インストール@プリキュア!   作:稚拙

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 お久しぶりになりまして申し訳ありません……
 さて今回は後篇Bをお送りします!!
 メモリアルとデーティア、さらに一歩前に進みます!


プリキュア、爆現!

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    CURE-MEMORIAL

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 僕とメモリアルの前に姿を現した、4体のバグッチャー―――――

 

 『バグッチャーが………………分身した…………!?』

 

 メモリアルがそう言って驚いていた。でも僕は不思議と―――――

 "想定の範囲内"だった。

 

 『ドラゴタイマーを使った分身……のようなものか……』

 

 相手が"魔法使い(ウィザード)"だというのなら、それもあり得ると考えていたから。

 プリキュアと仮面ライダーを同一視して判断するのは本来危険だけど、今回は勘が当たったようだ。

 

 『絶対的戦力数において優位に立つッ!これぞ戦略の基本であるッ!!圧し潰せッ!!』

 『『『『バァグッチャ~~~!!!』』』』

 

 スパムソンが指揮棒を振るうと、4体のバグッチャーが一挙して押し寄せる。このままじゃ不利だ……!

 それなら!

 

 『せぃッ!!』

 

 僕は砂浜の地面を思い切り殴りつけた。砂煙がそそり立ち、その場の全員の視界を一瞬ながら封じてくれた。

 次は砂煙に紛れて、青のバグッチャーに正拳突きを叩き込んで強引に吹っ飛ばした。一瞬で、視界からバグッチャーの1体が消える。

 

 『次は!』

 

 全身の"氣"を、右脚に集中―――――見据える先には黄色のバグッチャー―――――

 駆け出し―――――突っ込む!!

 

 『―――――空現流貫槍術(カンソウジュツ)……!弐式徹甲機動(ニシキテッコウキドウ)―――――!!』

 

 右のブーツの金属パーツが開いて、水色のイーネルギーが噴き出し―――――

 

 

 『"綺羅掃(キラハバキ)"!!!』

 

 

 地面と水平に―――――蹴り出しながら跳ぶ!!

 大柄なバグッチャーの胴体を捉えて、そのまま引き離す!!

 

 『デーティアっ!?』

 『こっちの2体は僕が!キミはそっちをっ!!』

 

 一瞬で、後ろへと流れていくメモリアルの姿。彼女にこの言葉が伝わっているのか、正直わからなかった。 

 ネットコミューンで通信ができれば別だけれど―――――

 でも、この時、一瞬だったけど―――――僕は確かにこの目で見た。

 

 『……!』

 

 ―――――メモリアルが、僕に向かってうなづくのを。

 今のが聞こえた……それとも―――――"届いた"……?

 

 『フ~~タフタ~~♪』

 『!』

 

 黄色のバグッチャーを蹴り飛ばしたのも束の間、最初に吹っ飛ばした青のバグッチャーが、体勢を立て直してターンしてきた。

 

 『マイシュ~コマクニソヨカゼヲ~♪♪』

 

 大きく両腕を広げた青のバグッチャーが、なぜか歌いながら、その身を高速回転させて突撃してくる。さながら巨大なコマだ。

 勢いの乗った手刀が僕を狙う―――――けど!

 

 ―――――その攻撃は、懐がガラ空く!!

 

 相手の手刀の"下"に潜り込むように動けば、攻撃を避けつつ間合いを詰められる!

 さらに―――――!

 

 『空現流戦刀術(セントウジュツ)―――――弐式奇迎閃(ニシキキゲイセン)―――――』

 

 そこから、相手の顎を狙う宙返り蹴り―――――!!

 

 

 『"都牟刈(ツムハ)"!!!』

 

 

 所謂、サマーソルトキック―――――空現流拳法の中では、割と古い技。変身しなくてもこなせる技だけど、当然キュアデーティアの姿で放てば段違いの威力になる。ブーツの根元からのイーネルギーの噴射が、蹴り出しからの初速を早めて、その分威力は『鋭く』なる。それこそ―――――

 ……一撃で巨大な相手もダウンできるくらいに!

 一瞬、青のバグッチャーの巨体が舞って、仰向けに砂浜に叩き落ちる。

 それを乗り越えるように、黄色のバグッチャーが躍りかかってきた。手には金色に輝く棒状の武器を持っている。形は―――――野球のバット……?

 剣や槍よりも身近で、武器として使えるモノ―――――こちらの方が、現実的な脅威(こわさ)を感じる。

 

 『マ~ヨネ~~~ズ!!』

 

 振り下ろされるバットの一撃。たたきつけられた砂浜の砂が轟音とともにそそり立つ。

 今の一連の流れで、この2体の"傾向"はわかった―――――

 

 『黄色は力押し……青はスピードとテクニックで攻めてくるタイプ、か……』

 

 ―――――さながら、技の1号・力の2号、といったところか。

 今までの戦いとは違って、相手は2体。遠くで閃光が奔る。メモリアルもまた、残り2体のバグッチャーと戦闘を開始したようだ。

 前回の戦いと似ている、"多勢に無勢"。でも前回は、あくまで『戦闘員』が多数いたに過ぎない。

 今回の場合、"怪人級"が2体いる。油断ならない相手だ。

 どうする?1体を集中攻撃して倒すか……いや、長時間かかずらって、もう1体が何もしてこないわけがない。だからといって2体同時に相手にして器用に立ち回れるか?ダメだ、リスクが大きすぎる。それに戦っている間に戦場が『流れて』いって、メモリアルともう2体の戦場に雪崩れ込む可能性も……それだけは絶対に避けたい―――――

 どう立ち回る……?どう戦う……?

 くそッ!やっぱり、『見る』と『実際に行動する』とでは違う!画面越しに見るヒーローたちは、1対2の戦いだって簡単にこなしていたのに、こうして実際に僕がこの身で戦うとなると、こうも―――――……!

