赤城「初めての潜水艦ですね!」
吹雪「あの、まるゆちゃんは・・・・」
赤城&幻在『あいつは
吹雪「さいですか・・・」
なにはともあれ、本編をどうぞ!
鎮守府門前。
「ハァッ!!」
影丸を薙ぐ吹雪。
「アバーッ!?」
なぞの断末魔と共に吹っ飛んでいく吹雪。
「ザッケンナゴラーッ!!」
「牙突ッ!!」
「アバーッ!?」
その吹雪にとびかかろうとした男を、砲撃のような突きで吹き飛ばす電。
「あらかた片付いたでしょうか?」
「これで全部だろうね」
血のついていない影丸を薙ぐ吹雪。
そして、鞘に納める。
「隙ありだ糞ガキ共ォォォォォオ!!」
その吹雪に向かって気絶した振りをしていた男が立ち上がり、アサルトライフルを腰だめで乱射しようとする。
だが、それよりも速く、吹雪の右手が霞み、抜き放たれた影丸が間合いの外にあるアサルトライフルを真っ二つにする。
「・・・・」
男の戦意を刈り取るには十分な程だった。
がっくりと膝をつく男。
「セェイッ!」
「ぐっはぁ!?」
しかし、無慈悲な事に電が気絶させる為にわざわざ顔面をぶっ飛ばした。
「よし」
「よ、容赦ない・・・」
その電の様子に若干引いてしまう吹雪。
立ち上がる敵も無く、とりあえずは戦闘終了といった雰囲気になる。
「まさか瑞鶴さんのルートを使われるなんて思わなかったね」
「そうなのです」
一言づつそう言い合うと、吹雪はふと、右へ視線を向けた。
そこには、見覚えのある、半透明の少女が一人。
「・・・・・・」
血の気が一気に消え失せ、体温がありえない程に下がった気がした。
実は吹雪は、ゴースト系が大の苦手なのだ。
「ん?どうしたのです?」
「あああああれれれれれ」
震える腕で、半透明の蒼白い少女に向かって指を指す。
「? そこに何かあるのですか?」
「えいやだってそこにいるでしょまさかみえないの?」
電の返答に絶句する吹雪。
だとしたら、この半透明の蒼白い少女、(面倒くさいので)幽霊は自分の何か背後霊的な何かなんじゃないのか?だとしたら何か呪われるような事をしたのか?自分は呪い殺されるのか?
(せめて、普通の人間のように、年老いて死にたかったな・・・・)
などと遺言の様な事を心の中で口走る吹雪。
だが、その姿には確かな見覚えがあった。
その人物は――――
不意に、幽霊がこちらを向いた。
「ヒィッ!?」
「なのですッ!?」
小さく悲鳴を上げた吹雪に驚く電。
そして、幽霊は、口をこう動かした。
『私を川内のところへ連れて行って』
次の瞬間、その幽霊が吹雪の中に入った。
「ハァァア!!」
真っ直ぐに右足を突き出す。
だが、ピエロマスクの男、影間 祐司はその川内の足に飛び乗り、更に飛び上がる。
その体に、一切の重さを感じさせずに。
「ッ!?」
そして、ありえない事に、何もない空中で何かを蹴って、川内に突進してきたのだ。
そして、その腹に強烈な掌打を貰う。
「グァア!?」
重い衝撃が腹部に走り、
「げほ、ごほ・・・!?」
地面に向かって、血をまき散らす川内。
その体には、まるで弾丸を撃ち込まれたかの様な傷、斬撃を喰らったような傷、無数の痣ができていた。
完全にボロボロだった。
それでも立ち上がる川内。
その背後から、ケタケタと笑う祐司。
「おやおや?まだ立ち上がるのかね?」
「うる、さいッ!」
背後にいる祐司に向かって、後ろ回し蹴りを放つ川内。
だが、それもいともたやすくかわされてしまう。
「簡単に背後を取られてしまうのに。大人しく捕まった方が良いんじゃないんですか?」
