本小説内におけるプリキュアシリーズの放送概要
本小説の世界においては、毎週日曜日朝8:30からの本放送はもちろんのこと、BS放送における毎週土曜日夜19:30からの『再放送』も終わる事無く放送されており、さらには傑作選が平日夕方から地上波で繰り返し放送されるなど、小さな子供たちも、生まれる前に放送されたプリキュアシリーズを視聴できる機会が大幅に増加している。
故にプリキュアオールスターズの商品展開も財団Bによって現実よりも幅広く行われ、全シリーズのおもちゃがロングラン商品となって、シリーズ本放送終了後も流通するなど、現実と比較して社会現象レベルの人気になっており、認知度も非常に高い。
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1か月強もお待たせしてしまってすみません!
前書きの度に謝罪を重ねている稚拙です……
時間がかかった割に今回は幕間回です。
特別ゲストも登場します!
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さて次の日、放課後もう一度こども園へとやってきた私は、プリキュア大好き6人組のリサーチを始めた。
ストーリーの骨子はできたけど、みんなの好みも知らなきゃいけないし、それによってセリフ回しの細かい所も変える必要があるからね。
それでは最初はこの子から、いってみよー!
「さ……さとうらんかです……」
歴代主人公プリキュア御用達のピンクの髪がまぶしい!佐藤らんかちゃん。
こう言ったらアレだけど……6人の中ではちょっとアクがないというか、引っ込み思案であんまり目立たないというか……
そんならんかちゃんが好きなのは―――――
「パパね、おまわりさんでね、とってもかっこいいの!こないだのにちようびにね、ゆうえんちのプリキュアショーにつれてってもらったの!」
パパっ子ですか……なんかわかるなぁ……
パパって普段はちょっと冴えないけど、いざって時はすっごくカッコいいし、休みの日は家族サービスしてくれるし……
お巡りさんならなおさらだよね。働く大人のヒトで、一際カッコよく見えるもん。
それでは本題、らんかちゃんの好きなプリキュアは?
「キュアハニー!あとね、ソード、レモネード……それからジェラート!」
おっ、ひとりじゃないトコにすんごく親密感!欲張りで実にイイ!(・∀・)
え~と、この4人の共通点って、確か―――――
「♪いただきますと~、ごちそうさま~、えがおがふくらむあいこ~とば~♪」
らんかちゃんは目を閉じて、まるでまぶたの裏に歌詞が書いてあるかのように、すらすらと唄いだした。
これって、『ハピプリ』でキュアハニーが唄ってた、『しあわせごはん愛のうた』!聞くとお腹がすいてくる魔法の歌ですよ。
「……グランドバースが、頭に浮かんだ」
私の隣にいるほくとくんが唐突にこうつぶやくのが聞こえた。……なんのことかはわからないけど。
ともかく、らんかちゃんが好きなのは『歌キュア』ってコトね。そーいえばそらりんも『歌キュア』が好きって言ってたし、気が合うかもね。
では次!
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「―――――
紺色ロングヘアーでメガネをかけた高橋こころちゃん。時折メガネを直しながら、上目遣いでこちらを見てくるのが印象的だ。
「―――――
小さな声で、一気に早口でまくし立ててくる。
「―――――それと……
「姉さん?」
「―――――
あぁ、高橋さんの!言われてみれば切れ長の目とか清楚そうなフンイキとか、わりかしよく似てる!
高橋さんとはあんまし話したことないけど、妹さんがプリキュア好きなら紹介してくれたらよかったのに~♪
「―――――いずれはお
博士とは……知識の方向性がオタクとはちょっと違う気が……まぁいいか。
さて、いきなりで申し訳ありませんが……こころちゃんの好きなプリキュアは?
「―――――
お、これは一発で分かった!
「水キュアだね!」
「―――――ん」(こくり。)
「どうして水キュアが好きなの?」
「―――――…………
珍しいケース、かも。
たいてい、『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』とばかりに、泳げない子は水を敬遠する。キュアネットでも、そういった意見が大多数を占める。
でもこの子は、ちょっと違う。
「―――――だいたい、
「お、おう……(・ ・;)」
目を輝かせるこころちゃんにとって、キュアマーメイド―――――みなみさんは憧れなんだね。
いつかはマーメイドみたいにスイスイ泳げるようになれるように……フレフレ、こころちゃん!