 

 《なにひとりでドツボにハマってやがんだ》

 『……!』

 

 心の中から―――――声が響く。

 

 《お前だけで戦ってるって勘違いされちゃ心外だぜ。今のお前のその体、"誰"と"誰"で出来てっと思ってる?》

 

 ―――――そうだった。

 僕はひとりじゃない―――――それに―――――"ふたりだけ"でもないんだ。

 

 『ごめん……』

 《いいってコトよ。でもよ、そういう時は"ごめん"じゃなくって、"ありがとう"の方がイイぜ?言った方も言われる方も、心にシミるぜ》

 『うん……ありがとう』

 

 データの言葉で、心に余裕ができた。改めて、僕は2体のバグッチャーを見渡した。

 

 『……どう戦おう……2体同時にどう捌こうか……』

 《いつも通りにガン攻め……って行きたいトコだけど、相手が相手だしマズい手だ……ってことで、ここは攻めよりも守り重視でどーよ?》

 『……!そうか、それなら……』

 《そーゆーコト!昨日りんくから習ったろ?》

 

 この数日、東堂さんから受けたプリキュア講義―――――その中で習った、"彼女"の力なら―――――

 

 『よぉし……"キュアットサモナー"、スタートアーーップ!!』

  

 これも東堂さんから教わった。両手の甲にある装置は、念じるだけでタブの中のキュアチップを呼び出せるテレポート装置らしい。

 呼び出したチップを手に取って、ネットコミューンにセットする―――――!

 

 『キュアチップ、『キュアロゼッタ』!!』

 《ひだまりポカポカ!キュアロゼッタ♪!》

 

 心の中のデータの部屋の、その隣に、黄金色の部屋が現れた。

 

 《お呼びいただけると思っていましたわ、ほくとさん♪》

 

 まるで僕たちの戦いぶりを見ていたようなキュアロゼッタの口ぶりだ。僕がこう心の中に走らせたのを読んだのか、彼女はこう付け加える。

 

 《データや皆さんの戦いの様子は、キュアットタブにリアルタイムで伝わるのです。ですから、戦いの場がどのような様子なのか、ある程度分かるのですわ》

 『そうなんだ……』 

 《それと……後学のために、キュアネットを通していろいろとお勉強させていただきましたの。ほくとさんがお好きだという"仮面ライダー"さんのことも、少々……♪》

 

 少し、僕は驚いていた。キュアットタブから、プリキュアたちがネットを通して情報を得られるなんて、東堂さんからは聞いていなかったから。

 でも、それなら僕としても非常にありがたい。僕の勝手で仮面ライダーの技を再現してプリキュアたちを振り回してしまうよりも、彼女たちが少しでも仮面ライダーを理解してくれて、その上で協力して技を使うことができるなら―――――

 

 《そこで、ご提案なのですが―――――》

 

 ロゼッタが僕に示した『提案』―――――正直、意外だった。

 

 《―――――……どうでしょう?》

 『ストレートにレンゲルじゃないんだね』

 《あの方は"氷"の仮面ライダーさんですし。そこはそれ、ワタシは"ひだまり"―――――"太陽"のプリキュアですから♪》

 

 ロゼッタが僕に提案した、『とあるライダーの戦術再現』。かなり思い切ったチョイスだと思った。

 でも、『攻撃』を『ライダーの技』で、『防御』を『プリキュアの技』で分担して使うのなら―――――行ける!

 

 『やるよ―――――!』

 《かしこまりましたわ♪》

 

 僕はネットコミューンを右手に持ち、左手を握り拳に変え、胸の前で左手をコミューンにぶつけた。コミューンから、電子音声が響く。

 

 《READY(レ・ヂ・ィ)

 

 それを聞いた僕とロゼッタは、バグッチャーを見据えて、静かに、そして力強く唱えた――――― 

 

 

 

ロゼッタ、爆現。

 

 

   〈MASKED RIDER KIVA〉

 ⇒ 〈MASKED RIDER IXA〉

   〈MASKED RIDER SAGA〉

 

 《FIGHT FOR JUSTICE!! 7・5・3・8・3・1・5!!》

 

 《FIST-ON(フィ・ス・ト・オ・ン)

 

 《CURE-ROSETTA! INSTALL TO DATEAR!!》

 

 それまで纏っていた基本コスチュームから、白と黄色の2色で彩られた、トランプの『クラブ』をモチーフとしたコスチュームへと、僕の姿が変わった。

 

 《INSTALL COMPLETE!!》

 

 太陽の輝き―――――でもこれは、強烈に照りつけるような、真夏の輝きとは違う。

 すべての生命を包み込み、目覚めを促し春を告げる、優しくも暖かな―――――

 しかし、高潔で、まじりけのない、堂々たる―――――

 

 

 "ひだまり"

 

 

 『キュアデーティア……"ロゼッタスタイル"―――――ですわ♪』

 

 

 なぜか―――――所作が『それらしく』なっている。ここまで『女の子』に自然と『なりきれる』のは、初めてかもしれない。

 僕は両の手で、トランプの『クラブ』のマークを模って、2体のバグッチャーに向けながら―――――

 

 『世界を制するのは愛と正義です♪さぁ、アナタも"ワタシたち"と愛を育んで、そのお命、神様にお返しになってくださいな♪♪』

 

 仮面ライダーイクサ(というより名護さん)とキュアロゼッタ、2人分のそれが混合された決め台詞を言い放っていたのだった。

 

 《……ロゼッタの決めゼリフがいよいよもって物騒に聞こえるぜ……》

 《100点満点ですわ♪》

 

 データがあきれて言うけど、ロゼッタはとても満足そうだ。

 

 『ア~~~キバ~~~~!!』

 

 背後から殺気を感じた。光かがやく野球のバットを両手持ちして、こちらに一直線に突撃してくる黄色のバグッチャーだ。

 とっさに―――――振り向きざま、僕の右脚が出た。

 

 

 ―――――ダン!!!

 

 

 吹っ飛ぶでもなく、倒れるでもなく、バグッチャーはその場でピタリと―――――止まった。

 これって、『仮面ライダーキバ』の第13話で、イクサに変身する名護啓介さんが、変身していない生身の状態で、走ってきた車を右脚だけで止めたシーンの再現……だよね……?

 

 『わ……っ///』

 

 ガニマタ状態なので、『女の子的』にはヒジョーにはしたない……のではないだろーか。

 僕はあわてて、そのまま左足を添えてバグッチャーを両脚で蹴り飛ばしつつ、宙返りで間合いを取った。

 

 『イ~ヤホ~ンズ!♪』

 

 黄色の背後から、青のバグッチャーが僕に向かって飛び出した。こいつはスピードとテクニックに秀でたバグッチャー、正面からでも―――――止められる!

 僕は手刀の振り下ろしを飛びのいてかわすと、続けざまの貫手を捌こうと―――――

 

 

 『―――――"護葉反鏡陣(ロゼッタリフレクション)"!!!』

 

 

 ラブハートアローから、大きなクローバー型のバリアが飛び出し、バグッチャーの貫手を受け止めた。昨日、東堂さんから習った通り!

