あけましておめでとうございます。
今年度もどうぞよろしくお願い致します。

さて挨拶はここまでで......。

ゆきのんお誕生日おめでとーーーーーーーー!!

はい、もうこれに尽きるので
タイトルもシンプルにします。

二つあげる予定でこちらは長編です。

温かい目でご覧いただけたら幸いです。

よろしくお願いします

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「俺は彼女の誕生日を一生祝い続ける。

 

 

 

「誕生日おめでとさん」

 

「ありがとう……あなたが素直にそういうことをいうのも部活動の成果なのかしら」

 

「かもな……」

 

1月3日。今日は年明け最初のイベント、雪ノ下雪乃の誕生日だ。雪ノ下の誕生日を祝うのは今回で2回目で、前回は由比ヶ浜や一色がいたが今日は俺だけ。夕方になってから雪ノ下のマンションに行き、プレゼントを渡しにきた。

 

「お腹すいてない? 何か適当なものでよければ作るわよ」

 

「いや。その……これを渡しにきただけだから」

 

そう言って俺は手に持っていた赤い紙袋を雪ノ下に渡す。雪ノ下はそれを受け取ると目を輝かせて嬉しそうな様子だった。

 

 

「中身見てもいい?」

 

「ああ」

 

あーとうとうこの瞬間が来てしまったか。本当にこの瞬間が来るのが楽しみでもあり怖かった。プレゼントを見れば雪ノ下は俺の本心に気付くだろう、それをどう受け止めてどんな答えを出すか彼女自身だ。俺は既に覚悟を決めて答えを出した。この答えを変えるつもりはないし、俺自身いい結果になってほしいと心から望んでる。

 

「これって……」

 

紙袋から取り出したのは小さく箱。その箱を開けると指輪が入ってる。冬休み短期のアルバイトで稼いで買った物で、こんな洒落たものをあげるのははっきり言って恥ずかしい。

 

「あなたがこういうものあげるの珍しいわね」

 

「い、嫌なら捨てても構わんぞ」

 

「しないわ。ありがとう、大切にする」

 

 雪ノ下はこちらに微笑みながら、箱を袋に戻そうとする。

 

「ま、待ってくれ。その……箱をもう一度開けてみてくれ」

 

「え、ええ……」

 

 再び箱を取り出して中身を確認する彼女の様子をチラチラと見つめる。まあどういう反応するか気になるっていうか……しかしその様子はどうやらしつこかったようだ。

 

「その……さっきからそんなに見られると気になるんだけどれど……」

 

「す、すまん。ちょっとな……」

 

「それで? 開けたけれど何も変わらないようだけど……」

 

「その……指輪を一回その箱から出してくれないか? そうすればわかるから」

 

「え、ええ」

 

 なんか説明しちゃったけどほんとは自然な感じで見つけてほしかったんだよなー。やっぱりこの作戦失敗だったか? 小町と話し合って結構いいと思ったんだけどな……。

 

「えーと……取り出したけど?」

 

「取り出したか……え? 取り出した?」

 

 俺は急いで雪ノ下から箱を奪い、確認するが……ない。セットしたはずのメッセージカードが……ない。嘘だろ、おい! ここにきてミスするとか何やってんだ俺!

 

「あの……どうかしたの?」

 

 雪ノ下が心配そうにこちらを見つめてくる。いや待て、落ち着け。今日は雪ノ下の誕生日だ、失敗は許されない。……でもやっぱちゃんと伝えるしかないよな。

 

「雪ノ下、聞いてほしいことがあるんだけどいいか?」

 

「え、ええ」

 

 彼女の誕生日にこういうことを伝えるのは卑怯だと思う。本人にとっては一年で一番の記念日だ、そんな日にこんなこと言われたら正直たまったもんじゃないと思う。

 ただ俺が彼女に対して素直にこういうことを言えるのはきっと今日だけだと思う。今までの俺なら裏切られるのが怖くて考えるのも避けていた。でも彼女なら……雪ノ下なら信じられる、だから俺は人生で二度目の決意を抱いて口にする。

 

 

「……好きだ、雪ノ下。こういうことを俺が言うのは気持ち悪いかもしれんがその……お前の事が好きなんだ、雪ノ下」

 