「ッ!?」
いつの間にか背後にいた祐司。
そして、背中に鋭い痛みが走り、喘ぎ声を漏らす川内。
「あ・・・ぎ・・・・」
祐司の右手の五指全てが、川内の背中に突き立てられていた。
「中国拳法にある『点穴』という技を昇華させたものでして、人間の皮膚のみならず戦車の装甲を貫く事も可能なんですよ、これ」
ケケケ、という笑いを漏らす祐司。
「ぎぃ・・・・アァッ!」
「おっと」
左足を思いっきり上げ、川内の顔の横にある祐司の顔を蹴ろうとする川内だったが、祐司はそれを回避。
そして距離が出来た事で、川内は振り返り、『廻牢・刻戟』を放つ。
だが、それを今度は受け止められてしまう。
「ッ!?」
「まだまだ未熟といった所がありますね。もしかして貴方、これ覚えたのはごく最近なのでは?」
図星。
直後、衝撃。
吹き飛ばされ、木に叩き着けられる。
「ゲハァッ!?」
肺の中の空気が一気に吐き出される。
「げほ、ごほ・・・!?」
激しく咳き込む川内。
「これ以上は時間の無駄でしょう。大人しく捕まって下さい」
「ざっけんな・・・・私は、負ける訳にはいかないのよ・・・!」
「どちらにしろ、貴方に勝ち目はありません。次で終わりますので、そのつもりでいた方が良いですよ?」
「そんなの、やってみなきゃ分かんないでしょ!」
祐司に向かってそう叫ぶ川内。
だが、こんなボロボロの状態でまともに無傷の祐司と戦える訳が無い。
「そうですか?では仕方がありませんね」
腰を落とすピエロマスクの男。
そして、一気に踏み出そうとした瞬間、ピエロの視線が一瞬、海の方向を見た瞬間、大きく横に跳んだ。
直後に、そこの地面が吹き飛ぶ。
「な!?」
砲撃だ。
「おやおや、向こうから来てくれるとは」
キキキ、と笑いを零す祐司。
「神通!?」
そして、川内はその砲撃をした張本人の名を叫んだ。
「姉さん!」
酷く焦燥に駆られた表情で姉の名を呼ぶ神通。
「なんで・・・!」
歯噛みする川内。
安全の為に、陸で戦えない艦娘は全て海へと避難させ、神通もその中に入っていたのだ。
なのに、何故ここにいるのだ?
安全な場所に避難させた筈なのに。
確実な作戦の筈なのに、何故・・・!!
「姉さん!逃げて!」
神通がそう叫ぶ。
だが、
「自分から来てくれるとは、手間が省けました」
「ッ!?」
いつの間にか、
「ああ!?」
「神通!」
その光景を見た川内が、脊髄反射の要領で駆け出し、吹っ飛ぶ神通を受け止める。
そして、祐司のいる方向を睨み、戦慄した。
「嘘・・・・ッ!?」
立っているのだ。
「どうして、なんで、どうして、海の上に、水の上に・・・どうして立っていられるの!?」
狼狽する川内。
「なに簡単な事ですよ。よく見て下さい、足に波紋がなんども広がっているでしょう?」
確かに、祐司の両足から、
「片方の足が沈む前にもう片方の足を水面につき、また片方の足が沈む前に片方の足を引き上げ水面につける。それの繰り返しです」
「そ、そんなデタラメ、出来る訳が・・・・」
「おや?君の使う馬坂流の奥義であるあの右足の赤熱や、君たちのリーダーと思われるあの武士姿の男の速さ、それに、あの喧嘩屋の二重の極みだって、原理こそ通ってますが、ある意味ではデタラメでは無いのでしょうか?」
祐司の指摘は正しい。
葉子のあの火爪や、時打の神速も、響夜の二重の極みも、ただの人間にはデタラメと思われてもおかしくない程のものだ。