――――――――――
「オイラはかがわぷらむ!!ひとよんで『ばーにんぐぷらむ』!!オイラにふれるときゃ、やけどにきをつけな!!!」
と、大見得を切ってくれたのは、逆立つ真っ赤な髪がキュアルージュを思わせる、香川ぷらむちゃん。
ものすご~くボーイッシュな子だ。最初、私は男の子じゃないかと思ってた……
「ほくとのにーちゃん、オイラのにーちゃんとダチなんだ!いっしょのからてぶ!オイラもからてやってんだけど、あしやっちまっててさ……」
ぷらむちゃんの右の足首に、ギプスがちらりと見えていた。
「あのカイブツにさえやられなきゃ、オイラもプリキュアといっしょにたたかえたのに……!まったくもってなさけねーぞ……!!」
ぷらむちゃんの名字と、足のケガを見て、私は気づいた。
―――――だいたいよ!!どうしてあんな風になってからプリキュアは出てきたんだよ!!?もっと早く、それこそバケモンが出てくる前に来てくれりゃ、あんなコトにはならなかったんだ!!
―――――昨日香川くん、街でバケモノに襲われて、それで香川くんの妹さんが大ケガしたって……
ぷらむちゃんは、私のクラスメートの、香川桃太郎くんの妹さんだったんだ。
私が初めてキュアメモリアルに変身して、トゥインクルバグッチャーと戦ったあの時―――――
トゥインクルバグッチャーが街で暴れたせいで、たくさんの人が傷ついて、中には命を落とした人もいた。
私が初めての変身に浮かれていた陰で、守れなかった人のひとりが―――――この子だ。
「……………………ごめんね……」
心の中の罪悪感が、ぽつりと口から出ていた。こうして実際に、『あの時』に被害に遭ってしまった人に会ったのが初めてだから、かもしれない。
「??なにあやまってんだよ?」
「え?……あ、いや、その……」
「まいっか。……でもさ、あしをけがしたおかげで、この"しるばーぼんばー"をゲットできたわけだ!!みてくれよ、ぴっかぴかだぞ!?オイラのおもったとーりにうごいてくれる、さいこーの"あいぼー"だぞ!!」
"しるばーぼんばー"って……もしかして車椅子のこと……?
腕を組んでドヤ顔で自慢するぷらむちゃんを見て、正直―――――安心した私がいた。
足をケガして、車椅子での暮らしを強いられることになっても、こんなに前向きに考えている子がいるなんて。
私の心のしこりが、少しだけ晴れた気がした―――――
「りんくのねーちゃん?……さっきからなんかヘンだぞ?らんかちゃんやこころちゃんのときはもっともりあがってたぞ??げんきだせよな!?な!?」
そうだった。今日私がやるべきことは反省じゃなくって、今日は好きなプリキュアのリサーチをするためにこども園に来たんだ。
シリアスモードはここまで!あらためまして、ぷらむちゃんの好きなプリキュアは?
「キュアルージュとキュアサニー!キュアスカーレットもいいぞ!!それから……あ!そーだ、キュアエースもだぞ!!」
《まぁっ❤》
カバンの中からツンデレ系の声がして、ぎょっとした。そーいえばカバンの中にキュアットタブを入れてたのを忘れてた……
「んぁ?いまなんかきいたことあるよーなこえがしたぞ?」
「え゛?……気のせいじゃない??」(すっとぼけ)
亜久里ちゃん、感激してるのはわかるんだけど、こども園にいる間はマナーモードでお願いっ!らんかちゃんの時、レモネードもガマンしたんだし……
ともあれ、ぷらむちゃんが好きなプリキュアは―――――まぁ、そんな予感はしてたけど―――――
「やっぱ、"ひ"をつかうプリキュアってかっけーよな!メラメラもえてドカンとばくはつ!これぞロマンのカタマリだぁ!!」
ぷらむちゃんはそう叫びながら、ダン!と右足を踏み込んだ。……けど。
「っっでぇーーーーーーーーーーー!!!???」
まるでコ〇コ〇コミックに連載されてるギャグマンガのような顔で痛がった。ケガしてるんだから、ちょっとは落ちつこーね……
……というワケで、ぷらむちゃんの好きなプリキュアは『炎キュア』……と。
――――――――――
「……なるほど。それでみなさんにすきな"ぷいきゅあ"をきいてまわっていらっしゃるのですのね」
流石、さちお嬢様は話が早かった。
普段からメッセでやり取りしてるから、今更聞くことはないかな~とも思ったけど、実はまだ、『特定の、どんなプリキュアが好きなのか』というコトには話題が触れていなかった。
「
そう言って、クインシィちゃんはティーポットからカップに紅茶を注いだ。
まだ小さいながら、手際よく紅茶を淹れる姿は、実に様になっている。
……こども園にティーセット一式持ち込んでるコトにはツッコむべきだろーか……。
「改めて……なんだけど、ふたりが好きなプリキュアは誰?ひとりだけでもいいし、『どんな感じのプリキュア』でもいいんだけど……」
「ふふ♪……それならもう、こころにきめておりますですの♪わたくしがものごころついたときからあこがれ、もくひょうにしている"ぷいきゅあ"!それは―――――」
ガタッ!とイスから立ち上がり、それはもう目を輝かせて堂々と宣言した。
「キュアロゼッタおねーさま、ですの~!!」
なるほど……納得しました、お嬢様。
かれんさんやみなみさん、あおいちゃんとか、おうちがお金持ちの『お嬢様キュア』はたくさんいたけど、いちばん『お嬢様』してるのって、キュアロゼッタこと四葉ありすちゃんなんだよね。
「"ぷいきゅあ"としてのつよさもさることながら、ざいりょく!けんりょく!!しはいりょく!!!ちをせいし、うみをせいし、そらをせいし、うちゅうさえもせいはするそのちから!!!!わたくしがもくひょーとしている、あこがれのおねーさま、ですの~!」
実のお姉さんであるゆめさんを差し置いて『お姉さま』として慕っているとは……この入れこみようは相当と見ました……!
