艦隊これくしょん その刀は誰が為に   作:幻在

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重巡棲鬼が倒せないよー!!

大和「私が力不足なばかりに・・・・ッ!!!」

加賀「私も、手前の軽空母に大破させられるからたまったものじゃないわ」

扶桑「潜水艦は、私と響ちゃんでどうにかなるのに・・・・」

山城「不幸だわ・・・・」

赤城「あと倒すだけなんですけどね・・・・」

響「駆逐棲姫も倒せないのが現状なんだけどね」

第二海域で沼っているこの状況を誰か打開してくれないだろうか・・・

飛龍「燃料も不足しているからね。遠征組の頑張りにかけるしかないよ」

こうなったら戦艦の大型建造に乗り出すか?

吹雪「それ確実に資材が無くなりますよね!?」

雷「あーもう!こんな所でぐだってないで、さっさと本編行くわよ!」

電「なのです!」


襲撃者

―――――やはぎ

 

 

 

 

 

「ん?」

ふと聞こえた、知らない、だけどどこか懐かしい声に、時打はその歩を止める。

今は、一人。

ちょっとした事情でこの横須賀に来ており、今は、病院に向かって歩いていた。

理由は、そこにいる、とある艦娘に会いに行くためだ。

病院について、受付を済ませ、目的の病室に入る為のカードキーを受け取り、そこへ向かう。

エレベーターで、最上階の五階の更に上。

軍の、それも許可を貰った者以外は入れない六階に辿り着く。

そして、目的の部屋を見つけ、カードキーを使って中に入る。

「どうも、一ノ瀬さん」

「あ、時打くん」

そこには、一人の青年と少女。

「睦月も、久しぶりだな」

「」

睦月は顔を綻ばせ、何も言わずに首を立てに振った。

 

 

 

この艦娘の駆逐艦『睦月』は、三年前、かつて、時打の前任、そして今、睦月の目の前にいる青年、一ノ瀬悠斗の後任である秋村禅斗が転属した時に引き取った艦娘だ。

彼女には、CQC・・・では無く、中国拳法を叩き込まれていたのだ。

彼女の得意技である『寸勁』は、その中国拳法の技の一つだ。

何故彼女がここにいるのか。

その理由は、秋村が彼女に飲ませていた薬物にある。

艦娘は、普通は病気にかかりにくいうえに、薬物による中毒衝動を起こさないのだ。

つまりは薬物に対して耐性があるのだ。

だが、そんな艦娘にでも限界というものがあるし、あまりにも強力過ぎると、衝動を抑え込めないのだ。

そんな艦娘に一番有効だと言われている薬物。

 

それが、『蜘蛛の毒』だ。

 

正式な名は無い薬物だが、かつて第二次世界大戦で使われたある薬物と同じような効力がある。

感覚を麻痺させて、危険察知能力を低下させる効力がある。

それゆえに、戦争で多様される事が多かったのだ。

そして、これが艦娘の免疫力を無視して犯す事が可能な唯一の薬物である。

ただ、食べ物に紛れ込ませて、知らぬ間に食べさせればいいのだが、睦月の場合は違う。

首に直接薬を打ち込んでいたのだ。

直接打ち込むという事は、本来なら大量に服用しなければならないほどの症状を、ほんの少しで済むのだ。

つまりは、中毒作用が半端無いのだ。

それを一年間も続けていれば、()()()()()()()しても可笑しくなかった。

 

 

 

睦月は、喋る事が出来なくなっていた。

それこそはじめは、禁断症状で暴れて、抑え込むのには苦労したそうだ。

今は、その症状も収まり、落ち着いて、薬も完全に抜けたが、その副作用で、発声器官の機能を停止させてしまったのだ。

なので、

『久しぶりです』

睦月は、スケッチブックにどこかおぼつかない文字で返事を返した。

服装はいつもの制服とジャケットだが、表情はどこか寂しそうだった。

「調子はどうだ?」

『順調です』

時打の言葉に、すばやく返事を返す睦月。

流石に筆を引くのが速い。

「それで、如月の方はどうなったんだ?」

時打は、話題を一ノ瀬に投げかける。

「ああ、如月の方はね・・・・」

 

 

 

 

