インストール@プリキュア!   作:稚拙

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 用語解説

 イーネドライブ(E-NE Drive)

 正式名称は『Emotional NEtwork Drive』。
 4人のプリキュア見習い(メモリア・データ・リカバー・サーチ)の胸にある、ハート形のブローチ状の部分。
 キュアネットやSNS、さらには個人的なメールのやり取りなどに書き込まれた『プリキュアを応援するコメント』を抽出して、イーネルギーに変換、自身の力にすることができる。『プリキュアを応援する人間が多ければ多いほどパワーアップする』という特性から、りんくは『まるで劇場版のミラクルライトみたい』と表現する。
 ファイトスタイルの状態はもとより、リアライズスタイルの状態でも、無線LANに接続可能な場所ならコメントを抽出可能。さらに、リアルワールドの人間の『声援』までも力に変えることができるようになる。

 しかし、プリキュアに対してネガティブなコメントまでも取り込んでしまい、その場合は大幅なパワーダウンにつながり、最悪、戦闘不能に陥ることすらある。
 レジェンドプリキュアではなく、プリキュア見習い4人にのみプログラムクイーンから与えられたが、この、単純なパワーアップアイテムともいえないモノを4人に与えたプログラムクイーンの意図は今もって不明である。

 ――――――――――

 ない……ない……!?

 EPGのBS11、土曜日夜7時30分に、『プリキュア』の文字がない~!?!?
 まさかBS11のプリキュア再放送、ドキプリで終了なんですかぁ……!??(絶望

 BS11……オンドゥルルラギッタンディスカー!!!ウソダ……ウソダドンドコドーン!!!!

 あ、今回、力の限りに書いてたら総計2万字を越えてしまったので、『後篇の前半部』を先に送信!どうぞお楽しみを……

 それと、先日おさらいがてらに過去分を流し読んでたら、『初陣篇』と『追憶篇』にトンでもない矛盾点を見つけてしまい、そのあたりを加筆修正しておりますので、そちらもチェックを……


未来へつながる電子の輝き

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 《データ……やっと、ゆっくりお話しできるね♪》

 《あぁ……待たせちまって、悪ィな》

 《今度はぐーぱんち、無しだよ》

 《……わかってる》

 

 ケーブルでつながれた私と八手くんのネットコミューン。

 私のコミューンのディスプレイの上のメモリアの目から、涙がこぼれた。

 メモリアは思い切り、データの胸に飛び込んで―――――めいっぱい、泣いていた。

 データの目にも、光るものが見えた。

 コミューンの中では感動の再会シーンが繰り広げられているんだけれど―――――

 

 「…………………………」

 「…………………………」

 

 横並びに座った私と八手くんの間には―――――気まずい空気が立ち込めていた……

 私から自分がキュアメモリアルだってきちんと話して、事情を説明しようと思ったのに、この重々しいフンイキはいったい……?

 

 「―――――……やっぱり、ヘンって思うよね……」

 

 ぽつりと、八手くんがつぶやいた。

 

 「え……?」

 「だって……僕、プリキュアのことなんて全然知らないし、女の子が何考えてるか、何が好きかとか、ほとんどわからないし……それに何より……男だし……なのに……なのに、こんな僕が、プリキュアって…………幻滅したよね……男のくせに女の子に……プリキュアに変身して、戦って……絶対ヘンだよね……」

 

 自虐的に、力なく笑う八手くんに、私はあわてて答える。

 

 「そ、そんなことない!だって、初めてキュアデーティアを見たとき……私、キュアっキュアになったもん!」

 「きゅ……キュア……??」

 

 八手くんの目が点になってる。私はあわてて付け足した。

 

 「その……とってもカッコよくって……カワいかった!」

 「!!!!!!!!」

 

 すると八手くんは目を見開いて、のけぞって、胸にドカッと手を当てて、でもってうなだれてしまった。

 

 「は……八手くん……?」

 「カッコいいって言ってくれたのはうれしいけど……カワイイのは……なんか、その……割とショックっていうか……(_ _|||)」

 

 い、いけない……デーティアに変身してるのは、目の前にいる八手くんだということを一瞬忘れてた……それから、『男の子』だということさえ……

 そう、私は、『男心』をまったくわかってなかったんだ……

 

 「ご、ごめんなさい……」

 「い、いや、その……僕こそ……」

 

 また、お互いの視線が離れてく。心の距離感がちっとも近づかない……

 と、八手くんはポケットから何かを取り出した。

 

 「……それって……!」

 「うん……僕が助けた……ふたりのプリキュア……そのキュアチップだよ」

 

 黄色と青のキュアチップ。それぞれのラベルにはキュアレモネードとキュアビートのイラスト。

 レモネードを助けたのは知ってたけど、ビートまで助けてたなんて……やっぱりスゴい!