《素晴らしいですわぁ♪♪》
「どきっ!!」
その時、またしてもカバンの中から聞き覚えのある声が。まさか、愛するプリキュアたちの声で神経をすり減らされる日が来ようとわ……
《このワタシを目標として精進なさっていらっしゃるとは、感無量です♪ぜひ直接お話を―――――》
《だっ、ダメですよロゼッタ、セーブセーブ、マナーモード~!》
《ふたりともやかましいわッ!!》(小声)
感激のあまり思わず声を上げるロゼッタを止めようとしたのは……声からしてレモネードだ。でもって最後に怒鳴ったのはビート。さりげなく生『やかましいわ!』を聞けたのはラッキーだったかも……♪
で、それきりキュアットタブはうんともすんとも言わなくなった。
「さきほどから、りんくさんの"おかばん"がにぎやかですのね」
「あ!タブのアプリ、入れっぱなしにしてたんだった~、たぶんそれだよ、あはははは……」(汗
「……ロゼッタおねーさまのおこえがきこえたようなきがしたのですが……はぁ……"どきどき!ぷいきゅあ"の"さいほーそー"をまちこがれるあまり、ついにわたくし、げんちょーまで……よよよ」
「おじょーたま……おいたわちいので……」(うるうる)
な、何とかごまかしきれた……この先、プリキュア大好きな子供たちからキュアットタブを隠すことも任務に入るのかぁ……
「そ、そーだ、クインシィちゃんの好きなプリキュアは誰?」
今度はクインシィちゃんに質問。いつもさっちゃんのそばにぴったりくっついてて、あまり前に出ることのないこの子が好きなプリキュアって……?
「キュアミント……あと、キュアダイヤモンドなので。あまり"まえにでない"ところとか、まえにでてかつやくちゅるかたをちゃりげなく"
確かに、そのふたりはプリキュアオールスターズの中でも、他のプリキュアを援護したり、守ったりする『縁の下の力持ち』役が多い気がする。
プライベートでも、かれんさんに寄り添うこまちさんと、マナちゃんの隣で生徒会のお仕事を手伝う六花ちゃん、という構図が容易に頭に浮かぶ。
クインシィちゃんもさっちゃんと同じで、自分のするべきこと、やるべき『お仕事』を、プリキュアたちから勉強しているんだね。
ちなみに、今日最後に『取材』したのんちゃんは―――――もう聞くまでもないよね。
「キュアデーティア、だいすき!」
でした♪ほくとくんがため息をつくのが見えたけど、まぁ……その、ドンマイ♪
――――――――――
みんなの好きなプリキュアのことを聞いて、その中から私の中の『劇のイメージ』と重ね合わせて―――――
その日の夜から、私は本格的に台本執筆を始めた。6人それぞれの個性を、そのまま私の考えていた物語に落とし込むのは、今まで私がやってきた"ホン作り"でも経験のない事だった。
実在の人物をモデルに脚本を書く―――――これがここまで難しいなんて。
言葉遣い、語彙や語尾、その一文字の違いで、呆気なく『ホンモノ』から逸脱してしまう。さながら綱渡りのような執筆に、私は悪戦苦闘していた。
それでも、ストレスを感じたりすることは全然なかった。
みんなが私のことを尊敬してくれていて、プリキュアが大好きって気持ちを思いっきり私に伝えてくれて―――――
私は勇気と元気をもらってた。
そんなみんなに、私も全力で応えたい―――――その思いが、私をタブに向かわせていた。
タブのディスプレイの隅っこから、時折メモリアやレジェンドプリキュアたちが心配そうに私をのぞき込んでいたけど。
「大丈夫♪……ちょっとお話の繋ぎどころが見えなくって、ね……さぁて!」
もうひとがんばり!
