川村 さち
5歳の幼稚園年長組。
ゆめの妹。自社コンテンツでもあるプリキュアシリーズの大ファンであり、毎週日曜8時30分からはテレビにかじりつくようにプリキュアを見ている。
将来は財団Bの中でのし上がり、大好きなプリキュアのコンテンツをさらに拡大させ、ゆくゆくはプリキュアの巨大テーマパークを建設、一日貸し切りで遊びまくるという、5歳にして壮大な野望を胸に抱く。
姉譲りのプライドの高さと、歳にそぐわぬ計算高さを併せ持つ将来の大器であるが、感性は年相応で、普通に泣いたり怖がったりする。
スマホを持たされてはいるが、ほとんど使い方がわからず、執事のクインシィにほとんど投げっぱなしでいる。
クインシィ
5歳の幼稚園年長組。
この春からさちの執事となった、ギャリソンの妹。本名は『時田 いいこ』。
本来はメイドとしてさちに仕える予定だったが、クインシィは兄であるギャリソンに憧れ、彼と同じ執事がやりたいと駄々をこねたため、男装して執事となった。
5歳にして『男装の麗人』となったわけだが、流石にこの年齢だと誰がどう見ても女の子とわかる。
普段はさちと同じ幼稚園に通い、公私ともにさちに仕えている。
実はさちをプリキュアファンの道に引き込んだ張本人で、さち以上のプリキュアファンである。
この歳でスマホを使いこなし、スケジュール管理までこなしていて、執事の素質はギャリソン以上。
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な……長い。なぜこんなに長くなるんでしょーか……
キュアデータ本格登場ということで、気合を入れたらすさまじい字数に……
というワケで今回は、『後篇の前半』を『後篇A』ということでキュアっと送信します!
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授業が終わったりんくは、誰もいない学校の図書室で、キュアットタブを開いてた。
「ご相談……ですの?」
タブの中には、あたしと、ロゼッタ、マーチ、トゥインクルが勢ぞろいしていた。
あれから、あまり元気のないりんく。ほくとっていう男の子の言葉が励みになったみたいだけれど、出会った頃の元気なりんくには程遠かった。
りんくは、伏し目がちにロゼッタに言った。
《うん……あのね……自分がプリキュアだって……本当のことが言えない事って……みんなは、つらくなかったの……?》
……??あたしには、りんくの言ってることがよくわからなかった。ロゼッタもマーチも、トゥインクルだって、『プリキュア』なのに。
あたしはトゥインクルに訊いてみた。
「ねぇ、本当のことって、なぁに?」
「あ、そっか……メモリアは『サーバー王国で生まれたプリキュア』だもんね……よくわかんないのかナ……?」
「りんくが時々呼んでくれてるけど……あたし達には、プリキュアとしての名前と、人間としての名前……ふたつの名前があるの」
「ワタシの場合、『キュアロゼッタ』はプリキュアとしての名前……ワタシの本当の名前は、『四葉ありす』、なのですわ。周りの方々に危害が及ぶことを防ぐために、ワタシたちがプリキュアであることは、隠し通さねばならなかったのですわ」
同じように、マーチは『緑川なお』、トゥインクルは『天ノ川きらら』っていう、にんげんさんみたいな名前を持ってることを教えてくれた。
そして、自分がプリキュアだって、他のにんげんさんに教えちゃいけないことも。
う〜ん……名前がふたつあるって、なんだか不便じゃないかなぁ?