 

 「キュアビートが言ったんだ……『僕がプリキュアになったことには、必ず意味がある』って……でも、まだ僕にはわからないんだ……僕がプリキュアになった意味って……」

 

 八手くんは、この前も言っていた。『まだこの体に慣れてない』って。私だって、そう。

 私は、プリキュアのことが好きで、今までのプリキュアのことをわかっているから、すんなりと私がプリキュアになったことを受け入れることができたけど―――――

 でも、この子はまだ、自分の『変身』に、戸惑っている。……無理もないことかもしれない。私だって、変身したら男の子になってた、なんてコト、想像もつかないもの。

 私よりも八手くんの方が―――――『変身』の意味が、『重い』んだ―――――

 

 「私も……まだまだ、かな……どうしてプリキュアになった意味なんて、まだわかんない……」

 

 受け入れることはできても、その答えはまだ見つかってもいない。なにしろ、まだ5人しかプリキュアを助け出してないのだから。

 

 「でもね―――――」

 

 それでも、私が『プリキュア』として戦おうって、そう思った理由―――――

 

 「"やりがい"なら、見つけた―――――かな」

 

 それだけは、はっきりと私の心の中にある。

 それを伝えたその時、八手くんの目が変わったような―――――

 そんな風に、見えた。

 

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 ――――――――――

 

 

 ―――――こんな展開、いったい誰が考えたんだッ!?!?!?

 

 この10分ほどで、僕は天国と地獄と、その他ワケのわからない『何か』を一度に味わう羽目になった。

 まず天国。東堂さんと体育館裏でふたりきり。もしかしたらと思ったけれど―――――

 地獄に変わった。僕がキュアデーティアだということが、東堂さんにバレていた。

 もはや人生が終了した、この世の終わりのハルマゲドンが来たと感じた心境に、彼女が打ち明けた真実―――――

 

 東堂さんこそが、もうひとりのプリキュア―――――キュアメモリアルだった―――――

 僕と同じ、プリキュアになった『誰か』がいることはわかっていたけれど、その『誰か』が、よりにもよって東堂さんだなんて……

 正直、この事実をどう受け止めたらいいのか、全然わからない……

 僕の好きな人が―――――僕と同じ『プリキュアユーザー』だったことが……

 うれしいのか、それとも不安なのか―――――

 

 彼女が、プリキュアが好きだということは知っていた。でも、まさか『ここまで』とは思ってもみなかった。

 でも、これで合点がいくこともある。キュアメモリアルが、プリキュアとその力を熟知していたのは、『東堂さんだった』からなんだ。

 やっぱり、彼女のような子が、プリキュアには相応しいんじゃないかと思う。バグッチャーのことも、助けたプリキュアたちのことも、よく知ってるんだから。

 それに引き換え、僕はプリキュアのことを何も知らない。キュアチップの使い道もわからない。僕が戦ううえで頼れるのは、拳法とライダーの技だけ。プリキュアらしく、ないと思う。

 僕がなりたかったのは『ヒーロー』であって、プリキュアじゃない。そして何より―――――

 

 僕は、男なんだから―――――

 そんな僕を、東堂さんはまっすぐに見つめてきた。

 

 「私―――――"ホンモノ"になるって、決めたから」

 「……ホン、モノ……?」

 

 東堂さんは頷いて、メモリアとデータがいるスマホを見ながら言う。

 

 「ジャークウェブは、この世界を狙ってる……この世界に生きてる人たちの暮らしや、命を狙ってる……でもこの現実の世界には……マンガやアニメとか、特撮モノに出てくるみたいな、ピンチの時に都合よく助けてくれるようなヒーローも、ヒロインもいない……この街やこの世界を守ってくれる"都合のいい存在"は、"画面の向こう"や"本の中"にしかいない……『四角く縁取られた、ニセモノ』ばかり―――――だから、ね。私、『ホンモノ』になろうって決めたの。私にその力があって、他の誰にもできないのなら……みんなにとっての―――――『ホンモノのヒロイン』に、ね」

 「……!!」

 

 東堂さんの、深い紅色の瞳には、確かな決意が宿っていた。そしてその瞳に、僕は既視感を覚えた。

 そう―――――初めてキュアデータと出会ったあの日、データが『サーバー王国最強のプリキュア』と言った時の、あの目―――――

 『本物の目』だ―――――

 

