翔鶴の声が聞こえた時打、電、響夜の三人は同時に動いた。
「まずこの邪魔な奴らを片付けるぞ!!」
「おう!」
「はい!」
三方向に走り出す三人。
それぞれを集団が三つに分かれて追いかける。
「死ねぇ!」
時打の正面にいる男が刀を振り上げ、そのまま振り下ろしてくる。
だが、遅い。
それよりも早く時打が抜刀。
その男だけでなく、後ろにいた三人もまとめてぶっ飛ばす。
『ぎゃぁぁああ!?』
悲鳴を上げて中を舞う、ゴロツキの四人。
「この野郎!」
今度は背後からゴロツキが突き刺そうとする。
だが、時打は時計回りに回転しながら回避。
その遠心力をそのままにして、回転をかけて
飛天御剣流『龍巻閃』
「ぐげあ!?」
そのまま吹き飛んでいくゴロツキ。
それに警戒して、一時止まるゴロツキたち。だが・・・
「な、何してる!?早く行け!」
リーダーらしき人物がけしかけ、ゴロツキたちが突っ込み事を再開する。
「
ここで引けば時打は何も
時打は一息で地面と平行となる様に跳躍。それと同時に体を軸に時計回りに回転を掛けて、ゴロツキたちに突っ込む。それによって生じた突風がゴロツキたちを吹き飛ばす!
「龍巻閃『息吹』!!」
まるで龍が
『ぎゃぁぁぁあああ!?』
悲鳴を上げながら宙を舞うゴロツキたち。
「ひ、ひぃぃ!?」
「な、なんだよこいつ!?」
「無茶苦茶過ぎる!」
一斉に逃げ惑うゴロツキたち。
だが、響夜がそんな奴らを一息に殴り飛ばす。
「逃げるたぁ関心しねえな」
「別に、もう戦意が無ければいいのに」
「甘ぇなお前はよお」
時打と会話する響夜の後ろからドス(脇差)を振り上げるゴロツキ。
「ふん!」
「ぐげあ!?」
そんなゴロツキを後ろを見ずに顎を左手で殴り飛ばす。
「しゃらくせえ」
「そっちは任せたぞ」
「おう」
戦意を戻したゴロツキたちがもう一度津波の様に襲い掛かってくるのを見た時打はそのまま突っ込んで行く。
「よォし!来ォい!!」
もう一方から来たゴロツキたちを見据えた響夜は、地面に向かって右手を突き出す。
「二重の極みッ!!」
瞬間、響夜の前方の地面が割れ、爆散する。
それによって生じた破片が飛び散り、ゴロツキたちに直撃する。
「この野郎!」
別の所から襲い掛かってくるゴロツキを右手で吹き飛ばし、更にもう一方から来た敵を左で殴り飛ばす。
『うおおおお!!』
「しゃらぁぁぁああ!!!」
十人が同時に襲い掛かってくるも、響夜は連続で拳を繰り出し、全員を吹き飛ばす。
「へ!」
「げぎゃぁ!?」
「ん?」
後ろで悲鳴が聞こえ、振り向いてみると、電が敵を一撃で絞め落としていた光景だった。
「おう・・・」
「私の戦法は小太刀と拳法の複合闘技。もともとお兄ちゃんが指導してくれたか、私が勝手に『天野流』って言ってるけど、その名には恥じる事はないのです」
電が響夜に向かってそう説明する。
「このガキィ・・・」
「女だからって容赦しねえぞ」
その間にゴロツキたちがそう刃を向ける。
「別に容赦なんてする必要ありませんよ」
電が小太刀を逆手に持つ。
「私が沈めるから」
地を蹴り、敵に急接近する。
その途中で跳び、一番前にいた男の頭に左手を置き、倒立。だが、その状態から後頭部へ膝蹴りを打ち込む。
その状態で体を反らし、地面に両手を着き、回転。立ち上がり気味に反時計回りに体を回転。後ろにいる敵の首筋に刃を叩き着ける。
その腕を引き戻し、自分の右にいた男に左手で掌打を加え、更に反転。体を低くして、更に向かい側の敵に左足の踵で足払いを掛け、倒れる所へ側頭部に右膝蹴りを打ち込む。
そして虎伏の状態へ。
ゴロツキたちが上から一斉に武器を振り下ろしてくる。
だが、それよりも早く、股が大きく開いている相手の下に潜り込み、くぐる。
