インストール@プリキュア!   作:稚拙

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 用語解説

 リアライズスタイル

 リアルワールドに実体化したバグッチャーをデリートするために、プリキュアがネットコミューンを介してユーザーの心身に自分のプログラムを送り込み(マトリクスインストール)、それを受けてユーザーがプリキュアに『変身』した姿。つまりこの姿はプリキュアとユーザー=人間とアプリアンが融合した姿である。
 作中におけるキュアメモリアルとキュアデーティアが、このスタイルに該当する。

 大まかな外見はキュアネットのプリキュアのコスチュームをそのままユーザーに着せたような姿になるが、プロポーションなどの細部は、リアルワールドのユーザーが抱く『理想の女の子の姿』が反映されるという。
 また、ユーザーがたとえ『男性』であろうとも、問答無用で女体化させた上でプリキュアに変身させる。この場合、『理想の女の子』は『理想の自分』ではなく、『理想の異性』をトレースすることとなる。名前も変わり、名実ともに『別人』となる。

 コスチュームは部分部分に近未来的なイメージが採り入れられた、『プリキュアらしさ』をあまり感じさせないディテールとなっている。
 うなじの部分にある『コアドライバ』からコスチューム表面に沿って、イーネルギーを伝達するためのサプライラインが張り巡らされていて、常にほのかな光を放っており、暗所ではLEDファイバーのように輝く。

 腰の3か所・両肘・両脚にあるスリットをオープンしてイーネルギーを放出することで、攻撃力を強化することが可能。キメ技を発動する『フルドライブ』の際、『コアドライバ』が高速回転、全身のスリットが全開放、イーネルギーが光輝く粒子状に放出され、出力をアップさせる。なお、キメ技発動後は全身のスリットから急速放熱を行うため、キメ技発動後のプリキュアにはウカツに近寄ってはいけない。
 他、様々な電子機器にアクセスしたり、干渉したりする能力も持つが、その全容は今もって不明である。
 人格はユーザーから変わらないが、プリキュア『本人』の意識も残っていて、心の中で会話することができ、ユーザーはプリキュアのアドバイスを受けながら戦う。また、お互いの記憶も混合され、両者の経験を基にした行動もとれる。

 ――――――――――

 きみはプリキュアにへんしんできるフレンズなんだね!すごーい!

 ……す、すみません……けものフレンズに語彙力を吸収されそうになってた稚拙です(焦燥
 課金してけもフレ見てたらこっちの手が止まってました……いやはやなんとも。

 さて前回の衝撃のラスト……正真正銘の男の子である八手ほくとくんがキュアデーティアの正体と発覚しました……
 彼が如何にしてキュアデータと出会い、彼女のユーザーになったのか……そして、彼がどうして、男の子の身でありながらプリキュアとなったのか―――――

 そもそも、彼、『八手ほくと』がどんな子なのか―――――

 『インストール@プリキュア!』の、『もうひとつのはじまり』です。

 前後編だけでは書き足りないと判断し、今回は3部作にしました!
 まずはほくとの生い立ちとデータとの出会いを描く『邂逅篇』を送信!!

 追記:公式様が推しているので、『キラキラ☆プリキュアアラモード』の略称を『キラプリ』から『プリアラ』に変更します。今までの投稿分もそちらに改訂しますので、ご了承を……(といっても、一か所しかありませんでしたが(^^;))


第7話 僕がプリキュアになった日 涙を祓う@ほくとの決意!
僕とキュアデータ


 爪弾くはたおやかな調べ!キュアリズムよ♪

 

 りんくちゃん―――――キュアメモリアルといっしょに、私を助けてくれた、もうひとりのプリキュア、キュアデーティア―――――

 でも、この子は―――――

 

 『……僕自身、慣れていくのがこわいな……』

 《今日もナイスファイトだったぜ―――――ほくと》

 

 りんくちゃんと同い年の、男の子―――――八手ほくとくん。

 彼が、キュアデーティアに変身していたの―――――

 

 でもこれには、ちゃんとした理由があるみたい。

 彼の心を……伝えたい想いを、聞いてあげて。

 誤解したまま、お互いのことを嫌いに思ったままで過ごす日々がどんなに苦しいか、私はよく知ってるから……

 