「―――――……本当のことを打ち明けられないことが苦痛でなかった、と言えば、それはウソになりますわ……学校のお友達や、先生方はもちろん、お父様にもお母様にも、打ち明けられませんでしたもの……肩の荷が下りたのはあの戦いの最後の局面、でしたから……」
「あたしも……家族に黙ってるのってキツかったな……一度、どうしようもなくって、弟や妹たちの前で変身した時があったけど……『この後どうしよう』って本気で思ったからね……みんなが『夢』だって思ってくれて、正直よかったって思ってる……」
「アタシの場合は……やっぱ割と、不自由が多かった、かな……変身しなきゃ!って思っても、カンジンなところで視線があったり、人前だったりってことがあったしね……最後の最後で、ノーブル学園のみんなの前で変身したんだけど……あの時はディスピアが学園に迫ってて、例外って言ったら例外、だったし……」
ロゼッタ、マーチ、トゥインクルが、思い出話のように昔のことを語ってくれてる。
でもみんな、つらそうな表情をしていた。
《そうだよね……私だけじゃ、ないんだよね……ホントのことを言えない悩みって……わかってたつもりだったのに、いざ自分がこうなると……なんか……私だけが、みんなとは別の世界に連れていかれちゃったような……それこそ、アニメの世界に入っちゃったような……そんな感じがする……》
なんだかりんくが、プリキュアになったことがうれしくなくなってるみたいに、あたしには見えた。
ガマンできなくなって、あたしはりんくに問いかけていた。
「ねぇ……りんく……りんくは、プリキュアのこと、キライになっちゃったの……?」
《え……?》
「プリキュアのみんなのこと……りんくは『あにめ』で見てたんだよね?でもりんく、『あにめ』のこと、キライになったんじゃないかなって思って……でも、プリキュアのことはキライじゃないよね……?あたしのこと……みんなのこと……キライじゃ、ないよね!?」
「メモリア……」
あたしはトゥインクルに向き直って言った。
「トゥインクル……みんなも……どうして、りんくはつらそうにしてるの?みんなもどうしてつらそうなの……!?」
あたしだけが、わからない。
あたしだけが、みんなの気持ちがわからない。わからなくって、涙が出てくる。
「あたし……りんくの……みんなの力になれないの?それって、あたしが見習いだから?一人前の、プリキュアじゃないから?ねぇ……!?」
その時―――――あたたかい感触。
「トゥイン、クル……?」
あたしはトゥインクルに、"ぎゅっ"とされてた。
「ほんっと……メモリアはいい子だね♪そこまで、りんりんやアタシたちのことを考えてくれてるんだもん♪」
「その気持ちが……りんくさんやワタシたちの力になりたいというその言葉だけで……ワタシたちにとっては万の味方を得たようなモノですわ♪」
トゥインクルとロゼッタは、やさしくそう言ってくれるけど……でも―――――
《大丈夫だよ、メモリア―――――ありがと》
「りんく……」
コミューンの画面越しに、りんくの指がそっと、あたしの頬に触れる。
《生まれてこの方14年、誇りあるプリキュアオタクのこの私が、アニメのこと……ましてプリキュアのことを、キライになったりするわけないじゃん。うれしいんだよ?私。アニメの中にしかいなかったって思ったプリキュアたちが、こうして私の目の前にいるんだし。これもみんな、メモリアのおかげ、なんだよ?》
「でも……りんく、つらそうだよ……あたしといっしょにプリキュアになったこと―――――イヤなの?」
《ち、ちがうよ!……私をプリキュアにしてくれたことには、本当に感謝してるよ?だから、大丈夫……!》
りんくが無理して笑ってるのが、なんとなくわかる。
あの時―――――りんくの中に入った時、りんくの想いも、あたしといっしょになった。
心からプリキュアのことが大好きで、困っているにんげんさんを放っておけない、前向きで、優しい女の子。
それが、戦って何が起きたのかを知って、りんくの心が揺れている。
あたし―――――また、何もできないの、かな―――――
「――――――――――!」
あたしのイーネドライブが、どくん、と脈を打った。この気配は……まさか―――――!?
「……ジャークウェブ!?」
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メモリアの言葉に、身構えた私。
まさか、学校にまでやつらが来たってこと……!?
誰もいない、しんとした図書室。その天井の四隅や柱には、今月のおすすめ図書や行事予定などの案内を表示するディスプレイが備え付けられている。
私はネットコミューンを持って、席を立った。
「メモリア……!」
《うん!》
メモリアは素早くキュアットタブからコミューンに移った。いつでも、メモリアをキュアネットに送り込めるよう、準備はできた。
―――――ガコンガコンガコンガコン!!!!
「っ!?」
突然、窓の防火シャッターが立て続けに降りてきて、図書室が真っ暗になった。視界がふさがれた……!!
コミューンの光をたよりに、私は図書室の出入り口のドアを開けようとしたけれど、電子ロックがかけられていた。さっきまでは普通に開いてたのに!