「あるんですよ。戦乱の時代、実際に水の上に浮いたという伝承が。その時には、なにやら木の様なもの履いていたようですが、それはあくまで
水面で跳ぶ祐司。
陸に足をつき、くるりと川内と神通に向き直る。
「――――ッ」
もはや絶句するしかなかった。
なにもかも次元が違い過ぎる。
勝てる訳が無い。
「あ、ああ・・・・・」
何もかもが砕かれた気分だった。
「さて、そろそろ終わりにしましょうか」
「う、あぁぁあッ!!」
自暴自棄。
半分錯乱した川内は、神通を横へ突き飛ばし、左足でローキックを放つ。
だが、狙いが甘く、いともたやすくかわされてしまう。
そのまま回転しながら右足で後ろ回し蹴りを放つ。
腹を狙ったものだろうが、腰を折り曲げて回避される。
そのまま連続で蹴りを入れるが、どれもデタラメで、狙いがなっていない。
それに、『
「いい、良いですよ、その恐怖におびえる顔!圧倒的存在に抱く恐怖!それは私のような
「ッ!?」
突如、狂人と化した祐司の言葉に動きが止まる川内。
「動揺したね」
蹴り飛ばされる川内。
―――やはり戦いにならない。
神通を通り過ぎ、地面を滑る。
「姉さん!」
「まだですよ?まだまだこれから。貴方には、最高の恐怖を与えなければならないのですから」
キキキと、仮面の奥で笑う祐司。
だが、その声が、耳には入らない川内。
もはや立ち向かう勇気どころか、立ち上がる勇気すら失せた。
「ひ・・・あ・・・」
嗚咽を漏らす川内。
結局、何も変わらなかった。
川内は、この黒河にいる川内型の中で、最弱の艦娘だった。
今でこそは、時打のお陰でそれなりの力をつけてきたが、潜在能力でいったら、神通や那珂にも劣る存在だった。
そのスペック故に、秋村には、いつも邪魔物扱いされてきた。
被弾は必ず川内。
とにかく出撃すれば川内は必ず被弾する。
そのお陰で何度も入渠。
もちろん、被弾しない事は無かった。
運よく当たらなかったり、仲間が偶然にも壁になったり、そういう事も、希にあった。
だが、やはり被弾する。
距離をとって、ちゃんと立ち回っていた筈だった。
だが、どこか甘かったのか、敵の砲弾が、必ずと言っても良い程に直撃する。
それは、弱いから。
自分が、劣っているから。
分かっていても、当たる。
雷跡が見えても、それが遅く、直撃する。
得意の夜戦に持ち込んでも、相手の方が一枚上手のように、砲弾が直撃する。
こちらの砲弾は当たらないのに。
だから、自分は、妹たちに頼るしかなかった。
妹たちに頼るしか、自分が生き残る事は出来なかった。
だから、新しい提督が来て、葉子が来て、あれなら、自分も強くなれると思った。
だけど違った。
身体は強くなっても、心だけは何も変わりはしない。
そもそも、武術の一つを学んだ所で、心の在り方が変わる訳が無かった。
結局、心の問題だったのだ。
自分が、どこか、あの黒い奴らに対して恐怖を抱いていたのだ。
いや、そもそも戦いそのものに恐怖を抱いていたのかもしれない。
所詮、自分は、何もできない、ただの『
「ではそろそろ、メインディッシュの時間といきましょうか」
歩き出す祐司。
神通に向かって。
一方で神通は、ゆっくりと立ち上がる。
そして、キッと祐司を睨み付ける。
「おや?貴方は私を恐れないのですか?」
「正直に言って、怖いです。私なんかじゃ到底かなわない相手、一瞬でやられてしまうでしょう」
毅然にふるまうも、その声には、確かに怯えが感じられる。
「だから、一つ約束してください」
だからこそ、神通には分かっていた。
「私を
ナンデスト?