それは、ようやく睦月が落ち着いてきて一週間の事だった。

睦月が無性になにかを伝えようとしてきたのだが、病院の人間たちは、まだ混乱しているのかと、睦月をあやしたのだが、唯一、何かを伝えようとしている事に気付いた一ノ瀬が、スケッチブックとペンを渡した所、ようやく如月の存在が明らかになった。

睦月の話によると、如月はとある出撃で、()()()()()()()()()()()()()()()()で放置されていたとの事だ。

だが、舞鶴に行ってみると、件の如月はどこにもおらず、ただ、()()()()()()()()のみが見つかった。

艦娘の場合、例え体の部位の欠損したとしても、長時間入渠していればいずれは元通りになるのだ。

その上、止血さえすれば生き永らえる程の生命力も保有している。

戦艦棲姫の三式弾や徹甲弾、心意改装によって新たに追加された『鬼人化』による反動で体が外側だけでなく中身までボロボロになった瑞鶴が死ななかったのが良い例だ。

その上、睦月と如月が一緒に生活していた部屋もあり、如月がいたという事は信じられた。

だが、結局はそこまで。

どこに行ったのかまでは分からない。

そこにいたというのは確実なのに、如月の姿はどこにもない。

一応、『地下室』という所も探してみたが、どこにも如月の姿は無かった。

他に知っている事は無いかと聞いてみた所、他には何も無かった。

ただ、治して欲しくば、いう事を聞けと言われ、当時、すでに薬を投与されてまともな判断が出来ない状態で、睦月はそれを了承。

そして、しばらくの間、CQCなどの格闘術を徹底的に叩き込まれたのだ。

 

 

 

 

そして、現在。

その如月の行方を、一ノ瀬が単独で調査しているのだ。

「ここ三年。探偵業をしてきて、ようやくつかめた情報が、どこかの誰かが連れて行った事だ。それ以外は情報は無し」

一ノ瀬は、海軍での仕事が無い為か、一時海軍を抜けて街に探偵事務所を構えているのだ。

「そうですか・・・・」

その一ノ瀬の返しに、時打はそう返した。

 

 

 

 

 

 

 

そうして、少しの会話の後、時打は病院を出た。

時打が、鎮守府に着任して四年。

歳はもう二十歳を超え、体も幾分か成長した。

電は、思想改装により、その姿を新選組のそれへと変化させ、より鎮守府の主力として活躍している。牙突の磨きも日に日に向上している。

吹雪に至っては、時打の元愛刀である『影丸』の中に封印されていた時打の『飛天童子としての三年間』を追体験し、その体に時打の『飛天御剣流』を刻み付け、今では、色々なアレンジを加えた彼女だけの飛天御剣流を編み出し、操っている。

川内は、三年前の大規模な戦闘の後、葉子の実家に一年間、修行として居候。そして帰って来た時には相当な力をつけ、その足に、馬坂家秘伝の武具『漆蹄(しってい)』を装備していた。

無論、海上でもその脛当て(ロングブーツ)は使え、空気摩擦による『火爪』も使えるようになっていた。なので、海上でも一瞬ではあるが、火爪による一撃を相手に与える事が出来るようになっているのだ。

瑞鶴は、日々その剣の腕をあげていき、どういう訳か百人一首までやり始め、瑞鶴曰く『耳を鍛える為』だとか。

長門は時打の秘書艦として貢献し、響夜直伝の『二重の極み』で敵を玉砕していっている。

なかなかの戦果だ。

ただ、最近、達也が仕事帰りにこちらによるようになった。

理由としては、如月の行方だが、その時、長門の気分、というか声が妙に高揚しているのか錯覚ならぬ幻聴だろうか?

「まあ、艦娘と提督が結婚するのは最近ではおかしくない事だからな」

歩きながら苦笑する時打。

ここ数年、特に大きな事も無く、海域が取ったり取られたり踏んだり蹴ったりと、人類と深海棲艦の戦いは拮抗している。

陸の方は相も変わらず平和であり、普通の日常が過ぎていた。

「この戦いが、終わればいいのにな」

そう呟き、時打は歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人がいない事に気付いて歩を止めるまでは。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

左肩にかけていた包みを左腰に差す。

(人祓い・・・・一体いつ?)

