艦隊これくしょん その刀は誰が為に   作:幻在

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黒河幕府と征夷大将軍

黒河市の名物ともいえる、街の中心にそびえ立つ、大きな城。

名を、『賀縁城(がえんじょう)』。

創建は、明治より。

そもそも明治時代に出来たこの黒河市は、一言で言って、自由すぎるのだ。

法律があるのに、銃刀法がほとんど機能していない事もその原因だ。

どんなに政府(うえ)から、圧力がかかろうと、負けじと独自の分化を作り、時々くる政府からの兵士たちを、この街を管理している『黒河幕府』の練度の高すぎる傘下たちによって必ずと言っていいほど返り討ちにしているのだ。

とにかく、自由主義を体現した街としても有名なのだ。

街の風景はそのままなのに、アンバランスに科学がその場をはびこっている。

バイクや車や、携帯、懐中電灯、高画質テレビ。

とにかくアンバランスなのだ。

そして、自由。

自由を体現しているだけあって、奴隷商売(ああいう)のも、隠れてやっている者もいるのだ。

 

 

 

 

 

 

「それが、この街の大まかな歴史さ」

「自由過ぎんだろ」

そして、賀縁城の天守閣にて、愛亜梨と時打は向かい合っていた。

その傍らには、愛亜梨側には、忍び装束を着たままの小太郎と、二人の顔が瓜二つの双子と思われる高校生ぐらいの女性が二人。見分けは、髪の長さが正座している状態で、床につくか、セミロングなのかだ。

顔もそれなりに整っており、美しいの一言に尽きる。

ただ、その顔には警戒の色が見え、今にも時打に斬りかかりそうだった。

一方で、時打の側には、吹雪一人だ。

理由としては、飛天童子としてだが、時打の思考を唯一理解できる人物だからだ。

ただその時、翔鶴も連れて行った方が良いのでは?と言われたのだが、理解は出来なかったようだ。

ただし、右側の席には二つ程空席があった。

「さて、この度は非常に申し訳ない事をした。部下に代わって、お詫び申し上げよう」

「一応受け取っておく。それで、話というのは?」

時打は、そう問う。

「ああ、これで鎮守府の事はバレた訳だ。(うえ)さんにも言っておいてくれたんだろう?」

「ああ。こっぴどく怒られたよ」

「それはご愁傷様だ。ま、原因はこちらにあるのだがな」

「それはもう気にしなくて良いんだが・・・」

「それはそうと、そろそろ本題に入ろう」

姿勢を正す愛亜梨。

「我々から、いくつかの提案がある」

「提案?」

「ええ、一つ目は、今回の事件で、お互いにお咎め無しだという事」

「それなら、鎮守府の修理に加え、改修工事もしてくれるから、良いんじゃ・・・」

一瞬、後ろにいた双子が微妙に動いた気がした。

「まあまあそう言わずにさ。それともう一つ、貴方がた海軍のトップとの秘密の会合とやらをしたいのだ」

「トップ・・・・」

「元帥とまではいかない、けどまあ、一つの地方を収めている大将様にお会いできないかな?」

「それは何とかしてみるが、あまり期待するなよ?」

「気長に待つさ。それで、三つ目の提案だ」

指を三本たてる。

「報酬さえもらえれば、我々がお前たちの要望に可能な限り応える。反対に、こちらが報酬を送れば、お前も可能な限り答える、っていうのはどうだい?」

「つまりは等価交換か?」

「そゆこと。まあ、貴方の事は調べがついてるよ。殺しは頼まない」

「なら良いんだがな」

内心、安堵の息を漏らす時打。

「さて、小太郎や、正宗姉妹はどう思うかな?」

愛亜梨は、うしろにいる傍付きたちに問いかける。

「拙者は別に構いません。拙者は(あるじ)の決定に従うまででござる」

小太郎は快く承諾。

ただ、正宗姉妹と呼ばれた双子は、どうにも納得のいかない様子だった。

「どうかしたのかな?」

「いえ、先ほど愛亜梨様が上げた三つの提案については、反対は無いのです。ただ・・・・」

ロングヘアの少女がそう答える。

「別に、言っても良いぞ。罵声には慣れている」

時打がそう言う。

 