 そうよね、響――――

 

 『インストール@プリキュア!』―――――

 想いのままに、奏でて―――――あなたの、『決意(キアイ)鼓動(レシピ)』を―――――

 

 ――――――――――

 

 BACK LOG HOKUTO HATTE

 

 ――――――――――

 

 『怖かったか……?でも、もう大丈夫だ』

 

 銀のグローブが、僕の頭を撫でる。

 ……たしかにその時の僕は、恐怖を感じていたかもしれない。

 もう、父さんや母さんと会えないかもしれない、という、純粋な恐怖を―――――

 でも、僕は―――――

 

 『こんな目にも遭って、泣かなかったんだな……偉いな、ボク』

 

 泣かなかったくらいで偉いなんて、僕は思わなかった。

 それが、男として当然だって、教えられていたからだ。

 

 「……おとこは……かんたんにないちゃいけないって……とうさんにいわれてるから」

 『そうか……でもな、ボク。まだ、無理をしなくてもいいんだよ。キミはまだ、声を上げて泣くことを許されている年頃なんだ』

 

 "彼"は、その大きな背中越しに、僕に訓えた。

 

 『今は、泣いてもいい。流した涙のひとしずくの分、確実にキミは強くなれる。涙の分だけ、誰かに、優しくなれるんだ』

 「……ないても、いいの……?」

 『ああ、泣いていいとも。そして、キミがいつか大人になった時、涙が簡単に流せなくなったその時―――――強くなったキミのその力、その心で、誰かの涙を祓い、守れる存在に……きっと、なることができるはずだ』

 「それって…………?」

 『そう…………強いヒーローに、必ずなれるさ』

 「………………!!!」

 

 その時が、初めてだったかもしれない。

 彼の言葉が、僕の心を、体全体を、強く、やさしく揺らした――――― 

 

 「あ…………ぁあぁ……う、うぅぅ…………!」

 

 僕はその時、はじめて―――――

 自分の意志で、涙を流し、叫ぶように泣いた―――――

 

 

 「ら……ぁ……らぁいだあぁぁぁぁぁぁーーーー…………!!」

 

 

 大きなその手は、その時の僕には、もっと大きく感じた―――――

 

 

 ―――――仮面ライダー1号―――――

 

 

 その時から、僕にとってのヒーローは、テレビの中だけの存在じゃなくなった―――――

 そして、彼のように強くあろうと決めた瞬間だったんだ―――――

 

 

 ――――――――――

 

 僕の名前は八手ほくと。

 6歳の時にこの大泉町に引っ越してきて、今年で8年目の、14歳、中学2年生。

 父さんと母さん、それからお祖父(じい)さん、妹との、5人暮らし。

 ごく普通の生活を送っていた僕の前に、その子はあらわれた。

 

 あの日―――――中学2年生の、始業式の日―――――

 

 街でキュアネットの大規模障害が発生したあの日―――――

 

 僕の世界は―――――ひとりの女の子に塗り替えられた。

 

 機械オンチで使い慣れないスマホの中にあらわれた、水色のかがやきをまとった、女の子に―――――

 

 

 《―――――お前は、アタシが認めた世界一の男だ!アタシといっしょに、最強のプリキュアになろうぜ、ほくと!!》

 

 

 そして―――――

 

 

 僕は、プリキュアになった―――――

 

 

 ――――――――――

 

    PLAYER SELECT

 

    ??????

    ??????