 「八手くんってさ」

 「え」

 

 僕の顔をのぞき込むように、東堂さんがずいと顔を近づけてきた。思わず僕はどきりとする。

 

 「特撮モノが好き……だったよね?」

 「う、うん……」

 「じゃあ、知ってる?……アニメの『プリキュア』が出来たのも、仮面ライダーやウルトラマンがモトだって」

 「そうなの!?」

 

 それは知らなかった。『変身モノ』という共通点はあれど、片や特撮、此方アニメ。つながりが見えないけれど、この話には興味がわいた。

 

 「『プリキュアの生みの親』って呼ばれてるプロデューサーさんがね、『小さい子は、男の子でも女の子でも、公園や幼稚園では飛び跳ねて遊びたいはず』って考えて……それで、プロデューサーさんが子供のころに見てた仮面ライダーや、ウルトラマンに発想を得て、『プリキュア』を作ったの。『女の子だって暴れたい』ってね」

 

 確かにそうだと僕も思う。子供のころ、幼稚園でライダーごっこや戦隊ごっこをして遊んだのはいい思い出だ。でも、女の子がライダーごっこや戦隊ごっこに参加しているのを、あまり見た記憶がない。

 『女の子だって暴れたい』、か……最近になって女性ライダーが増えてきたのも、同じ理由なのかもしれないとも思った。

 

 「それに、それだけじゃないよ?プリキュアたちは、『ヒトとして大切なコト』を教えてくれるの」

 「大切なコト?」

 「うん……何が良い事で、何が悪い事か……小さな子たちにも、わかりやすいようにね。私がプリキュアたちに教えてもらったこと、数えきれないくらいだよ」

 

 『子供向け番組』としてあるべき姿―――――なんだろう。それは、仮面ライダーシリーズやスーパー戦隊シリーズとまったく同じに思えた。

 そして、同時に脳裏をよぎった言葉があった。

 

 「『ヒーロー番組は教育番組である』……」

 「……それって?」

 「うん……『仮面ライダーV3』や『快傑ズバット』で活躍した俳優さんの言葉だよ。愛と、勇気と、正義と、希望……そういったモノを与えるのがヒーローだって、その俳優さんも言ってた……プリキュアも、同じなんだね。東堂さんの言葉を聞いてると、そう思えてくるよ」

 「そう!そうなの!それにね、その時々の女の子の憧れに、スタッフの人たちも応えて、作品を作っていってるの。ダンス、お花、音楽、おとぎ話、着せ替え、お姫様、魔法つかいに……それから、パティシエ!」

 

 ひときわ目を輝かせる東堂さん。その目は、プリキュアに熱中するのんと、同じ目だった。

 ―――――ここまで東堂さんの話を聞いて、わかったことがある。

 プリキュアも、特撮ヒーローも、根底にあるモノは『同じ』なんだ、と。

 子供たちの『憧れる姿』で、格好良く、美しく戦って平和を守り、小さな子供たちの笑顔をつくって、熱狂させて、大人になるために、大切なことをわかりやすく教えてくれる―――――

 

 ―――――プリキュアだって、立派な"ヒーロー"じゃないか―――――

 

 「……もっとも、まさか"別の世界"に、『本当に』プリキュアがいて、戦ってたなんて、夢にも思わなかったけどね……スタッフの人たちもビックリするだろーなぁ……」

 

 東堂さんは、笑いながらスマホ―――――東堂さんは『ネットコミューン』と呼んでる―――――に視線を落とした。

 詳しい事情はレモネードとビートから訊いた。彼女たちはアニメのキャラクターと瓜二つの見た目だけれど、『実在の人格』として、キュアチップの中に確かに存在している、と。

 でも、彼女たちが体験した戦いの物語は、何故かアニメ化されて、毎週日曜日の朝8時30分に放送されている―――――

 だったら―――――『アニメのプリキュア』って、なんだろう……?

 その、『スタッフの人たち』は、『どこ』から彼女たちの話を知ったのだろうか……?