 プリキュアが使っていたオリジナルの技―――――初めて使ったけど、なかなか使い勝手がいい。この防御力、『仮面ライダー剣』の『(オリハルコンエレメント)』みたいだ。

 

 『返すよ!』

 

 すぐさま僕は右腕を振りかぶり、掌底でリフレクションを叩いた。四葉のバリアが、青のバグッチャーを押し出すように吹っ飛ばす。

 

 《今です!》

 『うん!』

 

 ロゼッタの合図で、僕は思い切りジャンプする。両手持ちしたラブハートアローにありったけの"氣"を集中して―――――

 

 『でぃぃぃぃぃぃやッ!!』

 

 リフレクションをもう1枚、そして2枚、3枚!連続で作り出して、青のバグッチャーに投げ落とした。バグッチャーの右、左、後ろの砂地へと、リフレクションが突き刺さる。バグッチャーの四方を、リフレクションでふさいだ形だ。

 

 『最後は……!』

 

 着地して、おまけにもう1枚、リフレクションを作り出して―――――

 

 『上にかぶせて落しブタっ!!』

 

 だっ。これで完成っ!バグッチャーには悪いけど、ここでしばらく大人しくしててもらうよ。

 実は似たような技が、空現流拳法にある。地面を隆起させて相手の攻撃を防ぐ『辻畳』を連続で放って、相手を閉じ込める『参式封遁陣(サンシキフウトンジン)"岩戸封爾(イワトフウジ)"』という技がある。でも今回僕が使ったのはいわば応用技で、この場合別の技になるから……

 ―――――名付けて―――――

 

 

 『空現流防楯術(クウゲンリュウボウジュンジュツ)参式封遁陣(サンシキフウトンジン)(アラタメ)―――――"護葉天照肆方封爾(ゴヨウテンショウヨモフウジ)"―――――』

 

 

 っといったところか。でも、いいのかな?プリキュアの力を借りた技なのに、『空現流』の技として名付けてしまって……

 そんなことを思ったら、僕の心の声にロゼッタが答える。

 

 《何も問題ございませんわ♪確かに、ロゼッタリフレクションはワタシ……キュアロゼッタの力に由来する技ですが、それを応用して、別の技へと昇華させたのは紛れもなくほくとさん……胸を張って、『空現流』を名乗ってくださいな♪》

 『ロゼッタ……』

 

 彼女は正真正銘、脅威から人々と世界を守り抜き、戦い抜いた『本物の英雄』のひとり。そんな彼女から労いを言ってもらえると、なんだか誇らしく思える。

 

 《もっとも……このような方法で『封じ込め』をするなんて、予想外でしたけど……》

 

 実はさっき、ロゼッタから『提案』を受けた時、『2体のバグッチャーを捌く方法』も伝授されていた。

 

 

 ―――――無理に2体同時にお相手する必要はございませんわ。2体のうちの1体の動きを『封じ込め』て、1体ずつお相手すればよいのです♪

 

 

 それを実践したのがさっきの技だ。リフレクションがどこまでもつかわからないけど、それでも時間稼ぎにはなる。この間に―――――

 

 『……1対1で、じっくり相手をしてあげるよ……!』

 『バキュゥ~~~ム!!!』

 

 重々しい足音を響かせながら走り来る黄色のバグッチャーの巨体が、重量感のままに迫る。光のバットをあおって、力任せの上段からの振り下ろし。

 

 ―――――それは、もう見た!!

 

 既視の攻撃動作―――――もはや見ただけで、その対処ができる。僕は相手のバットを受け止めながら右側に体を流しつつ、相手の勢いを利用して、そのまま砂地へとたたきつけた。

 僕の中にいるデータの『絶対記憶能力』は、変わらず力になってくれている。僕の見切りの目が、さらに冴えわたるようだ。『一瞬の判断力』が、普段とは段違いに高められる―――――

 

 『悪いけど、時間はかけられない……一撃で決めるよ!』

 

 体勢を立て直そうとする黄色のバグッチャーに肉迫した僕は、ふぅっと息を吐きだす。全身の『回路』が切り替わり、『氣』が右の拳に集中していく―――――

 

 《IXA-KNUCKLE(イ・ク・サ・ナッ・ク・ル)

       RISE-UP!!(ラ・イ・ズ・アッ・プ)

 

 たどたどしくも力強い電子音声が、コミューンから響き渡る。同時に、右の拳から力が迸り、強烈なエネルギーがスパークする。

 無論―――――『ほくと()』だけの『氣』では、こうして『力』を現出させられるほどには至らない。これは『僕』だけの力じゃない―――――

 僕の『氣』、データの『イーネルギー』、ロゼッタの『ひだまりの力』―――――

 3つの力と戦う意志を、この一撃に込める!!

 

 

参 位 壱 躰(サンミイッタイ)

 

 本来は、拳の一撃とともに5億ボルトの超高圧電流を叩き込む技。僕が放とうとしている技とは似て非なる。

 でも、僕たちの力を一つに重ね、初めて放てるこの技もまた―――――"牙折ノ戒撃"。

 正義の名の下、叩き込んだモノの命を神に返すこの技は―――――!

 

 

ブロウクン・ファング

 

 力を込めた渾身の右の正拳が、吸い込まれるようにバグッチャーの胴体に『入った』。

 芯の中の芯―――――"真芯(マシン)"を捉えた"感覚"が、ダイレクトに伝わる。

 拳法や空手の試合の時と同じ―――――一撃を加えた瞬間に脳幹へと伝達し、全身へ浸透する爽快感―――――

 

 ―――――"勝った!"

 

 それが、今まで以上に、本能的に感じ取れる―――――!!

 

 『…………タ…………モ………………ツ……―――――』

 

 ―――――ドォォォォォォオオオオン!!!!!!

 

 切れ切れに何かを言い残し、黄色のバグッチャーは閃光を放って爆散した。

 後は残り1体……リフレクションで封印して置いたアイツは―――――

 

 ―――――バキィィィィィィン!!!!

 

 ガラスが砕け散る音にも似た鋭い音が鼓膜を刺激する。見ると、リフレクションが粉砕され、青のバグッチャーが大ジャンプして脱出するのが見えた。

 そして一目散に向かった先は―――――海!?

