艦隊これくしょん その刀は誰が為に   作:幻在

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姉の想いを乗せて斬れ 『天翔龍閃・加賀岬』

機銃が乱射される。

それを、弧を描くように走って避ける時打。

「チッ」

舌打ちする宮城。

その姿は、まるでアイアンマンの様な鎧に包まれていた。

左腕の上腕から出た小さなガトリング式機銃を納め、代わりに脚部から三連装追尾ミサイル発射装置を右足から飛び出させ、発射する。

そのミサイルは高速で動く時打を捉えており、追尾する。

「提督!」

その様子を遠くから見る翔鶴が叫ぶ。

それに答える様に時打が反転。

右手に持った逆刃刀を地面に向かって振るい、それによって巻き起こる土の散弾がミサイルに直撃、爆発を巻き起こす。

 

飛天御剣流―――土龍閃

 

土や石を抉り飛ばし、相手に直撃させる中距離(ミドルレンジ)攻撃。

だが、それを予測していたのか、宮城はさらなる攻撃にすでに入っていた。

右掌から、エネルギーを集束させ、電磁エネルギーによる光線を放つ。

「うおっ!?」

思わず声を挙げて回転して回避する時打。

だが反撃と言わんばかりに土龍閃で反撃。

飛んでいく土や石が宮城に直撃する。

だが、怯んだ様子も無ければ、鎧には傷一つついていない。

 

 

宮城が着ている、『AFMS(アーマード・フルメタル・スーツ)』は、頭部に超高性能な演算装置に加え、チタン超合金配合の装甲にうえ、内部に大量の機銃やエネルギー砲を内蔵しており、そのエネルギー量は、極めて高く、そして容易に手に入る電気でできているのだ。

未来予知に近い演算で敵の次の行動、回避先、思考を全て予測し、自身の思考で武装を自由に出し入れでき、更には操作できるといった、まさに機械仕掛けの鎧だ。

 

 

そして今、宮城は演算機能を使って時打の次の行動を予測して、その地点に攻撃を仕掛けている。

仕掛けている、だが。

「何故当たらない・・・ッ!?」

装置が演算と共に、その原因を検証。

「次の行動の予備動作を、ギリギリまでやっていないだと・・・!?」

時打は、攻撃や動く際、なんと初速でトップスピードを叩き出して動いているのだ。

それも、体に通常よりも高い負荷をかけてだ。

おそらく、戦っている間に、自分の行動が読まれている事に気付き、更にはかなり多い兵装を持っている為に、接近戦に持ち込む為の準備運動を行っているのだ。

さらには、人間にしては異常なスピード。

ただの人間が、ここまでの動きが出来る訳が無い。

なにか、()()がある筈だ。

次の瞬間、時打が向きを変えて、宮城に接近を始める。

「来るかッ!」

身構える宮城。

走行中、前に出る右足。

それが、地面につく瞬間、いきなり大きく前に踏み込む。

それを見た演算装置が、次の攻撃を予測。

右足の踏み込みで飛び上がる時打。

それを待ち構えたいた様に、右腕を上空へ掲げ、腕から機関銃を出し、回転、弾丸を放つ。

対する時打は、空中で高速で回転。

それによって巻き起こる突風が、連続でやってくる無数の弾丸の軌道を反らす。

やがて弾丸の嵐が切れ、時打の回転が緩み、宮城の目の前に着地。

おおきく身を低くし、狙うは、装甲が薄いであろう、左脇。

そこへ、龍翔閃を叩き込む。

「ッ!?」

刀身は、しっかりと左脇を捉えた。

だが、そこから()()()()()()

どんなに力を加えても、そこから先へ刀身が進む事が無かった。

ジジジ、という音が聞こえ、目を凝らす。

そこには、何もない。しかし、刃が、鎧に触れる寸前で止まっていた。

確かに、そこには何かある。

「電磁バリアッ!?」

直感で悟り、慌てて時打は、宮城の脇を抜け、背中へ逃げる。

そこへ、宮城の来ているスーツの頭部の額部分から、エメリウム光線よろしくレーザーが発射。その場を焼き尽くす。

背中へと抜けた時打は負けじと波龍閃をその背中に叩き込む。

だが、やはり、刃は鎧に触れる寸前で止まる。

「くッ!」

苦い顔をする時打。

距離を取る時打。

同時に、時打のいる方向に向いて、身構える宮城。

「参ったな・・・・」

時打は、そう呟く。

 