私達は真っ暗な図書室に―――――閉じ込められた。
《りんく……!》
私を気遣うメモリアに、「……大丈夫だから……」と返しながら、どうにか脱出できないかと策を練る。
おばあちゃん特製アプリの中に、何か使えるアプリが無いかと思った、その時―――――
《プリキュアがもっと上手に戦ってりゃ、おれの妹はケガせずに済んだんだ!!》
香川くんの声だった。心臓が、強い脈を打ったのを、私は感じた……―――――
「……え」
《返してよ!お母さんを返してよ~~!!》
《地獄だ……この世の終わりだぁ……!!》
《この先……私、どうやって暮らしていったらいいの……?》
図書室の中のディスプレイから、様々な人の声が流れてくる。まさか、この声って……
そうだ……!
これは、昨日の戦いで、『ナニカ』を失った人たちの声だ。大切な人、見知った光景、慎ましいいつもの暮らし……昨日のひと晩で、そんな『当たり前』を傷つけられ、失ってしまった人の嘆きの声―――――
《そう……すべてはプリキュアのせいサ。プリキュアのせいで、人間たちは住処を奪われ、生き甲斐を奪われ、そして……命さえも奪われた……あぁ……なんて悲劇、何たる惨劇!ホンット、どこの誰なんだろうねぇ?そのプリキュアさんはサぁ……?》
「…………やめて……!!」
私は思わず両膝をつき、コミューンを取り落として耳を塞いだ。でも、『声』は耳を塞いでも、図書室中にこだまする。
ごめんなさい……本当にごめんなさい……!私が、浮かれてたから……
『現実』を生々しく語る『声』に、私の『決意』が大きく揺らいだ。
私―――――私、は―――――
《違うと思うよ》
「……!?」
塞いだはずの耳の隙間から、ひとりの男の子の声が入ってきた。
《"守るため"に戦ってるのなら、誰であろうとも、全力なんじゃないかな》
この声……八手くんだ。
地面に取り落としたコミューンからだった。画面が、音声の録音・再生アプリに切り替わっていて、そこから八手くんの音声だけが流れていた。
もしかして―――――……メモリア……?
《どんなに全力でがんばっても、助けられない命があるし、救いの手が届かないことだってある……》
《本当に助かりました!ありがとう!》
《天女様ですじゃ……ありがたやありがたや……》
《ぷりきゅあ、ありがとう~!!》
《……だから僕は、昨日のプリキュアを責める気にはなれないよ》
八手くんだけじゃない。今朝見たテレビで、プリキュアに助けられたという人たちの声や、クラスのみんなが話していたプリキュアの話題を、メモリアは再生アプリで流してくれていた。
「…………そう、だよね」
―――――私が、プリキュアになった理由。
つい昨日だったのに、心を突き動かされて、もう忘れかけてしまっていたコトを、今、はっきりと思いだす。
―――――メモリア……私、出来ることは何でもやる……!そうしないと、この世界もどうなるかわからないもん……!
―――――私、何もできないのはイヤ!
無力な現状を変えるために―――――私は、ためらわない!
……私は何もできなかった。だから、『何かがしたい』と思った。
だから、『何が起きるかわからない』、マトリクスインストールだって、ためらわずに実行できた。
ただ見てるだけの無力な自分を、捨て去りたいと思ったから、だ。
だから―――――
《プリキュアが戦ってくれなかったら、もっと被害が広がっていたかもしれないし……》
こう思ってくれる人も、出てきてくれた―――――
そうだ、ためらわない―――――
私が戦うことで、少しでも誰かの希望になれるのなら―――――
《昨日のプリキュア、ヒーローっぽかったから》
私にとっての『プリキュア』がそうであったように―――――
私が、誰かにとっての『プリキュア』になれるなら―――――!
もう、迷ったりなんか、しない―――――!!