 大きな飛沫を上げて海に飛び込む巨体を見て、データが絞り出すように言う。

 

 《マズい……!『魔法つかいプリキュア』の"青の姿"―――――"サファイアスタイル"は水の力を持つ姿……水の中では不利になるぜ》

 『だからって、ここで退くわけにはいかない……追うよ!』

 

 意を決して、僕は砂浜からジャンプして、海へと飛び込む。

 真っ白な無数の泡が、一瞬僕の視界を覆う。そして目の前に広がるのは―――――

 

 ―――――え……!?

 

 初めての、感覚だった。

 海の中に潜ったはずなのに、視界がぼやけることなく、水中眼鏡を掛けているかのように鮮明に映っている。

 息を止めて口を押さえた隙間から海水が口の中に入った。溺れる、と焦ったけれど―――――

 

 『…………!……息が出来る……!?』

 

 水中なのに、まるで普段と変わらない感覚。視界も、呼吸も、まるで違和感がない。

 これって、どうして……?

 

 《イーネルギーのおかげだな。この姿だと全身がイーネルギーのフィールドで守られるから、それで水ン中でも自由が利くみたいだぜ》

 

 僕もキュアメモリアルも変身すると、全身から少しずつ、泡のようにイーネルギーが湧き立つようになる。それがバリアの役割を果たして、敵の攻撃をある程度緩和してくれていることは知っていたけど、思わぬ副次効果があったということか。水中も大丈夫なら、もしかしたら―――――

 

 《!来るぞほくと!!》

 

 データの切羽詰まった声が体全体に響いた瞬間、強烈な衝撃を下から受けた。

 

 『ぐッ!?』

 

 何かが僕のすぐそばを一瞬で通過していった。間髪入れず、右、上、後と、四方八方から衝撃を食らう。

 

 『キメマシタ!』

 

 まさしく『水を得た魚』だ。陸以上の機動力で、相手は僕を翻弄する。目線で追うのがやっとだ……!

 

 『スモモモモモモモモノウチ!スモモモモモモモモノウチ!!』

 

 四方八方から体当たりを繰り返すバグッチャー。防御を固めながら、僕は反撃の機を窺う。

 とはいえ、地に足がつかない水中では、足で踏ん張れない分、打撃の威力は大幅に低下する。投げを打とうにも、叩きつける地面がないから無意味になる。

 水中では、僕の戦い方がこうも制限されるなんて……!

 

 《それなら、ワタシにいい考えがありますわ♪》

 

 データの隣のロゼッタの表情に、この事態を打開できる確信を見た。

 

 『く……!どうするの!?』

 《道具は使いよう―――――持てる技も、然りです》

 

 と、僕の足裏、その下に、小さな四葉型のバリア―――――ロゼッタウォールが現れた。そしてそれは回転を始めて、水の流れを掻きまわし始める。

 

 『それってスクリュー……?』 

 《大正解、ですわ♪》

 

 船やヨット、潜水艦を進めるために装備されているプロペラ―――――このふたつのロゼッタウォールは、それを疑似的に再現したモノということ。

 即席だけど、これなら水中でも機動力が確保できる。スピードで五分に持ち込めれば、そこからの戦いようはある……!

 

 《さぁ、反撃を始めましょう……!……それではみなさん、ご一緒に♪―――――》

 

 

きゅーそくせんこー(急速潜航)、ですわ♪

 

 瞬間、ドン!!という音とともに、さながら魚雷のように僕の身体が水を裂いた。水圧が顔に押し寄せるこの感覚、ちょっとキツいかも……

 たぶん、顔がモノスゴいコトになってると思う。東堂さんが見たらショック受けるだろぉなぁ……

 

 《ヤツが追い付いてきたぜ!》

 

 後ろから、水を切って迫りくる青のバグッチャーが見えた。最高速は向こうの方が上か……!

 

 『それなら好都合だ……!ロゼッタ!』

 《了解ですわ!》

 

 回転しているロゼッタウォールの角度が調節されて、僕は右方向に旋回する。相手も追いすがろうと向きを変えてくる―――――けど!

 

 『小回りなら!』

 

 ここで僕は相手をやり過ごし、『下』に潜り込むように『舵』を切った。文字通りの『急速潜航』、相手はこちらを見失ったのか水中で急停止した―――――

 

 ―――――今だ!!

 

 『最・大・戦・速ッ!!』

 《しゃぁ行けぇぇぇぇぇ!!》

 

 ロゼッタウォールが大型化して、回転速度がさらに増す。そして僕はそのまま、動きを止めたバグッチャーの『下』から突っ込んだ。

 海の中では決め手に欠ける、だったら―――――このまま海から押し出すっっ!!

 

 『うぉぉぉおおあああああああ!!!!!』

 

 全身に力をみなぎらせて、僕は衝動のままに吠えていた。バグッチャーが手足をじたばたと動かして抵抗するけど、もはや加速と水圧にそれらも封じられたのか、僕には届かない。

 やがて海面を突っ切り、暖かい"陽だまりの世界"に飛び出した。その勢いを乗せて、僕はバグッチャーを浜辺へと投げ落とした。砂の柱が大きくそそり立ち、砂粒がぱらぱらと舞い落ちる。

 

 『キメるよ、データ、ロゼッタ!』

 《よぉ~っし!!》

 《天魔覆滅!ですわね!》

 

 僕はラブハートアローを取り出し、ロゼッタリフレクションを連続で投げ放った。回転する光の四葉が2発、3発とバグッチャーに命中し、上空へと吹っ飛ばした。ここでもう一度―――――

 

 『……はぁッ!!』

 

 ラブハートアローの下の部分を叩く。放った内の3枚のリフレクションを引き寄せて、僕の眼前に並べた。

 そして、文字通りハート形をしているラブハートアローの弓部分を展開して構えて、引き絞り、力を集中する―――――!

 

 ―――――昨日の『講義』で、ラブハートアローについても教えてもらった。『ドキドキ!プリキュア』の4人が使うこのツールは、一種の『可変武器』。使うプリキュアとその技によって、カタチを変えて使うことができる。

 僕がそれを聞いて連想したのが、仮面ライダー電王の専用武器『デンガッシャー』や、仮面ライダーゴーストの『ガンガンセイバー』だった。一つの武器が様々な形態に変わる便利なモノ。

 でも、僕は不思議に考えていた。こうした可変武器の最大の長所を、彼らは活かしてないような気がする。何故なら―――――

 

 ―――――どうして、1つのフォームで1つの形態(カタチ)しか使わないんだろう―――――?