電磁バリア。

磁場による重力場を展開し、敵の物理的な攻撃を防ぐ、いわば、エネルギーシールドの事だ。

こういうのは、人造人間(アンドロイド)改造人間(サイボーグ)について専門的なアメリカやロシアがその開発の実権を握っているのだが、現代の科学力ではイージス艦や軍艦に纏わせるほどのエネルギー磁場を作れない事が分かり、一応、それを纏ったサイボーグが深海棲艦の砲弾の威力を少なからず軽減させる事に成功したらしい。

だが、所詮は軽減。完全に防ぐ事は叶わず、お蔵入りとなった技術の筈だ。

 

 

 

「――――その技術を、あの鎧に・・・」

木の陰に隠れ、戦いの様子を伺っていた翔鶴も、その正体に気付いていた。

もともと、戦術眼は高い方であり、彼女に旗艦を任せれば、高確率で完全勝利を得られる程だ。

指揮力だけで言えば、現日本空母の艦娘最強である、横須賀の赤城と同等と言えるだろう。

そんな戦術眼を持つ翔鶴だからこそ、あの鎧の構造を見抜く事ができたのだ。

「どうすれば・・・・見た所、バリアを局所的に展開して、提督の攻撃を完全に無効化しているだろうけど、展開されるよりも早く刀を振るえば、ぶつける事は敵うだろうけど、提督が、そのスピードを超えられるかどうか・・・・」

思考を全力で回転させる翔鶴。

なにか、なにか、彼に助言する事はできないか。

ただそれだけを考えて、翔鶴は、必死に考える。

ふと、時打は、深鳳を鞘に納めた。

「提督・・・・?」

翔鶴は、それを見て一瞬首を傾げるも、すぐにその意図を読み取った。

 

抜刀術だ。

 

抜刀術なら、バリアが展開される前に、攻撃を直撃させる事が出来るかもしれない。

無形の構え、となり、時打は、目の前にいる敵を見据える。

 

―――その構えは、天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)だ。

 

ここで勝負をつけるつもりなのか、敵を真っ直ぐに睨み付ける時打。

宮城は、手首を動かし、手の甲の方向から、ブレードを出す。

両刃の横幅な剣だ。

おそらく、迎え撃つつもりだろう。

そのまま静寂があたりをつつむ。

息を飲む翔鶴。

 

 

 

先に動いたのは、宮城だ。

 

 

 

両手を大きくあげ、時打に大きく飛びかかる。

その所為で胴ががら空きになる。

一拍おくれて踏み込む時打。

宮城よりも速く、右足を踏み出し、刃を抜く。

更に、天翔龍閃発動の要である、左足を踏み込み、更なる加速を、深鳳にかける。

そして、深鳳の刃が、宮城の右胴に叩き込まれる。

 

 

 

だが、刃はその寸前に止められた。

 

 

 

 