「すぅ―――――」
私は思い切り息を吸った。そして―――――
「うううあああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
腹の底から、心の底から、魂の底から―――――
吼えて、やった。
《!?》
「はぁ……はぁ……はぁ……ふぅ……。」
両手に、力が戻ってきた。そして私は、
「"ココロデフラグ"、完!了ーーーっっ!!」
《りん、く……?》
見ると、落っこちたままのコミューンから、メモリアがきょとんとして私を見上げていた。
「ごめん!私、どーかしてた!ちょっと立ち直るまで、時間かかった!」
私が落ち込んでから立ち直るまでには、いろいろと『要素』が必要になる。
落ち込む理由を覆せるだけの言葉、モノ―――――それらがそろった時、魂の底から叫んで、心の中に詰められた様々なモノによって『断片化』して、うまく働かなくなってしまった私の心を、一気に整理―――――『デフラグ』する。
それを私は―――――『ココロデフラグ』と呼んでいる。
これが出来るまでには、時と場合によって差がある。1~2時間で出来る時もあれば、長くて2~3週間かかることもある。
今回の場合は、詰められたものが多かったけれど、覆せるだけの要素もまた、同じくらい多かったことが要因、だと思う。落ち込んでから9時間で、デフラグができた。
だから、もう大丈夫!!二度とこんな鬱展開はしません!!だってコレ、プリキュアだよ!?日曜朝8時30分だよ!?小さな女の子たちが見てるのに、鬱展開なんかして喜ばれると思う!?……まぁ、何回かはやらかしてたケドね……
「いつもどおりにキュアっキュアでトバして行くから、応援よろしくね!!」
《りんく、誰とお話してるの?》
《うふふ……♪あの時のマナちゃんを思い出しますわ♪》
タブの中のロゼッタが、くすくすと笑うのが見えた。っていうかこのココロデフラグ、そのマナちゃんが教えてくれたこと、なんだ。
ドキプリの31話で、無力な自分に、すごく悲しくて、くやしいと号泣したキュアハート。でも、その後で泣いてスッキリしたって、立ち直った。
それを見た私が、落ち込んだ時には思いっきり泣いたり、叫んだりすることでうっぷん晴らしをするようになったのが始まり。かといってマナちゃんと同じ方法じゃだめだって思って、自分なりに模索して出来上がったのが、ココロデフラグ、というわけ。
《ば……バカな……!!ここまでして何故『堕ち』ないんだい!?人間の精神構造は解析済みだというのに……!!》
図書室のディスプレイの中から、うろたえる男のヒトの声が聞こえる。私はそのディスプレイをびしっ!と指さして言ってやった。
「私達子供ってね……落ち込みやすいけど、立ち直りも早いんだから!ましてや、アンタみたいな陰湿なやり方なら、なおさらね!女子中学生甘く見ないでよね!!」
《お・おのれ……!!》
「メモリア、準備おk!?」
拾い上げたコミューンのメモリアに呼びかけると、まるで憧れのヒーローかヒロインを見る小さな子供のような、キラキラとした視線を向けてくるメモリアがいた。
「……メモリア?」
えぇと……見習いとはいえ、ホンモノのヒロインであるプリキュアから『ヒロインを見るような視線』を向けられるって……これってなんか、逆じゃないですか?
《りんくって……りんくって、やっぱスゴイ!》
前から思ってたけど、メモリアって、まるで『妹』みたい。時々甘えん坊で、時々私をぐいぐい引っ張って―――――
プリキュアに憧れて、プリキュア見習いになって、今ではプリキュアのみんなから、『妹』のようにかわいがられてる。
思えばさっきの相談の時だって、この子は私のために泣いてくれた。私のために何かしたいって、本気で心配してくれた。そして、私が追い詰められた時、プリキュアを応援してくれたみんなの言葉を再生して、私を励ましてくれた―――――
私を本気で想ってくれてるメモリアに―――――私も、応えたい!
「……ありがとね、メモリア」
《……行ってくるね、りんく!》
《CURE-MEMORIA! ENGAGE!!》
私はメモリアを、図書室のキュアネットへと送り出した。
この暗闇でさえ、もう私にとっては怖くない。
この電子の輝きが、私の心を繋ぎ止めてくれるから―――――!
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本棚がたくさん並んでいる空間に降り立ったあたしの前に立っていたのは、髪の長い、ちょっとインキなフンイキの男のヒト。
「……アラシーザーじゃない……?」
その男のヒトは、ニヤリと笑って挨拶をした。
「お初にお目にかかるねぇ、キュアメモリア。アラシーザーから話はかねがね聞いてるよ。ボクはネンチャック……ジャークウェブ四天将のひとりサ」
《『ハトプリ』のコブラージャっぽいね》
りんくがそうつぶやいた。りんくは似てるヒトを見たことあるのかな?