こうやって脚本を書いてる時間―――――私の頭の中にある想像や空想が、私の指を通して文字になって、私以外の『誰か』にもわかるようになっていくこの瞬間―――――
―――――これまた、『キュアキュアする』んだよね。
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そうして脚本を書きはじめて、5日目のお昼休みの時間。お弁当を食べてる最中―――――
「……きた」
―――――
この小説を読んでくれてるみんなの中にも、自分で小説や、戯曲を書いてるって人もいると思う。そんな人なら、私の言いたいコトがわかるはず。
―――――"こんな瞬間"、あるよね。新しいアイデアやストーリー展開、お話の『繋ぎどころ』が、"!"と頭に浮かぶコトが。
私はこれを―――――『降りる』と呼んでる。
とっさにネットコミューンを取り出して、メモアプリに浮かんだセリフや言葉、アイデアを忘れないうちに書き込む。そうして残したアイデアを、おうちに帰ってから実際の"ホン"に落とし込んでいく。
こうなればもう、私のターン!ここから先は、勢いのまま書いてもカタチになるくらい、執筆がラクになる!
―――――それからわずか2日―――――執筆開始から1週間目の夜―――――
「…………でっきたーーーーーー!!!!」
完成……しましたッ!!
私の、そしてこども園のみんなからもらった『プリキュア愛』をこれでもかと詰め込んだ、自分で言うのもなんだけどサイコーの"ホン"!!!
これならみんな喜んでくれるだろうし、みんながどれだけプリキュアのことが好きかも知ってもらえる!
よぉ~し、あとはコレをのんちゃんたちに―――――
「―――――あ( ゚Д゚)」
すっかり自分の世界に入っていて、忘れていたことがあった。
「ルビ、振らなきゃ」
――――――――――
翌日、さっそく印刷した台本(ルビ振り済み)をみんなに読んでもらったところ―――――
「す、すっげーーーーー!!」
「―――――ぐっ( ̄ー ̄)+b」
「あ……あれ……?なみだが……」
「らんかちゃん、ハンカチなので」
「く、くいんしぃ……わたくしにもハンカチを…………ずずず……ちーん!」
まさかここまで反響をいただけるとわ……物書き冥利に尽きるというもの。
「のんたちが……プリキュアになってる…………」
特にのんちゃんは、目を輝かせて台本に見入ってくれていた。見てる私もじ~んと来る。その顔が見たかった!
……でも、これははじまり。この"ホン"は読み物じゃなく―――――"
「……さて!」
私はぱん!と手を叩いて、みんなをうながす。
「感動してくれるのはうれしいけど、これは台本!これからみんなが、これを覚えて劇をするの!」
「「「「「「!」」」」」」
みんなの表情が、真剣のそれに変わるのが見えた。
そう、この"ホン"は、プリキュアファンの、プリキュアファンによる、プリキュアファンの為の、"プリキュア布教劇"……!
『ホンモノのプリキュア愛』が無ければ、演じることが出来ないシロモノ……!!
これはある意味、試練だ。プリキュア好きの6人が、『本当にプリキュアを愛しているかどうか』を試すため、の。
「みんなが、プリキュアのことが好きなら……絶対にこの劇をやり遂げられるって、私、信じてる……!」
ここから先は、私だけじゃない。みんなの戦いだ。キュアパイン―――――山吹祈里ちゃんの名台詞とともに、私は託す。
私の『愛』を、受け止めて、理解してくれること。そして、その身体で表現してくれること―――――
「―――――ふふふ。
ニヤリとこころちゃんの口角が上がり、メガネのレンズがきらーんと輝くのが見えた。
「おうよ!ねーちゃんがかいてくれたサイッコーのだいほん!これでもえなきゃいつもえるってんだ!!」
ぷらむちゃんが白い歯を見せて、両手をグッと握った。
「"ぷろでゅーさー"のごきたいにこたえるのは、"じょゆー"のつとめ……そうでしょ?」
「そのとーりなので、おじょーたま!」
「わ……わたしもがんばるっ!がんばって、だいほん、おぼえる!」
―――――聞くまでもなかったようで。ちょっと甘く見ててゴメンね。
みんなからリサーチした時、みんなの"プリキュア愛"をアツく聞かせてもらったじゃないの。
みんなの力強い視線から、みんなのやる気をいっぱい感じる。
この視線が、この瞳の輝きが、みんなの"キュアキュア"。
「りんくちゃん!のんも、みんなも、すっごくうれしい!だから、いっぱいれんしゅうするね!」
「のんちゃん……みんな……」
最後にのんちゃんが、みんなを代表するように、私を見上げながら言ってきた。
この子なら……この子達なら、きっと心配いらない―――――
プリキュアを大好きでいてくれる、この6人なら―――――
「……やれやれだな。プリキュアなどにまどわされるとは。まだまだ"いんしょーそーさ"がたりないようだな、いもうとみとん」