 そんな僕の思案を知ってか知らずか、東堂さんは真剣に語る。

 

 「もう私達にとって、『プリキュア』は『アニメじゃない』……確かな『ホンモノ』……でも、その力をこの現実の世界で使えて、ジャークウェブと戦うことができるのは、私と、八手くん……あなただけ」

 

 東堂さんは、僕の顔を今一度真っ直ぐ見据えて、こう言った。

 

 「だから―――――私と一緒に……『ホンモノのプリキュア』に、なろっ!」

 「ホン、モノ……」

 

 確かに、僕は『ホンモノ』を夢見た。

 それが、四角い画面の中だけの『ニセモノ』だと知っても、それでもひた向きに僕は『ホンモノ』を求め続けた。

 結果、『ホンモノ』に類する力を僕は手にした。でも―――――

 

 「いいのかな……男の僕が……プリキュアでも……」

 

 こう思う。"キュアデーティア"は、『ホンモノの力を手にしてしまったニセモノ』なんじゃないか、と。

 プリキュアのことを何も知らない僕が、女の子ですらない僕が―――――

 プリキュアのことを熟知している東堂さんのパートナー足り得るのだろうか……。

 まだ、僕の心には葛藤が残ってた。

 

 「……さっきの、『プリキュアの生みの親』って呼ばれてるプロデューサーさんは、こんな言葉も残してるの―――――」

 

 東堂さんは、確信を持っているかのように、笑って言った。

 

 

 「『子供たちが熱狂してくれるなら、男の子プリキュアもアリ』って♪―――――」

 

 

 僕の固定観念と葛藤を破壊するのに、その一言は十二分だった。

 

 「で、でも、それって、あくまでも子供たちが熱狂してくれるなら、でしょ……!?男の僕がプリキュアだなんて、熱狂どころか―――――」

 「少なくとも―――――私は熱狂したよ」

 「……!」

 「初めてキュアデーティアを見たときね―――――すっごく"イイ"って思った……!心の底から……!!この私を……"誇りあるプリキュアオタク"の私が"キュアっキュア"にされたんだから、プリキュアが好きな子供たちだって、みんな『スキ』になってくれる!絶対に!だから、大丈夫!」

 

 子供たちの憧れの存在になること―――――それは僕の夢に相違ない。

 そして、ヒーローとは違う存在と思っていた『プリキュア』が、本当は仮面ライダーやスーパー戦隊と何ら変わらない、『子供たちにとってのヒーロー』だったことも教えてもらった。

 僕の……僕たちの力で、この世界に迫る脅威を打ち払い、子供たちにとっての―――――否、世界にとっての『ホンモノの希望(ヒーロー)』になれる―――――

 

 それが、僕が手にした"ヒーローの権利(チカラ)"―――――

 

 東堂さんは決意を以って、この戦いに臨んでいる。

 『プリキュア』という『存在』にも、『作品』にも、敬意を持って接しながら。

 スーパーヒーローの存在しないこの現実で、『ホンモノ』を、体現するために。

 そんな彼女は、僕のことを信じて、表も裏も、受け入れてくれようとしている。

 『プリキュア』と、それを取り巻くすべての事物に対する、『誇りある愛着』を持っているが故に―――――

 

 「僕で……釣り合いが取れるのか、わからないけど―――――それでも……いいのかな……?」

 「もちろん!!」

 

 東堂さんは目を輝かせながら、僕の両手をぎゅっと握った。思わずどきりとする……!

 

 「っていうか、八手くんじゃないとダメ!あのカッコカワイさは、八手くんがデーティアじゃないとダメだもん!」

 「……僕じゃ、ないと……?」

 

 僕でなきゃ、東堂さんは納得しないってコト……!? 

 こ……これは……―――――

 

 ここで応えなきゃ―――――漢じゃないッ……!!!

 

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 ――――――――――

 

 「僕はッ……―――――」

 

 八手くんが何かを言いかけた、その時。

 

 《りんく!バグッチャーの気配がする!》

 

 コミューンの上に立つメモリアが、私を見上げていた。

 

 《近いぜ!今の今まで……どうして気づかなかったんだ……!?》

 

 データの様子を見て、八手くんはコミューンを手に取りながら言ってきた。

 

 「東堂さん……!」

 「うん!」

 

 ふたりで体育館裏から校舎に戻ろうとすると、信じられない光景がそこに広がっていた。

 

 「なに……コレ……!?」

 

 私が見上げる大泉中学校の校舎が―――――一切合切、凍りついていた。

 まるで、校舎全体が巨大な氷柱で覆われたような、そんな姿に変わり果てていた……!