「「・・・・・馴れ馴れしい」」

 

ぼそり、とそんな声が聞こえた。

「「「「・・・・・・」」」」

それで無言になる愛亜梨、小太郎、時打、吹雪。

そして・・・・

「・・・・・ふ」

吹雪が鼻で笑った。

「「~~~~ッ!!」」

それで頭に血が上ったのか双子だからか息ぴったりに同時に抜刀。

「わぁぁあ!?すみませすみません!笑ったのは謝りますからぁ!」

「「許さんッ!!!」」

「ひぃぃい!」

そのまま廊下にもつれ出る三人。

「・・・・」

「許してやってください。普段は大人しいのですが、主様の事、あるいはそれに関係する事だと、感情的になりやすいのでござる」

「あー」

時打も納得と言った感じで苦笑を浮かべる。

「で、まあ、こちらからの提案は以上なんだけど、そっちはどう?」

「いや、特に要求する事は無いな・・・」

「あら、そうなん?」

ふと、廊下の方で大きな音が響いた。

「息吹ィ!!」

「「きゃぁぁあ!?」」

障子が派手に破れ飛び、そこには床に倒れ伏す正宗姉妹。

「は!?しまった、つい自棄(ヤケ)になって息吹を使っちゃった」

一方で、吹雪はやってしまったとばかりの慌てよう。

「小太郎」

「御意」

愛亜梨の一言で、小太郎はその処理に向かった。

もはやどうでも良い。

「あ、そうだ。道真っていう男と、奴隷商売の方はどうなったんだ?」

「道真・・・・・ああ、一年前にどっかの三人組に潰されたあのバカか。問題無い。奴隷を所持していた時点でこの街じゃ、他人の自由への権利を奪った所で問答無用で刑務所行きだからな。今頃、鞭打ちの刑にでも合ってるだろうよ」

くっくっく、と笑いを零す。

「それで奴隷商売の方だが、これから処理する所だ。そもそもそれに気付けなかった私たちにも非がある。所持している奴らも徹底的にいぶり出してやるさ」

どうにか復活した正宗姉妹と小太郎、吹雪が戻って座る。

「ああ、そうだ」

ふと、愛亜梨が何かを思い出したように、時打に言う。

「実は、全国に潜伏している傘下の奴らからの情報なんだがな、北海道や東北の方の海軍、黒いらしいよ」

「黒い?」

「ああ、真っ黒だ。お前の場合は、内陸の金山市にいたから、知らないかもしれないけど、その辺りにある鎮守府がなんでも酷い有様でね。艦娘の轟沈数が、とても多いみたいなんだ」

「そんな事が・・・・・」

表情を強張らせる吹雪と訝しむ時打。

「勿論、漏れていないだろう。なんでもそこの上層部が原因らしくてね。艦娘の扱いについては、何も言っていないそうだ。だが、都合良く扱えない場合は容赦無く粛清されるらしい。特に、提督に叛逆を企て、かつ、上層部の命令にも逆らったら、同じ艦娘を使って、全員を沈め、また新しい艦娘と提督を着任させる。それの繰り返しだ。そこはそれを躊躇い無く繰り返している」

愛亜梨は笑ってはいない。

「そして、最近手に入れた新しい情報なんだが、『艦娘救済派』のトップである、現元帥である火野柱(ひのばしら) 玄隆(げんりゅう)を目の上の敵にしているらしいんだ。だから―――」

「―――蹴落とす為に、誰か(支え)を消す」

愛亜梨の言葉を遮り、時打が繋いだ。

その時、正宗姉妹が動こうとし、小太郎が止めたが、愛亜梨と時打は気にも留めない。

「ご名答。最近、関東の上層部の人間が消されて行ってるの、知ってるかな?」

「ああ」

「これは間違いなく、その第一段階だろう。近頃は提督も狙われているって話だ。用心してくれよ」

「分かった」

姿勢を正す愛亜梨。

「お前には、貸しがある、それを返す前に、死ぬなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

黒河市の大通(おおどおり)を、途中で勝った団子を食べながら歩く時打と吹雪。

その間に、言葉は無い。

『ああそうだ』

ふと、時打は愛亜梨が部屋を出ていく際に言い残した言葉を思い出していた。

『君が飛天童子として活動する一年前にあった、一ヵ所だけ、艦娘を可愛がっていた提督のいる鎮守府があるって聞いたな。そこにいた一人の空母が史上最強と言われたようだぞ?』