「ッ!?」

「嘘――――ッ!?」

電磁バリアを集中させて、超神速の抜刀術である天翔龍閃を防いだのだ。

宮城が仮面の中でほくそ笑んだ様な気がした。

「くッ!」

両足を浮かせる時打。

宮城の胴体を軸にして、深鳳を使って、宮城の脇をすり抜ける。

そこへ宮城の両手の剣が襲うも、空ぶる。

地面を転がり、宮城のいる方向を向く時打。

「そんな・・・・」

決め手である天翔龍閃が防がれた。

翔鶴にとっては、信じられない状況だった。

超神速の抜刀術である天翔龍閃を防ぐ。

それは、反応してからじゃ遅い。

つまりは予測したのだ。

だが、無形の状態で、どこへ刃をあてるのか分からない筈だ。

しかし、宮城は、攻撃を仕掛ける際、両腕を上にあげ胴体を曝け出す事で、時打の攻撃を誘導したのだ。

もともとスタンバイしていた所へ、演算装置による精密な未来予知にも近い予測が、より正確な軌道を割り出し、そこへバリアを集中させたのだ。

これでは決め手である天翔龍閃は使えない。

完全な無形からの生と死の狭間から生を見い出す事を前提とする天翔龍閃は、攻撃の最中の不安定な状態からでは放つ事が出来ない。

これでは、勝機が無い。

「提督・・・・時打さんッ!!」

声を押し殺し、そう呼んだ。

一方で、時打の脳内は酷く冷静だった。

「やはり防がれたか」

攻撃や動作を予測されていたのは分かっていたし、電磁バリアを使って攻撃を無効化される事も先ほどので分かっていた。

ならば、飛天御剣流最強である天翔龍閃ならどうだと思い、放ってみた所、見事に防がれてしまった。

これで決め手は全て封殺されたと言ってもいいだろうが、防がれた事で、逆に勝機が見えてしまったのだ。

また鞘に深鳳を納める時打。

「無駄だ」

ふと、なにやら機械的な声が鎧から聞こえた。

「貴様の決め手である先ほどの居合は、すでに防いだ。もはや、お前に勝機は無い。大人しく負けを認めて、あの女を渡せ」

降伏勧告。

確かに、もう一度天翔龍閃を放ったところで、今度は完全にその特性や威力、速さなどを完全に覚えたシステムによって防がれるだろう。

だが、時打の飛天御剣流には、まだ『最速の抜刀術』が存在する。

左手で鞘、右手で柄を持ち、構える。

 

「飛天御剣流抜刀術――――」

 

 

 

 

その名は、かつて姉と共に戦った、空を飛ぶ、鋼鉄の鳥たちの名。

 

 

 

「――――『零龍閃(ゼロセン)』ッ!!」

 

 

 

 

 

抜刀から収納まで、全く見えない程の抜刀術が、宮城の脇に叩き込まれた。

 

ガァァアンッ!!!

 

「ッ!?」

その衝撃に、目を見開く宮城。

思わずよろめいてしまう。

 

何が起こった。

 

「まだまだ行くぞ」

時打がそう呟く。

零龍閃(ゼロセン)――――三機ッ!!」

刃が抜き放たれる。

(つき)(あか)りに反射した三つの残光が、宮城を襲う。

「ぐぅ!?」

その衝撃に、思わずうめき声をあげる宮城。

 

余りにも速すぎる。

 

抜きから納める所まで、機械の演算さえも、それを見破る事が出来ない。

とにかく速すぎる居合。

「くそぉ!!」

両掌からレーザーを放つ宮城。

それを横に跳んで、空中を回転しながら回避する時打。

だが、その眼が宮城を捉えた瞬間、まるで弾丸でも放つが如く斬撃を放つ。

零龍閃(ゼロセン)―――捻り込みッ!!」

抜刀、残光が半回転、十二時の位置でその軌道を変え、真っ直ぐに飛んでいき、宮城の顔の右側面に直撃する。

更に、地面に着地し、その低い態勢から、更なる斬撃。

零龍閃(ゼロセン)―――水面飛行ッ!!」

低く地面スレスレに弧を描く斬撃が、左足の脛を斬る。

どの攻撃も鎧に阻まれて、防がれるも、しかし確実にダメージを刻んでいる。

 

零龍閃(ゼロセン)

その正体は、《超光速》の抜刀術だ。

天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)』は、超神速の抜刀術であるが、速さだけではなく、威力も兼ね備えた抜刀術だ。

だが、この零龍閃(ゼロセン)は、威力を削いで、命中率と速度をあげた抜刀術だ。

その速さ故に、かつて、その技を見た者はこう呼んだ。

 

 

不可視の魔剣、と。

 

 

余りにも速すぎてその刀身が見えない上に、燕返しのように、威力が無いために()()()()()()()()()()()()()事のできる為に、予測が不可能であるこの抜刀術。

なにがし落第騎士の、相手の理を見抜いてどのような攻撃をするかを予測しなければ、防ぐ事はおろか、避ける事もかなわない抜刀術なのだ。

 

 

 

それが証拠に。

「くッ!」

木の後ろに隠れる宮城。

すでに威力が無い事は演算で分かっている。

ならば、木を利用して、死角を作り、その影から攻撃する。

そうして隠れる宮城。

だが、突如として、木の横左右から二つの残光が見え、右の残光が宮城の右腕から出ていた機関銃を穿ち、左の残光が左膝裏を穿つ。

「バカな・・・ッ!?」

曲がる斬撃。

そして、攻撃範囲の拡張。

それが、この零龍閃(ゼロセン)のえげつない所なのである。

その範囲は槍の範囲を超え、その軌道は自由に曲がる。

まるで、()()()()()()()()()かのように。

「チィ!」

もはや、回避はおろか、電磁バリアによる防御も無意味。

木ごしに、頭部からレーザーを放つ。

そのレーザーは木を貫通し、木の後ろでいるであろう時打に向かって突き進む。

だが、既に時打は宮城の背後を取っていた。

零龍閃(ゼロセン)――――」

「ッ!?」

(いつの間に!?)