 

 「凍ってる……!?」

 「むぎぽん……そらりん……!!」

 

 思わず私はコミューンのメッセを開いた。すると、すごい数のメッセが、リアルタイムで増えていた。

 そのすべてが、『教室や校舎から出られない』、『寒いけど、暖房が使えるから何とかしのいでる』、そんな内容だった。

 

 「よかった……みんなは無事みたい……」

 

 ほっと胸をなでおろす私だけれど、八手くんはその表情を緩めてはいなかった。

 

 「これだけのコトをするヤツは……アイツしかいない……!」

 

 そして、振り返りながら叫んだ。

 

 「いるのはわかってる―――――ネンチャァァック!!」

 『……流石にもうパターンだねェ……やることなすことモロバレかァ』

 

 その名の通りの粘着質な声と、爬虫類じみたイヤらしい笑み。

 また、学校を巻き込んで、こいつ……!

 

 『御覧の通りサ。"美しい"だろぉ?』

 「こんなことをして何が楽しい……!!」

 「同感……!」

 

 八手くんの言葉に同意です。

 そのとき、ネンチャックの隣に何かが降り立った。

 

 『―――――バグッチャー……。』

 

 そう呟くのが聞こえた。でも、それはいつものバグッチャーとは違った。

 ずんぐりむっくりで、それなりにデカいバグッチャーとは違って、とても細身で、すらりとしている。

 体のところどころに氷で彩られた装甲をまとって、右手には氷の剣を持っている、まるで中世の騎士のようなバグッチャーだ。

 

 『……これは"彼女"の作品サ。すべてを静謐(せいひつ)に閉じ込める、絶対零度の氷の棺……次は君達、プリキュアの氷像を作りたいそうだよ?』

 「……冗談じゃないぜ……!」

 

 心外とばかりに、八手くんはコミューンを取り出した。あれ?"ぜ"って?

 

 「ありがとう……東堂さん」

 「ふぇ?」

 

 八手くんは、やさしい声で呟くように言った。

 

 「キミのおかげで……"ホンモノ"を目指すことに……踏ん切りをつけられたのかもしれない……」

 

 その表情に、強い決意がにじんでいたのは気のせいじゃない。きっとこの子も、私とは別の形で、『アニメとは違う現実』を見たんだ―――――

 でなければ、『戦うこと』にこんなに強い決意で臨めないから―――――

 そして彼は、ネンチャックに険しい視線を突き刺す。

 

 「戦うよ、僕も……こんなヤツらの為に、これ以上誰かの……大切な人たちの涙は見たくない……みんなに笑顔でいてほしい―――――」

 

 まるで決意表明のように言葉をつづると、最後は私に笑いかけながら―――――

 

 「だから見てて―――――僕の、変身……!!」

 

 なんだろう―――――キュアっときた……!

 それも、いつもと違う、『ガツンとくるキュアキュア』……!?

 まさかコレって―――――『カッコカワイイ』じゃなくって、純粋な―――――

 『カッコいい』っていうモノ―――――……?

 

 「行くよ、データ!」

 《よっしゃぁ!!》

 

 ためらうことなく、八手くんは水色のキュアチップをスロットに挿し入れた。

 

 《START UP! MATRIX INSTALL!!!》

 「プリキュア!マトリクスインストール!!」

 《CURE-DATA! INSTALL TO HOKUTO!!》

 

 青白い光のタマゴに包まれて、その中で八手くんとデータが、拳をぶつけ合わせるのを見た。

 瞬間、データの体が青白い光の粒子になって、八手くんの胸から入っていく。

 

 ―――――私の変身と、ほとんど同じ。

 でも、ここからが違った。

 

 拳法をやってて、細いながらに筋肉のついた八手くんの身体の輪郭が、丸みを帯びた感じに変わっていく。ふわりと髪の毛が伸びたその姿は―――――女の子。

 本当に……"女の子になってる"んだ……。

 

 体を覆っていた光がインナースーツに変わって、イーネルギーの粒子がコスチュームに変わって、彼の体を次々に包んでいって、長い髪が髪飾りでサイドテールに結われて、純白のマフラーがしゅるっとはためいた。

 そして、光のタマゴがはじけて、彼―――――ううん、"彼女"は、左腕を引いて右ひざを曲げ、右腕を地面に叩きつけながら、まるで"スーパーヒーロー"のように降り立った。

 

 《CURE-DATEAR!! INSTALL COMPLETE!!!》

 

 すっくと立ちあがる、キュアデーティア―――――

 ここまでの流れを見ていた私は―――――

 

 「…………………………(☆ ☆)」

 

 感動のあまり言葉を失っていた……

 なんか、一生モノの記念すべき光景を見た気がしました!

 プリキュアの変身シーンをこの目で見られるなんて、夢にも思いませんでした!!

 この感動を忘れないうちに、私の脳内フォルダに永久保存……っ

 ……あ、自分の変身は自分で見られないから……ネ?