「君をつぶすのに、アラシーザーは出し惜しみをしたからねェ……早速で悪いケド、とっておきのキュアチップを使わせてもらおう……」
ネンチャックが取り出したのは、ピンク色のキュアチップ。そして、本のようなオブジェ。それらを放り投げて―――――
「聖なる幸運の光よ!!その輝きを闇に染め、白紙の未来を黒く塗り潰せ!!バグッチャー、ユナイテェェーーーションッッ!!!」
ワルイネルギーと一緒くたにする。あっという間に大柄な、丸っこい姿となって、あたしの前に地響きを発てて着地した。
「バグッチャァァア~~~プップ~~!!」
……なんだか語尾がヘンだと思った。次の瞬間、そのバグッチャーは全身に突き刺さった『本』を一斉に放った。
「なに……!?」
その本がバサッと開いて、ピンク色のレーザーが、数十冊の本から一斉に放たれた。
「わぁぁ~~!?!?!」
あたしの視界を、無数に切り裂く光の線が細切れにしていく。避けきれない!!
最初に左脚をカスられ、今度は右手、左肩……!一発目を避けても二発目、二発目を避けても三発目には必ず当たっちゃう……!
《……防御ならロゼッタ……避けるならマーチ……ど、どうしよう!?》
あたふたするりんくの顔が視界の隅に入る。どうしたのりんく!?まさか使うキュアチップを迷ってるの……?
「ッハハァ!!この無数のレーザーを避けられる道理はないサ。キュアネットを埋め尽くす死の光……君はいつまで『踊りきれる』かなァ……見物だね、アッハッハッハッハ!!!」
《うっさいわねコブラージャモドキ!!ってかコブラージャよりもインシツでヤなヤツ!!絶対好きになれないタイプ!!》
り、りんく……早くなんとかしないと、こっちももたないんですけど……!?
―――――イタッ!?右の太腿にまともに喰らった……!
「呆気ないけど終わらせようか。……アイツはともかく、こっちのプリキュアは虫ケラ以下だったか。つまらないねェ」
「ウルトラ!キアイ!!シャワワワワワーーーーー!!!」
たくさんの本がバグッチャーの前に集まり、エネルギーをチャージし始めた。さっき喰らった右脚が思ったより痛くて、うまく動けない……!!
このまま、やられちゃう、の……!?
ピンク色の光が、あたしの視界を眩しく染める―――――
「うぉぉぉぉりゃああああああーーーー!!!!」
その時―――――女の子のシャウトがした。
瞬間―――――斜め上から、誰かからのキックを加えられたバグッチャーが真横に吹っ飛ぶのが見えた。
何が起きたの……?訳もわからず、痛い足をこらえて立ち上がるあたし。そこには―――――
「…………ったく……こんな簡単にピンチになってどーすんだ?キュアブラックが泣くぜ?」
青白い、イーネルギーの輝き。勝気な口調。飾らないショートヘアー。
間違いない―――――そこに、いたのは―――――
「元気してたかよ?……メモリア」
うそじゃない。
ホンモノだ。
画像じゃない、本物の―――――
「…………キュア……データ」
……だった。
《この子が……もうひとりの、プリキュア見習い……》
つぶやくりんくの声。あたしのハートが、バクバク鳴ってる。
うれしく、うれしくて、たまらなくって……―――――
「データ~~♪!(*´Д`)」
思わず駆け寄っていた。駆け寄って、ぎゅっとして、再会を―――――
「……ブヮァッキャロォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!(怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒)」
―――――ドゴォォォン!!(1カメ、データ側から)
―――――ドゴォォォン!!(2カメ、真横から)
―――――ドッゴォォォォォォォォン!!!!!!!(3カメ、メモリアの背後側から)
=◯)♯○3).・;'∴
……ふぇ?
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CURE-DATA
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メモリアの顔面にデータの渾身の右グーパンチが叩き込まれ、メモリアは(なぜか)キリモミ回転して天高く吹っ飛び、どこぞのバトル系少年漫画のように、頭から地面にドシャア!!と落っこちた。確かこういうの……『車田落ち』っていうんだっけ……
「えーーーーーーーーーーーーー!?!!?!?!(;゚Д゚)」
……じゃなくって!!が、顔面攻撃!顔面攻撃ですよ奥さん!?本家プリキュアでは絶対タブーの顔面に、それも全力グーパンチですよ!?感動の再会早々何してんですかぁっ!?!?
《…………で、データ……前が見えねエ》
上体だけを起こして、メモリアが言う。っていうか、アニメっぽい顔面陥没顔だ。本家プリキュアなら絶対許されない顔だ。コレが小説でホントよかった……。
《ユルッてんじゃねェ、メモリア!!ここは戦場!敵がいる戦場だ!!『プリキュアたる者、決して油断をする事勿れ』……!!アタシのお師さん―――――キュアホワイトの訓えだ!!》
《……データ……》(ぽこん!)