包みから鞘を露出させ、周囲を警戒する。

ふと、背後から足音が聞こえた。

時打は、そちらを向かない。

徐々に近付いてくるその足音。

次の瞬間、大きく踏み込む音が聞こえ、時打はすぐさま最速の抜刀術『零龍閃(ゼロセン)』を発動。

 

視界から色彩を消し飛ばし、そこへ回される意識を全て、動体視力へ移譲。それによって、視界は急激にスローになり、体は重くなる。

 

別に、視界から色を消す事など、それなりの鍛錬を積めば簡単に出来る。

ただ単に集中力をコントロールすればいいだけの話だ。

よって、時打は、刃を抜き放ち、その背後から襲い掛かってくる存在を捉え―――その剣閃を鈍らせた。

(こいつは!?)

軌道をすぐさま変更。

足を払う為に地面に向かって零龍閃を放つ。

だが、敵はそれをすぐさま見切り足を浮かせる。

そして引き絞っていた左手を突き出す。

それを時打は足をその場に固定し、半ば倒れるように膝を曲げて、体を後ろに動かす事で回避する。

そのまますれ違う。

「ッ!」

時打は、深鳳を鞘に納めず、その切っ先を襲撃者に向ける。

そして、その頬に冷や汗を流す。

「・・・・如月」

睦月と同じ、制服とジャケット。

だが、その左目は、瞳孔の部分がまるで機械のように動いており、義眼だという事を証明していた。

「・・・・どこの所属だ?」

時打がそう問いかける。

「名乗る事は禁止されています。ですのでその質問には答えかねます」

そう、機械的に答えた。

「何故俺を襲う?」

「そういう命令だからです」

「誰からだ?」

「答えず」

「じゃあお前自身の目的はなんだ?」

時打は、そう本人の意見を探る様に、単刀直入に聞いた。

それに対し、如月の答えは、

「―――――睦月ちゃんを取り戻す事」

だった。

「・・・・ちなみに、なんで俺だ?」

「睦月ちゃんを取り戻すには、貴方は邪魔だって言われた」

「だから殺すか」

「はい。その通りです」

如月が右腕を引き、左手を前に出す。

攻撃を予期した時打は、すぐさま刀を鞘に戻して、抜刀術で迎撃の構えを取る。

たとえどんな踏み込みだろうと、一度反応できれば、絶対に空振りなどありえない『零龍閃(ゼロセン)』。

「――――だから」

不意に、如月が口を開く。

「貴方を排除する」

瞬間、後ろ足だった右足が突如、()()()()()()