空母という言葉が引っかかるが、何故彼女はそんな言葉を、時打に残していったのか。

最後の団子を口に入れ、串をゴミ箱へと入れ、鎮守府に向かって歩き出す。

その道中、黒い武士服の下にある、首飾りのチェーンに通した指輪を、布越しに握り絞めてみる。

そうすれば、かつて死んだ、自分の姉の温もりを感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎮守府に戻ると、沢山の作業員たちが、鎮守府の修理に当たっていた。

中には、艦娘たちも数人いた。

「提督」

そこへ長門がやってくる。

「進行状況はどうだ?」

「手慣れたものだよ。たった半日で、半壊した四分の一まで治っている。少なくとも、食堂だけは今日中に治りそうだ」

「なら良かった」

ほ、と息をつく時打。

「お兄ちゃん!」

「司令官!」

そこへ電と暁がやってくる。

「電、暁、どうした?」

「明石さんから伝令なのです」

「川内の診察が終わったって」

「そうか、今すぐ行こう」

そうして、狙われなかったからか、無傷の工廠にやってくる、時打、吹雪、電、暁の四人。

長門は、引き続き、資材を運ぶために、工事現場に残った。

ちなみに、響夜は打撲程度だったので問題は無かったが、葉子の場合は、小太郎が施した応急処置は持たないとの事で、しばらく療養。

「明石、川内」

「あ、提督」

そこには、ベッドに腰掛ける川内と、ボードとペンを持って何かを書き込んでいた大淀と、診察器具らしきものを持っていた明石がいた。

「大丈夫か?」

「はい。もう動けます」

そう言って、手の力でベッドから飛び降り、くるりと一回転してみる。

「神通とは、話しはつけたのか?」

「・・・・うん」

時打の問いに、控えめな笑みを持って、答えた。

「なら良かった。それで明石、川内の心意については?」

「変化無し。心意改装の高潮はみられないよ」

明石がそう答える。

「そうか、この間の事で、何か変化があるんじゃないかって思ってたけど、ま、何もないならそれで良いか」

「ですね」

時打の言葉に、川内が答える。

「ただ、ね」

ふと、川内の声がシリアスさを醸し出す。

「心臓を貫かれて意識が飛んでた時、那珂の夢を見たんだ。そして約束した。誰にも負けない程に強くなるって。でも、心は変わっても、姿は結局変わらなかった。それってさ、私がこの姿を捨てきれないからだと思うんだ」

ただ、と呟き、ぎゅっと両手を握る。

(ふね)としての自分と人間としての自分。この二つの私がいるから、私は、私でいられる。弱い自分も、情けない自分も、結局それは、変わらない自分であり、向き合わないといけない過去。那珂との事も、今の私がいる事の一つでもある。だから、私はこのままでいい。あ、だからって、強くならないって訳じゃないから」

おどけるように笑う川内。

その瞬間、工廠の扉が勢いよく開かれる。

「よーく言ったァ!」

葉子だ。

「し、師匠!?」

「馬坂!?お前、大丈夫なのか!?」

半裸に寝巻を羽織っている状態で、その胴体には、包帯がぐるぐる巻きにされていた。

「この程度で寝てなんていられないわよ!それと川内!」

「は、はい!」

「ますます気に入った!この間の件も含めて、改めて貴方を馬坂の人間として認めてあげるわ!家にはちゃんと事情話しておくから、首を長くして待ってなさい!」

そう自信満々に言い放つ葉子。

それに川内は、頭を深々と慌てて下げる。

「あ、ありがとうございます!」

思わず、その場にいる全員に笑みが浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

ただ、時打はまだ知らなかった。

 

この、更に三年という月日の先、自分(飛天童子)がした事の重大さを、新ためて痛感する事を。

 

彼は知らなかった。

 

自分が、どれほど恨まれていたのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かが、死んだ瞬間、時打は、それを思い知る。




次回 第一部 最終章

『天野時打編 復讐の章』


『東北の闇』


全ては日本の為、元帥(ゴミ)を排除する。


お楽しみに

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