あ、顔が元に戻った。さすがはキュアネットの中、こんなアニメ表現もアリか。
それにしてもキュアホワイト、トンでもないお弟子さんを育てたモンですなぁ……
データはメモリアにゆっくり歩み寄ると、手を差しのべた。
《行くぜ。感動の再会はコイツをぶっ倒して、中のプリキュア助け出してからだ》
メモリアは勝気に笑って、その手を取った。
《うん……!》
《再会を祝して景気づけだ……アレ、一発行っとくか!》
《OK、忘れちゃいないよ!》
メモリアとデータは、ふたり揃って名乗りを上げる。
背中合わせに、笑顔でポーズ!これって、プリキュア恒例の"アレ"だ!!
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
(りんく、無心でスクショ連打中。)
……はッ!!?ご、ごめんネ!?つい夢中で……
それにしてもカッコカワイイ!!カッコカワイすぎる!!フィギュアがそのまま動いてポーズを決めてるような質感!!
初代プリキュアや2代目プリキュアを思わせる古き良き名乗り文句、キュアっキュアです!!!
ていうか、この2人のチーム名、初めて聞いた。『インストール@プリキュア』かぁ……ありそうでなかったサイバー系のプリキュアチーム、イイ感じかも!
《出てきたねぇキュアデータ!!キミが来るのを待ち焦がれてたよ……!》
《そのエサにメモリア使ったってのか!?ケッ、趣味悪ィ》
ホントこの子、プリキュアらしからぬ口の悪さだ。さっきのアレもそうだけど、ボーイッシュというか、姐御肌というか、オラオラ系というか……
イメージカラーが青のプリキュア……『青キュア』に、こんなタイプのプリキュアはほどんどいない。似たようなタイプだった『プリアラ』のキュアジェラートも、ここまで口は悪くなかったし……
《でもよネンチャック……今日はメモリアもいるんでな。あいにくアタシは負ける気しねェんだ。速攻で決めさせてもらうぜ!》
データはバグッチャーに向かって全力でダッシュした。ちょ、真正面から真っ向勝負!?迎え撃つバグッチャーが身構える。
《カガヤク!キアイ!スマイルバグッチャ~~!!》
なんだかポジティブな言葉ばっかり言ってくる、なんとも元気で前向きなバグッチャーだこと。
あれ?ウルトラとか、キアイとか、聞き覚えがある。それにこのレーザー攻撃、ピンク色の『光』。メモリアと似て非なる、『光』……
「まさか……!!」
その時私は、このバグッチャーにとらわれているプリキュアの確信を得た。
まさかこんなにも早く、『51分の12』のひとつが―――――
私達の前に姿を見せるなんて!?
「メモリア、このバグッチャーにとらわれてるプリキュア、わかったよ―――――十中八九間違いない……キュアハッピーだよ」
《えぇぇっ!?》
メモリアも驚いていた。当然だよね……
《『スマイルプリキュア』のリーダー、"
メモリアは、胸のイーネドライブをぎゅっと握っていた。
《今度こそ……今度こそ、助ける……!待ってて、ハッピー……!》
《そうと決まりゃぁ必勝必殺だ!!行くぜ、相棒!!》
その時にはもう、データがバグッチャーに肉迫していた。
データが誰かに呼びかける。すると、データの周りに複雑な矢印がナビゲートされた。
空飛ぶ本から撃ち掛けられるレーザーを、データはその矢印のルートに沿いながら避けていく。
この矢印、もしかしてデータのユーザーがナビしてる?……そうなら、凄い。あのレーザーの光を、全部見切ってデータに指示を飛ばしてるんだから……
《ほらほらどうした!?一発もカスりゃぁしないぜ!?よっと!》
視界の外から発射されるレーザーも、くるりと回って避けている。右に左に、くるくる回るその戦闘スタイルは、まさしくキュアホワイトのそれだ。
《威勢はいいけどサ、ボクたちだけにかまけてていいのかなァ?》
ネンチャックが見下した視線を送ったその時、何冊かの本がデータの横をすばやくすり抜けていった。
《ッ!メモリア行ったぞ!!》
しまった!メモリアはさっきのダメージがまだ残ってる!今の足でまともに動けるの!?
見ると、案の定!メモリア、立ててはいるけど動きが悪い……!
そこへ容赦なく撃ち掛けられる本からのレーザー照射……!!