突然の出来事、それによってありえない状態からの推進力による接近。

それに動揺した時打は、刃を抜くのに、一コンマ遅れてしまった。

その推進力は、音速を超えていた。

瞬きする合間に接近した如月。

その肘からも蒼い炎を噴出。

これで間に合った時打も流石と言えるだろう。

零龍閃の中で最大の威力を持つ『烈風』。

それによって、恐ろしいスピードで迫ってくる如月の右腕を反らし、顔面への直撃を避ける。

直後、ベルトから鞘を外しその鞘の先で如月の脇腹をすばやく叩く。

「ぐぅッ!?」

それにうめき声をあげながら、距離を取る如月。

そんな如月から距離を取る時打。

そして、あの音速を超えた踏み込みの正体に気付く。

黒光りする義手と義足。

かなり精密に作られたそれは、あらゆる技術の最先端を行く日本ならではのデザインと発想だった。

そして、時打が何度も戦った技術と同じだった。

「推進力カートリッジ射出装置と、六七式黒王石(ラグドニウム)義眼か」

「知っていたんですか?」

「前に何度か見た事がある」

その異常さに、おもわず舌を巻いたが。

そしてグラドニウムとは、日本でしか手に入らない、ダイヤモンドを超える強度を持つ鉱石の事だ。

そして、それを使用している義眼という事は、その義眼が持つ演算能力で、使用者の思考速度を加速させているのだろう。

脳が焼ききれない程度には。

「だったら、攻略は可能だ」

如月のラグドニウムの義手と義足は、内臓している、発火カートリッジによる爆発によって生み出される推進力で相手に強力な攻撃を与える事が出来るのだ。

そんな高等技術であるその技術をなぜ、如月が持っているのか疑問だが、今はそんな事を考えている暇はない。

時打が先手必勝で動く。

零龍閃は、間合いの外への攻撃を可能とする。

だが、軌道も変えられるという有利性を持つが、あらかじめ軌道をイメージしておく必要がある。

しかもその処理をほんの一瞬の間にやり、一気に相手に畳みかけることがきもだ。

連撃も可能とする零龍閃。

その数最大で三十機。

だが出撃させるのはたった四機。

狙いは、義手の関節部分。

だが、通常の人間の思考の数倍の速さで稼働する如月の義眼が、その軌道を読み、わずかに義手と義足の位置をずらす事で、関節部への直撃を免れる。

ただ、彼女のつけている義手は、時打の零龍閃では破壊するのは不可能だ。

理由としては、注意を惹く為。

すぐさまお得意の『神速』で距離を詰め、如月の懐に入る。

だが、未来予知にも等しい、如月の義眼の演算はそれを予測。

すぐさま右腕を引き絞り、カートリッジを炸裂させる。

それと同時に時打が、鞘から刀を抜刀。

今度はスピードを重視した零龍閃ではなく、ただの抜刀術。

だが、その抜刀術は、鞘にわざと刃をひっかけることで、力をため込み、鞘から刃が抜き放たれた時、デコピンの原理で恐ろしいほどのスピードを発揮。

音速を超える、拳打と居合。

それが真正面でぶつかりあい、如月のストレートの軌道を、そらした。

だが、如月の義手が、ひっかかるように時打の刃を遮り、如月に刃を叩き込めない。

だから、柄頭で腹部を強打。吹っ飛ばす。

「ぐぅ!?」

よって、距離ができてしまう。

左手で腹部を抑える如月。

すぐさま、時打は鞘に深鳳を収める。

そしてそのまま膠着状態が続く。

互いに睨み合い、出方を伺う。

しかし、その膠着を破ったのは、音も無く時打の背後に現れた男が背後から、篭手に仕込んだダガーで時打の心臓を刺し貫こうとした行為だった。

しかし、時打は初めからそれを予期していたかのように、膝を曲げ、しゃがんで回避する。

「何ッ!?」

そう声を漏らした瞬間、脇腹に鋭い衝撃が走り、吹き飛ばされる。

零龍閃を放ち、背後にいる相手に向かって、剣閃をぶつけたのだ。

後ろを向かずにだ。

そのまま吹っ飛ばされ、ブランドの店に突っ込む。

「その程度の奇襲、恐れるに足らねえよ」

時打は、吹っ飛んでいった男に向かってそう一瞥する。

だが、その男はブランドの店から戻ってきた。

全くダメージを受けた様な感じがしない。

その理由は分かっている。

おそらく、服の下に隠している衝撃緩和のなにかによって、ダメージを緩和したのだろう。

その男は、時打に向かって、憎悪に満ちた視線を向けてくる。

「飛天童子ィ・・・・」

「!」

 

――――飛天童子。

 

(復讐絡みか・・・・!?)

その名は、かつて時打が、かの金山市で使っていた通り名。

その名を知っているという事は、大抵は、時打に復讐を懇願する者たち。

そう思考を巡らせた瞬間、上空から数発の銃弾が降り注ぎ、時打はそれを地面を転がって回避。

そこへさらに別の敵からの攻撃。

地面をへこませるほどの踏み込みで、時打へ滑る様に接近する一人の男。

「セェイッ!!!」

「!?」

だが、それよりもはやく刀を抜刀した時打が、その男の突き出した右手を龍翔閃で跳ね上げる。

そして、左手で掌打を放つ。

その攻撃が胸へ直撃した瞬間、時打は奇妙な感覚をその左手の感じた。

「?」

「ぬぅ・・・・」

距離を取らされた男は、何事も無かったかのようにその場に仁王立ちする。

直後に先ほどの銃弾が襲う。

それを時打は高速で叩き落す。

「チ」

地面に降りたったのは赤毛の女性。

その顔は憎らしそうに時打を睨んでいた。

一方で、先ほど、突きを放った神父服の男は、表情にこそ出していないが、その眼は今にも誰かを殺しそうだった。

如月は違うとして、他三人は確実に復讐目的。

 

四対一。

 