 ⇒  HOKUTO HATTE

    CURE-DATA

 

 ――――――――――

 

 大会は延期になった。

 顧問の先生が言うには、日程は未定だという。

 でも―――――

 あのまま仕合をしたところで、僕が平常心で闘えるとは、思わなかった。

 部のみんなには悪いけど―――――

 僕は、"それでよかった"と、思ってしまった―――――

 

 ――――――――――

 

 「あ、にぃおかえり~!プリキュアごっこやろ~!」

 

 家に帰り着くと、5歳の妹・ののかが、いつも通りに僕を誘う。

 この子は物心ついた時からプリキュアが大好きで、母さんにせがんではいつもオモチャを買ってもらって、僕を相手にプリキュアごっこで暴れ回る毎日を送ってる。

 

 「プ、リ……キュア……」

 

 その言葉を聞いたとたんに、フラッシュバックする。

 ―――――あの時、あの子に、あの姿を―――――

 

 キュアデーティアの姿を、見られてしまったこと―――――

 

 「……ごめん、のん……また今度」

 「え~~~っっ!!??けちぃ~!」

 

 ロコツに残念がるのんに申しわけなく思いながら、僕は階段を駆け上がり、カバンを自室の机に放って、倒れ込むように畳にうつ伏せになった。

 

 

 ―――――見られた―――――

 

 

 それだけが僕の心を占めていた。

 ずっと秘密にしていれば、秘密を守り切ることさえできれば、ある程度の距離を置きながら、いっしょに戦えると思った。

 そのうちに、『僕が誰か』なんてことを、気にしなくなると―――――

 

 《だから言ったじゃんか……こうなることは予想できてたぜ》

 

 スマホから、データの声がひびく。確かに―――――僕は甘かった。

 当然だ。プリキュアに変身して戦うという、同じ宿命を背負ってしまった者同士、興味を持たない方がおかしいことだったんだ。

 情けない―――――まったくもって、情けない―――――

 

 《どーするつもりよ?……メモリアのユーザー、これから確実にお前に―――――ほくと?》

 

 ―――――泣いてしまっていた。

 

 これからどうする、あの子とどう会えばいい、あの子に嫌われたかもしれない、ならどうすればいい―――――

 ネガティブな考えばかりが頭の中をぐるぐる回り、そういった悪感情は否応無しに、僕の涙腺を刺激する。

 昔から、だ。イヤなことがあったら泣き、痛みに泣き、感動して泣いて―――――

 だから、周りからずっと『泣き虫』と言われ続けて、バカにもされた。

 

 《やれやれ、またメソ泣きかよ……お前ってさ、ホンット涙腺ユルいよな》

 「……うるさい」

 

 大きなお世話だ。これだって、ちゃんとした理由があるんだから―――――

 

 「あの時、僕はライダーと約束したんだ……―――――」

 

 忘れもしない、5歳の誕生日―――――母さんといっしょにデパートに来ていた僕は、誘拐されかけた。

 もう、父さんや母さんに会えないかもしれない―――――そんな絶望の中にいた僕を助けてくれたのは、ちょうどデパートの屋上で催されていた『仮面ライダーショー』に出演していた、仮面ライダー1号だった。

 父さんから「男が簡単に泣くもんじゃない」と教えられていた僕だったけど、この時のライダーの言葉を、今も僕ははっきりと覚えている。

 

 《『泣いてもいいけど、その分強くなって、誰かを守れるヒーローになれ』……だったか?》

 「…………かいつまみすぎ」

 《間違っちゃないだろ?》

 「……でも……それだけが泣き虫の原因じゃ、ない……」

 

 父さんが言うには、この事件の後から僕はよく泣くようになったという。自分でも思う。彼―――――ライダーの言葉が、それほどまでに僕の心に刻み込まれた結果、だろうか。

 そのころから、それまでいやいやながらやっていた『拳法の修行』に、熱心に打ち込むようになった。将来の夢が出来たからだ。

 『ヒーローになること』―――――それが夢だった。

 けれど、小学校の高学年になるころには、ヒーローがテレビの中の架空の存在だということに気づき、それらが『人が演じている存在』ということを知った。

 逆に僕は、それが『すごい!』と思った。CG合成があることも知っていたけど、それでも、大元は『人が演じていた』ということに、僕は感動していた。『人は、本当にヒーローになれる』ことを、その時の僕は知った。それによって、将来の目標は具体的になった。

 

 ―――――"スーツアクター"―――――

 

 画面の中のヒーローを、文字通り命がけで演じ、戦う、みんなのヒーローになれる仕事。それが、僕の将来の夢。

 誰かの涙を祓って、子供たちの笑顔をつくり、守ることができる存在。この世界に存在する『本当のヒーロー』になるために、今も僕は鍛錬を続けている。

 