「ほう、それはまた」
「お願いします。貴方の真の目的は他人の絶望をその手で作る事。ならば、私を殺せば、姉さんの最も絶望した顔が見れるでしょう。それで、手を打ちませんか?」
「ふむ、あの人がそれを許す訳はないでしょうが、それは良い」
キキキ、と漏れる笑い声。
「良いでしょう!貴方の命と引き換えに、貴方の姉の命は助けてあげましょう!」
両手を広げ、歓喜の意を示すような恰好になり、高笑いをする祐司。
神通の足は、震えていた。
「せめてもの報いに、痛みを感じさせずに死なせてあげましょう」
右手を弓のように引き絞り、両手を広げる神通の、ある部分を狙う。
「
祐司の腕が、神通の心臓に向かって突き進む。
もはや避ける事も叶わない。
否、避ける気の無い神通には、避ける動作そのものが不要。
不可避の死。
誰かが干渉しなければ、絶対に避ける事は不可能。
干渉しなければ。
不意に、左腕を誰かに掴まれる。
何かと思う暇無しに、思いっきり引かれ、後ろへ態勢を崩す。
そのまま誰かと入れ替わる。
鮮血の花びらが、月夜に照らされ、舞い上がる。
その花びらが、自身の姉のものだと分かるまで、そう長くはかからなかった。
「姉さんッ!!」
叫ぶ妹。
崩れ落ちる姉。
「おや?」
そして首を傾げるピエロ。
川内はゆっくりと後ろに倒れ込み、地面に尻もちをつく神通の目の前に仰向けに倒れる。
心臓のあった部分に、風穴をつくって。
「姉さん!姉さん!」
あまりの事に上手く動かない足を引き摺りながら、川内の元へ駆け寄る。
「じ・・・つう・・・」
「姉さん!死なないで!姉さん!」
視界が滲み、川内の顔がよく見えない。
川内の口と風穴のあいた左胸からはとめどなく血が溢れ出し、徐々に大きな赤い水たまりを作っていく。
塞ごうと思っても、貫通している上に、人間のエンジンとも呼べる心臓をまるごと損傷していては、もはやまだ生きている事が奇跡なのだ。
神通もそれが分かっていた。だが、理性では分かっても、溢れ出す感情を止める事はできなかった。
「やだ・・・やだ・・・姉さん・・・・」
必死に、川内が助かる方法を探す。
だが、考えれば考えるほど頭がこんがらがっていき、やがては行き詰ってしまう。
「ふむ、これは予想外ですね」
一方で、祐司は、仮面の奥で、笑っていた。
確かに妹の方に標準を定めた筈だが、突如再起した姉が入れ替わる事で、逆に姉の方を刺し貫いてしまったわけだ。
それが証拠に、祐司の川内を貫いた右手は、真っ赤に染まっていた。
なにはともあれ、あれでは助からない。
ついでにいって、少し予定が狂ったが、妹の方の絶望した顔を見れただけでも満足だ。
祐司は踵を返し、その場を立ち去ろうとしたが。
「む?」
ふと森の方から聞こえた何かがこちらに急激に接近してくる音。
「・・・・・上ですか」
顔を空へ向ける。
すると、木の上部から、何か黒い影が出てくる。
どうやら、木の枝をつたって、やってきた様だ。
その影は、右手に持っていた刀らしきものを上段に構えると、技名を発しながら、落下の勢いと共にその刃を振り下ろす。
「龍槌閃ッ!!」
女性のような高い声と共に、その刃が振り下ろされ、祐司はそれを横に跳ぶ事で回避し、直後に大きな土煙が巻き起こる。
だが、その影は、黒いロングコートをなびかせ、祐司に再度斬りかかる。
下段右斜め下から斬りあげる。
顔面を狙った攻撃。
それを頭を下げる事で回避する。
返す刃で水平に左から薙ぐ。
身体を大きく反らし、ブリッジをするように避ける。
そのままバック転をしながら後ろに下がる。
そこで初めて敵の姿を視認する。
前開きのロングコート。
その中には赤いネクタイの黒いセーラー服。
顔は、フードを被る事によってできた影で見えない。
だが、明らかに相手は女性。それも少女。
その状態で対峙する二人。
漣の音がその静寂にながれる。
だが、突如としてその沈黙は破られる。
ロングコートの少女が突然、祐司に背を向け、川内と神通に向かって走り出す。
その行動に首を傾げる祐司。
「!?」
その少女の行動に目を見開く神通。