 

 ソードフォームでも、デンガッシャーのガンモードを使えれば、フォームチェンジしなくても対応できるんじゃないかと、前から考えていた。

 ドラマの中では、ヒーローたちはそのようなことをしなかった。してしまえば―――――キャラごとの『個性』が薄れて、『ドラマ』として成立しなくなるからだ。

 でも、僕が今見て、戦っているのは『現実』―――――そんな都合よく、敵がフォームチェンジや武器の組み換えの隙を待ってくれるような甘い世界じゃない。

 

 ―――――使える武器は最大限に使う!

 

 だからこそ僕は、『アニメ』の中の『禁』をあえて破る。本来、『このカタチ』のラブハートアローを、アニメの中のキュアロゼッタが使うことはない―――――らしい。

 しかし、今から放つ技を使うに相応しいのは、『このカタチ』しか考えられないから―――――

 

 《RISING(ラ・イ・ジ・ン・グ)

 

 『氣』を込めたラブハートアローから、稲妻のようにエネルギーが迸る。回転するリフレクション越しに、僕はバグッチャーを見据えた。

 最大限に込められた『ひだまりの力』の輝きを、今ここに解き放つ―――――

 仮面ライダーイクサ―――――最強の必殺技を、この言葉とともに―――――!!

 

 

『《《その命、神に返しなさい!!》》』

 

――――― ファイナルライジングブラスト ―――――

 

 放たれた太陽の波動が、リフレクションを通り抜けると同時に増幅されて、渦を巻く破壊光線となってバグッチャーを呑み込んだ。

 

 『ッ……!』

 

 物凄い反動に、思わず僕は後ろへと吹っ飛ばされる―――――でも!

 ここからがこの技の本番!!

 あらかじめ、1枚のリフレクションを後ろ側に設置していた。吹っ飛んだ僕はそのリフレクションを蹴り飛ばし、そして―――――

 

 『とぉぉぉぉおあああ!!!』

 

 反動を加えた、渾身のライダーキック―――――!!!

 胴体を捉えたキックが、バグッチャーを波打ち際へと吹っ飛ばした。

 

 『……コ、コロリ…………』

 

 バグッチャーはそう切れ切れに呟くと、ワルイネルギーと思しき闇色の光を放った瞬間、橙色の爆炎を放って四散した。

 

 『はぁ……はぁ……はぁ……―――――』

 

 それまで張り詰めていた緊張の糸がふっと切れて―――――体の力が抜けて、砂地に『ぺたん』とへたりこんでしまった。

 ―――――勝った……………………

 でも、勝利の実感よりも、戦いに区切りがついたことへの安堵感が強い。今までの戦いよりも―――――熾烈なパワープレイだ……。

 

 《お疲れさん―――――いつも以上にヒーローしてたんじゃねーか?》

 『……からかわないでよ……』

 《最後の"遊び心"も、見事に決まっておりましたわ♪……最初からあれを狙って?》

 『…………それは……ちょっと違う、かな』

 

 僕は、ファイナルライジングブラストを撃ち放った先の海を見た。100mほど沖合に、50mぐらいの幅の消波ブロックがあったけど―――――

 その一部が刳り貫かれたように溶解していた。ファイナルライジングブラストの高エネルギーの奔流が、ブロックの一部分を引っさらっていっていた。

 

 『最初は考えてなかったけど……あの威力の攻撃に踏みとどまるのを見て、もう一撃必要だって判断して……それで、さ。決して『本心からの遊び心』でやったわけじゃないよ』

 

 ファイナルライジングブラスト―――――そのエネルギーの奔流に押し流されないバグッチャーを見た瞬間、僕は判断した―――――『もう一撃』、その必要を。

 だからこそ僕は―――――本編で名護さんが『遊び心』と称した、発射の反動を利用したライダーキック―――――通称『遊び心キック』を。

 最後の一撃を加えて、ようやく倒れて爆散したところを見て、僕の判断が間違っていなかった証左だろう。

 僕が臨むのは、負けることの許されない現実の戦い。確実に勝たなければ、僕にもこの世界にも未来はない。

 名護さんには悪いけど―――――『遊び心』を差し挟む余裕は、今の僕のどこにも無い。

 妥協も手加減も、許されないんだ―――――

 

 ――――――――――

 

    EX PLAYER CHANGE

 

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    CURE-DATEAR

    ??????

    ??????

 

 ――――――――――

 

 『えぇいっ!!』

 『ワクワクモンダァ~~~!!!』

 

 白いバグッチャーが繰り出すパンチに、私は真正面から右の全力ストレートをぶつけた。バキィン!!という何かが破裂するのに似た音が響いた。

 同時に、私の体にモノスゴい反動が返ってくる。全身の骨がぐらつき揺れる、そんなキケンな感覚が電流のように伝わって―――――

 胸が早鐘を打つ―――――

 

 『コ~~~リンッッッ!!!』

 

 背中側から殺気が飛んできた。反射的に、私は振り返りざまに左腕で赤のバグッチャーの杖の一撃を受け止める。

 スマホの中でメモリアとデータが戦ってたのはコイツ。別のバグッチャーを巻き込まないようにか、爆裂魔法はやめて杖を使った直接攻撃に切り替えたみたい……だけど。

 ……なによコイツ!!フツーに戦ってもじゅーぶん強いじゃん!!

 

 『グゥゥゥゥゥアアア!!』

 

 白いバグッチャーの左フックが横殴りに私を襲い、ガードもできずに吹っ飛ばされた。

 

 《!!りんく!》

 

 メモリアの声が響く。その声といっしょに、体中にじんわりと痛みが走る。

 砂地に顔から落ちたから、口の中に砂が……じゃりじゃりして気持ち悪い~……

 

 『クククッ……!戦いは数であるッ!!戦力を分散させたとはいえッ、数的有利に変わりなしッ!大人しく即・刻・投・降するがよいッ!!』

 

 スパムソンの演説めいた大声がキンキンと響く。でも―――――

 ―――――……冗談じゃない……!

 私が諦めちゃったら、誰がジャークウェブからこの世界を守れるの?誰がプリキュアたちを取り戻せるの?

 

 『そんなのできるわけ、ないじゃない……!』

 

 私の勝手な思い込みかもしれないけれど、あえてもう一度心に叫ぶ……!