 《ま、そんなところも含めて、アタシはお前に惚れ込んだんだ―――――》

 

 まるで、小さな女の子、それこそのんぐらいの年頃の子向けのオモチャのような外見に変わってしまったスマホが、ちょこんと直立するのが見えた。

 画面の中のキュアデータは、笑ってた。

 

 《あの日もさ……お前、アタシを見てビビッて泣いてたじゃんか♪》

 「そ、それはっ……!」

 《……ニンゲンって、疑り深い連中ばかりだって聞いてたからさ……あん時ゃアタシも、ひとりっきりになって、ピリついてた……そんなアタシをひとかけらも疑わずに信じてくれたこと……アタシ、うれしかったよ》

 

 思い出す―――――

 2年生の始業式の夜のこと―――――

 

 僕のスマホが、その形相(カタチ)を変えた夜のことを―――――

 

 ――――――――――

 

 BACK LOG HOKUTO HATTE

 

 ――――――――――

 

 街中での喧騒は、その時の僕にとっては無縁だった。

 キュアネットの障害で、大泉町全体がパニックになったその時も、僕の家が停電したくらいで、大した被害はなかった。

 その夜僕は、スマホをどうにかモノにしようと奮闘していた。

 僕は生まれながらの機械オンチで、パソコンを触ろうものなら数分で画面が動かなくなり、ケータイのメール機能も使いこなせず、この間までは通話機能しかないガラケーを使っていたほどだ。

 でも、母さんから半ば強引に機種変更されたのが、この青いスマホ。案の定、どう使っていいかわからない。

 もう2週間ほど、分厚い説明書とにらめっこしながら、友達にも話を聞いて、まるで腫れ物でも触れるように、慎重にいじっていた。

 

 「……通話だけできれば十分なのにな……」

 

 正直、キュアネットの接続だとか、メッセとかよくわからない。

 よく言われる。『お前、昔の人間かよ』って。『この家』の雰囲気も手伝って、僕は相当『昔の人』に見えるらしい。

 それに、僕の家の『特殊性』も、これに拍車をかけている。

 僕のお祖父さんは、『空現流拳法』というマイナー拳法の師範で、父さんは師範代。母さんは道場の経営を任されている。つまり、家族経営の道場一家だ。

 門下生は僕とのんを含めてたったの4人。誰かが総合格闘技の試合に出たりとかしてるわけでもなく、最近の健康ブームに乗っかりたい近所のおじさんたちが習いに来てるだけ。

 その実、かなりの実戦的な拳法であるから、新しく入ってくる門下生のヒトも長続きせずに辞めていく。最近習い始めたのんはともかく、1年以上継続して習っているのは、僕だけだ。

 なにしろ、『人即武具也』―――――つまり、『人体のすべては武器になる。故に"丸腰"という概念は存在しない』なんて、6歳のころからやってる僕から見ても無茶苦茶すぎると思う。

 こんなのを健康法として売り出そうとする母さんは無謀としか言えないよ……

 

 「次は……キュアネットの設定か…………」

 

 説明書と画面を交互に見ながら、僕は慎重にスマホを操作した。

 えぇと……自動設定……?でもこういうのってキチンと自分でしないとなぁ……機械任せはどうにも……

 

 「……あっ……!?」

 

 画面にある、ヘンな絵に触れてしまった。アイコン、だっけ……?未だにどれがどの機能なんだかわからない……そのうちの一つ、水色の、ハートの形のアイコン。『Data.pqd』と名前が振ってあった。

 ど、どうしよう?もし何かヘンな機能だったらどうしよう……!?乗り気じゃなかったとはいえ、せっかく買ってもらったものだし……

 

 《ん~…………よく寝たァ…………》

 「え……!?」

 

 スマホから、アニメに出てきそうな女の子の声がした。やっぱりヘンな機能だったの……!?