 やっとだ、やっと俺の想いを口にできた。あー二度目とはいえやっぱり緊張を隠せないな、こういうの。

 そして告白相手の彼女はその言葉に驚いたのか茫然としてこちらを見ているようだった。

 

「ゆ、雪ノ下?」

 

「……遅い」

 

「え?」

 

「遅いわよ、本当に……その言葉をどれだけ待ってたと思ってるのかしら」

 

 目元を抑えながら話す雪ノ下の言葉。抑えていても涙がこぼれているのが見える。

 やがて目元を拭って、涙が治まるといつもの通りの凛とした表情で、口元は微笑みを浮かべながら彼女も俺に対する想いを口にしてくれた。

 

「比企谷君、私もあなたが好きです。あなたが私の事を好きになるずっと前からあなたのことが好きでした。だから……私と付き合ってください」

 

 気づけば俺達はお互いを抱きしめていた。これが俗にいう両想いというやつだろうか。抱きしめた彼女は細いが心臓の鼓動を感じるくらいお互いがどれだけの緊張と嬉しさがこみ上げているのがわかる。

 

「まさかこんなプレゼントを用意してくれてるとはね……あなたにしては上出来だわ」

 

「お褒めにお預かり光栄だよ……雪ノ下、手」

 

 俺の言われるがままに手を差し出してそれを掴むと机に置いてある箱から指輪を取る。

 えーと……薬指? いや結婚とかじゃないから人差し指? いや違う。親指ではないしどこだっけ? 恋人の場合だとえーと……。

 

「はあ……仕方ないわね、貸しなさい」

 

 そう言って俺から指輪を奪うと雪ノ下は左手の薬指に指輪を着けた。

 

「言っとくけど私は恋人という関係で終わらせるつもりはないから。あなたも私の結婚相手としてふさわしい男になれるように努力しなさい、わかった?」

 

「は、はい!」

 

 

 こうして俺と雪ノ下は晴れて恋人同士になった。それにしても結婚までいくとは……小町が聞いたらさぞ喜ぶだろうな。

 なお後日談だが俺がセットしておいたメッセージカードは小町がわざと抜いていたようだった。

「だって告白って口にして言わないと気持ち伝わらないじゃん! でしょ?」

 

こいつ……よくやった。

 

 

 

 

 

 

 1月3日、雪ノ下と付き合ってちょうど一年目の記念すべき日ともいえる雪ノ下の誕生日がやってきた。俺と雪ノ下は卒業後、それぞれ別の大学になった。二人共、都内の大学には進学したのだが雪ノ下は国立で俺は私立の大学。ま、わかってたけどね。

 で、お互いサークルとかにも所属しているわけでもないので暇見ればデートして微笑ましい日々を過ごしていた。そして今年も雪ノ下の誕生日を迎えた。新年早々彼女の誕生日があるのだから彼氏としては色々と準備に困るのだ。今回は小町の力借りず、俺一人でやろうということで都内のレストランを予約した。まあ俺も大学生活を経験しているせいかこういう場所の知識が自然と身についてくる。最もクラスの女から誘われることが多いので詳しくなった……という話だ。ちなみに行ってないぞ、浮気なんかした日にはそれはもうただじゃ済まない。

 

「にしても遅い……」

 

 ひとり言を呟きながら俺は向かい側の席に座る予定の彼女を待っている。当初は待ち合わせしていく予定だったが家の都合で時間かかるから先に入って待っててほしいという彼女の要望を聞き、先に席に座っているのだ。

 さっきから店員がチラチラこちらを見てくるが平常心、平常心……。

 と考えたところでポケットに振動が走る。振動元の携帯を取り出すと雪ノ下から連絡が来ていた。

 

『ごめんなさい、今日中にそちらに行けそうにないわ』

 

 

 やっぱ駄目か……。

 

 

 

 

 × × ×

 

 

 肩を落としながら帰り道を歩く俺は周りからどれだけ無様に見えるのだろうか。わかってはいたことだ、雪ノ下家は挨拶周り等で年末年始は特に忙しい。去年は偶然時間を取れただけだ。

 ……会いたかったな、雪ノ下。まだ今年になってから1回も会えてない。3日しか経ってないので少し急かしているようにも感じるがそれでも彼女に少しでも会いたいと思ってしまうことは彼氏として間違っていることなのだろうか。

 やめやめ、考えても仕方ない。寒いしさっさと家に帰るか。

 