だが、少女はお構いなしに二人に向かって、突如その姿が霞む程に加速。
そして、左手を白く発光させ、その左手で、
「姉さん!?」
思わず声をあげる神通。
一方の少女はそれをすると、一気に力が抜けた様にそのスピードのまま激しく転倒。
それによってフードが取れ、黒髪を後ろで結った可愛らしい顔が露わになる。
そして、まるで息の仕方を思い出したかのように、起き上がる。
「ッハア!?」
激しく呼吸し、酸素を欲するように息を吸い込む黒髪の少女。
「吹雪ちゃん・・・!?」
「おやおやこれは」
神通の眼が見開かれ、祐司が予想外といったような声をあげる。
吹雪は呼吸を整えると、地面に倒れ伏す川内を見る。
「・・・・お願い」
そう一言呟くと、突如として、川内が悲鳴をあげた。
「ッあああぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!」
その場でのたうち回り、まるで体中に焼ける様な痛みを伴っているかの様に、暴れまわる。
「姉さん!?」
「!?」
これにはさすがに祐司も驚く。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
天を貫くような叫び声が、川内の喉から発せられ、
気付けば海の上に立っていた。
「・・・・・え?」
訳が分からず、川内は、周囲を見渡していた。
どこか見覚えのある光景に、どこか恐怖を覚える川内。
自分はあの時、どういう訳か、神通を引っ張って、あの男の手刀を心臓に受けた筈だ。
ふと、目の前に誰かがいるのに気付く。
それは那珂だった。
「那珂!?」
思わず、その名を呼ぶ川内。
だが、那珂はこちらを向かず、川内に背を向けている。
その目の前には、何隻もの、深海棲艦。
「嘘・・・・」
その瞬間に恐怖に刈り取られる川内。
「那珂、逃げよう!今すぐ!」
反応しない那珂。
「那珂!」
那珂の手を掴み、引こうとする。
だが、その手は空を切る。
「え?」
何度も手を掴もうとする。
だが、どれも空を切り、掴み事は叶わない。
「なんで・・・・・!?」
そこで、異変に気付いた。
すり抜けるのだ。
始めは那珂が避けたのかと思ったが、そうでは無く、川内がまるで幽霊のようにすり抜けているのだ。
直後に、那珂と川内の周りを水柱が立ち上る。
「きゃあ!?」
驚いて尻もちをつく川内。
衝撃も何もないのに。
水柱が収まった頃に、ふと那珂が後ろを向いた。
腰を下ろしている川内を見ている訳では無い。
その更に後ろ。
川内も後ろを見る。
そこには、今にも水平線に消えそうな黒い点。
それは、自分だ。
そう、これは、那珂を失った日だ。
那珂一人おいて、逃げて行ったあの日だ。
何故、今になってこんなものを思い出しているのか。
否、見せられているのか。
「・・・・・川内」
ふと、那珂が呟いた。
それに、勢いよく振り返る川内。
那珂の表情は、珍しく、無表情だ。
「・・・・そっか」
そして、いつもの、楽しそうな笑顔では無く、悲しみに満ち溢れた笑みを浮かべた。
「ッ!?」
それに、眼を見開く川内。
「これが・・・・『寂しい』って気持ちなんだ」
その言葉を零し、頬に煌く何かが零れ落ちるのが見えた。
そして、敵のいる方向を見据える那珂。
「さ~て、ラストライブ、張り切って行こう!」
その瞬間、川内は立ち上がって走り出す。
「那珂ァ!!!」
全力で走る。
だが、まるで現実に引き戻されるかの様に、何かに引っ張られる。
それに全力で抗う川内。
しかし、強すぎるのか、どんどん引き離されていく。
「―――――那珂ァ!!!」
もう一度、叫ぶ。
那珂の肩がぴくりと震え、そして、こちらを向いた。
「私、強くなるから!強くなって、神通を守るから!!いつか、いつか来るかもしれない、もう一人の貴方も絶対に守り抜いて見せるから!!!誰にも、長門さんや、電ちゃんや、吹雪や、瑞鶴や、達也さんや、響夜さんや――――師匠や提督にだって負けない程に強くなるからッ!!!!」
必死に抗いながら、必死に叫ぶ。
「だから、今は、今は、静かに、安らかに、眠っていて。私が、全部守り通して見せるから!」