 ―――――この戦いは、この私―――――『誇りあるプリキュアオタク』の、東堂りんくに天から与えられた、『私にしかできない使命』!!

 

 『私は……諦めない……!!まだまだこれから、なんだから!!』

 『フンッ……貴官は何も理解しておらんようだなッ……』

 『……??何を……?』

 

 得意気な顔で、2体のバグッチャーの間に立つスパムソンが言う。

 

 『貴官等が我等ジャー()ウェ()から強奪したキュ()()()ッ……その力とその価値だッ!フォー()()ールを越えッ、リア()ワールドへと我等が御大将カイザ()ンチュラを降臨させるためにッ、キュ()チップは必要不可欠ッ!!』

 『カイザ……え……??』

 《カイザランチュラ……そう言えば、バグキュアも言ってた……たぶん、あいつらの親玉だよ!》

 

 カイザランチュラ―――――それがジャークウェブのボスの名前か。

 コイツの言葉から察するに、そのカイザランチュラを現実の世界に呼び込むことが目的で……それにはキュアチップが必要ってコト……?

 

 『遍く世界に()ャークウェブの威光を示すためッ!!貴官等が奪い取った()ップを奪還するッ!!』

 『奪還って……やっぱり自分勝手な連中ね!『ドキプリ』のジコチューといい勝負じゃない!もともと平和だったサーバー王国に一方的に攻め込んで、プリキュアたちをキュアチップに変えて奪っていったのはあなた達じゃない!プリキュアたちを"こんな"にしちゃったあなた達こそ、プリキュアたちのことを何もわかってないじゃないの!!』

 

 自信を持って言える。やっぱり、これは、間違ってる!

 

 『あなた達には―――――プリキュアへの"愛"が無いのよっ!!』

 『何故そこで愛ッ!?』

 『"ここ"だからよ!!"『好き』を『好き』でいること"が、私の力……プリキュアのことを『好き』どころか、これっぽっちもわかっちゃいないあなた達に、『誇りあるプリキュアオタク』である、私が負ける道理無し!!』

 

 私は、胸をドン!と叩いて宣言した。

 

 『私は!"プリキュア愛"で!!出来ているッッ!!!』

 

 プリキュアが好きだから。

 プリキュアに憧れたから。

 それだけが理由じゃないと思うけど―――――

 私は、メモリアと巡り会って―――――

 私は、プリキュアになれた。

 この手、この足、この体―――――メモリアと一心同体となった『キュアメモリアル』は、私が14年の人生で、心と体、細胞の一片一片、そのすべてに刻み込んで染み込ませた、『プリキュア愛』の結晶なんだ!!!

 

 『何を言うッ!!小官の御大将に対する揺ぎ無い忠誠から生じる力ッ、貴官の『愛』をも凌駕するッッ!!』

 

 叫ぶスパムソンに合わせてか、2体のバグッチャーが立て続けに私に向かって躍りかかる。

 

 『確かに―――――人はね……みんな違うよ―――――』

 

 最初に突っ込んできた赤のバグッチャーを、私はハイキックで蹴り上げた。

 

 『"愛し方"や―――――"痛み"も違う―――――』

 

 次に、白のバグッチャーの勢いを利用して、いなすように後ろへと投げ飛ばす。

 

 『"好き"が、人によって違うことは当然―――――でもね、"人に迷惑をかける"『好き』だけは、"素敵"だって思えない!』

 

 私は起き上がろうとする2体のバグッチャーを見据えた。

 

 『カイザランチュラにとって……私達のこの世界は、秘密が茂る宝島(ワンダーランド)かもしれない―――――眩しく見えるかもしれない―――――でも……でも!"何か"を……"誰か"を犠牲にしてまで、土足で入ってきていい場所じゃない!!』

 

 そうだ―――――

 私の暮らすこの街、この世界―――――

 どんな理由があろうとも、それを勝手に荒らして、傷つけることは―――――

 

 『この私が―――――無敵の最終関門!!今日の私はヤル時ゃマジ!妙に強いんだから!!!』

 

 《CURE-MEMORIAL!! FULL-DRIVE!!!》

 

 私の昂りに、"私自身"が光を放つ。そう、この光が、『私のプリキュア愛』、そのものなんだ!

 

 『見せたげる……私の……『好きの力』を!!』

 

 私はキュアチップを取り出して、ネットコミューンに差し込んだ。

 

 《爪弾くはたおやかな調べ!キュアリズム!!》

 《CURE-RHYTHM! INSTALL TO MEMORIAL!!》

 

 白い輝きが私の体を包み込み、白いコスチュームに変じる。

 音の力を身にまとうこの姿は―――――

 

 『キュアメモリアル!"リズムスタイル"よ!』

 

 真っ白なハートのリングをあしらった"ファンタスティックベルティエ"を取り出して―――――

 

 『ファンタスティックベルティエ・セパレーション!!』

 

 中央から分離して、大きなハートを両手で描く―――――!

 

 『弾けるリズムのファンタスティックセッション!プリキュア!ファンタスティック……ピアチェーレッッ!!』

 

 気合の叫びとともに、ハート型の、白と黄色の2色に燃える炎の輪が放たれた。

 まっすぐにバグッチャーに向かうそれを見たスパムソンは―――――

 

 『フンッ、何をするかと思えば直線的な攻撃だッ!かわせッ!!』

 

 ―――――ごめんね、それは最初の一手。

 まだまだ序の口、なんだから!

 

 《勇気リンリン!直球勝負!!キュアマーチ!!》

 《CURE-MARCH! INSTALL TO MEMORIAL!!》

 『キュアメモリアル、"マーチスタイル"だよ!!』

 

 立て続けに今度はキュアマーチをレジェンドインストールして、さっき放ったピアチェーレを追いかけるように駆け出して―――――

 

 『プリキュア!!マーチシューーーーート!!!』

 

 風の力を込めて、思いっきり蹴り出した。弾速の速いマーチシュートがピアチェーレにあっという間に追いついて、ハートの輪の間を風のボールがくぐっていった。

 ―――――狙い通り!

 風のボールが炎の輪を巻き込んで、黄色と白の炎をまとった、大きな火球と化した。

 

 『何とも奇想的だがッ、それでもかわせば済むことッ!!』

 

 2体のバグッチャーはそれぞれ左右にかわして、その間を火球が突っ切っていった。

 

 『……驚くのはまだこれからっ……!』

 

 私は、3枚目のキュアチップをキュアットインする。お待たせしました、次はこの子!!