 すると、水色のアイコンが、うねうねと形を変えていった。や、やっぱりコレって……

 

 「うぅぅわぁぁッッ!?」

 

 僕は思わずスマホを取り落とし、部屋の隅まで後ずさった。恐怖で涙が出てきた。

 

 《ん……ぁ……?……ぉうゎッ!?な、なんだお前!?どーしてアタシの部屋にいんだ!?》

 「そ、それはこっちのセリフだよ!!っていうか、ここは僕の部屋だぁっ!よく見てよ!!」

 

 見ると、アイコンは完全に女の子の形に変わって、3D映像のように画面の上に立った。

 見た目は……3頭身の、最近のアニメとか地域おこしとかによく使われてる『萌えキャラ』みたいだ。

 

 《あ゛!?…………あ~……そっ、か……わ、悪ィ!アタシ、ちぃ~っと寝ボケてたみたいで……この端末、なんか寝心地よかったからさァ……》

 

 女の子は僕の部屋を見渡して、ココが自分の部屋でないことを理解したのか、笑って謝った。

 

 「なんなんだよ……キミ……」

 

 その女の子は、半泣きの僕の顔を見上げて、自分の胸をたたいて言った。

 

 《アタシは、キュアデータ!サーバー王国のプリキュアだ!》

 

 それを聞いて、僕は思わず口に出していた。

 

 「プリ……キュア……?」

 

 それって確か、日曜日の朝、仮面ライダーの前にやってる女の子向けアニメだったはず。ただ、僕はプリキュアを見たことが無く、せいぜいのんが釘付けになって見ているのを横目で見ているくらいだ。

 元々僕はアニメに興味がなく、興味があるのは仮面ライダーやスーパー戦隊などの『特撮ヒーロー』ものだ。子供のころ、ライダーに助けられてからは、夢中で見るようになっている。

 

 「悪いけど、アニメに興味ないんだ……」

 《はぁ!?アニメ!?おめ何言ってんだ!?アタシはホンモノのプリキュア!サーバー王国最強のプリキュアなんだぜ!?》

 「最強、ねぇ……」

 《まぁ……今は国も無くなっちまって、帰るトコもない一匹狼ってヤツだけどさ……やるコトあって、キュアネットを旅してんだ》

 「それがどうして僕のスマホにいるんだよ」

 《……なんかココ、居心地よくってさ……ちょっと寝入っちまってた……ずっと一人旅してっとさ、たまには羽休めってのもしたくなんのよ》

 

 そう言って語るこの子―――――キュアデータの顔は、どこか疲れているようにも見えた。僕は思わず訊ねていた。

 

 「一体、何があったの?よかったら、話だけでも聞くよ」

 《にっ……!!ニンゲンがアタシに同情なんざ……ッ!……》

 

 僕と目が合って、キュアデータは顔を真っ赤にした後、力なく笑って肩を落とした。

 

 《まぁ……これも何かの縁か……いいぜ……お前、アタシが初めて会ったニンゲンだし……ちょっとだけ、アタシの話に付き合っておくれ……》

 

 ――――――――――

 

 それからキュアデータは、ことのあらましを話してくれた。

 キュアネットの奥、平和だったサーバー王国に突如として、ジャークウェブという侵略者が押し寄せたこと。

 51人のプリキュアが立ち向かったが、奮戦及ばず敗れたこと。

 落ち延びたキュアデータは、このサーバー王国の危機を現実世界に伝えて、力を貸してくれるという人間―――――"ユーザー"と契約するために旅をしている―――――と。

 

 《そういうワケでな……一か所にとどまってたら、ジャークウェブの追手が必ず来る……奴等はアタシたちを捕えるためなら、まわりのモノやニンゲンたちなんざ、なんとも思わないクズ野郎どもの集まりだ……一刻も早く、ユーザーを探さないといけねぇんだ……》

 

 ここで僕は疑問に思った。

 

 「ねぇ、その"ユーザー"って、誰でもなれるものなの?」

 《あ?……あ~……そーゆーの、聞いてるヒマなかったからな……ま、たぶん誰でもいーんじゃねーの?》

 

 それなら―――――僕は素直に口にした。

 

 「だったら、僕、なろうか?」

 《バッ!?》

 

 意外に思ったのだろうか、キュアデータは狼狽していた。

 