「いた……比企谷君!」

 

 いきなりだった。その声は何度も聞いている声なので振り向かなくてもわかっている。でも俺は振り向いた。だってそこには息を切らしながら俺を見つめる雪ノ下雪乃がいたのだから。

 

「お前……なんでここに」

 

「脱け出してきたの……姉さんに言ったら『あとは私に任せなさい』と言われて追い出されたから、急いでこっちに来たの……」

 

「そんなことしてお前……」

 

「いいのよ、だって私が比企谷君に会いたかったんだから」

 

 俺は一歩ずつ彼女に近づいた。彼女もまた俺の方に向かって求めるように近づいてきている。そしてあと一歩といったところで俺達は抱きしめあった。

 

「……誕生日おめでとう」

 

「ありがとう……ねえ、比企谷君」

 

「何だ?」

 

「私、欲しいプレゼントがあるんだけど……」

 

 言うと雪ノ下は少し離れて、顔を赤くしながら俺の方を見てくる。

 

「……名前で呼んでほしいの」

 

「名前?」

 

「ええ、もう付き合って一年なのに私達ずっと名字で呼んでるから……その……なんというか壁を感じてしまうというか……」

 

 考えたことも無かったがそういえばそうだな。高校の時からずっとこうだったからあんまり意識しなかったし。

 

「……雪乃」

 

「ありがとう、八幡」

 

 こちらとしても願ってもないことだった。これでまた俺達は少し近づいたのだ。

 比企谷八幡と雪ノ下雪乃。この二人の恋人としての関係がこれからまた一年少しずつ進んでいく。それを祝うかのように俺は雪乃の顔を見ると彼女はそっと目をつぶった。

 ……マジっすか? 雪乃さん。さすがにそのオーダーは……。

 

「早くしなさい……恥ずかしいんだから」

 

 上目使いでそんなふうにされたら断れません、かしこまりました。どうやらこの誕生日は俺にとっても忘れられない一日となるようだった。

 

 

 また今回の後日談だが陽乃さんから「やあ弟君、今回の貸しは高いよー? だからお姉さんとデートしなさい」と言われ、一日中デートに付き合わされた。またそのことで雪乃からも説教を受け、どうにも報われない気持ちになった。

 

 

 × × ×

 

 

『いい加減にしろよ! お前の予定に振り回されるこっちの身にもなってみろよ』

 

『だから謝ってるじゃない、それをいちいち理解できないあなたこそいい加減にしなさい』

 

『もういい、勝手にしろ』

 

 

 携帯を切ると俺は自分の感情を抑えきれずに髪をかき乱す。

 今年も雪乃の誕生日が近づいてきた。三年目の記念日だが今年は祝うことはないだろう。

雪乃は冬休み明けた後、すぐに論文の発表会がある。その為冬休みのその論文の発表会の準備をしていたのだが先程連絡があり、誕生日当日も教授との打ち合わせが入ってしまったから会えないということだった。

 確かに忙しいことは認める。それを覚悟で俺は雪乃と付き合ってきた。けど彼女が予定をドタキャンするのはこれが初めてではない、何十回目だが数えるのも嫌になるほど断ってきたのだ。雪乃の予定に合わせなければならないがもう大学三年生。少なからず友達もできたし、ゼミにも入っている。そんな連中との付き合いよりも雪乃の予定を優先してきたが流石にもう限界だ。自分のプライベートをこれ以上犠牲にはできない。

 意地になっている俺は傍から見れば馬鹿だと思われるがそれでもこうしない限り俺の気は収まらなかった。

 

 

 

 × × ×

 

 

「おつかれー。じゃあまた大学で」

 

「おう、お疲れ」

 

 1月3日。ゼミの連中と飲み会に行ってきた。新年会とか忘年会なんて昔の俺からすれば行くことすら嫌がっていたが今回は特例だ。

 それにしても雪乃と会わない1月3日を過ごしたのは何年ぶりだろうか。このままこの状態が続けば自然な流れで別れることになるのだろうか……。

 結局いつまで経っても子供のままだな、俺。さてあいつらも帰ったし俺も帰るか。

 駅に向けて歩き出すと冬の風が肌に染みる。ふとなんか口元に塩っ気を感じる。手で拭うとそれが何なのかは認めたくなかった。こんな無様に泣いている姿を知り合いはおろか周囲の人に見られるのも恥ずかしい……でも止まらない。涙が……涙をいくら拭いても止まらない、何でだよ……。