内一人は体の一部を機械へと変貌させている。

しかも全員手練れ。

この数を凌ぐには、時打であっても難しい。

周囲を見渡し、意識をコントロールする。

 

色彩はいらない。視界をモノクロと化し、動体視力をあげる。

 

次に、味覚、嗅覚を切断。今この瞬間にいらない感覚は全て遮断する。

 

触覚も断ち、それらに使われる集中力を、全て第六感に捧げる。

 

この動作を全てクリアするまで、たった一秒。

その瞬間、全員が同時に動き出す。

如月のカートリッジ射出。籠手に仕込んだ刃を出し、かけだす黒服の男(アサシン)。踏み込み、加速のベクトルを限りなく地面と平行にして突っ込んでくる神父。拳銃を構える赤毛の女。

さきに辿り着くのは如月。

脚部の射出装置から薬莢が排出され、音速で飛んでくる如月。

同時に、腕部のカートリッジを射出。加速による、音速を超えるパンチ。

時打は、それに対し、時計回りに回転。

右腕の外へ回避し、そのまま遠心力をつけて、如月の背中に『龍巻閃『凩』』を叩き込む。

次に神父。

龍巻閃によって正面を向いた所へ、神父の右拳の突きが放たれる。

一方で時打は深鳳を振り切り、引き戻すのは片手では難しい。

だが、そんな窮地に対応しきるのが飛天御剣流。

あらゆる状況に対し、様々な方法で対応し、相手の表情で次の攻撃を見極める。

臨機応変。

すぐさまベルトから鞘を抜き出し、それを拳が届くギリギリの所で鞘の先を腹に叩き込む。

龍巻閃による遠心力がまだ残っている事が幸いし、威力は十二分。

神父は顔をしかめ、距離を取る。

次に襲い掛かるのは後ろからおそいかかる黒服の男。

だが、暗器を使っている時点で時打に勝ち目などない。

すぐさま柄頭が鳩尾を叩かれ、悶絶。

「ぐあぁぁああ!?」

流石に鳩尾はキツイらしくその場に膝をつく。

そして、残った赤毛の女は、対角線にいた如月を吹っ飛ばした事で、その巻き添えを喰らって転倒。

だが、如月がすぐさまスカートの下に隠していたベレッタを左手で抜き放ち、時打に向かって発砲。

その銃弾は、偶然右足を後ろへ下がらせた時打の足元に直撃、火花を散らす。

「ッ」

それに冷や汗をながす。

義眼の精密な演算による、射撃。

これほど厄介なものは無いだろう。

「ぬん!」

「ッ!?」

直後に、神父が再度踏み込んでくる。

その手には、どこからか取り出した黒鍵(こっけん)を、指の間に、片手三本、両手六本を持って斬りかかってくる。

右斜め上から、右三本を薙ぐ。

時打はそれをバックステップで回避。

紙一重の為に服が斬れる。

そこから左右交互による連撃。

時打は深鳳を持って全てをいなす。

突如、連撃がやんだかと思うと、距離を取り、両手をの黒鍵を投げてくる。

それらは左右から弧を描きながら時打に飛んでくる。

時打はすぐさま鞘に深鳳を納め、超光速の斬撃を飛ばす。

 

「零龍閃――――六機ッ!!」

 

すぐさま黒鍵を叩き落され、あらぬ方向に飛んでいく。

直後、神父が改めて抜き出した新たな黒鍵を抜き出し、もう一度、投擲。

今度は四本。

更には神父も踏み出してきた。

時打はもう一度零龍閃を発動。

光速の残光が黒鍵を叩き落す。

しかし、黒鍵を全て叩き落し、神父を叩こうと思った瞬間、背後から、悶絶から復活した黒服の男が、時打でも気付かない程の気配の無さで、右手を時打の首に回し、左手で、籠手にしこまれたダガー、『アサシンブレード』で時打の脇腹を差した。