すぐさま立ち上がり、その男に小太刀を叩き込む。
「この野郎!!」
電の後ろから首を斬り飛ばさんとばかりに太刀を横薙ぎに振ってくるのを感知した電は勢い良く背中を反らし回避。
そのままバック転をし、男の頭を蹴り落とす。
「このガキィ!!!」
大柄な男が、巨大な大槌を持って、電に振り下ろそうとする。
「!? あぶねえ!」
「大丈夫だ」
響夜が叫んで助けに行こうとするが、時打がそれを止める。
「天野流・・・・」
電が小太刀を持ち直し、男の懐に突撃する。
そして、
「げう!?」
「やぁぁぁあ!」
立て続けに小太刀を振り下ろし二撃目、三撃目に左拳、四撃目は小太刀。
「五臓打ち!!」
ラスト五撃目は、零距離から放つ拳打。
その威力故に大男の体は浮き、地面に沈む。
「なぁ!?」
「最後の一撃は『牙突《零式》』の要領を生かした攻撃だ。ま、そんな事しなくても牙突は普通に撃てるんだがな」
時打が自慢するように驚いている響夜に言う。
「見た目で判断しちゃいけねぇって事だな・・・」
「そういう事だ」
「何しているんだお前らぁぁああ!!」
「「ん?」」
突然、屋敷の方から怒号が聞こえた。
見ると、そこにはいかにも弱そうでボス的な男がいた。
「あいつが道真って野郎か?」
「そうみたいだな」
時打の表情が険しくなる。
「たかが三人に何していやがる!金ならいくらでもある!そいつらを倒した奴には大量の金をくれてやる!オラやれぇ!」
そう言いながら、大量の札束をばらまく道真とその部下数人。
それを見たゴロツキたちが咆哮を上げる。
『オオオオオオォォォォ――――!!!!』
「あの野郎・・・」
「良いじゃねぇかよ。これで手間が省けるって物だ」
「お兄ちゃん!」
誰かを蹴り飛ばして飛んできた電。
「電、こうなったら全員倒していくぞ」
「分かったのです!」
そして、三人同時にゴロツキの集団に突っ込む。
「我流飛天御剣流・・・・」
「天野流!」
「オオオッ!」
時打が左から物凄い勢いで逆刃刀を横に薙ぐ。
電が突撃しながら体を回転させる。
響夜が両腕を思いっきり引く。
「波龍閃!!」
「
「双拳・二重の極み!!」
それぞれの技が、残り五十人のザコをぶっ飛ばす!
前進する勢いに加え、剣を振るう勢いを重ね掛けする『波龍閃』。
電が相手の周りで回る様に攻撃する回転する回転剣舞を電自身が回転してその遠心力を小太刀に乗せて連続攻撃する『電式回転剣舞』。
両手で同時に二重の極みを放つ『双拳・二重の極み』。
それぞれの大技が見事に決まった。
お陰で全てのゴロツキたちが地に伏せた。
「行くぞ!」
時打の掛け声で屋敷の中に入っていく三人。
一方で、道真は・・・
「お前ら、仕事だ」
壁際に座る三人の人物にそう言う道真。
「あの三人を始末して来い。仕留めた奴には大量の金をくれてやる」
「強いのか?そいつら?」
三人の内、一人が話しかける。
「ああ、百人はいたゴロツキどのがもう全滅だ。ったく、使えない奴らが・・・・」
そう悪態吐く道真。
それを聞いたひょろりとした男が嬉しそうに顔を歪ませる。
「よっしゃ、それなら一番手は俺が請け負ってやる」
「良いだろう・・・・だが、負けたら許さんぞ、
それを聞いた鹿丸は、すぐさま部屋を飛び出していく。
「お前たちも、それぞれの位置につけ。もしかしたら誰か一人に任せて残りの奴らが先に行くかもしれん」
「分かった。次の相手は俺がしよう」
今度は、かなり筋肉質な男が部屋を出ていく。
「おい、お前は行かないのか?」
道真は最後に残った白コートの男にそう問いかける道真。
だが、白コートの男はふん、とあしらうと、こう言う。
「俺には俺のやり方がある。指図するな」
「な・・・!?」