 

 《はじけるレモンの香り!キュアレモネード!》

 《CURE-LEMONADE! INSTALL TO MEMORIAL!!》

 『キュアメモリアル、"レモネードスタイル"です♪』

 

 をを!ちょっと昔、行きつけの美容院で『これだけはムリ』と言われた、キュアレモネードのウズマキツインテールが見事に完成してる!

 っと、感動してる場合じゃない、搦め手だぁっ!!

 

 『プリキュア!プリズムチェーーーーーーーーーーーーンッッ!!!』

 

 両手から光の鎖が繰り出され、2体のバグッチャーの『間』をくぐっていった。

 

 『大外れだなッ!!』

 『ううん―――――手応え、大あり!!』

 

 ―――――ガキィーーーン!!

 

 両手に伝わる振動で、『それ』を捉えたことがわかる!あとは―――――"引き戻す"!

 

 『おおーーりゃあーーーーーーっっ!!!』

 

 ここから、私はテレビで見たハンマー投げ選手を思い出しながら、力いっぱいに体を回転させた。両腕と腰からイーネルギーが噴き出して、私の体をコマのように回す。

 そして、勢いよく戻ってきた『それ』は―――――さっき放った『マーチシュート+ピアチェーレ』の火球!

 チェーンでつながれた大回転する火球が、立て続けに2体のバグッチャーの胴体を連続で打ち付ける!

 

 『『バ!バ!バ!バ!バ!バ!バ!バ!バ!バ!バ!バ!バ!バ!バ!』』

 『!!貴官ッ、最初からそれが狙いで―――――ッ』

 『それもっ、あるけどぉぉぉぉーーーーーー!!!!』

 

 私は回転の勢いのまま、はるか上空へと火球を投げ放った。そしてすぐさま、次のキュアチップをセット!

 

 《しんしんと降り積もる、清き心……キュアビューティ!》

 《CURE-BEAUTY! INSTALL TO MEMORIAL!!》

 『キュアメモリアル……"ビューティスタイル"です』

 

 キンキンに冷えてます―――――キュアビューティの氷の力を―――――

 

 『プリキュア…………ビューティブリザーーーーーード!!!』

 

 ―――――"上空"へと発射!!

 

 『フンッ、今度はどこを狙っているッ!?』

 『……どこって、決まってるよ―――――』

 

 その時、ふっと、2体のバグッチャーに影が差した。その影はどんどん大きくなっていって―――――

 

 ―――――どっごおおおおおおおんんんん!!!!

 

 2体のバグッチャーを、超巨大な氷のカタマリが直撃した。

 

 『―――――頭の上♪』

 

 さっき上空に投げた火球を、ブリザードで超急速冷凍、ついでに周りの空気も巻き込んで凍らせて、元々よりもはるかに大きくなった氷のカタマリにして、バグッチャーの頭の上に落とす―――――

 これが今のプロセス。でもまだ終わらない!私は思い切りジャンプして、空中で5枚目のチップを使う!

 

 《きらめく星のプリンセス!キュアトゥインクル!》

 《CURE-TWINKLE! INSTALL TO MEMORIAL!!》

 『キュアメモリアル、"トゥインクルスタイル"!!エクスチェンジ、モードエレガント!!』

 

 プリンセスパフュームにドレスアップキーをセットして、モードエレガントに!

 

 『キラキラ、星よ!プリキュア!トゥインクル・ハミング!!』

 

 星型の輝きを、私はまっすぐに撃ち放った。放たれた綺羅星はバグッチャーを押しつぶしている氷のカタマリに吸い込まれるように命中して、無数の氷の粒を辺りの空間に撒き散らした。

 ―――――さぁ、最後よ。私が選んだ6人目は、あなた!

 

 《キラキラ輝く、未来の光!キュアハッピー!》

 《CURE-HAPPY! INSTALL TO MEMORIAL!!》

 『キュアメモリアル、"ハッピースタイル"!!』

 

 最高に気合をみなぎらせて―――――この技で、キメだ!!

 

 『プリキュア!ハッピーーーィィィ、シャワアアァァァァァァァ!!!!!』

 

 合わせた両手から放たれた光線が、氷の粒に命中して、四方八方に乱反射した。はね返ったハッピーシャワーが無数の細いレーザー状の光の雨になり、2体のバグッチャーに降り注いで、そして―――――

 

 『『デリィ、トオオオオ………………』』

 

 立て続けに、2体のバグッチャーが橙色の光を放って爆散した。同時に元の姿に戻った私の全身から、今までで一番の量の蒸気が放出される。

 6枚のキュアチップ―――――6人のプリキュアの力を借りた連続攻撃―――――名付けて―――――

 

 

プリキュア・マルチプル・リンク Ver.α

 

 『全滅ッ……全滅だとッ……!?4体のバグッチャーが全滅ッ……!!5分も経たずにかッ……!?』

 『30分番組だもん、ちょうど5分くらいで倒さなきゃ♪』

 『くぅぅぅッ……だが見事ッ!見事だッ!!それでこそ我らに抵抗するプ()キュアに相応しいッ!!手駒を無くしたならばッ、取るべき手段は唯一つッ!!戦略的撤退であぁるッ!!』

 

 スパムソンはきちりと踵を返すと、闇色の光に包まれて立ち消えた。そこへ、デーティアが息を弾ませて駆けつけた。

 

 『メモリアル!』

 

 無事でいてくれた―――――つまり、向こうも2体のバグッチャーに勝ったってこと。

 ちょっぴりキツかったけど、でも―――――勝ったよ、デーティア!