「ッ!?」

その鋭い痛みに、思わず思考がスパークし、途切れる。

次の瞬間、神父の左鉄拳が時打の胸に叩き込まれる。

そして吹っ飛び、建物の壁に叩き付けられる。

黒服の男はすぐさま時打の横回避したので、巻き込まれる事は無かった。

「グハァ!?」

その重い衝撃に、思わず口から血を吐く時打。

地面に膝をつく事は無かったが、壁によりかかって痛みに苦しむ事は免れなかった。

視線を正面に向けると、そこには赤毛の女が拳銃・・・デザートイーグルを時打に向けて構えていた。

「死ね」

引き金に指がかけられ、いざ、熊をも殺す弾丸が放たれようとした瞬間。

「やらせません」

微かなスイッチ音とともに、女の体が横に吹き飛ぶ。

「アァア!?」

その衝撃に、宙を舞い、そして地面に滑るように叩き付けられる。

「「「!?」」」

その思わずイレギュラーに、その場にいた全員が驚く。

海の様な青い髪。

ノースリーブの制服。

防刃素材の手袋。

「五月雨!」

「大丈夫ですか!?」

五月雨が時打のすぐ傍にかけよる。

そして、時打の左脇腹を見る。

「傷口が深い・・・すぐに治療しないと」

「その前にまずはこいつらだ」

時打は右手で傷口を抑えながら、深鳳を左手で構える。

五月雨もその意図を読み取り、敵に向かって構える。

「如月さん・・・なんでこんな所に・・・それに、あの腕と足・・・・」

「説明は後だ。まずはこいつらをどうにかするのを考えろ」

「はい」

その直後に、如月が発砲。

時打がそれを弾き、すぐに五月雨が踏み込む。

「ヤァア!!」

鋭い掛け声とともに、スイッチ音が響き、五月雨が消える。

否、消える程のスピードで踏み込んだのだ。

0から百へのストップアンドゴー。

その速度は音速を超える。

狙うは、神父の男。

右拳での鋭いストレート。

それを神父の男は左手を高速で回し、受け流す。

『回し受け』という奴だ。

だが、五月雨が大きく踏み込んで神父との距離を詰めようとする。

しかしそれを許さず、右手で掌打を放ってくる。

「く!」

思わず左手で顔面を狙ったその掌打を受け止め、靴底をすり減らしながら、距離を取らされる。

直後に、右拳の強力なストレートが放たれる。

それを、体を思いっきり逸らして、紙一重で回避する。

そのまま地面にしりもちをつく。

更に、ローキックが飛んでくる。

「くっ!」

地面を転がり、それを回避。

だが、神父はさらに回転し、ローキックを連続で放ってくる。

五月雨はそれをすぐさま立ち上がってバックステップ。

神父はその五月雨に向かって遠心力を付けた右拳で突きを放つ。

それを予期した五月雨は、その右手首を左手で掴む。

そのまま体を半時計回りに体を回転させ、強烈な一本背負いで神父を投げ飛ばす。

「セァァアッ!!」

「ぐあ!?」

背中から地面に叩き付けられ、肺の中の空気を一気に吐き出される。

一方で時打の方は苦戦していた。

先ほどの刺突が深かったのか、出欠が酷く、上手く動く事ができないのだ。

それでも気迫でなんとか痛みを誤魔化しているあたりは凄い。

「貴様、その傷でまだ勝機があると思っているのか!?」

「そうじゃなきゃやらねえさこんな事!」

最も、戦わない事が()()時打の思う最良の選択なのだが。

「人斬り風情がぁ!」

「ッ!」

黒服の男がアサシンブレードを振るう。

だが、もともと暗殺器具であるの武器は、そのリーチ故に、時打の居合が先に決まる。

一撃目は、脇腹。

「ぐは!?」

それで態勢を崩す黒服の男。

「悪いな」

時打は、そう一言呟き、帯から引き抜いた鞘で、二撃目を男の左腕に叩き着ける。

 

飛天御剣流抜刀術『双龍閃』

 

間髪入れずに刀と鞘で二段構えの攻撃をする二連撃技、双龍閃。

その二撃目は、適格に男の左腕に装着されたアサシンブレードを破壊する。

「ぐうあ!?」

「ついでだ!」

さらに、鞘を返して、その切っ先で右腕に叩き付ける。

すると、鋭い金属音とともに、袖から折れた刃が出てきた。

「西洋では、より多くの敵を殺す為に、両手の暗器を持つ事がある。お前はずっと左手のみで攻撃していたが、その度に右手が不自然に動いていたから、まさかと思ったが、案の定だったな」