「メモリアぁっ!!」
思わずコミューンに、私は叫んでいた。こんなにあっけなくやられるなんてナシだよね……っ!?
唖然とした私の目の前で、メモリアの体を数発のレーザーが貫通した―――――
「………………!!」
思わず私はぎゅっと目をつむった。……おそるおそる、目を開くと……
あれ!?メモリアは無事!!というか、傷ひとつ負ってない!?
さっきの無傷って、どういう―――――
そう思った次の瞬間、文字通りに目を疑う光景があった。
……メモリアが、かき消えた。
―――――どーなってるの!?
《……引っかかってくれたね》
別の場所に、ドヤ顔のメモリアが立ってる!?
それに―――――
こっちにも、あれ!?こっちにも!?
「メモリアが7人に増えてる~~~!?」
《知らなかった?あたし、もともと『撮影』のアプリアンだよ?映像の編集・再生はお手の物!こんなふうに、ね!》
7人の中のメモリアのひとりがそう言うと、そのメモリアのとなりに、まったく同じ姿かたちのメモリアが現れた。
まさに分身の術!こんな裏技隠し持ってたなんて、やるじゃん!
《くうぅ……!バグッチャー、まとめて薙ぎ払え!!》
《ハップップ~~!!!》
バグッチャー本体からも含めて、浮遊する本からもレーザーが撃ち掛けられる。でもそれらはすべて、『虚像』のメモリアに命中して、本物には一切命中していない。
バグッチャーを取り囲んで、かく乱する8人のメモリアについていけない様子のバグッチャー。そこに―――――!
《おぉりゃぁッ!!》
データのローリングソバット!バグッチャーの胴体を、真一文字に切り裂く豪快な蹴り技だ。吹っ飛ぶバグッチャーに、さらにたたみかけるのは―――――
《はじけるレモンの香り!キュアレモネード!》
突然、キュアレモネードの声がひびいたと思うと、金色の光の鎖がデータの両手から放たれた。
「!!キュアレモネードのプリズムチェーン!?」
遠足の時、増子さんから見せてもらった画像の意味が、ここでようやく"つながった"。やはりあの画像に映っていたのは、データその人だったんだ。
両手持ちのプリズムチェーンでバグッチャーを縛ったデータは、力任せにバグッチャーを持ち上げはじめた。
《んぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ…………!!》
すごいパワーだ。キュアホワイトの弟子だっていうデータだけど、パワフルな戦い方はブラックの影響も入ってるのかも。
そして―――――!
《どっせえぇぇえぇい!!!》
―――――ずどぉぉぉぉん!!!!
地面にたたきつける!映像がぐらぐらと揺れ、ちょっと酔いそうになる。たたきつけた反動で、データは上空へと舞った。
《決めるぜ!!》
データの右脚に、青白いイーネルギーが迸り、スパークする。全力の吶喊が、キュアネットにひびき渡る―――――!
回転しながらのミサイルキックだ!回転に乗ったイーネルギーがデータの全身を包み込み、さながら青い流星と化したデータが、バグッチャーにナナメ一直線に突き刺さった。
《…………どーよ!》
着地したデータがドヤ顔でキメる。これで決まった―――――
そう思ったのは、一瞬だった。
《……デ、デリ、デリィザザザザザザザ―――――――――――――――》
バグッチャーは爆発するわけでもなく、まるで立体映像がかき消えるかのように、霧のように消え失せた。そしてその場には―――――
―――――ぱさり。
1冊の本が、さっきまでバグッチャーがいた場所に落ちていた―――――これって……!?
《………………見事に引っかかってくれたねェ》
《何ッ!?》
ネンチャックの爬虫類めいた笑み。振り返るデータと見上げるメモリアに、勝ち誇ったように言う。
《幻像相手に全力とは恐れ入るよ……でも、まだ終わってはいないさ――――――――――"表"に出なよ》
闇色の光に包まれ、ネンチャックが消えた、その時―――――
《BE ON GUARD!!! BUGUCCHER REALIZE!!!》
合成音声とともに、図書室の防火シャッターが上がり、外から夕陽が差し込んだ。急に明るくなって目が眩んだ。
その眩しさの先に見えたのは―――――!
『バグッチャ~~~~ップップ~~~!!!』
グラウンドのど真ん中に、ずんぐりむっくり、全身に本が突き刺さったバグッチャーが実体化していた……!
「出てきた……!!」
また、実体化……でも、どうして……!?