徐々に、視界がブラックアウトしていく。
まだだ。まだ、アイツの返事を聞いていない。
那珂が不意に微笑む。
「―――――うん。ずっと見てる。お姉ちゃん」
「――――――――――――――――――ぁぁぁぁぁぁああぁああああああああああああッ!!!!!」
絶叫。
それと同時に、低い姿勢で立ち上がる。
「――――ッ!?」
「これは・・・!?」
神通が口元に手をあて、祐司が片足を下げる。
「やれやれ・・・・」
吹雪は笑みを作り、立ち上がる。
傷口は、塞がっていた。
吹雪が川内に叩き込んだのは、『
艦娘が轟沈をしてしまう際に、その受けたダメージを高速修復し、轟沈を回避するというものだ。
だが、轟沈回避、つまりは、蘇生であるがゆえに、その数は希少であり、一回使えば消えると言う、貴重なものだ。
それを何故吹雪が持っていたのか、それは与えた本人にも分からない。
ただ、今はそんな事どうでも良い。
右足を前に出し、左足を後ろへ、前足を伸ばし、後ろ足を曲げ、その後ろ足の膝に左手をつく。
馬坂流
しゅうぅ、と湯気を出しながら、川内は、しっかりと敵を見据える。
そして、後ろ足を思いっきり伸ばし、右足を浮かせ、まるで水平移動するかの様に体の向きをそのままに、祐司に急速に接近する。
「!?」
茫然とした為、回避が間に合わない。
「馬坂流 『廻牢・
そして、川内は、
「ぐぉ!?」
完全な不意打ち。
後ろ足の回し蹴りでは無く、前足による、
通常なら、後ろにある手足が、そこから筋力による推進力で敵を殴るのが普通だ。
だが、川内は相手の虚をつくために、前足のみで敵を蹴り飛ばしたのだ。
よろける祐司だが、なんとか踏みとどまる。
仮面の口部分から、血が零れる。
吐血したのだ。
川内は、そんな祐司を睨み付ける。
「―――お前は私が倒す」
それに対し祐司は、
「く、くく・・・・」
笑っていた。
「痛い、痛いぞ。そう、これは私が生きている証。私が、今この瞬間生きているという証明!素晴らしきかな人生ッ!!ハレルヤ!!!」
天に向かって、そう叫ぶ。
「行くぞォォォッ!!!」
川内が絶叫。
左足を踏み出し、地面を抉りながら、踏み込んで、祐司に接近する。
スライディングをするように、背中に地面を向け、倒れ込みながら、祐司の足を払わんと、左足を地面スレスレで薙ぐ。
だが、祐司は、体が水平になるように、体を前に投げ出しながら飛んで回避。
そして、右手を開き、その皮膚を貫く弾丸のような指による刺突を繰り出す。
だが、川内もそれで黙っている訳では無く、左足を薙いだ勢いを利用して、回転。
倒立し、その勢いを利用したまま、祐司の左側面を蹴る。
同時に、川内の脇腹に祐司の五指がめり込む。
「ぐぅお!?」
「あぁぁ!?」
祐司は吹っ飛び、川内は脇腹に走った痛みで態勢を崩し、倒れる。
だが、川内はすぐさま立ち上がると、地面を蹴り疾走。
土煙の中、突如として、何かが飛来。
「!?」
それを胴体に喰らい、勢いを失う。
次に土煙の中から、祐司が現れ、右拳で川内を殴り飛ばす。
地面をゴムボールの様に跳ね、あやうく海に落ちかけたがなんとか踏みとどまり、再度、祐司に向かって疾走。
すると祐司は右手をまるで野球ボール投げるような動きで、何かを投げてきた。
石だ。
「そうは行くかァ!!」
疾走の勢いを殺さず、体を浮かせる。
大きく股を開き、後ろに出た左足を回し蹴りの要領で前に出し、回転の推進力へと加算。
そこから、一回転して、右足の後ろ回し蹴りで突風を巻き起こす。
馬坂流『空紅・左薙ぎ』
それによって、投げられた石の軌道が変わり、全て川内を避けていく。
前足が地面についたのと同時に、また疾走を再開。
そして、祐司を射程に入れる。
もう一度、左足を踏み込む。
前に出る推進力を加算し、右足を折り曲げ、祐司の右脇を抜けながら、渾身の膝蹴りを祐司に叩き込む。
馬坂流『蓮華』
それで吹っ飛ぶ祐司。
「ハア・・・・ハア・・・・うぐッ!?」
思わず脇腹を抑える川内。
先ほど受けた、点穴による痛みだ。
ガラガラ、と祐司が出てくる。
「くくく・・・・」