 

 『……この姿……まだ、僕は自信が持てないけど……でも……キミとなら……僕は―――――』

 「カワイかった!サイコーだった!!プリキュアだった!!!」

 『(ぐさっ!)……カ、カワイイ………………』

 

 あっ!デーティア、ちょっとしょげちゃった……

 そっか……八手くんにとっては『カワイイ』って言われるのはショックだっけ……気をつけなきゃ……

 

 「気を取り直して……メモリア、行くよ!」

 

 キュアチップをコミューンにキュアットイン!コミューンが、ピンク色の光を放つ。

 

 《START UP! MATRIX INSTALL!!!》

 「プリキュア!マトリクスインストーーール!!」

 《CURE-MEMORIA! INSTALL TO LINK!! CURE-MEMORIAL!! INSTALL COMPLETE!!!》

 

 カッコカワイく、変身完了!

 こうしてふたりそろって変身して、いっしょに戦える……なんか、感無量だぁ……!

 

 《《INSTALL@PRECURE―――――INTERACTIVE LINK!! Ver.2.0!!!》》

 

 その時、私とデーティアのネットコミューンから、聞き覚えのない電子音声が同時に響いた。

 頭の中に、言葉が流れていくのがわかる。

 

 『東堂さん…こ、…これって……』

 『うん……!やるよ!』

 

 私達は、示された言葉の通りにふたりで名乗りを上げながら、体にあふれる衝動のまま、ポーズをキメる!

 

 

 『記し、念じる、無限の未来!キュアメモリアル!!』

 

 『渾然一体……涙祓一心!キュアデーティア!!』

 

 

 

未来へつながる電子の輝き!

 

キラメくふたりは!

 

インストール@プリキュア!!

 

 

 ピンクと水色のイーネルギーが、きらめいて、瞬いて、私達を彩り飾る―――――

 

 『………………………………』

 

 感動のあまり……何も言えねぇ……

 これは―――――決めポーズ!しかも『ふたりバージョン』の!

 メモリアとデータの決めポーズと、言葉もポーズも違う、私と八手くん―――――メモリアルとデーティアだけの決めポーズ!

 プリキュアの決めポーズを、今度はもうひとりのプリキュアと、ふたり揃ってキメられる……

 真の意味で『ふたりはプリキュア』になれたこの日、この瞬間を……

 私、一生忘れません……!!

 

 『…………/////』

 

 一方のデーティアは―――――顔を真っ赤にしていた。

 元々『ヒーロー志望』の八手くんだから、やっぱりはずかしい、のかな……?

 

 『はずかしいけど……なんだろう……この高揚感……』

 

 息を落ち着かせて、デーティアは胸のイーネドライブに視線を落とした。

 

 『スーパー戦隊の名乗りみたいで……なんかカッコいいかも……』

 

 そういえば、戦隊モノもプリキュアみたいな名乗りポーズをしてるんだっけ。彼の琴線にキュアっときた!のかな、今の……

 

 『それにしても……』

 

 デーティアは、なぜか後ろを肩越しに見た。

 

 『爆発、しないんだね』

 『!?プリキュアはポーズ決めても爆発しないよっ!?』

 

 いくらなんでも、それはナイ……

 ちょっと残念がってるデーティアの困り顔が―――――なんかカワイかった、なんて言ったらまたショゲちゃうかも……

 

 『準備は終わったようだね……さ、美しく散らせてあげなよ』

 『―――――シンシン……。』

 

 ネンチャックの号令に応じたバグッチャーは一瞬前傾姿勢をとったと思うと、一度の踏み込みで一気に間合いを詰めてきた。

 

 『速ッ―――――』

 『―――――ミチ……。』

 

 右手の剣を、容赦なく私たちに向かって横薙ぎに振るった。反射的に、私とデーティアは体を仰け反らせてかわした。

 でも、紙一重なのがわかる……最初の一撃で、確実に私たちを倒しに来たこのバグッチャー、見た目だけじゃない、実力も今までのバグッチャーと段違い……!?