「そーだね。もっともっと"けいもー"をひろげないといけないようだね、あねみしん」
ふいに、遊戯室の入り口から声が響いた。その声に振り返ると、そこには、まったく同じ顔をした、ふたりの女の子が立っていた。
そしてそのふたりの顔には―――――よく見覚えがあった。
「増子シリーズ……完成していたの……!?」
そう、スモックを着たふたりの女の子は、まさしく増子さんだった―――――それも、ちょうど幼稚園児サイズに縮小したような。
でも、ふたりともかけてる眼鏡が違う。左の子は丸縁、右の子は四角い縁。でもって、髪飾りも違ってて、左の子がつけてるのは裁縫で使う待ち針のようなかんざし、右の子がつけてるのはお料理で使う『ミトン』の形をしている。
「なにをいってるのかわからん、だな。あなたか、ねえさんのいっていた"プリキュアおたく"というひとは」
「姉さん……?あなた達、もしかして……」
「わたしは
「わたしは
「「われわれこそ、"いつわり"を"きゅーだん"し、"せいぎ"をしらしめる、"
そう言えば前に、増子美祢さんから聞いたっけ。増子さんには、こども園に通ってる妹がいるって。しかもまさか双子だったとは。
そんな小さな2人の『増子さん』が、背中合わせにポーズを決めて、私達の前に姿を現した。
「おきをちゅけを、りんくたん……!」
物凄い勢いで、クインシィちゃんが私を守るように立った。
「このかたたちはあくみょーたかきふたごの
「プリキュアのことをバカにしたり、わるものってきめつけてるんだぞ!」
「―――――
「なんのごようですの?わたくしたちはこれからげきのうちあわせをしなければいけないのですの。"ぶがいしゃ"はすっこんでるですの」
シッシッと、さっちゃんはふたりに手を振ったけど、ふたりの『ミニ増子さん』は不敵に笑う。
「じゃけんにするとは……きらわれたものだね、あねみしん」
「きらわれたものだな、いもうとみとん。わたしたちは"あくのやぼー"をくいとめにきただけなんだな」
そう言うと、ふたりはみんなの後ろに作られた劇のセット(ダンボール製)を指差した。
「そのげきが、"プリキュア"のまちがった"にんしき"をよにひろめるための"プロパンガス"だということはすでにつかんでいるんだな!」(ビシッ!)
「ガスだけににおいがぷんぷんするんだね」(ドヤァ)
「…………もしかして、"プロパガンダ"って言いたかった?」
「「…………ぐ」」(- -;)(;- -)
"プロパガンダ"というのは、いわゆる宣伝のこと。それも、見聞きした人の考え方を誘導するように仕組まれた宣伝のことだ。辞書で読んだことがある。
「とにかく!そのげきをじょーえんさせるわけにはいかないんだな!」
「よのためひとのため……そしてなによりせいぎのため!おまえたちの"やぼー"はくいとめてみせるんだね!これいじょう、プリキュアをのさばらせるわけにはいかんのだね!!」
「ど……どういうことなの……??」
さっきからこの子たち、まるでプリキュアを悪者みたいに言ってる。
プリキュアが間違ってるとか、プロパガンダとか……
「プリキュアはまちとせかいにはかいをもたらすあくのけしんだね!!」
「みんなはだれもしらないけれど、わたしたちだけはしってるんだな!」
「「まちがったじょーしきにかざあなをあけ、しんじつをよにしらしめるのが、われわれのしめい!!」」
「ちょっと、それって―――――」
モウガマンデキナイ!!
何よこの子たち、言いたい放題言ってくれちゃって!!
プリキュアは強きをくじき弱きを助ける正義の味方!世界を救う伝説の戦士!断じて悪の化身などではありませ~ん!!
私は言い返そうと、その場からガタッと立ち上がろうとした―――――
「ちがうもん!!」
私の視線をさえぎるように増子姉妹にタンカを切ったのは―――――のんちゃんだった。
「だって、プリキュアはカイブツからのんをたすけてくれたもん!とってもかっこよかったもん!!」
「……のんちゃん……」
「これからどんなにこわいことがあっても!いたいことがあっても!ないちゃいそうになっても!ぜったいにプリキュアが、のんたちのことをたすけてくれるもん!」
「のんちゃんのいうとおりよっ!」
「おぅ!オイラたちがおうえんしてるかぎり、プリキュアはまけないんだぞ!」
「―――――
「そーゆーわけなので、まわれみぎちておかえりなちゃいなので!」
「ふふふ……わたくしのいいたいこと、ぜんぶみなさんがかわりにもうしあげてしまいましたですの。そういうわけですから、"ぶぶづけいかが?"ですの♪」
「……みんなぁ……」
なんか、ジ~ンときた……
みんな、プリキュアのことをすっごく好きでいてくれて、信じてくれているって、心にしみる……
私が今、現在進行形でプリキュアやってるから、余計にキュアっと来ています……。
こんなみんなのためなら、私、もっともっとがんばれちゃいそう!子どもたちの応援が、プリキュアの力になるんだから!