 

「あ! いた!」

 

 その声のする方にふと顔をあげる。その声の主の顔を久々に見る。奉仕部三人目の部員の由比ヶ浜結衣は紺色のコートに身を包んでいた。

 

「お前……何でここにいるんだよ」

 

「それはあとで話すから! とにかく今すぐゆきのんのマンションに行って!」

 

「はあ!? 何でだよ」

 

「ゆきのん、ヒッキーと喧嘩してからずっと寂しがってたんだよ! 連絡が来るのを待ってたけど全然来なくて泣きだしちゃうし……今日だって私が家に行ったら、泣いてて目が腫れてたし……」

 

 認めたくない。自分が悪いって認めたらきっとあいつに厳しく接することなんてこれからできなくなる。あいつが悪いんだから俺は悪くない。だから……俺があいつに謝る必要なんてないんだ。

 

「……知らねえよ。あいつが悪いんだから」

 

 その瞬間、顔に痛みが走った。俺の頬を思いっきり引っぱたいた由比ヶ浜の目元からは涙ぐんでおり、その表情に俺は唖然とした。

 

「いい加減にしなよ! 自分が悪いとかゆきのんが悪いとかそんな小さいことでいちいち悩んでるなんて馬鹿じゃん! そんなことを気にしなきゃならないほどヒッキーは馬鹿なの!?」

 

 ……馬鹿だな。ああ、その通りだ由比ヶ浜。俺は馬鹿でどうしようもなくて、誰かに言われなきゃ気付けない大馬鹿野郎だ。だから……今はやれることをやるしかない。

 

「由比ヶ浜、悪い。これから雪乃のとこ行ってくる!」

 

「うん、ちゃんとゆきのんと仲直りしなよー!」

 

「ああ……ありがとな」

 

 小さい礼を言って俺は急いで雪乃のとこに向かう。もう変な意地にこだわる意味なんてないんだから。謝ることが嫌? 厳しく接することができない? 違う。そういう理由をつけなければやりきれない気持ちを抑えきれなかったからだ。俺はただ自分の気持ちが雪乃に少しでもわかってほしかっただけだ。なのにあんなことを口走ってしまったのは自分がまだ子供だという証拠だ。

 だからこそ今は謝るしかない。大人ぶらずに一言「ごめん」と言えればいいのだから。

 そんな考えをしていると雪乃のマンションが見えてきた。合鍵を預かっているのでそのままエントランスから入り、階段を駆け上がる。すぐに雪乃の部屋の階にはたどり着いたが息が乱れて少し苦しい。駄目だ…..疲れた。

 

「八幡!?」

 

「……雪乃」

 

 外にいたのは意外だった。由比ヶ浜の情報なら部屋で泣いているものだと思っていたからな。俺の元に駆け寄ってきた雪乃は心配そうに俺を見つめる。

 

「なんでここに……」

 

「その……雪乃、ごめんな。俺が悪かった」

 

「私こそ……ごめんなさい。自分の都合ばかりをあなたに押し付けていたわ。あなたの気持ちも知らないで……最低ね、私」

 

「やめてくれよ。俺は……そんなお前が好きなんだからさ」

 

 こういうことを口に出して言えるのは昔と違って成長した証なのか。大事なとこは成長してないくせにどうでもいいことだけ成長するんだから、よほど俺が捻くれた存在であることがわかる。

 しかしそんな俺を目の前の彼女は涙を流しながら見ている。その様子に思わず笑みがこぼれてしまい、雪乃を手で手繰り寄せて抱きしめる。

 

「誕生日おめでと、雪乃。ごめんな、今日その……プレゼントなくて」

 

「いいの……あなたと仲直りできたのだからそれで十分よ」

 

 これで俺も少しは大人に近づけただろうか。きっとまだまだ子供な部分は多いけどそれでもめげずに治していければいいなと思っているそれに雪乃だって嫌じゃないはずだ、だってこいつが受けた依頼は俺の更正なんだからな。

 

 

ちなみに後日談として由比ヶ浜にこっぴどく怒られた。そこに小町や陽乃さんも加わったのでもはや修羅場を超えた地獄絵図となったのだ。

 

 

 

 × × ×

 

 