相も変わらず笑っていた。
「ここまで楽しんだのは、初めてです。十王と戦う機会も無く、かといって自分と同等の実力、それも、真剣に勝負に挑む者がいなかったこの人生。だが、今は違う。私は君という存在に出会ったッ!!感激しているのだ!私は、今まで人生はつまらないものだと思っていた!!!しかし今!この時だけは!私は私という存在を肯定できる!分かりますかこの歓喜を!!!この喜びを!!!!!」
一層、楽しそうに語る祐司。
それに対し、川内も笑った。
「確かに、分かるかもしれないわね。何故この体に生まれてきたのか。何故今になってまた戦わなければならないのか。そんな事を疑問に思っていた。だけど、私たちは戦場で戦う存在。戦いの中でこそ、自分たちの存在意義を正当化できる。でもさ、この体に生まれ変わって、一つだけ分かった事があるんだ」
川内は、マフラーを直す。
「人としての体に生まれ変わって、言葉を伝えられる様になったからこそ、私は、新しい繋がりってものを持てるようになった。私は、その繋がりを守りたいって思った。ただ壊すだけの貴方とは違う」
川内は、笑みを消し、構える。
「だから私は貴方を倒す。妹を守る為に、私は戦う」
それを聞いた祐司は、考える素振りをみせ、キキキ、と笑いを漏らす。
「なるほど、それもまた一興。貴方の人生だ。強制はしないさ。だが、今はそんな事を言っている暇などないだろう?」
「ええそうね。つけましょうよ。決着って奴を」
風が吹き抜ける。
「姉さん!」
ふと、神通が声をかける。
「勝って!」
そう一言だけ告げた。
「参ったな。そんな事を言われちゃ、負けない訳にはいかないでしょ!」
地面に手をつき、猪突前進の構えを取る川内。
祐司も、右半身となり、右手を手刀にし、左手で狙いを定める。
辺りを静寂を包む。
「―――――いざ尋常に――――」
突然、そんな声が聞こえた。
川内でも、祐司でも、神通でもない。
吹雪だ。
右手を上げ、まるで審判をするかのように、
「――――勝負ッ!!!」
右手を振り下ろした。
疑問に思う暇なんて無い。
振り下ろされるのと同時に、川内が走り出す。
いきなりのトップスピードから、一気に祐司に近付く。
だが、蹴りと突きでは確実に距離がある。
だからどうあっても川内が先に敵を射程に収める。
祐司が川内の射程の一歩手前になる。
その直後、川内の足が浮いている所へ祐司が踏み込んでくる。
「ッ!?」
これでは流石の川内も反応できない。
そして、右手が川内の首に向かって突き立てる。
血が舞い上がる。
「何ッ!?」
祐司がそんな声をあげる。
川内が、後ろ足である左足を曲げて、祐司の手刀の軌道に顔面を置き、そして、腹筋をつかって、体を左に倒し、首を傾ける事で、頬から耳にかけて、一線の傷を刻みながらも致命傷を回避したのだ。
だが、態勢が崩れた事によって、川内の体は大きく倒れていく。
しかし、左手を地面についた直後、右足を一気に引き戻し、走る事で出来た推進力と共に、右足を伸ばす事で、祐司の顎を蹴っ飛ばし、上空へ吹っ飛ばす。
川内が地面に両足をつき、祐司をおいかける様に飛び上がる。
空中で後転。
祐司よりも少し高い位置、反転している視界。
だが、その眼はしっかりと、吹っ飛んで空中で仰向けになっている祐司を捉えていた。
「そうか・・・・」
祐司は、仮面の奥で何かを悟ったかの様な表情をする。
「馬坂流―――――『
渾身にして会心。オーバーヘッドキックが祐司へと叩き込まれ、垂直に地面に落下。
大きなクレーターを作り、地面をへこませる。
同時に、川内はなんとか着地。
その後に、尻もちをついた。
「姉さん!」
そんな川内に、神通がかけよる。
「神通」
「おーい!」
別の方向からも声が聞こえ、そちらを見ると、丁度、川内の師匠である葉子が現れた。
「うっひゃあ、この威力は『哭梯』、それも『
感嘆する葉子。
「うお!?なんじゃこりゃ!?」
「地面へこんでるし!?」
さらに、瑞鶴に肩を貸されながら響夜もやってきた。
「吹雪さん!川内さん!神通さん!」
更には電と達也もやってきた。
「みんな・・・・」