得意げな顔で、バグッチャーの肩に実体化したネンチャックが言う。
『言ったじゃないか?さっきのは"幻像"だって……幻像には、こうして本物が実体化できるまでの時間稼ぎをしてもらったってワケサ』
いやらしい手だ。でも、最初からバグッチャーを現実の世界で暴れさせるのが目的なら、合理的ともいえる手だ。まんまと乗せられて、"素直にくやしい"……!!
でも―――――!!
「それなら……ここからは私が相手になるよ……!!」
ネットコミューンを握る手に、力が入る。
文字通り命がけで戦ってくれたメモリアに、今度は私が、命をかけて報いる番なんだ―――――!!
私はポケットからキュアチップを取り出した。私の―――――キュアメモリアルのチップ。
バグッチャーと、肩に乗っているネンチャックを見据えながら、私はそのチップを、コミューンのスロットにセットした。
《START UP! MATRIX INSTALL!!!》
ピンク色の輝きを放つコミューンを右手に握りながら、両腕で中空に『∞』を描く。昨夜考えた、私だけの『変身ポーズ』だ。
私の叫びにコミューンが同調して、ひときわ強く輝く。そのコミューンを胸の中に受け入れた瞬間、私の周りに、電子の光で彩られたピンク色の空間が展開された。
《CURE-MEMORIA! INSTALL TO LINK!!》
――――――――――
―――――初めて変身した時と同じ―――――"光のタマゴ"だ。
今日は、ハッキリと意識がある。"タマゴ"の中で、私はメモリアと向かい合う。
こうして、この中にいる時だけ、私とメモリアは、同じ世界の、同じ場所にいられる。
だからこそ―――――本気で、本心から、伝えられることもある―――――
「……私、決めたよ」
『……?りんく?』
「私も―――――メモリアといっしょに、プリキュアになる」
『??今からなるんだよ?』
「……そうなんだけど……その、ね?プリキュアのみんなを助け出せて、サーバー王国を復興できたら、メモリアも一人前のプリキュアって認めてもらえるんだよね?……だったらさ」
私は、メモリアに右手を差し出しながら言った。
「私も……メモリアと、52人目のプリキュアになりたい……!」
これが、今の私の、心からの願いだ。
私にとっての『プリキュア』が、憧れの存在で、落ち込んだ時、悲しいことがあった時の希望だったように―――――
私も、誰かにとっての『プリキュア』に、なりたい!
メモリアはきょとんとして聞いていた。そして、にっこり笑って、右手を差し出してきた。
あの時と同じ、右手のタッチ。これをきっかけに、私とメモリアはひとつになる。
でも―――――
「ちょ、……メモリアっ……!?////」
タッチするかと思ったメモリアは、なんと私をぎゅっと抱きしめてきた!?
メモリアのあったかくてやわらかい感触が、私の全身に伝わって、広がって―――――
『さっきトゥインクルに"ぎゅー"ってしてもらった時ね、すっごくあったかかったんだ♪これって、"だいすき"って気持ちを、いっぱい伝えられるんだね―――――』
「メモリア……」
メモリアの体が光に包まれて、私の中に吸い込まれていく。これでもOKなの!?
『あたしのユーザーになってくれたのが、りんくでよかった……!プリキュアのみんなや、街のにんげんさんたちが大好きなりんくにユーザーになってもらって……あたし、すっごくうれしい……!だから―――――』
それ以上は、言葉にしなくても、心の中から、体の中から、『私』そのものに伝わってくる―――――
―――――いっしょに、『ほんとうのプリキュア』に、なろっ!―――――
メモリアを受けいれて、私は理解した。
『キュアメモリアル』の姿は―――――私の理想だったんだって。
子供のころから抱いてた、『プリキュア』への憧れ。そんな中現れたメモリアは、私の理想、そのものだった。
だからこそ―――――私が変身したキュアメモリアルは、メモリアそっくりなんだ。
イーネドライブは、私を、『理想の女の子』にしてくれたんだね―――――
カラダ全体に『ありがとう』を感じながら―――――私とメモリアは少しの間だけ、ヒトであること、アプリアンであることを超える―――――!
……SAVE POINT
すべてが掟破り!
キュアデータはあらゆる常識を破壊する、脅威のプリキュア見習いなんです!!
しかしてそのユーザーもまた掟破りで……!?
後篇Bは近日中にアップ予定です!!