「久しぶりね、ここも」

 

「ああ、卒業してからだから……もう4年経つのか」

 

「……ここで全てが始まったのね」

 

「そうだな……なんだかんだここから色々始まったからな、俺達は」

 

 そう言いながら俺はかつて自分が座っていた椅子を眺めた。

 大学生、いや学生最後とも言える雪乃の誕生日は俺達の思い出の地である母校の総武高校。その特別棟にある奉仕部部室で開くことにした。OBとはいえ、使わせてもらえるか心配だったが問題なく許可が下りた。

 そして残念なことに恩師である平塚先生はもう別の高校に異動になったようだった。久々に会って色々と話したかったが……残念だ。

 

 

「それにしてもずいぶん埃っぽいわね」

 

「まあ小町が卒業してから奉仕部は廃部となったからな。それ以降は部活の備品置き場として使われているそうだ」

 

「そう……ねえ」

 

「ん? どうした?」

 

「せっかくだから……掃除していかない? この部室があったからこそ私達は出会うことができたのだから」

 

「そうだな……よしやるか」

 

 俺は適当に辺りを見渡してバケツと雑巾、箒等の掃除用具を見つけて、俺達は掃除をすることにした。にしても汚れすぎだろこの部室……いくら使っていないとはいえここまでひどく汚れているとさすがにため息がこぼれる。

 

「それにしても今年の誕生日は何でここにしたのかしら?」

 

「あーそのなんだ。まあ学生最後ってのもあるし、来年から俺達も社会人になるからこういうところにはなかなか来れないだろ? だから今のうちに行っとこうと思ってな」

 

「そう……でも早いものね。私達が社会人なんて」

 

「だな……」

 

 雪乃を見ると箒を掃いている様子でこちらの顔を見ようとはしなかった。彼女なりに感慨深く感じているところがあるのだろう。

 さて来年からはいよいよ社会人だ。そして社会人になる前に俺は雪乃に伝えなければならないことがある。本人にはバレないようにご両親や姉である陽乃さんに幾度となく挨拶を重ね、何とか了承を得ることができた。

 人生でここまで緊張したのは恐らく雪乃に告白した時以来だろうか。小さく息を吐いて、今一度彼女の方を見る。

 

「雪乃」

 

「何? 八幡」

 

「その……プレゼントをあげたいんだけどいいか?」

 

「ええ……今年は何をくれるのかしら」

 

 楽しそうに微笑む彼女を見て余計に緊張が走る。これから俺がやろうとすることは恐らく人生で最初で最後にやることだと思ってるし失敗することを考えていない。正直俺はまだ早すぎると思ってた。学生はおろか社会人になれば忙しくなり、お互いプライベートの時間を取るのが難しくなると思ってた。

 しかし雪ノ下家の皆さんから「決断は早い方がいい、でなければいつ機会が来るかわからない」と急かされ、俺は決意したのだ。いやまあ半ば強引みたいなところもありましたけどね。

 俺は一歩ずつ彼女の元に歩み寄り、向かい合うように彼女の前に立った。

 

「雪乃、誕生日おめでとう」

 

 そう言って俺は用意していたリングケースを取り出す。

 

「指輪?」

 

「ああ……その……ちょっと頑張ってみたっていうか……」

 

「え?……もしかしてこれって……婚約指輪?」

 

 もう逃げられない、ここまでくればあとは俺が一言。一言言えばいいだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪ノ下雪乃さん、あなたのことが好きです。これからもずっと……ずっと大好きです!

俺みたいな捻くれたやつを好きでいてくれるあなたが好きです。だからその……えーと……俺と結婚してきゅださい!」

 

 

 俺は思いっきり頭を下げた。もちろん頭を下げる予定だったのだがこんな大事な場面でも噛んでしまう自分の愚かさに頭を下げずにはいられなかった。

 あああああ死にたい!! いやいくらなんでも馬鹿だろ俺!! プロポーズで噛むってどんだけ馬鹿なんだよー!! あああああああ死にたいよおお!!