そして、時打の刀から、連続で斬撃が放たれる。

「―――一一型―――二一型―――三二型―――二二型―――五二型―――五三型――――」

かつての大戦で、活躍した、機体の名称。

「雷電―――紫電――――紫電改二――――!!」

その名の持つそれぞれの威力を、宮城に叩き込んでいく。

「彗星―――天山―――流星―――!!」

宮城は反応する事ができない。

「友永隊――――ッ!!」

水面すれすれで放たれる無数の斬撃が、宮城を宙へ浮かせる。

「江草隊――――ッ!!」

直後に、曲射のように、上空へ放たれた斬撃が、軌道を変えて急降下する様に宮城へ向かう。

 

まるで、爆撃するかのように。

 

地面に落ちる宮城。

だが、地面に落ちる前に、止めと言わんばかりに時打が最後の一撃を撃ち込む。

零龍閃(ゼロセン)―――烈風ッ!!」

その威力を兼ね備えた光の速さの斬撃が落ちる途中の宮城に叩き込まれ、吹き飛ばす。

「――――ッ!!」

翔鶴は、あっけにとられていた。

翔鶴でさえも、抜きから納める所まで見えなかった超光速の抜刀術は、たった今、鎧の男を地に伏せさせた。

だが―――

「何故・・・その名前を・・・?」

その技の名を、どうしてあの鋼鉄の鳥たちのものにしたのか?

次の瞬間、宮城の鎧からミサイルが発射される。

その数、十。

零龍閃(ゼロセン)――――十機ッ!!」

対する時打も、迎撃するかのように、十個の残光を放ち、撃ち落とす。

その間に立ち上がる宮城。

健全そのものだ。

時打も、それには冷や汗を流す。

時打は、戦いのなかで絶対に笑わない。

日常では、苦笑する事が多かったのに、いざ戦闘となると、その顔からは笑みを消す。

 

―――ただあの時、翔鶴に微笑んだ時以外は。

 

今いらない事を思い出し、体温を上昇させる翔鶴。

ただそれは、あの街での教訓なのか、それとも油断しない為なのか。

ただ、翔鶴は、その戦いを、見守る事しか出来ない。

一方で、対峙する宮城と時打の方では。

「貴様、舐めた真似を・・・」

おそらく頭部についてあるだろうスピーカーから、その様な忌々しさを込めた声でつぶやく宮城。

「別に舐めてないさ。俺は至って真面目だ」

そう言い、時打は、両手を深鳳と鞘から離す。

 

無形の構え、だ。

 

そこから繰り出される技は、ただ一つ。

天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)』だ。

「またその技か、それはさっき防いだだろう?無駄な事はやめろ」

「別に無駄じゃないさ。これから放つ技は、さっきの比なんかじゃない」

次の瞬間、その場にある全ての木の葉が弾け飛ぶ。

「ッ!」

その気迫に、肌がぴりぴりとする感覚に全身を襲われる翔鶴。

それは、異常な程の剣気。

そして、宮城の頭部のモニターから、異常な程の警告が鳴り響いていた。

『非常に危険―――離脱を推奨されたし―――重症覚悟――――脅威度10―――』

「ッ・・・・!?」

その数値に、思わず怖気づく宮城。

これを受ければ、死ぬ事は無いが、意識不明の重体になる事は必至。

そう、機械が告げている。

そして、本能が、逃げる事を推していた。

逃げなければ、とにかく逃げなければ。

 

 

―――しかし、ここまできてなにも得られなかったなんて事は許されない。

 

 

そう、プライドが逃げる事を許さなかった。

「ぬぅぉおおおおおお!!」

雄叫びを挙げ、両手を掲げる。

胴体をさらし、そこに電磁バリアを展開、演算装置が、焼ききれんばかりに回転する。

とにかく、この一撃を防げば、あとは両手のレーザーと剣を突き立ててれば相手は絶命し、難なくあの女を攫える。

そして、高値で売り飛ばし、それを組織に献上する。

幸い、組織には人身売買の事はバレていない。

貴重な収入源である自分たちが潰されれば、組織も少なからずダメージを受けるだろう。

それだけは許されない。

それは、宮城の持つ、忠誠心。

それが、彼を前へと駆り立てた。

一方で時打は、その心意を見抜いていた。

だからこそ、憐れむ様な目しかできなかった。

その忠誠心が異常だからこそ、この男は、こんな凶行に走った。

そんな人間は、あの街で何十人とみてきた。

そして殺した。

だからこそ、時打は、斬る。

そのひねくれた精神を。

 

 

 

 

 

時打は踏み出す。()()を。

 

 

 

 

 

―――――頼む、姉さんッ!!!