その反抗的な態度に青筋を浮かべる道真。
「貴様ァ・・・雇って貰っている癖になんだその口の利き方はァ・・・」
「金の為だ。迎撃するとはいったが、何もやり方までは言っていないだろう?」
正論を叩かれ、うぐ、と唸る道真。
「何、少ししたら動く。それまで黙っていろ」
そう言い残し、白コートの男は椅子にもたれる。
一方の道真はイライラが溜まっており、これ以上は爆発しそうだからか、部屋を勢い良く出ていく。
屋敷の中に入った三人。
「こっちで合ってるんですね?」
「は、はいぃぃ!!」
電は小太刀の逆刃を、ここの部下であろう男に突きつけながらそう言う。
それはまるで小さな強盗である。
「こ、ここの通路をま、真っ直ぐ行けばか、階段があって、その先にある、広間にある、か、階段を上れば・・・」
「よし、十分です」
「ぐえ」
そこまで聞いた電はすぐさまその部下を絞め落とす。
「なあ?電って実は腹黒かったりするのか?」
「苛立っている時はああなる」
その光景に内心ゾッとしている響夜に、いつもの事の様に苦笑している時打。
「さて、行こうか」
廊下を走る三人。
だが、廊下を曲がると、その先に誰かが立っていた。
「誰かいます!」
電の声で一斉に止まる三人。
そこには体格的にはひょろっとしており、髪は染めているのか金髪。
武装は、太腿に巻かれたベルトについている投げナイフだけか・・・・。
「お前は?」
時打が男に問いかける。
「俺は鹿丸!私怨は無いけど、お前らには死んでもらうぜ」
堂々と名乗りを挙げた上に死刑宣告。
それほどに自分の腕に自信があるのだろう。
「どうする?速攻で片付けるか?」
響夜が右腕をパキパキと鳴らす。
だが、電が前に出る。
「時間はかけてられません。お兄ちゃんと響夜さんは先に行っていて下さい。ここは私に任せて下さい」
電は先ほどしまったばかりの逆刃小太刀・落雷を引き抜く。
確かに、これほどの騒ぎを起こして警察が黙っている訳が無い。
急がなければ、翔鶴と電の正体がバレる可能性もあるし、世間からは隠されている鎮守府の一つである黒河鎮守府の事が露見してしまうかもしれない。
「分かった。頼んだぞ電」
「はい。電の本気を見るのです!」
久しぶりに聞いたそのセリフを聞き、時打は安心する。
「ちょっとお取込み中の所悪いけどよぉ。俺がそう簡単に行かせると思うか?」
鹿丸が左手のガントレットから隠しナイフをとりだす。否、長さ三十センチのコンバットナイフだ。
だが、その瞬間、電が大きく飛びこみ、小太刀を振り下ろす。
「ぬお!?」
「行ってッ!!」
鹿丸がそのスピードと威力に驚いて硬直している間に、時打と響夜が横をすり抜ける。
「チィッ!こなくそ!」
「させない!」
「な!?」
鹿丸が開いた左手で左太腿にある投げナイフを一本掴み、それを時打に向かって投げる。
だが、それを電は小太刀の角度を変え、後ろに変則的なハンドスプリングを決め、投げた直前の投げナイフを踏んで止める。
「このガキ!」
「ガキだからって油断しないで下さいなのです!」
電が鹿丸に立ちはだかり、時打たちを行かせた。
「後悔すんじゃねぇぞぉ!」
「上等なのです!」
「あいつの腕を疑ってる訳じゃねえが大丈夫なのか?あいつ、かなり強いぞ」
響夜がそう時打に聞く。
だが、時打は自身満々に答える。
「あいつは俺が手塩を掛けて育てたんだ。勝つさ、電は」
「なら安心だ」
響夜もフッと笑い、廊下を抜け、階段のある部屋に出る。
「「!?」」
だが、その上に一人、筋肉質な男がいた。
「どうやらあの男の読みは当たった様だな。思考は幼稚な癖して頭の回る奴だ」
やれやれと溜息を吐く男。
「お前は誰だ?」
響夜が皮肉たっぷりに聞く。
「俺は、