……それにしてもさっちゃん、どこからそんな言葉を覚えてくるんですか……もしかしてお嬢様教育の一環?
……それはともかく、プリキュア大好き6人組の一斉反撃を受けた増子姉妹は、少したじろいでいた。
しかしやがて、姉のみしんちゃんは口角を上げて、唇を震わせるように笑った。
「ふ、ふふふふ……あくまでもしんじつにめをそむけ、プリキュアをたたえるみちをえらぶんだな、きみたちは」
「そのにんしきがまちがってることを、いまからしょーめいするんだね!」
みとんちゃんの言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、ふたりは同時に、何やらメカメカしい帯状のモノをどこからともなく取り出して、同時に自分の腰へと巻き付けた。
―――――ガシャッ!!
「そ……それはっ!!」
「?!知ってるの、さっちゃん!?」
「へいしゃ"ざいだんびー"の"ぷれみあむびー・こんぷりーとせれくしょんもでぃふぃけーしょん"でさいはんされたへんしんべると……!"でらっくすかぶとぜくたー"と"でらっくすがたっくぜくたー"ですの!!」
「…………へ?(・ ・;)」
え、え~っと……わ、わんもあぷりーず……日本語でお願いできますでしょーか??
でも、変身ベルトって言ってたってコトは、もしかして仮面ライダー関係?仮面ライダーのおもちゃも"財団B"が販売してるし、さっちゃんが詳しいのもうなづける。
「そのとーりだな、かわむらさち!」
「われわれは"えらばれしもの"なんだね。ほんとーにつよいのは、アニメのプリキュアなんかじゃなく、ほんとーのにんげんがへんしんしてる、とくさつヒーローなんだね!」
「「ヒーローのなのもとに、あくのやぼーをくいとめる!それがわれわれのしめい!!」」
そう叫んで、みしんちゃんは赤いカブトムシ型のおもちゃを、みとんちゃんは青いクワガタムシ型のおもちゃを取り出した。
「「へんしん!!」」
《《HENSHIN》》
ふたりはそれぞれのおもちゃをベルトのバックル部分に挿し込んだ。電子音声が発せられて、ふたりの姿が―――――もちろん変わらなかった。やはりおもちゃだ。
「―――――
「しれたことだね」
「そこの"はりぼて"、げきにつかうことはわかってるんだな!いまここではかいし、あくのプリキュアにいんどーをわたしてくれるんだな!」
「「"きゃすとおふ"!!」」
《《CAST-OFF》》
《CHANGE BEETLE》
《CHANGE STAG-BEETLE》
「「"くろっくあっぷ"!!」」
《《CLOCK UP》》
ベルトのバックルの右側のボタンを叩いた増子姉妹は、駆け出すと同時に二手に分かれて、遊戯室の隅っこに置かれていた、劇のセットへと駆け寄っていく。
このセット、私の台本が完成する前から、フライング気味にみんながつくってた力作だ。逆に私がインスピレーションを受けて、このセットに合わせるように台本を『書かせてもらった』。プリキュア大好きな6人の魂が込められている大事なセット……!
さっきこの子たち、『はかい』っていってたけど……まさか!!?
「ちょ、本気ッ!?」
「だめーーーーー!!」
「「はっはっは~~!!せいぎはかーーーーーーーつ!!!!」」
―――――そこまでだ!!
遊戯室の出入口から、凛々しい声が響いた。
増子姉妹は急停止して、おそるおそる振り返ってくる。
その声の主を見て、のんちゃんはぱぁっと表情を明るくして―――――
「にぃ~~!♪❤」
のんちゃんだけじゃない、6人全員には、彼はヒーローに見えたに違いない。
そう、『ハトプリ』に出てくる、
「「た、
一方の増子姉妹は、みるみる顔が青ざめていた。……ん?隊長って?