 

 

 

胸の中にある、(きらめ)く、指輪に願う。

 

右手が暖かい何かに包み込まれる。

 

導かれるように、()()を踏み込むのと同時に、左手で握った鞘に収まっている深鳳の柄を握る。

 

深鳳を抜き放つ。

 

刃が白く輝く。

 

右足を踏み込む。

 

腕が、音の壁に激突する。

 

壁が重くのしかかり、前へと進もうとする右手を抑え込む。

 

だからこそ、()()()()()()を踏み込んだ。

 

 

 

 

 

超々神速の抜刀術が、宮城の集束した電磁バリアに直撃する。

 

だが、電磁バリアがまるで紙のように突き破れ、鎧を破壊し、宮城を、上空へと吹き飛ばす。

 

 

 

 

その名は――――――

 

 

 

「我流飛天御剣流奥義――――『天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)加賀岬(かがみさき)』」

 

 

 

 

 

 

 

意識を吹き飛ばされ、鎧を砕かれた宮城は、あっけなく地面に落ちる。

それと同時に、時打は、一回薙いだ深鳳を鞘に納めた。

そして、地面に膝を着く。

「提督!」

思わず声を挙げ、駆け寄る翔鶴。

「大丈夫ですか!?」

「ああ、心配するな。どこもダメージとか喰らってないから」

脂汗を流しながら、無理に笑う時打。

まだ、戦いの最中だというのに、時打は笑った。

その意味を、翔鶴は理解できなかった。

だが、やはり、気分が高揚するのは確かだ。

ふと気付いたかのように、翔鶴は、地面に倒れ伏す宮城の方へ視線を向ける。

「あの人・・・・」

「心配するな。死んでない」

翔鶴が疑問に思っている事に答える時打。

 

パチ、パチ、パチ・・・・

 

「「ッ!?」」

突如聞こえた拍手。

それが聞こえた方向視線を向け、時打が前に出る。

「すごいね。まさか『AFMS』を着た宮城に勝つなんてね」

暗い影から、一人の少女が現れる。

金髪の肩で切りそろえた髪。目は青であり、その幼き顔には、どこか大人びた雰囲気が感じられた。

その服装は、青を基調としたフリルのついたドレスの様なものだった。

「誰だお前は・・・・?」

時打が、深鳳に手をかけ、警戒しながらそう問いかける。

「ああ、紹介がまだだったわね」

そして、右手を前に、左手を腰の後ろあたりに回して、お辞儀をする。

「こんにちは、現黒河鎮守府提督、天野時打さん。私の名前は、夢原(ゆめはら)・A・愛亜梨(めあり)という者です。以後お見知りおきを」

その律儀な態度に、それでも警戒をやめない時打と翔鶴。

「この度は、傘下の人間が大変失礼いたしました。今日はそのお詫びに来たのです」

両手を背中の後ろに隠し、背筋を伸ばして、礼儀正しく、そう言う愛亜梨。

「ちょっと待て」

「なんでしょう?」

「今、()()って言ったか?」

「はい。そうですよ。ああ、一つ抜けてましたね」

いけないいけない、と可笑しく笑う愛亜梨。

 

 

「私の名前は夢原・A・愛亜梨。またの名を、黒河市を裏で支配する、『黒河幕府』の()()()()()にして()()()()()、夢原・A・愛亜梨と申します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海岸。

吹き飛ばされる。

宙を舞い、地面に叩き着けられる。

「姉さんッ!!」

誰かの声が聞こえる。

なんだか、胸のあたりがすーすーとする。

口から、何かがとめどなく溢れる。

霞む視界の中、ピエロの仮面を被った、右手が真っ赤な男が見え、もう一人、泣きながら何かを言ってくる、たった今守りたい大切な人の顔が見えた。

 

 

 

――――これで、終わり・・・・?

 

 

 

心臓を貫かれ、赤い血だまりを作りながら川内が、そう、思った。

 




次回『守りたい者のために 川内の馬坂流』


お前は私が排除する。


お楽しみに!

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