鬼村は大きく飛び、床に着地、二人を見据える。
「時打、こいつの相手は俺がやる。お前は先に行け」
「良いのか?」
「さっき電も言ってただろ。時間が無いって。だから行け!」
響夜がけしかけ、時打がそれに応え、階段を飛天御剣流で鍛えた跳躍力で一息に跳んでいく。
鬼村は、それを見届ける。
「お前、
「ああ。どうせ行っても、死、あるのみだ」
鬼村がそう、笑いながら言う。
「・・・・誰がいる?」
「俺たちのリーダー的な存在だ。それに、強さも俺たちとは比べ物にはならない」
鬼村が構える。
「そうかい。なら強さでいったら時打だって負けてねえ。それだけは絶対だ」
響夜も、そう言いながら身を屈めながら構える。
階段を上った先にある廊下を走り抜け、目の前にある扉を蹴り開ける。
そこは、パーティー用の広間。
「・・・ここは・・・」
「ここまでだァ!」
「!?」
突如、聞き覚えのある声が聞こえ、見ると、向かいのドアが開け放たれ、そこから黒光りする何かが現れる。
六つの細長い鉄製の筒。それらが輪を描くように並べられ、その後ろには同じ鉄製の四角いなにかに回転式のハンドル。その横には大量の薬莢。
しかも一分間で二百発も撃てる代物だ。
「ハッハッハー!これでお前の人生も終わり・・・て、ちょ!?」
それを視認した時打の行動は簡単だ。
速攻で破壊して奴を殴る。
「ええい!いいでしょう!新しく購入したこの兵器の威力をお前で試してやりますよ!!」
そのまま、ハンドルを回転させる道真。
銃口が回転しはじめ、やがてそこから無数の弾丸が発射される。
それが時打に向かって飛来していく。だが、それが直撃する瞬間、時打の姿が消えた。
「え!?」
「
上空から声が聞こえ、見上げると、既に攻撃態勢に入っている時打だった。
「な・・・!?」
「その重量故に真上からの攻撃には対応できない事だァ!」
飛天御剣流 龍槌閃!!
上空からの振り下ろしが炸裂し、
「オオオッ!」
「ま、待って・・・」
そしてのまま回転し、龍巻閃《凩》を叩き込む。
「ぐげあ!?」
登場僅か十秒の出来事だった。
それほどまでにあっけない決着だった。
「全く」
「仕方ない奴だ」
ふと、頭上から声が聞こえた。
上の階にあるテラスからだ。
見上げると、そこには白コートの男が立っていた。
「先ほどのは、飛天御剣流の龍槌閃か?」
「へえ、知ってるのか?」
「そして、それを使うって事は、お前が『
ざわり・・・・
瞬間、時打の表情が殺気に染まる。
「お前・・・・」
「闇の裏業界では有名な話だぞ?」
テラスから飛び降り、時打のいる下の階に降りる白コートの男。
「あの、かつて
白コートの男が時打の刀を見て、真剣な眼差しで見る。
「そんな刀で人を殺せない。まさか、『緋村剣心』にでもなりきったつもりか?」
笑えない冗談だとでもいう様な冷たい眼差しで時打を睨みつける白コートの男。
それを聞いた時打は、いつになく、険しい表情で、白コートの男を睨み付け、言う。
「そんな理由でやった訳じゃ無い・・・・ただ、眼につく人を助けたかっただけだ。ただ、それだけだ」
時打は、構える。
「そして・・・・」
時打は、更に言葉を繋げる。
「もう、人は殺さない」
強い眼差しで、そう言った。
「そうか」
白コートは、笑う事は無く、コートの中に両手を交差させながら入れる。
「ならば、そんなお前は俺が殺してやろう」
出てきたのは白銀に輝く拳銃。ベレッタだ。
それも、装弾数を弄ってある物だ。
しかし、その眼は未だに真剣その物。
「自己紹介がまだだったな。俺は『秋風 達也』だ。お前の本名は?」
「・・・天野 時打だ」
そして、達也が右手の拳銃を突きつけ、時打は体の右側に刀を構える。
そして、試合開始の引金が引かれた。