「弘斗を回収してきたは良いが、これはすごいでござるな」
『!?』
最後に、知らない声。
全員の視線が、声の聞こえたクレーターの中心へ向けられる。
そこには、赤い忍び装束の男がいた。その肩には、少年が一人担がれていた。
それに全員が警戒する。
「あー、だいじょぶだいじょぶ。敵意はないからこの人」
だが、そんな空気をほぐすように、葉子が仲裁に入る。
「まあ・・・・味方かどうかも分からないけどね」
苦笑いをする葉子。
すると、赤い忍び装束の男が両手を合わせ、アイサツをした。
「ドーモ、
それに対し、その場にいた一同は・・・・
「ドーモ、小太郎=サン、響夜デス」
「ドーモ、瑞鶴デス」
「ドーモ、神通デス」
なんとか響夜と瑞鶴と神通だけはアイサツを返せたものの、
「アイエエエエ!?」
「ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」
「ゴポポー!?」
「ちょ!?姉さん!?」
吹雪、電、川内はNRSを引き起こした。
「む、そこの
「まあ、そう、かな?」
小太郎の問いかけに、何故か瑞鶴は肯定した。
幕末辺りでの忍者の呼び方は、『隠密』。
つまり、瑞鶴が自身のイメージとして体現している『四乃森 蒼紫』は、『
それも歴代最強の肩書を持つ者だ。
だから、瑞鶴は、自然とアイサツを返せたのだ。
響夜が何故アイサツを返せたのかは不明だが。
「で?その忍者サンが一体何の用だ?」
「口を慎みなさいよ響夜」
「なんでだよ?」
葉子の言葉に顔をしかめる響夜。
「この人は、黒河を裏で支配する黒河幕府の最高権力者、征夷大将軍の地位につく夢原・A・愛亜梨の
「まじかよ・・・」
葉子の説明に、冷や汗をかく響夜。
「そう、そして私が一番の信頼を置いている人物でもあるの」
さらに別の方向から、幼い幼女のような声。
そちらへ視線を向けると、金髪碧眼の少女と、翔鶴に肩を貸してもらっている時打の姿があった。
ついでに、砕かれた鎧を着たままの男も引きずられながら来ていた。
「ご苦労様、小太郎。さっさとそいつを回収して」
「御意」
そう答えると、まるでゴミでも拾うかのように肩に祐司を乗せる小太郎。
「さて、黒河鎮守府の皆さんには、大変ご迷惑をおかけいたしました。わたくし、先ほど、そこの馬坂葉子さんが言っていた黒河幕府の最高権力者、征夷大将軍の夢原・A・愛亜梨でございます」
少女、愛亜梨が向き直るなり、そう畏まる。
「お詫びとして、鎮守府の修理と、改修工事を、こちらで全額負担致しましょう」
「ちょっと待って。どうして、鎮守府のことを知っているの?」
瑞鶴がそう問う。
それに対し、愛亜梨は、不敵な笑みを浮かべて答える。
「この鎮守府のことは、私と小太郎。他、十人いる最高幹部『十王』の極一部にしか知られていない事実ですが、今回のことで、組織はおろか、市民にもばれてしまいました」
「え?」
愛亜梨が、山の方へ視線を向ける。
全員がつられてそちらを見てみると、そこには、小さくうごめく何かが無数にいた。
その中で、夜目の効く川内と神通だけは、それが何なのかわかった。
「あれは、黒河市の人たち・・・!」
「大きな音が出すぎたか」
そもそも、山の裏にすぐ街がある時点で無理があったのだ。
それに、RPGやパンツァーファウストやバズーカ砲などの重火器に加え、戦車などの兵器を投入してきたのだ。
バレない方がおかしい。
「一応、情報は外に漏れないようにインターネットは封鎖してるけど、まず間違いなく、明日、黒河市には、この鎮守府の存在が知れ渡るでしょう」
愛亜梨はそう言うと、時打の方を見る。
「ここはひとつ、代表者同士。話をしませんか?」
そう、笑う愛亜梨。
もはや、別の道は無いに等しい。
「わかった。体力が回復したら、そちらに伺おう」
「交渉成立。修理は問答無用でやりますので、そのつもりで。ああ、何かこちらの者が不埒を働いたら容赦無く制裁してくれていいので」
では、と言い残し、彼女たちは、闇夜に消えた。
次回 川内編最終回
『黒河幕府と征夷大将軍』
王たる者の器も持つ者。
お楽しみに!