 

 『一度間合いを離そう!コイツ、危険だ!』

 『で、でもっ―――――』

 『フリツモル……。』

 

 息もつかせないほどの剣戟が私を狙ってくる!氷色の斬跡が視界を横切り、縦に切るたび、まさしく背筋が凍ってくようだ。

 

 『東堂さんッ!!』

 

 そこへデーティアが割って入った。でも、バグッチャーは左側から不意に放たれた右のストレートを、左腕一本で受け止めていた。

 

 『お前の相手は……僕だぁっ!!』

 

 連続でパンチやキックを繰り出すデーティアだけど、そのすべてが左腕だけでいなされてる……

 その様は、前にネット動画で見たことのある、武道の演武のようだ。

 一瞬、デーティアの攻撃が途切れたその時―――――

 バグッチャーが氷の剣を逆手持ちにして、横殴りにデーティアを捉えた。

 

 『ぐぅあっ!?』

 『デーティアっ!!』

 

 慌てて、私はふっ飛ばされて倒れたデーティアに駆け寄った。

 

 『大丈夫……このくらい……!』

 

 くやしさが表情ににじんでる。拳法の使い手のデーティアでさえ、いいようにあしらわれるなんて……

 ここまでの使い手……そして、氷の剣。このバグッチャーの力の源にされているプリキュアは、あの子しか考えられない―――――

 

 『れいかちゃん……このバグッチャー、キュアビューティを取り込んでる……こんなに強い理由はこれしか……!』

 『キュア……ビューティ……?』

 

 プリキュアのことを知らないデーティアのギモンには、メモリアが答えてくれた。

 

 《『スマイルプリキュア』のサブリーダー、"冷綺(れいき)のビューティ"……この前のプリキュアーツで"せんせい"と決勝で戦った、チョー強いプリキュアだよぉ……!!》

 

 プリキュアーツ決勝進出者!?それって事実上、"強さ"に限った話、上から2番目ってコトだよね……!?

 確かに、アニメのビューティはスマプリ最強ってくらい強かったけど、ホンモノのビューティも強かったんだ……!!

 

 『強いのか……そうか……』

 

 そこでなぜかデーティアは、口元をニヤリと緩めた。

 

 『なら余計に燃えるね……!』

 『も、もえ……!?』

 『全力でぶつからなければ勝てないというのなら望むところ……!格闘やってるからかな……ココロが熱いよ』

 

 やっぱり八手くんって、スゴい。相手が『強い』ことを聞いても、『こわがる』どころか、『やる気が出る』なんて。

 

 『そうね……怖がったり、しり込みしても始まんない……!全力全開で、ぶつかるだけっ!』

 

 ―――――私も、負けてらんない!

 

 『東堂さん……』

 

 私の様子を見て安心してくれたのか、デーティアはふっと笑った。でも―――――

 

 『ダメだよっ』

 『え……?』

 

 私はデーティアの口元に右の人差し指を突き付けた。

 

 『変身してる間は、"東堂さん"呼び禁止っ!ちゃんと変身したあとの名前で呼んでね?』

 

 さっきから気になってたんだよね、それ。プリキュアに変身したら、めったなコトでは本名出しちゃいけないんだから。

 デーティアはちょっと驚いた表情になったけど、すぐにふっと笑ってくれた。

 

 『昭和ライダーや昔のスーパー戦隊みたいだね……了解、"メモリアル"♪』

 

 さぁ、仕切り直しよ。ここからは私たちのターン!

 

 『んじゃ―――――目には目を……スマプリにはスマプリで!!』

 

 私はキュアットサモナーに、ピンク色のチップを呼び出した。素早く手にとって、ネットコミューンにセットする。

 

 『キュアチップ、『キュアハッピー』!キュアット、イーーン!!』

 《キラキラ輝く、未来の光!キュアハッピー!》

 

 《CURE-HAPPY! INSTALL TO MEMORIAL!! INSTALL COMPLETE!!》

 

 髪型が三つ編みツインテールに変わって、羽根のような意匠がちりばめられた、ピンク色のコスチュームが私を包む。

 

キュアメモリアル、"ハッピースタイル"っ!!

 

 初めての、リーダープリキュアのレジェンドインストール!

 なりきる私も、一層気が引き締まる……!

 

 《いい?わたしの力の源は、とにかく"気合"だよ!》

 『おk!エンジン全開で行くから!!』

 

 心の中のハッピーに答えたこの言葉をバグッチャーが受け取ったのか、相手は氷の剣を杖のように、地面に突き立てた。すると―――――

 

 『……アナタノ―――――カガミ……。』

 

 まるでささやきかけるようにバグッチャーが呟いた瞬間、突き立てられた氷の剣を中心に、地面が円状に凍りついていった。その凍りついた地面から、人型のような氷柱がそそり立って、一様にバグッチャーと同じような形になった。

 それも、『氷人形』は一体だけでなく、視界に入るだけでも20体以上が生み出されている。さながら、姫騎士を守る近衛兵―――――

 

