艦隊これくしょん その刀は誰が為に   作:幻在

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紅の少女

金山市にて、飛天童子が現れる前から、黄金連合には、反乱分子を消していく為に、一つの組織を結成していた。

数人の精鋭を集め、暗殺などの任務を全うする為だけに作られた組織。

その組織のお陰で、反乱軍(レジスタンス)は、上手く動けなかったいえるだろう。

その力は、当時の反乱軍の力では太刀打ちできるものではなかった。

ただ、飛天童子の登場により、その組織はその討伐に駆り出され、反乱軍が動きやすくなったといえるだろう。

その組織の名を、特殊警察『鉄槌団』。

連合に仇成す者を、闇の中で狩る。

それがこの組織だ。

飛天童子が現れた当時では、それはもう出し抜かれまくっていたが、いつの日か衝突が多くなり、鉄槌団は飛天童子によってどんどんその数を減らしていったのだ。

革命の日には、もうほとんどが死んだとされているが、そのほんの少しだけが生き残り、この日本各地にて、隠れ住んでいるらしい―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故、その刀を持っている?」

「ッ・・・・・」

目の前にいる女性。

この女は、かつて金山市で反乱軍を狩りまくった組織『鉄槌団』の一人だ。

三十人の構成で、その中にリーダーが一人いるといった感じだ。

ただ、この女はリーダーではなくても、その飛天童子本人である時打と死力を削った唯一の人物だ。

そして、時打の姉である加賀を殺した張本人。

「質問に答えろ」

女性が、更に殺気を強め、そう問いかける。

その殺気に怖気づきながらも、なんとか開いた口で答える。

「こ、これは、これの持ち主から、借り受けたもの、です・・・・」

すると、女性は考える素振りを見せた。

「借り受けた・・・・か・・・・あの男がそんな事する訳が無いが・・・・まあ、剣を変える事はあり得るだろうな」

女性はそう呟くと、殺気を引っ込めた。

それに、思わず安堵の息を吐いてしまう吹雪。

「ならば、質問を変えよう」

だが、それさえも束の間。

「飛天童子はどこだ?」

「ッ・・・!」

殺気こそ出していないが、その眼光は確実に吹雪を射貫いていた。

「・・・何故、その事を・・・・」

「その刀を持っているなら、大体検討はつくだろう?」

女性はそう言う。

「・・・・因縁」

そう、呟いた。

すると女は踵を返し、歩き出す。

「あの男に伝えておけ。影丸を持って私と決闘をしろ。お前と私は仇同士、この因縁を断ち切る事などできない、とな」

そう言い残し、女性は去っていく。

「吹雪ー!」

直後に、横からよく知る声が聞こえ、そちらに視線を向けた。

「叢雲ちゃん」

「いたいた探したわよ」

「ごめん」

軽く謝罪する。

「・・・・さっきの人は?」

そう聞いてくる叢雲。

それに対し吹雪は、女性の向かった方向を向いて、こう答えた。

「・・・『緋勇(ひゆう) 紅葉(もみじ)』。司令官の、宿敵だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京都総務省。

主に、陸軍の司令本部がある場所だが、年に一度だけ、海軍の各地方の司令長官、陸軍のトップたちが会合をする場所だ。

「・・・黒河の白兵戦隊。彼女たちを陸軍に入れられないものですかねぇ」

「ダメだ。陸の治安もそうだが、今は海からくる深海棲艦を抑え込まなくてはならない」

そこで、一人の陸軍将校のつぶやきを、即刻、豪真が断った。

その陸軍将校の名は『小林(こばやし) 蓮呉(れんご)』だ。

主に、九州での治安維持に努めている陸軍だ。

体はとても陸軍将校とは思えないほどほっそりとした体つきで、歳もかなり若い。

その頭部は、眼鏡をかけて若干長い髪を頭の後ろで結っている。

「でもねえ、接近戦など遠距離攻撃できる敵にわざわざ接近する必要なんてありますかね?」

「そうか?実際、接近戦は効果的だぞ?黒河では多大な戦果をそれで叩き出している。どこにも問題は無い」

そしてなぜかヒートアップしてきている。

「お前ら・・・」

「あわわ・・・」

一方で、海軍元帥である火野柱 玄隆とその秘書官の吹雪は頭を抱えていた。

必ずあるのだ。こういう事が。

「大体、貴方たち海軍がさっさと深海棲艦を倒してくれればいいんですよ。そうすれば、こちらの戦力も拡充するのに」

「戦争でもおっぱじめる気か?ただでさえこちらは資源を独り占めしているというのに、他の国がどうなってもいいというのか?」

その豪真の言葉に、明らかな嫌悪感を覚える者が数名。

その視線に、豪真は気付いているが、あえて口に出さない。

「そういう事を言っている訳ではなくてですね」

「陸軍の戦力の拡充は資源と人員の無駄だ。人間同士の戦争はもう終わったんだ。黒河の奴らはやらん」

最も、()()()()()()()()のだが。

(こっちにはいざって時の『保険』があるんだからな)