「みしん!みとん!!」
「「っっ!(> <)(> <)」」(びくっ)
「何をしてるんだ!……台詞合わせの最中にいなくなったと思ったら!」
「??台詞合わせ?」
「……ごめん、東堂さん……このふたり、今度のお遊戯会で仮面ライダーショーをするんだ。
ほくとくんが言うには、みしんちゃんとみとんちゃんは大の特撮ヒーローファンで、以前からほくとくんを『隊長』と呼んで、本当のお兄さんのように慕っているらしい。
でも最近、プリキュアが現実の世界で戦いだしたころから、なにかにつけてプリキュアに対抗意識を燃やすようになり、のんちゃんたち6人に対して執拗に嫌がらせをするようにもなった、とのこと。
その度にほくとくんや、お姉さんの増子さんからカミナリを落とされてるらしいけど、全然懲りてないそうで……
「……このセットはさ……のんやみんなが、心を込めて作った大事な物なんだ。それをどうして壊そうとするんだい?」
「"プリキュアだから"……だな」
「プリキュアは"ホンモノ"じゃないん……だね……"せいぎ"はプリキュアにはないんだね」
「…………いいかい?プリキュアも、ライダーも……当然、スーパー戦隊やウルトラマンだって、何の考え無しに他人の物を壊したり、奪ったり、自分勝手な戦いをしたりしないよね?さっきふたりがしようとしたこと……それは、"誰かの為"になる戦い……だったのかな?」
「「……………………」」
優しく諭されたみしんちゃんとみとんちゃんは、不満げな表情でほくとくんの視線を逸らしていた。
「自分以外の誰かの為にならない、自分勝手な心無い戦い……それは―――――」
ほくとくんは、ふたりの肩をぽんと叩いて、視線を促して、そのふたりを真っ直ぐ見つめて言った。
「正義じゃないよ」
それでも納得していないような表情を浮かべるふたりに、ほくとくんは重ねる。
「……『ライダーは』?」
「「…………え??」」
「好きなんだろ。…………『ライダーは』?」
「「…………『たすけあい』」」
「そう。ライダーだけじゃない、友達みんなで『助け合い』。ヒーローなら……できるだろ?もちろん、プリキュアとも」
「「!!」」
みしんちゃんとみとんちゃんは、『プリキュア』の名前を聞いた途端に、表情を一変させて遊戯室の出入り口に駆け出すと、こちらに振り返って。
「いくら"かめんライダーオーズ"のことばでも、プリキュアとだけはたすけあいできないんだな!」
「プリキュアをかばいだてするのなら、たいちょうだって"てき"なんだね!」
「「"プリキュアにせいぎなし"!!ぜったいにしょーめいしてみせる!!」」
そう言い残し、遊戯室から一目散に出ていった。「みしん!みとん!」とほくとくんが呼び留めたけど、聞いてもいなかった。
「まいったなぁ……」
ほくとくんは後頭部をポリポリ掻きながら、困った顔を浮かべていた。
「にぃ!ありがとう!」
「やっぱほくとのにーちゃんはオイラたちのヒーローだぞ!」
「かっこいい……です♪」
「―――――
「やはりとのがたはこうでなくてはなりませんですの♪」
「そのとーりでち、おじょーたま!」
今度は小さな女の子たちから熱視線を注がれて、ほくとくん、ちょっとテレてます。
みんなの様子を見て、私は気づいた。みんなにとって、ほくとくんは『のんちゃんのお兄さん』以上の存在なんだ。
私がこのこども園に来る前、ううん、私達がプリキュアになる、ずっと前から、ほくとくんは『こども園のヒーロー』だったんだね。
かく言う私も……さっきのほくとくんには―――――
「……キュアっと来た」
「…………!」
ほくとくんと、一瞬視線が合った。とたん、ほくとくんは顔を真っ赤にして、視線を逸らしちゃった。
……私、ヘンな顔でもしてたのかなぁ……??う~ん…………
…………あ、そういえば、ママからメッセが来てたっけ。
「おつかい、頼まれてたんだった」
――――――――――
時間は、夕方6時を回っていた。
通学路の途中にある、大泉駅前商店街が、買い物をする人たちで賑わう時間。
私は夕陽を背中に受けながら、商店街の一角にある八百屋へとやってきた。
『フルーツキクチ』。東堂家行きつけの八百屋さんだ。
「いらっしゃい!あれ?りんくちゃん!久々だね~!元気だった?」
「真琴さん!……ごぶさたしてますっ♪」
菊池真琴さん―――――この八百屋さんの一人娘で、東栄高校3年生。
とっても元気で明るい、世が世ならプリキュアの主人公してそうなヒトだ。
「聞いたよ、りんくちゃん!こども園の劇の台本書いたんだってね?」
「うん!真琴さん、誰から聞いたの?」
「んふふ、お店やってるとね、お客さんからいろいろ情報入ってくるのよねぇ~。そんなわけで!」
真琴さんはすぐそばにあったミカンを手に取って私に向き直ると、