 《あ、あのな!?フツーこーゆー話、疑ってかからねぇか!?ダマされてるとか思わねえのかよ!?》

 「普通ならそうかもしれないけど……でも、キミは言葉づかいほど、ひねくれてるとは思えないんだよね」

 《ァ゛!?》

 「だってさっきキミ、ここを自分の部屋と間違えた時……素直に謝ってくれたでしょ?根っからのひねくれ者なら、こんなに素直に謝れないなって、思って」

 《う……///》

 「それに……キミは、『最強』って言ったよね」

 《ああそうさ!それがどーかしたかよ?》

 「……キミが『最強』って言った時……キミの目が本気だったのを見た」

 《……!》

 

 『強くなりたい』と言って、僕の家の道場の門を敲いてくる人はワリと多かった。でも、そんな人に限って長続きしなかった。『強くなる動機』が、不純だからだ。そんな人たちを見てきた僕は、いつしか『強さ』を語る人の目を見るだけで、その『動機』の『傾向』がわかるようになっていた。

 この子がさっき、自分を『サーバー王国最強のプリキュア』だと言った時、その目には、確かな『光』が宿っているように、僕は見えた。少なくとも、『自分のためだけ』に強くなろうとしている目じゃなかった。

 

 「詳しくは……キミが話してくれるまで訊かないけれど……でも、キミが強さを求める覚悟は、あの時受け止めさせてもらったつもりだよ」

 《……………………》

 

 彼女は、信頼に値する。『強さ』を求める彼女の目は―――――本物だ。

 

 《……お前、名前は?》

 「え……?」

 《名前聞いてんだよ……!いつまでも『ニンゲン』じゃ、どの『ニンゲン』かわからねぇだろ!?》

 「……僕の名前は……ほくと。八手ほくと」

 《ほくとか……いい名前じゃんか♪》

 「それで、どうやったらユーザーになれるの?」

 《いやぁ、それがさ……アタシも詳しいことは―――――ぉ》

 

 その時、この子の『目』が変わった。焦点の定まっていない、別人が乗り移ったような、うつろな目になった。

 

 「……どうしたの?」

 《ゆーざーけいやく。たっぷしながら、となえて。『ぷりきゅあ・おぺれーしょん』》

 

 まさしくさっきまでとは別人のような、感情の一切こもっていないような声だ。同時にスマホ画面の端に、新しいアイコンが出てきた。"たっぷ"って、確かアイコンを"押す"んだったっけ……

 

 「えっと……『プリキュア・オペレーション』……だっけ?」

 

 こう言いながら、僕はアイコンに触れた。

 ―――――あ、データが指示したのと手順が逆だった。触りながら言葉を言う、だったよね……

 

 《CURE-DATA! ENGAGE!!》

 

 と、画面の中のキュアデータが、青白い光に包まれ、光の球体と化した。ほどなくその球体がはじけて、さっきまでの3頭身の姿から、5頭身のすらりとした姿に変わったキュアデータが現れた。

 

 《おろ……!?アタシ、どうなって…………おわ!?カラダが!?》

 

 閉じていた目をゆっくりと開くと、自分の変化にたいそう驚いていた。まさかさっきのこと、覚えてないんだろうか……?

 

 「成功したみたいだね、契約」

 《お前……契約のやり方、知ってたのか!?》

 「知ってたのかって……キミが教えてくれたんだよ……」

 《アタシが!?…………ま、いっか。結果オーライみたいだし……》

 

 彼女もよくわかっていないみたいだ……なんだったんだ、さっきのは―――――

 

 「……うわ!?」

 

 考えをめぐらす暇を与えず、今度は僕のスマホに異変が起きた。青色のスマホが水色の光に包まれたと思うと、その水色をまとったデザインへと変わった。

 目の前で、それこそライダーや戦隊のドラマの中で、CGや合成で表現されるような現象が起きて、驚いた僕は思わずスマホを取り落としてしまった。

 

 《おい!あぶねーだろ!?》

 「ご、ごめん!……でも……スマホが……」

 

 スマホを拾い上げた僕は、その見た目に愕然とした。

 