 『第43話のジョーカー戦の応用ってこと……!?でも……!!』

 

 『スマプリ』の43話―――――キュアビューティがその実力を最大限に発揮した回。その時に見せた技に、これは似ている。

 でも、アニメではたくさんの氷の剣を作り出していたけれど、私たちの目の前で繰り出されたこの技は、氷の兵士を作り出してる。そのすべてが、"ビューティバグッチャー"と同じ氷の剣を携えている―――――

 

 『コッチ、デスヨ……。』

 

 その言葉とともに、"ビューティバグッチャー"は氷の剣をこちらに向けた。それを合図にしてか、氷の兵士は一斉に、一糸乱れぬ隊列で猛進してきた。

 

 《来るよ、りんくちゃん!!》

 『数で負けても気合じゃ負けるかぁぁ!!』

 

 そう自分に活を入れて、私は最初に突きを繰り出してきた氷の兵士を、回避しながらの裏拳で粉砕した。立て続けに回し蹴り、右ストレート!後ろから同時に2体―――――それなら両肘エルボー!

 倒しても倒しても―――――凍った地面から次々と涌いて出てくる氷の兵士。それなら、これだぁ!!

 

 『気・合!!全・開だぁぁぁぁ!!!』

 

 全身から沸き立つピンク色の輝き。その輝きを両手にあつめて―――――

 

プリキュアッ!ハッピィィィィ……シャワァァァァァ!!!!

 

 一気に解き放つ、キュアハッピーの十八番!!一直線上の氷の兵士を砕いて、光の奔流が突き進む。

 

 『メモリアルッ!!』

 

 デーティアの声が聞こえた。同時に、左右から剣を振りかぶる氷の兵士たちが迫る。

 しまった―――――当然なんだけど、ハッピーシャワーは『前』にしか撃てない。左右と後ろは無防備―――――

 

 『だと思ってるなら!!』

 

 それはバンクを使いまわしてるアニメの話だよ……!!

 ここは現実―――――アニメじゃない!!

 今しがた放出しているハッピーシャワー。ハートを形作っている両手を、あえて離して―――――!!

 

プリキュア!ハッピーシャワァァァ……!!

ローリングーーーーー!!!!

 

 大きく腕を開いて、水平に広げて―――――回転しながらハッピーシャワーを照射する!

 ハッピーシャワー自体は片手ずつからの発射になるから攻撃力は落ちるけど、その分全方位をカバーできる!

 

 《すごい……!こんな使い道があったの!?》

 

 ハッピーもさすがに思いつかなかったみたい。『スマプリ』だと、あまり大人数を相手にする機会がなかったから、かな?

 これで氷の兵士は一掃できた!残りは本体だけのハズ……

 

 『タダシキ―――――ミチ……。』

 

 "ビューティバグッチャー"がまた、氷の剣を地面に突き立てた。すると、今しがた片付けたはずの氷の兵士が、再度凍った地面から生成された。

 つまりは―――――やり直し……

 

 『ええぇ~!?』

 《せっかく全部やっつけたのに~!!》

 

 心の中のメモリアが悔しがる。それは私も同じだよ……

 

 『あ……あれ……!?』

 

 っていうか……なんか、力が入らない……!?

 これって、スマプリのキメ技の欠点―――――一発撃ったら体力が持っていかれるアレ……!?

 

 《りんくちゃん、無理しないで!》

 『わかってる……交代するよ、ハッピー……!』

 

 こうなったら、連続でレジェンドインストールを使って、どうにか切り抜けるしかない……!

 私はキュアットサモナーに、トゥインクルとマーチのキュアチップを呼び出した。まずトゥインクルのミーティアハミングで―――――

 

 『ブリザード……。』

 

 "ビューティバグッチャー"の左手から、強烈な冷気が放たれた。ビューティブリザード……!!

 

 『きゃ!?』

 

 思わず避けようとしたその時―――――キュアチップがブリザードに引っさらわれた……!!

 

 『しまった!?』

 

 2枚のチップが凍った地面に落ちて、回転しながらすべって行った、その先には―――――

 

 ……SAVE POINT




 劇中でりんくが引用した『子供たちが熱狂してくれるなら、男の子プリキュアもアリ』という言葉、ホントは『こんな趣旨の言葉を言ってた』的なニュアンスなんで、このまんまのお言葉を『プリキュアの生みの親』の御方が仰られていたワケではないのであしからず……

 転がった2枚のキュアチップの行き先、戦いの行く末を描く後篇Bは近日投稿予定です!!

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