顔には出さないも、心の中でほくそ笑む豪真。

もしもの時は、『彼女ら』があそこだけは守ってくれるだろう。

そういう心意気だ。

そう言っている内に、取りつく島も無くバッサリと話を切られてしまう。

「で?陸軍元帥さんよ?今回もまたくだらない話でもする気か?」

「貴様!将校の分際で志摩元帥殿に向かってくだらないとは何事だ!」

豪真の歳に似合わぬ言葉使いに、食って掛かる人間が一人。

その人物は、玄隆の向かい側に座っている五十代あたりの男の傍にいる男だった。

まだ若く、その目は憎らし気に豪真をにらみつけていた。

「うっせーよ忠犬野郎。陸軍元帥の傍付きだからって調子乗ってんじゃねーぞ」

「な、なんだと貴様・・・・ッ!」

「やめないか井口」

今にも襲い掛かりそうだった『井口(いぐち) 誠也(せいや)』を止める、陸軍元帥『志摩(しま) 長野(ながの)』。

「しかし・・・!」

「貴様じゃ、口論でも実戦でも勝てん。知っているだろう?こいつが唯一()()()()()()()()()だという事をな」

「ッ・・・」

そういわれると、何も言えなくなる井口。

「海上の事は海軍の管轄下だ。我ら陸軍が口出しして良い問題ではない」

「・・・・わかりました」

不承不承といった感じで引き下がる井口。

志摩は、それを見ると、玄隆に向き直る。

「さて、何の話だったかな?」

「いや・・・・一年の戦果の総合結果と現在の現状と各国に運ぶ資源の分配の話だろう?」

「おお、そうだったな」

ハッハッハ、と笑う老人。

本当に大丈夫かこの人、とこの場にいる全員が思うのだった。

「司令官・・・私この人苦手です」

「そう言ってやるな吹雪」

吹雪が両手に抱えた書類を一層強く抱きしめながら、そう引き気味に言う。

そんな中、豪真は、ふと海軍側の一人の将校を見る。

そこには一人の老人。

しかし、その体躯はガッチリとしており、七十という年齢には似合わぬ顔立ちをしていた。

その眼差しは、明確な何かを感じられた。

(何を考えている・・・『志葉(しば) 正義(まさよし)』・・・・)

その視線に、酷い嫌悪感を感じる豪真。

彼は、北海道本営の長官を務めている人物だ。

(この間の時打の一件も、コイツが絡んでないだろうな・・・・)

この会議が行われる数日前。

横須賀の商店街にて、全身機械で出来た人間と、他三名の武器を持った襲撃者の事件。

その時、『おつかい』に行かせていた五月雨と、標的であった時打で対処したらしいが、その全身機械の人間、人造人間(サイボーグ)の頭部が中にある()()()()ごと斬られていたのだ。

五月雨は刃物を持っていないし、持ち歩いていたとしても、五月雨には『斬鉄』は出来ない。

ならば考える可能性としては、時打だろう。

だが、時打なら、あのサイボーグの構造を見抜いていた筈だ。

技術こそ、アメリカで開発された、人間の脳のみを機械の体に移植するという奴だ。

体は機械であり、人間のそれとは明らかに異なるが、元は完全な人間。

そんな存在を、時打が殺すとは、豪真には到底思えなかった。

そうこうしている内に、会議は終わり、各地方の長官たちが帰り支度を始める。

豪真は今日、秘書艦である筑摩を横須賀において、やってきているのだ。

その腰に、一本の業物と見える刀を一本携えて。

現代鍛冶師が作った打刀、『隠岐守(おきのかみ)』である。

総務省の廊下を何人かの職員とすれ違いながら歩く豪真。

(しかし、あの時、どうして奴は『彼女』の事を・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

それは、時打たちが起こした事件の直後の事だった。

急いで駆け付けた豪真と警察と同時にもう一人の、本来ならここにいない筈の人物が転がり込んできたのだ。

「――――矢矧ぃ!」

『!?』

その声に、その場にいた全員の視線がそちらに向く。

そこには、背中を覆う程に伸びた黒髪。幼さの残る可愛らしい顔。

しかしその服装は病人が着る筈のローブをその身に纏っており、顔には大量の汗を流し、その視線は、真っ直ぐに時打へと向いていた。

「矢矧・・・・」

もう一言、そう呟いた。

しかし、たった今、人であったサイボーグを切り捨てた時打には、首を傾げる事しか出来なかった。

「・・・・矢矧・・・・?」

その顔を曇らせ、少女は、時打に近付いていく。

疲れているのか、ふらふらとした足取りで、時打に近付いていく。

時打は、ただ、何故か疲れ切った表情で、彼女を見据える。

そして、少女ののばされた手が、時打に触れる。

その瞬間、時打の顔が一瞬強張った。

まるで、脳裏に電撃が走ったかの様に。

そして、時打は、()()()()()()()、一言呟いた。

「・・・・・阿賀野姉・・・・」

『な・・』

その言葉に、絶句する豪真と五月雨。

 