 

「……ふふ、結婚してきゅださい、ね……」

 

 笑っている彼女の表情を見たいが恐らく耳まで真っ赤にしているこの表情を見せるわけにはいかない。

 

「ふー、とりあえず頭をあげなさい」

 

 言われるがままに恐る恐るあげるとそこには微笑みながら俺を見ている雪乃が視界に入ってきた。

 

「全く……もう少しプロポーズにするなら時と場所を考えなさい。ここは学校なのよ?」

 

「すまん……その俺達の始まった場所で……新しい決意表明というか……」

 

「プロポーズと決意表明は別物でしょう……はぁ……」

 

 呆れたようなため息が聞こえ、益々落ち込む。いやーまさかこんな結果になってしまうとはねー陽乃さんに小町に由比ヶ浜に……何人に怒られるんだろ、俺。

 

 

「八幡、とりあえず背筋伸ばして」

 

「は、はい」

 

 ビシっと背筋を伸ばす。いや猫背頑張って治そうと思ったんだけど……まあましにはなったよ、それなりに。

 じっと雪乃を見ると真剣そうな表情だった。え? これ怒ってるの? もしかしてもしかすると。本気で俺、まずいことしちゃった?

 

「さて……それじゃあ改めてもう一度言ってもらいましょうか」

 

「もう一度?」

 

「決まってるじゃない。私に対するプロポーズよ、あんなプロポーズでOKするとでも思ったのかしら」

 

「いやそんなことは考えてないけど……」

 

「ならもう一度よ。それにそんな難しい言葉言わなくてもいいわ。あなたの思ったことをそのまま伝えて」

 

 そう言ってこちらに笑みを浮かべる雪乃を見て、ぐっと拳に力が入る。

 よし……思ったことを……そのまま伝える。

 

 

 

「……雪ノ下雪乃さん、俺と……これからずっと傍にいてくれますか?」

 

「はい……ずっとあなたの傍にいるわ……私からも一つ聞いていい?」

 

「何だ?」

 

「私を……ずっと好きでいてくれますか?」

 

 

 そこから先は言葉より先に体が動き、目の前の雪乃を強く抱きしめていた。

雪乃もそれに応えるように精一杯強く抱き返してくれた。

 

「......当たり前だろ……ずっと大好きだよ」

 

「ありがとう……私も……あなたが……比企谷八幡が大好き」

 

 

 今まで何度も抱擁してきたが今日ほどこんなに感動した抱擁はない。俺も雪乃も自分に素直でいるのが苦手だから正直お互い思ったことを言えなかったり、時には意地張って喧嘩したこともあった。でもだからこそ俺達はこれまで続けてこれたんだと思う。お互いがお互いを理解しようと努力し、そして思い合ってきたからこそずっと付き合い続けてこれたと思う。

 だからこそ俺は胸を張って言える。かつて自分が欲していた本物。それがどういう形になるかなんて正直当時はわからなかった。けれど、今こうして大好きな人と一緒にいる時間が本物だなと……それにしても俺がこんな風に考えられるようになったとはな、本当にこの奉仕部に入部させてくれた平塚先生には頭が上がらない。

 

「ねえ、八幡」

 

「何だ?」

 

「その……まだちゃんと言ってもらってないのだけど」

 

「え? 何を?」

 

「はぁ……あなたという人は……」

 

 

 えーと……あ! もしかしてというかその呆れた表情から察するに俺がプロポーズの言葉を言ってないのが原因ですね、はい。いやーまあなんつーかその……先にそういう言葉よりも思っていることが出てしまったと言うか……。

 

「なら私から言おうかしら」

 

「へ?」

 

 そう言うと雪乃は少し離れて、先程の俺と同じように静かに息を吐く。そして俺の方を見ると改めて微笑んだ。

 

「比企谷八幡君、あなたのことが大好きです。これからの人生であなたがいない人生なんてありえないの。だからお願いします、私と結婚してください」

 

 そして雪乃は俺の方へと頭を下げた。いやそれ俺の台詞なんだけど……。

 

「えーとその……」

 

「返事は?」

 

「へ、返事? も、もちろんOKだよ。いや俺なんかでよければその……」

 

 困惑している俺だったが雪乃は顔をあげてその様子を見ると微笑んだ表情を崩すことなく、再び抱き着いてきた。

 

「……大好き」

 

「……ああ。なあ雪乃」

 

「何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……誕生日おめでとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




雪ノ下雪乃さん、お誕生日おめでとうございます!!

ゆきのんハッピーバースデイ!!

そんなこんなで今回の長編とは別に短編あるんで

そちらであとがきは書きたいと思います。では


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