「ぐぅ・・・・」

悔しそうにその場に膝まづく。

そして、恨みがましそうに時打を見上げる。

その視線に、胸の中に、ある黒い何かが渦巻く。

 

 

―――――コロセ

 

 

「ッ・・・・」

胸中に浮かんだ、一つの言葉。

直後、左から銃弾が飛んできて、時打はそれを逆刃で迎撃。

「飛天・・・・童子ィ・・・・!!」

赤毛の女が、おぞましい形相で呪詛を吐き、時打に黒服の男もろとも、デザートイーグルを乱発する。

「つぁッ!?」

時打は、痛む脇腹を我慢しながら、剣を振るう。

銃弾は全て二つに割れ、あらぬ方向に飛んでいく。

「チィッ!」

全弾撃ち尽くしたデザートイーグルを捨て、別の拳銃を引き抜こうとしたが、それよりも速く、時打が飛翔。

「ッ!?」

そのまま女に叩き付ける。

右肩に直撃し、鎖骨が折れ、悲鳴を上げる。

「あああ!?」

膝をつき、肩を抑えながら地面に伏せる。

地面に着地した時打は、その様子を見つめる。

 

 

 

――――コロセ コノオンナハ、オマエヲコロスマデトマラヌゾ

 

 

 

うるさい。

時打は、そう一蹴し、その言葉を振り払おうとする。

 

 

―――フクシュウヲナシトゲタシュンカン、コノオンナドウナル?

 

 

 

だが、言葉はどんどん頭の中に浮かんでいく。

 

 

 

 

――――スベテヲフクシュウニソソイデキタコノオンナハ、ソレヲナシトゲタシュンカン、ソノサキノミチハナイゾ

 

 

 

――――()()()()()()()()()

 

 

 

 

――――ダカラコロセ

 

 

――――テオクレニナルマエニ

 

 

 

 

 

 

―――――『救われぬ者には死を』

 

 

 

 

 

 

 

 

それがお前の本質の筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時打さんッ!!!」

「ッ!?」

五月雨の声で現実に引き戻される。

気付けば黒服の男が背後から、時打にナイフを突き立てようとしていた。

「ラァアッ!」

ほぼ反射的に体を回転させて、黒服の男と位置を入れ替え、その背中に『龍巻閃』を叩き付ける。

「ぐはぁ!?」

そのまま吹っ飛んでいく。

確実な手応え。

男の意識は、確実に刈り取られた。

その様子に、時打は、思わず安堵の息を吐いた。

 

 

助かった・・・・

 

 

頭の中に浮かんだ言葉。

それに背筋を冷たくするも、なんとか、いつの間にか跳ね上がっていた心臓の鼓動を鎮める。

「・・・・・まだ、残ってるのか・・・・」

もう、捨てた筈の『信念』の筈だ。

なのに・・・・・

「時打さん!」

そこへ五月雨が駆け寄ってくる。

「傷を見せてください!」

駆け寄るやいなや、時打の服をめくり上げ、傷口を見る。

「・・・・あれ?」

そこで首をかしげる。

「傷が・・・塞がっている?」

正確には、傷が塞がりかけている状態で止まっているのだ。

「良く解らんが、こういう体質なんだ。こういう深い傷を受けると、自然と治ってるんだよ。まるで、()()()()()()()()()みたいにな」

時打はそう言い、深鳳を鞘に納める。

「・・・ぐぅぅぅあぁあぁああ!!」

その瞬間、五月雨の背後からあの神父が襲い掛かり、その手刀を五月雨に突き立てようとする。

「ッ!」

だが、仙腸関節の僅かな駆動音とともに、五月雨が振り返り、螺旋状に体を駆け巡った増幅された推進力『螺旋砲』が、神父の男の手刀をすり抜け、突っ張りの如くその腹に直撃した。

「もう一撃・・・・ッ!!」

さらにそこから吹き飛ぶ前に、二度目の『螺旋砲』。

片手による連撃。

これぞ、五月雨が四年間、豪真の元で修行し続けて編み出した『螺旋砲』。

 

『螺旋連装砲』

 

