艦隊これくしょん その刀は誰が為に   作:幻在

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馬坂の最奥 『火爪』炸裂

「ラァアア!!!」

水平に薙ぎ払われる左足の後ろ回し蹴りを、弘斗は上半身を反らす事で回避する。

「おっしぃ~」

「ザッケンナゴラー!」

敵の態度に額に青筋を浮かべる葉子。

だが、その体には、所々血が流れており、黒い制服から分からないが、白い裸体はしっかりと赤く染めていた。

その理由は、弘斗の履く、ハイヒールにあるのだ。

踵の部分がとんがっており、それが葉子の体を抉っているのだ。

先ほどからこちらの攻撃全てを避けている弘斗。

その避け方は、まるで紙を相手に蹴るかのように手応えなく、幽霊の様に避けるのだ。

「えい!」

「ぐう!?」

弾丸の様に放たれる直進蹴り。

それが葉子の腹を抉る。

だが、葉子はそれをすんでの所で踏ん張り、右足を思いっきり蹴りあげる。

しかしその蹴りは弘斗がバック転する事で回避される。

「アッハハ!おっそ~い!」

「くぅ・・・!」

腹を抑える葉子。

そこから血が流れ出る。

ハイヒールの踵の部分による蹴り。

通常のものと違い、今葉子が履いている黒鉄のロングブーツと同じ鉄製。

更には、針の様にとんがっているのに、それが地面に刺さらない様に体重移動にも注意している。

そしてなにより、子供だ。

「情けないな・・・・」

自虐する様に笑う葉子。

「時打は、幼い子供の命を奪ったってのに」

地面を踏みしめる。

「私が子供を蹴れなくてどうすんのよ」

ある意味、残酷な事を言い、葉子は、両手を地面につける。

 

猪突前進の構え、だ。

 

「馬坂流戦闘術――――ッ!!」

スタートダッシュで、一気に初速から最高速度(トップスピード)に入る、猪突前進の構え。

「!?」

そのスピードに目を見開く弘斗。

そして、葉子は、そのスピードのまま、体を前に投げ出し、逆サマーソルトキック、空中前転踵落としを繰り出す。

 

「――――『空紅(からくれない)・前』ッ!!」

 

それをすんでの所でかわす弘斗。

「すっご~い!じゃ、おかえしに・・・」

一歩下がった弘斗は、そこからすぐに弾かれるように前に向かって蹴り出し、直進蹴りを放つ。

だが、そこで葉子は下がる。

「無駄よ!」

しかし、下がった所でそこは弘斗の蹴りの進行方向。

直撃は免れない。

が、そこで葉子がさらに前回転。

「!?」

その意図が分からない弘斗。

しかし、気付いた時にはもう遅かった。

「空紅・後!」

バックステップからの回転踵落とし。

その一撃が弘斗の腹に直撃する。

「ぐほぉ!?」

「まだまだァ!!!」

しかしそれでは終わらず、直撃させた右足が離れた瞬間、追撃の左足が弘斗を更に襲う。

よって、地面にクレーターがうまれる。

「どうだ・・・ッ!」

空中へ飛び上がり距離を取る葉子。

だが。

「舐めんじゃないわよ」

「!?」

空中で回転した所で、目の前に、狂喜している弘斗の顔があった。

「かっはぁ・・・!?」

そして、胸の中心に鋭い痛み。

 

 

いつの間にか、腹に弘斗の蹴りが入っていた。

 

 

 

「ッ~~~!?!?」

それに衝撃が無く、態勢を崩し、地面に落ちる。

「ぐぅ・・くぅ・・・」

痛みに悶え、うつ伏せになる葉子。

「さっきの技、とてもよかったわぁ。でも残念。私を落とすまでには至らなかったわね」

「くそ・・・・」

悔しそうに、呟く葉子。

おそらく、なんらかの方法で葉子の『空紅』の直撃を回避したか、じくを外して威力を半減して、ダメージを軽減したのだ。

「致命傷ね。流石に手当しないとまずいわよ?あ、でも、貴方は標的じゃないから、死んじゃってもいいんだっけか?」

アハハ、と高笑いをする弘斗。

 

子供のする思考じゃない。否、子供だからこそ、罪悪感を感じない。

 

「純粋すぎるってのも、考え物ね・・・・」

ぐぐぐ、と立ち上がろうとする。

 

脳裏に移る、兄と弟との修練。

 

 

――――負けられない。

 

 

才ある兄と弟に置いて行かれ、自分だけ、家を出る寸前で手に入れた、馬坂流戦闘術の免許皆伝。

 

 

よろよろと立ち上がる。

 

 

その時に言われた、弟からの言葉。

 

 

 

 

『今更手に入れたんだ?お姉様?』

 

 

