艦隊これくしょん その刀は誰が為に   作:幻在

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救われぬ者には死を

「LLLLL!!!」

顔を単眼の覆面で隠し、体は青い強化骨格で覆い、その右手には鍔無しの片刃の剣。

その姿は、さながら、一つ目小僧のようでおぞましかった。

奇怪な声を張り上げ、剣を逆手に持ち、時打たちに襲い掛かってくる。

「くッ!!」

飛龍閃で刀を手放している時打は避けるしか手段が無い。

だが、五月雨は避けるのではなく、反撃する事を選んだ。

一撃目を引き絞った状態で、腰の関節駆動による加速。

その一撃が、サイボーグの腹に直撃する。

そして、その密着した状態で、二度目の推進力の掌打。

その衝撃で吹き飛ぶ。

螺旋連装砲だ。

サイボーグが吹き飛んでいる間に、時打は刀を回収。

だが、サイボーグは何事も無かったかのように空中で一回転し、華麗に着地する。

「効いてない・・・・!?」

その様子に驚く五月雨。

螺旋砲は密着状態で発動すれば、その衝撃は体中へ染み渡る。

理由は、人間の体の七十パーセントが水だからだ。

故に、人間の体は燃えにくいし、体を揺さぶられやすい。

そして、螺旋砲を密着状態で放てば、その衝撃は体内の水分に伝導。

その衝撃が体を一瞬でさいなむのだ。

「そいつは体液に燃料電池(MCFC)の電解質を使ってるが、外側の強化骨格が衝撃を全部無効化してんだ。やるなら、頭部の脳を破壊しないとだめだ!」

そう叫ばれ、五月雨はとまどう。

「破壊するって・・・相手は・・・・・」

「ッ・・・」

五月雨のその返しに、歯噛みする時打。

相手は元は人間。

脳や顔以外の部分は全て機械へと入れ替え、その自我は改造のさいに、抑え込まれる。

だから、止めるには、動けなくするか、破壊するかのどちらか。

 

 

 

 

 

――――コロセ

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

再度の衝動。

例え動けなくしたとしても、脳は死なず、廃棄されてしまえば、機能を完全に失うまで、長い時間を孤独に過ごす事になるのだ。

改造されれば、人としての生活は二度と出来ない。

人の脱水症状や栄養失調も起きなければ、破壊されない限り、死ぬ事は無い。

脳を破壊されなければ、永遠に機動し続ける。

 

 

救いなど無い。

 

 

GIGIGI(ギギギ)・・・!!」

合成音声で発声した声は、とても人間のものでは無かった。

いきなり四つん這いになったかと思うと、まるで蜘蛛のように地面を這いずり、急接近してくる。

「ひっ!」

その恐ろしさに思わず悲鳴を上げる五月雨。

サイボーグが右手の剣をその状態で振るう。

それを飛び上がる事で避ける五月雨と時打。

それを追いかけるように立ち上がりながら剣を下段から振り上げる。

時打は深鳳を振り下ろし迎撃。

そこからサイボーグが連撃を浴びせてくる。

そこで時打は五月雨を横へ蹴っ飛ばす。

「!?」

一瞬、何をされたか理解出来なかった五月雨。

だが、その意図をすぐに理解する。

敵の目的は、時打なのだ。

おそらく、二人とも殺せと命令されているのだろうが、何故や奴は時打を優先して狙っているのだ。

まさか、彼も時打に復讐を願っているのか?

一方で時打は防戦一方。

決して、サイボーグの攻撃が激しい訳では無いのだ。

自分の精神の問題だ。

 

――――コロセ イマズグコロセ コイツハテオクレダ スクイナドナイ

 

ダメだ・・・・こいつは人間だ・・・

 

――――ソンナモノハコイツニトッテハカコノハナシダ ()()()()()()()()

 

それでも・・・俺は・・・・

 

サイボーグが、時打を掌打で吹き飛ばす。

「ぬあ!?」

吹き飛ばされ、壁に激突する。

肺の中の空気が吐き出されるが、それを持ち前の打たれ強さで持ち直す。

しかし、サイボーグが追い打ちをかけるように飛びかかってくる。

「ッ!?」

サイボーグの剣が時打の顔面の左側に突き刺さる。

「LL・・・GIGI・・・・」

首を痙攣させたかのようにかくかくとさせ、マジマジと時打を見る。

(こいつ・・・わざと・・・!?)

先ほどの攻撃、確実に時打の命を奪えた筈だ。

なのに、そのチャンスを逃して時打を殺さなかった。

コイツの目的は、復讐ではないのか?

「GIGI・・・」

そのまま、何かに抗う様に、その体を止めていた。

時打には、その意図が分からない。

だが、突如、サイボーグが発した声に、気付いてしまった。

 

 

「――――――――――コ・・・・ロ・・・・・・セ・・・ェ・・・・」

 

 

「な!?」

「コ・・・ロ・・・・シ・・・・テ・・・・ク・・・レ・・・・・GIGI・・・」

その微かな言葉に、目を見開く時打。

「モ・・・ウ・・・・・・・・・・・・コ・・・ロ・・・・シ・・・タク・・・・ナ・・・イィ・・・・・」

まるで、泣きつく子供のように、サイボーグは、無理矢理、発声器から声を絞り出す。

「――――ッ・・・」

時打は、左手で、サイボーグを押し返す。

「時打さん!」

そんな時打に五月雨がかけよる。

「GIGI・・・・GII・・・コロ・・・・セェ・・・・!」

「!?」

その言葉に、五月雨は顔を強張らせる。

「どう・・・・して・・・・・」

五月雨には、その言葉を理解できなかった。

「コロ・・・・シテ・・・・・タノ・・・・ム・・・・」

体を痙攣させ、自分に与えられた信号という名の命令に、必死に抗いながら、その言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

――――――コロセ

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ああ、分かったよ」

時打は、そう呟くと、ゆっくりとサイボーグに歩み寄る。

「時打さん!?」

ゆったりと、静かに、まるで、死への宣告の様に。

「・・・・言おう」

これをやるのは、いつ以来だろうか?

「貴様の罪に、救いなどない」

静かに、刃を光らせ、

「貴様への罰に、生への選択肢などない」

心を、徐々に、あの頃へと戻していく。

「故に、貴様に、救いなどない」

そして、サイボーグを、その射程に収める。

 

「―――――救われぬ者には、死を」

 

ここで、サイボーグがとうとう命令に逆らえず、時打に襲い掛かる。

だが、それよりも速く、時打は、刀を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛天童子。

 

 

金山市を支配し、独裁的な支配を続けていた黄金連合を壊滅し、無法の世界に法律を与えた英雄的存在。

 

 

 

 

「っ・・・」

鎮守府の廊下を歩いていた吹雪は首筋にぶるり、と冷気を拭き付けられたかのような感覚を覚える。

「・・・司令官?」

窓を見上げ、そう呟く。

 

 

 

 

 

しかし、現実はそうではない。

 

 

英雄という存在ほど、()()な存在はいない。

 

 

 

 

 

 

 

英雄とは、誰かに讃えられる一方で、誰かに恐れられ、恨まれ、憎まれなければならない存在だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時に、標的以外の人間を殺さなければならない、存在でもあるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

救われぬ者にあるのは、死と絶望のみ。




次回『終わりなき怨念』



おいでおいでよ僕たちを殺した人


お楽しみに

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