二重のダメージを受けた神父はそのまま吹き飛んでいき、壁に激突。

背中から叩き付けられた為に、肺から空気が吐き出される。

だが、衝撃が強かったのか、空気を吸い込む間もなく、気絶する。

「死ねぇぇぇぇええええ!!」

女が、鎖骨を折られた痛みを精神で凌駕し、動かない筈の右腕を無理矢理動かし、デザートイーグルを向け、放つ。

右腕は跳ね上がり、曲がってはいけない方向に曲がる。

間違いなく脱臼だ。

一方で飛んでいった一撃必殺の弾丸は、標準が定まってなく、弾道がそれ、時打に当たる事なくどこかへ飛んでいった。

「あぁぁぁあああ!!」

それでもデザートイーグルを向けようと右腕を無理矢理動かそうとする。

「この人・・・・左腕が・・・・」

先ほどから、左腕を全く使っていないのだ。

「お前・・・・あの時腕の神経を斬った女か」

()()()()()だった女の事を思い出し、時打は苦い顔をする。

「死ねぇぇぇえええ!!!」

「もう、寝ろ」

時打は、悔しそうに顔を歪めた後、体を大きく捻り、戻る反動を利用して刀がはじき出され、その柄頭が女の眉間を打つ。

脳天を揺さぶられたためか、女が白目をむいて、その場に倒れ伏した。

「これで全部でしょうか・・・?」

「ああ」

覇気の無い声で、そう応える時打。

「この人たちは・・・・」

「俺に復讐しようとする奴らだよ」

「復讐した所で、死んだ人が生き返る訳じゃないのに・・・・」

時打は、そんな五月雨を一瞥し、自分の右手を見る。

 

 

 

 

 

『救われぬ者には死を』

 

 

 

 

 

「・・・・なぜ、今更・・・・」

覚悟はしていた。

実際、復讐はこれが初めてだ。

だが、『これ』が浮上するなど思わなかった。

忘れはしなくても、心の奥底に抑え込んでいた筈だ。

なのに、何故。

「時打さん?」

五月雨に声をかけられ、現実に引き戻される。

「どうかしたんですか?」

五月雨は、心配そうにそう声をかける。

「ああ、なんでもない」

無理に笑顔を作り、誤魔化す。

今はまだ、バレる訳にはいかない。

心配される訳にはいかない。

時打はその様な思いで、誤魔化した。

「そうですか・・・・」

「そんな事より、お前、どうしてここに?」

「はい、豪真さんに、おつかいを頼まれていたんですが、途中で貴方が戦っているのがみえたので、助太刀にと思いまして・・・あれ?」

そこで何かに気付く五月雨。

「如月さんは・・・・?」

「!?」

そう、如月がいないのだ。

「どこにいったアイツ!?」

周囲を警戒し、辺りを見渡す時打と五月雨。

だが、どこにも如月の姿は無い。

「逃げた・・・のか・・・?」

「そうなんでしょうか・・・・?」

そう思案しているあいだに、如月は、高い位置から彼らを見下ろしていた。

「はい・・・全員倒されました・・・・断念・・・ですか・・・はい・・・はい・・・・わかってます・・・・睦月ちゃんを取り戻す為です。貴方に従います。では予定通り、『プレデター』を一機、お願いします」

如月は、義手の右手に握られた携帯からの通話を切り、彼らを観望する。

 

さて、『天野時打』の中の『飛天童子』はいつ目覚めるのやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!」

何かが近づいてくる。

「五月雨」

「分かってます」

時打から九時、五月雨から三時の方向から、何かが高速で近付いてくる。

そこで五月雨は違和感に気付いた。

反射神経を鍛える為に、『百人一首』を豪真や翔真よりやり続けていたからか、聴覚が良い五月雨には聞こえていた。

 

近付いてくる何かが、足を踏み出す度に、()()()()()()がする事に。

 

そして、その正体はすぐに明かされる事になった。

 

何かが、屋上から飛び出してくる。

「「!?」」

その何かが地面に着地し、時打たちは、目を見開く。

そう、如月のような義手なんかじゃない。

それは、現代の科学によって生み出された、()()()()()()()()()()()

 

「・・・・・改造人間(サイボーグ)・・・・ッ!?」

 

声を押し殺し、そう、呟いた。




次回『救われぬ者には死を』


救い無き者よ、『死』という幸福を与えてやろうぞ

お楽しみに

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