「顧客情報は機密事項に抵触する。口外は出来ん」(キリッ)
……と、超低音ボイスで語ったのだった。
「ほわぁ……ホンット真琴さんって演技上手だよねぇ。演劇とかやってたりするの?」
「まっさかぁ。サービスでやってたら、なんかウケが良くってさ。……はい、ダイコン。ニンジンはオマケ♪」
「ありがとうございます!……でも、もったいないなぁ……」
「??何が?」
「真琴さんの演技力だよ!声もいい声してるし、……そうだ!声優さんとかなったらどうかなぁ?」
「声優さん?わたしが~?……あっははは!じょーだんキツいよりんくちゃん!わたしが声優さんなんてなれるわけないじゃん!……せいぜい八百屋の小劇団がいいトコだよ」
真琴さんは謙遜してるけど、真琴さんのソレは才能だって思うんだよね。
『普段と違う真琴さん』を見て、その声を初めて聞いた瞬間―――――強烈に覚えてる。
―――――心臓にズガっと刺さって、別世界に引き込まれる感覚―――――
こんな風に、誰かの心に強く残るような、"ナニカ"を残したい―――――
私にとっての『プリキュア』がそうであったように、誰かにとっての『プリキュア』を、私もつくりたい―――――
私が『脚本家』になろうって決めたころを、真琴さんは思い出させてくれた。
今は―――――『プリキュアを書く』ことに加えて、『プリキュアになる』ことも目標になったけど、その根っこは変わらない。
―――――誰かの心に、残りたい―――――
必ず見に行くと言ってくれた真琴さんにお礼を言って、家路につく。今度は夕陽が真正面になって、ちょっとまぶしい。
《なんかうれしそうだね、りんく♪》
ポケットの中から、メモリアが私の顔を見上げていた。
「―――――うん」
商店街の門の下から振り返ると、商店街全体を見渡すことが出来る。まだ、商店街から賑やかさは消えず、お店のヒトの威勢のいい声や、お客さんの笑い声であふれている。
「みんな……がんばってるからさ。だから……応援したくなるし、守りたくなる―――――キュアエールの……野乃はなちゃんの気持ちが、わかる気がするよ」
《キュアエール……この間見た"ぶるーれい"に出てた、あたしたちがまだ会ったことないプリキュアだね》
「うん…………私もなりたいな……きちんと、大切なヒトやモノを守ってあげられる、"一人前のプリキュア"に……」
《なれるよ!絶対に!だって、それって元々あたしの目標!あたしとりんくと、データとほくと!みんなで"一人前のプリキュア"を目指すんだもん!ひとりじゃないから、大丈夫だよ!》
「メモリア……」
がんばるみんなを応援して、そんなみんなが『がんばれる場所』、『がんばれる時間』を守ることが、私の―――――
ううん、私達の―――――『やりたい使命』。
「よっし!明日からは劇のお稽古!がんばって監督やるぞーーっ!」
だから私も、精一杯『がんばろう』。
みんなの『ダイスキ』を、力の限り後押しできるように。
――――――――――
《ところでさっきの八百屋のおねーさん、キュアカスタードに声がそっくりだった!》
「……やっぱり、そう聞こえた?……前々からそう思ってたんだよねぇ……(^_^;)」
……SAVE POINT
キャラクター紹介
菊池 真琴
東栄高校3年生。
大泉駅前商店街の八百屋『フルーツキクチ』の看板娘。明るく元気な性格で人当たりも良く、客からの評判も上々。
小さな子供たち向けには果物をキャラクターに見立てて寸劇を行うなど、サービス精神も旺盛。
八百屋がりんくの自宅と大泉中学への通学路の途中にあるため、帰りがけにお使いを頼まれたりんくが立ち寄ることも多い。
同性の先輩ということもあって話が弾んですぐに仲良くなり、今ではりんくの良き話し相手・相談相手になっている。
本人は自覚していないのだが『ツボにハマった』際の演技力はバツグンであり、その点りんくも着目しているのだが、演劇や俳優の道を目指そうとは今のところ考えていない。高3の春になっても将来像が漠然としていて、進路も決めていない様子。
アニメ放送された『キラキラ☆プリキュアアラモード』で、キュアカスタード=有栖川ひまりを演じていた女性声優によく似ているらしい(本人は自覚ナシ)。
約1年後、ひょんなことから某芸能プロダクションの目に留まり、声優業界へと身を投じることになるのだが―――――それはまた別のお話。
ドラマ『声ガール!』の主人公で、今回は特別出演。
――――――――――
双子の増子姉妹のように、『これこれこうだから○○は弱い!』って言ったりする子供、時々いますよね……
稚拙はアニメも特撮も分け隔て無く愛する身ですが、小さな子はまだまだ知らない世界が多い故……
また1か月、またはそれ以上かかるかもしれませんが、次回をお待ちを……