 「なんだよ、コレ……」

 

 色だけではなく、ところどころがリボンやレースのような意匠が組み込まれた、それこそ『プリキュアのオモチャ』のようなデザインに、僕のスマホは変貌を遂げていたのだった。

 のんだったら喜びそうだけど……こんなスマホ、中学2年の男子が持ち歩くようなモノじゃない……

 

 《ほぇ~……なんか、スゴいな》

 「スゴいなって……どうしてくれるんだよ!?多分コレ、キミと契約したせいだよ!?」

 《あ、アタシにあたんなって!?アタシだってどーしてこーなったのかわかんねぇんだよ!?……まぁ、関係ないとは言い切れねーけど、さ》

 「……勘弁してよ……」

 

 僕はぐったりと脱力して、自室の畳に寝ころんだ。

 すると、スマホの中のキュアデータが言ってきた。

 

 《……ありがとよ》

 「え……?」

 《……ありがとよって言ったんだ!……その……さ。見ず知らずのアタシと、こんなにあっさり契約してくれて、さ》

 

 見ず知らずだけれど、彼女の目は口ほどにモノを言っていた。

 

 ―――――『最強』にならなきゃならない、理由がある―――――

 

 そんな彼女の目を、裏切れないとも思った。

 『戦士』である彼女の戦いを少しでも手助けできればと、この時の僕は思っていた。

 そして、『本物の戦士』たる彼女の戦いから、僕が『本当のヒーロー』になるために、少しでも何かをつかんで学びたいとも。

 

 でも、この時の僕はまだ、何も知らなかった。

 心のどこかで、『画面の向こう側』の出来事だと、そう思っていた。

 

 あの日―――――あの時までは―――――

 

 ……SAVE POINT




 キャラクター紹介

 八手 ほくと

 自分の夢のため、拳法修行と自己鍛錬に情熱を燃やす、14歳、中学2年生の男の子。
 プリキュアに関しては全く興味ナシ。彼が熱中しているのは特撮ヒーローもの、特に仮面ライダーが大好き。
 かつて、誘拐されそうになったところを仮面ライダーショーのスーツアクターに助けてもらったことがあり、それをきっかけに仮面ライダー、ひいては特撮にハマり、彼らのように強くありたいと決意した。
 将来の夢はスーツアクターで、平成ライダーシリーズで主役ライダーのアクターを務める、『ミスター仮面ライダー』T氏は彼の憧れ。
 マイナー拳法である『空現流拳法』の使い手であり、そのあたりの不良も一ひねりにできる実力を持つ。
 学校にはさすがに『拳法部』なんてモノは無いので、空手部に所属。大会でも上位に食い込む実力者である。
 祖父・三郎は空現流拳法の師範で、父・拳四郎は師範代、母・優里亜は道場経営を一手に引き受けている道場一家である。

 線が細く、大人しげな印象だが、キレると怖い。
 やると決めたら、最後までやり通す芯の強い性格。決断力が強く、中途半端や優柔不断が大嫌い。
 だが恋愛となると話は別らしく、中1の入学式で、隣のクラスの女の子に一目惚れして以来、気持ちを伝えることもできない悶々とした日々を送っている。
 涙もろい面も持ち、感動のあまり泣き、悔しさのあまり泣くなど涙腺がとことんユルい。
 ルックスがいいため割とモテるが、片想い中であるため、今までの告白はすべて断っている。

 体力はあるのだが勉強は苦手。特に重度の機械オンチで、最近のIT機器の扱いにはとことん疎く、ようやくスマホが最低限使えるようになった。
 家族内で当番制で家事を回しているため、炊事・洗濯はお手の物。料理も上手いが、昔のトラウマが原因で、『お菓子』だけは上手に作ることができずにいる。
 妹・ののかとは大の仲良しで、家では良きお兄ちゃん。よく『プリキュアごっこ』で悪役をやっている。
 お向かいのこむぎとは小学校入学以来の幼馴染で、『むぎ』と呼んでいる。

 ――――――――――

 こうしてほくととデータは出会い、『最強』への道を歩み始めました。
 そして―――――運命の初陣は、また次回で。

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