 思わず私は笑って、デーティアにピースサインを向けていた。すると―――――

 デーティアも、親指を立ててニカッと笑顔を返してくれた。

 見た目はプリキュア、女の子だけど、笑顔はやっぱり男の子。

 それを見た瞬間、私は―――――

 なんだか、ほっとしてた―――――

 

 ――――――――――

 

 『……出てこない……』

 

 白いバグッチャーが爆発した場所に落ちていた、キュアミラクルのキュアチップを拾い上げてみたけれど、ウンともスンとも反応がない。

 いつもなら、イーネルギーが放出されて、その中からプリキュアが出てきてくれるハズなのに……

 

 《おーい、ミラクル~……?》

 『まさか……4体に分裂させられたせいで……!?』

 

 デーティアの言うとおり、悪影響がないわけがない。現に、キャラがブレまくってたし……

 と、その時―――――

 

 『我が名は"みらくる"!!!!伝説の魔法つかい、プリキュア!!』

 『きゃ!?』

 

 手にしたキュアチップから、右手で左目を覆い隠したキメキメポーズで登場したのは、すっごくノリノリのキュアミラクルだった……

 

 『さぁどこからでもかかってらっしゃい!ジャイアントトードも破繰者(バグリモノ)も!ゾンビも怪人二十面相もまとめて相手しちゃうんだから!!それから美少女のぱ―――――』

 《…………おい。正気に戻ってねーみてーだから、一発殴っといた方がいーんじゃねーか?》

 

 デーティアのイーネドライブから、データがそんなコトを言ったものだから、デーティアは『だ、ダメだよ……』と苦笑いした。

 

 『しっかりして!!あなたは朝日奈みらいちゃん、キュアミラクルだよ~!』

 『……………………!!!!!』

 

 私の声に、ぎょっとしたような表情でミラクルが硬直するのを見た。

 

 『……あなたは……それに…………ここは……??』

 

 ……話を聞くと、今の今まで、ミラクルはほとんど眠っていた状態で、今こうして話すまで、私達のことはわからなかったらしい。

 今までのバグッチャーに囚われたプリキュアと違うみたい……

 私とデーティアが今までのこと、スマホ突然発火事件のことを話すと、『ごめんなさい!』と、ミラクルはぺこりと頭を下げた。

 

 『ミラクルのせいじゃない……ジャークウェブのやつらがやったことだよ』

 『そうだよ!……だから、気にしなくていいからね?』

 『……りんくちゃん……』

 

 自分たちの都合でプリキュアたちをこんなチップに変えて、力を悪用するジャークウェブ……

 『誇りあるプリキュアオタク』として、まったくもって許しておけない!

 

 『よぉ~し!りんくちゃん!ほくとくん!メモリア!データ!わたしもみんなの力になるよ!……マジカルがいないから、ひとりでどこまで協力できるかわからないけど……よろしくね!』

 

 ミラクルの笑顔がきらめきに舞って、青空へと溶けるように消えていった。ピンク色のキュアチップを、私は思い切り、その青空へと掲げた。

 

 『キュアミラクル、キュアっとレスキュ~!!』

 《いっえ~い!!♪》

 

 これで9人目、リーダープリキュアは2人目を救出できた!

 『まほプリ』で最初に助け出せたのがミラクルっていうのも、幸先良くてイイ感じ!

 と、その時―――――

 

 ―――――きらん!

 

 前に、ハッピーをレスキューした時と同じ感覚。今度は12本の髪のテールのうち、左端から2つ目、11番目のテールを手繰ってみると……

 

 『リンクルストーンだ……すっごくちっちゃいけど……』

 

 『まほプリ』のキーアイテムのリンクルストーン。そのうちのひとつ、『ダイヤ』のストーン。髪飾りサイズに縮小されたそれが、髪の根元にセットされてる……

 まさかこれって……リーダープリキュアを助けると、そのプリキュアのキーアイテムがもらえる……ってこと?

 それと、これの使い道も―――――

 この間、ビューティを助け出した時の技も、キュアデコルがキーになった。つまり、このリンクルストーンも、また―――――

 

 『…………?』

 

 デーティアが、何かに気づいたのか、空に視線を向けた。

 

 『どしたの?』

 『…………ううん、なんでもない……』

 

 デーティアが見ている先には、青空の中に一点だけ、黒く切り取られたようなシルエットが羽ばたいていた―――――

 

 『……カラス……??』

 

 ――――――――――

 

 NPC ??????

 

 ――――――――――

 

 ウチは夢中でシャッターを切っていた。

 一挙手、一投足、その全部が常識を超えていて―――――

 惚れてまった―――――

 

 「確かに……プリキュアゆーてもえぇかもなぁ。ニッポンの女の子は誰もがプリキュアを見て育つ、ゆーらしぃからなぁ」

 

 かく言うウチも、小さい頃は見てたからわかる。ノリがよう似とる。戦うかわえぇ女の子、誰がどう見ても、あれを"プリキュア"ゆーんは間違っとらんと思うけど―――――

 

 「でも……ホンマにあれが、"P"ゆーんやったら……ヘタこくと"みっつー"も動くなぁ。またグチ聞くんはわややわぁ……」

 

 ……おっと、その"みっつー"に用があるんやった、ウチ。こないなトコで油売っとらんと、わざわざニッポンに"戻ってきた"意味あらへんやんか。

 正規の入国ルートじゃ、こないなモン、まず税関で没収やもんなぁ……"あの子"も無茶ブリキッツいわぁ……

 

 『カァ!』

 

 そこへ、ウチの頼れる"相棒"が戻ってきた。

 

 「お~、イヴ、ごくろさん。ほれ、きびなごの煮干しちゃん、好っきやったろ?お食べや~♪」

 

 カラスのイヴは、ウチとは切っても切れない縁がある相棒。ドローン使(つこ)て空撮するよりもよっぽど安心できるわ。

 イヴの首元にくくりつけた小型カメラを回収して、ウチは砂浜を後にする。

 

 「さ、これからは忙しゅうなるでぇ。こん国だけやのぅて、いろんな国のおエラいさん、表に出てこれへんよーなモン……もう動き出しとぉトコもある。……"あのコたち"を中心にして、世界が回り始めたんや―――――」

 

 そう―――――テレビん中から飛び出した、『プリキュア』っちゅう『コンテンツ』は、もぉ止められへん―――――

 このウチも、そのひとりやけど―――――

 ホンマ、えぇわぁ……手元にある写真(キリトリ)一枚でさえ、ここまでそそるんやもん……

 あのコたちからは―――――

 

 「……ピューリッツァーの、ニオイがする」

 

 ―――――STAGE CLEAR!!

 

 RESULT:CURE CHIP No.42『CURE-MIRACLE』

 プリキュア全員救出まで:あと42人

 

【挿絵表示】

 

 TO BE NEXT STAGE……!

 

 『ピカピカぴかりん!じゃんけんポン♪』

 

 ……SAVE POINT




 最後まで大暴走させていただきました今回ですが、ラストになにやらアヤシイヤツが……
 実はまだ続きます!……あまりに長いので、今回はここまで、ということで……
 今回のプリキュアと753大特集の『ライダーキック』、次回予告はまた次で!!

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