれた。
ぞっとして振り返ろうとしたけど―――――
「ほくとくん……!!」
振り返る間もなく、今度は数十メートル下の地面へと強烈に叩きつけられた。
園長先生の叫ぶ声が聞こえた瞬間、背中を思い切り圧迫されて、一瞬息ができなくなる。
ま……まだだ……!まだ戦えなくなったわけじゃない……!ここから反撃を―――――
僕目掛けて―――――モノクロームカラーの"隕石"が叩き落ちてきた。
漆黒のオーラをまとった、それも自由落下の勢いが乗った右の下段突きを、仰向けに倒れて起き上がれず、無防備なままの僕の鳩尾に叩き込まれた。
僕の身体を衝撃が突き抜け、一瞬のうちに周りの地面が崩壊を起こしてクレーターが作られた。
『ご………………ごぅはぁ……ッ……―――――……』
息が詰まって、口から、光る何かが噴き出した。
少なくとも血じゃない―――――イーネルギーのかけらか何か、か。
最早腕にも足にも力が入らず、起き上がる事すら―――――
そう感じたその瞬間―――――変身が解かれてしまった。
《ほ……ほくと……大丈夫か……!?》
「そっちこそ……!?データ、その傷……!!」
思わずコミューンを手に取ると、ボロボロのデータがそこにいた。
僕の身体にはほとんど傷はなく、体がだるくなっている、その程度。さっき喰らった攻撃が嘘のようだ。
―――――まさか、変身している間に負ったダメージは全部データやメモリアが肩代わりしてるってコト……!?
《いつものこった、今さら気にすんな》
「……ピースは!?」
《きゅぅ~………………》
《……ダメだ、完全にノビちまってる……》
「こうなったら……僕たちだけでもう一度……!」
《悪いが……無理だ……!ダメージの蓄積でマトリクスインストールが解除されちまったら、次にもう一度やれるまで5分のインターバルが要るんだ……!》
「そんな……!」
《それにどっちにしろ、ピースがコミューンの中にいる以上、ピース抜きじゃ変身できねえ……『いつものフォーム』に変身しようにも、いったんピーススタイルにレジェンドインストールしてからじゃねぇと……!》
八方塞がりじゃないか!!
でも……でも……!
それでも………………ッッ!!!
僕は立ち上がり、目の前に立つ"アイツ"を見据えて―――――構えた。
『あら、まだ戦う気なの?……自分の身体をよく見なさいよ。……生身で立ち向かってくる気?』
「………………その気さ。お前が東堂さんに"寄生"している限り、僕の闘志は……尽きない……ッ!」
『カッコつけちゃって。…………おヒザは正直さんみたいだけど❤』
いつの間にか、『キュアデーティア』は、僕の一部、僕の自信になっていたようだ。
だって実際―――――『それができない』だけで、こんなにも恐怖心を刺激するのだから。
"アイツ"は、ゆっくりと僕に歩き寄ると、クイ、と下あごを指で軽く持ち上げた。抵抗しようにも―――――
―――――できなかった。
『もう放っておいてくれないかしら?だって、私が『完全体』になれば、『この子』の記憶はそっくりそのまま、私が永遠に引き継いであげるのに。アナタにとっても悪い話じゃないでしょ?』
「…………誰が……許すかよッ……!」
『許す許さないの話じゃないの。私は
「それでも…………僕は…………!!!」
"アイツ"を睨み下げ、僕は意地の限りに、心の限りに叫んだ。
これだけは―――――奪わせたくなかったから。
「お前から取り返す!東堂さんの夢も!希望も!心も!命も!!―――――」
―――――その通りだよ
「……!?」
その場にいない、『誰か』の声が、不意に響き渡った。
そして。
真っ白な、マントのような白衣が、太陽を背にまぶしく舞うのを見た。
美しい跳び蹴り姿を僕の瞼に焼き付けた『彼』は、"アイツ"を蹴飛ばし、僕の前に降り立った。
「……………………………………」
吹っ飛ぶ"アイツ"を尻目にすっくと立ちあがると、『彼』はひるんで尻餅をついていた僕に、手を差し伸べる。
「大丈夫?」
「……は、はい……」
自然と、僕はその手を取っていた。
派手目の色合いのTシャツに白衣を羽織り、変わった形の聴診器を首にかけたその姿―――――
この人を―――――
僕は知ってる―――――
「きみの想いは……ぼくが背負う」
「え……?」
「『命』は……患者さんのモノだ。…………お前のモノじゃ、断じてない」
『…………いきなり蹴とばしてお説教なんて……なんなのよアナタは!?』
泥を払いながら立ち上がり、こちらを睨みつけてくる"アイツ"に、『彼』は毅然と言い返した。
「……ただのドクターだよ。……もっとも、まだ研修中の見習いだけどね。でも―――――」
『彼』はどこからか、蛍光色で彩られた黄緑色とピンク色の派手な色合いの道具を取り出し、腰へとセットした。両端から灰色のベルトが射出され、固定される。
「お前のような、『命』を軽んじるようなバグスターを"切除"するくらいは、できるよ」
そして、ピンク色のオモチャめいた、手のひら大の板状のモノを手に取ると、そのスイッチを親指で押した。
まるで衝撃波か波紋のように、『ブロック状の光』が周囲の地面や橋桁に広がり、大きな色とりどりのメダルのようなモノがあたりにランダムにばら撒かれていく。
その時、不意に風が吹いた。『彼』の前髪がふわりと浮き上がり、口角が上がる。
―――――その光景もまた、僕の記憶の中にある。
―――――間違い無い―――――
―――――この人は…………!!
《
《
《
躍動的なポーズとともに、『板状のモノ』をベルトのバックルの左側のスロットへとに差し込み、ピンク色のレバーを右側へと倒した。
瞬時にマゼンタ色の光が『彼』を包み込み、板状の立体映像が『彼』を透過し、『別の姿』へと変える―――――
全身を覆うマゼンタ色の『アクションギアスーツ』―――――
腕部と脚部を覆う金属感のある光沢を放つプロテクター『メックビルドガード』―――――
右胸に赤・青・黄・緑の四色が配された『エクスコントローラー』―――――
残存体力を映像で可視化した、左胸の『ライダーゲージ』―――――
鶏冠のように逆立った髪の毛を意匠化した頭部と、ゴーグルを模し、極端にキャラクタライズされた複眼『アイライトスコープ』―――――
そう―――――
紛れもなく彼は―――――
僕がかつて、テレビの中に見ていた―――――
テレビの中にしか『いようはずもない』―――――
こうして、『現実には存在しないハズ』のヒーロー―――――……!!
もはや夢か幻かわからないこの状況を前にして、僕は無意識に、『彼』の名前を口にしていた―――――
「仮面ライダー……エグゼイド……!!」
"アイツ"を睨みつけたまま、『彼』は自らにか、それとも"アイツ"に囚われた東堂さんにか、呟くように言い放つ。
『患者の運命は―――――オレが変える!』
SAVE POINT……
設定解説
レジェンドインストール補足
マトリクスインストールを行う際、レジェンドプリキュアがネットコミューンにいる、もしくはキュアチップをセットしていると、そのレジェンドプリキュアと一緒に『3人』でマトリクスインストールを敢行することとなり、直接そのレジェンドプリキュアのスタイルへと変身、名乗り口上・ポーズもレジェンドプリキュアと同じものを披露する。
――――――――――
ついに参上いたしました、我らが永夢先生!!
果たしてりんくさんを『ネガキュアバグスター』から救い出すことが出来るのか!?
また次は間が空くかもですが、気長にお待ちを……