『阿賀野』

その名は、日本が誇った最新鋭軽巡洋艦『阿賀野型』のネームシップを務めた艦の名前だ。

 

そこまでならまだいい。

問題は、時打はその名の最後に付け加えた、『姉』の文字。

「時打さん・・・今・・・・」

「え・・・・?」

そこで時打は自分の言葉に気付き、思わず口に空いている手をあてる。

「矢矧・・・・?」

阿賀野は、もう一言、そう時打の事を呼ぶ。

「・・・・・どうして」

しかし、先ほどの様子とは一変、目を見開き、阿賀野はあとずさる。

「どうして・・・貴方から・・・・矢矧の魂を感じるの・・・・?」

「な・・・!?」

その言葉に、絶句する時打。

「どう・・・して・・・・あな・・・たは・・・・矢矧の・・・・」

 

―――なに?

 

それだけを言い残し、まるで糸の切れた人形の様に、地面に倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれはどういう意味だったのか。

阿賀野は、あの後、病院に連れ戻され、今は詳しい検査を行っている。

時打も、自分の鎮守府へ戻った。

ふらふらとした足取りで。

(時打・・・戻ってきているのか・・・・)

飛天童子としての、時打の中のたった一つの信念。

 

『救われぬ者には死を』

 

この世で生きていけぬ、天が裁けぬ程の悪行をした者、生きていく事が辛い者、もう助からない者、その全ての人間を、『死』という『救済』を持って、この世から解放する、彼のたった一つの正義。

それは、世間でいう『正義』とは程遠い、自己満足の『正義(あく)』。

生き残ったとしても、その先の人生が苦しいものなら、早々に殺してしまった方が幸せなのではないのか。

全てを失って、生きる事が出来ないのなら、飢餓という苦しみを与える前に殺してしまった方が楽なのではないのか。

そんな考えの元に、飛天童子は戦ってきた。

そして、この間のサイボーグの件。

プログラム的に、従う事しか出来ない、哀れな奴隷。

そしておそらく、自分の死を願う事を言われ、時打の中の何かが外れたのだろう。

あの時の時打の眼は、確かな、人斬りの眼をしていた。

(そろそろどうにかしないとな・・・・唯一の歯止めは、あの翔鶴か・・・・)

見ても明らかに時打の事を好きだという事がバレバレの彼の勤める鎮守府の艦娘、翔鶴。

彼女がどうにか、時打の歯止めとならん事を、豪真は密に願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の死を覚悟して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――薬丸示現流 居合 『抜き』

 

 

 

 

 

瞬間、()()()()()()()()に甲高い、金属音が響き渡った。

 

 

 

振り向き様に放たれた、時打の『零龍閃(ゼロセン)』を超える速度で放たれた居合抜きが、突如襲ってきた()()()()()()()()()を叩き斬る。

 

残像さえ、許さない。許されない。

 

直後、背後からおそってきた人影の跳躍からの振り下ろしを豪真は、既に納めた鞘からもう一度、『抜き』を放つ。

再度の金属音。

「むっ!」

豪真の一撃の方が重かったのか、その人影は吹き飛ばされる。

だが、空中で一回転した後、華麗に地面に着地する。

そして、その体を見て、豪真は一瞬、驚愕する。

「お前・・・・」

その体は、およそ人間と呼べるものでは無かった。

黒い金属で全ての四肢を取り換え、胴体も、()()としての体を保ったままではあるが、とても肉がありそうではない。

顔は、バイザーの下に隠れて分からない。髪型は長い白髪だという事が分かるが、それ以外には、何もわからない。

ただ、明らかとして分かるのは、この女は、自分を殺す気でここにいるだという事が、見て取れた。

「壱条 豪真」

不意に、女が無機質な声で語り掛けてきた。

「貴様にはここで死んでもらう。飛天童子への復讐の為に」

「ほう・・・・」

それを聞いた豪真の顔に、ニヤリと笑みが浮かぶ。

直後、豪真が鞘から隠岐守を肉眼では確実にとらえられない速度で抜刀。

再度、同じ方向から飛んできた対物ライフルを叩き落し、瞬く間に、それよりも速く隠岐守を鞘に納める。

「悪いがそうはいかねえ。あの男はまだまだ生きていなくちゃ困るからな」

数で、()()()()()()()()()()()()()()、豪真の顔から、笑みが消える事は無かった。




次回 『薬丸示現流』

一瞬三斬の不可視の魔剣。

お楽しみに。

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