徹底的に叩きのめされた。

 

 

とんとん、と足踏みをする。

 

 

その時の笑い顔ときたら、悔しさしかなかった。

 

 

敵を見据える。

 

 

東京の憲兵学校に来て、彼に出会った。

 

 

 

 

刀を持ち、他人を引き寄せないようなオーラを放ち、誰とも関わらない、孤独さを感じさせる彼。

 

そんな彼をほっとけず、話しかけてみた。

 

案外、受け答えが上手で、どんどん彼に惹かれていった。

 

ある日、弟が学校にやってきた。

 

そこで、弟は、自分の事情を全て暴露した。

 

大勢の見ている間で、高笑いをして、自分の笑い者にした。

 

周りからも笑われ、すぐにその場を逃げ出そうとした。

 

そんな時だった。彼に腕を掴まれ、引き留められたのは。

 

その時の言葉は、これだった。

 

『―――――逃げんじゃねえよ』

 

その言葉を、自分に告げ、彼は、弟に立ち向かった。

 

そして勝った。

 

馬坂の奥義を使い、徹底的に痛めつけようとした弟を、グランドがぼろぼろになるくらいの激闘の末に、あの奥義を放ち、斬り伏せた、彼。

 

葉子は、その時、絶対に恩返しをしようと誓った。

 

例え、彼の幸せを、自分で作る事ができなくても、私は、彼に恩返しをする、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――今、その一部を、ここで返す。

 

 

 

 

「返すわよ、時打」

ガキンッ!と、右足の靴で、左足の靴の脛辺りを擦らせる。

火花が散る。

葉子は、その右足を、空中で思いっきり振るう。

その瞬間、右足が燃え上がる。

「!?」

空気摩擦での赤熱。

馬坂流戦闘術の最奥は、とにかく、足の部分を燃やすか赤熱させるか、それが出来ればいいのだ。

それだけで、その脚は、地獄を業火を纏った、篝火となる。

それこそが―――――

 

 

「馬坂流戦闘術奥義の型『火爪』――――地獄の業火に焼かれて死ね」

 

 

これにより、葉子の技は一段階、進化する。

「馬坂流戦闘術―――――ッ!!」

左足を前に出し、『猪突前進の構え』からの初速全開のスタートダッシュを決める葉子。

そのスピードに、さらに赤熱する右足。

「ッ!」

流石の弘斗も、あれを受けるのはまずいと予期し、回避行動に移る。

葉子は、空中で、前転の高速回転をする。

右足が、まるでタイヤに刃が飛び出ているかのように、赤い奇跡を描き、弘斗に迫る。

 

「――――『火車(ひぐるま)・縦断』ッ!!」

 

その一撃が、空気を焼きながら、弘斗に迫る。

だが、弘斗はそれをすんでの所で下がって回避。

葉子の右足は地面に叩き着けられ、地面を焼き焦がしながら、クレーターを作っていく。

だが、その右足を踏み込み、更に左足を前に出し、下段から右足を蹴りあげる。

 

「馬坂流戦闘術―――『火漣(ひさざなみ)』ッ!!」

 

「うわ!?」

それを状態を反らす事で回避する。

だが、追撃はまだ終わらない。

 

「『火燕落(ひつばめおとし)ッ!!!」

 

ついに、渾身の踵落とし(地獄の業火の一撃)が、弘斗に叩き込まれる。

「ぐぅああああ!?」

肉が焼ける音と共に、地面に叩き着けられる弘斗。

下がる葉子。

だが、それでもまだ戦闘不能にならない弘斗。

「やってくれたわねぇ・・・」

火傷は、損傷では無く、痛みによるステータスダウンが大きくみられるダメージだ。

「死んで、お姉さん」

弘斗の姿が掻き消える。

気付けばすでに懐に。

「しまっ・・・・」

何かを言い終える前に、八連撃の蹴りが葉子に叩き込まれていた。

「ぐっあぁ!?」

「アハハ!そのまま死んじゃえ!」

意識が遠のく。

だが、その時、脳裏に走った、時打との学校での日々と、川内との修行の日々が、葉子の意識を引き戻し、踏みとどまらせる。

「ッッッッ・・・・射程、距離ぃ・・・・入ったわね・・・ッ!」

「嘘、なんで・・・!?」

狼狽する弘斗。

「終わりだぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」

絶叫、そして、左足を思いっきり、深く、深く踏み込み、超高速の、超高温の、超弩級の一撃が叩き込まれる。

 

 

「馬坂流戦闘術―――『火爪(ひづめ)穿(うが)ち』ィ!!!」

 

 

発火、からの、火線の貫通。

閻魔大王の炎が如き、その焔の槍が、弘斗を穿ち貫く。

弘斗は、もんどりうって倒れ、そのまま白目をむいて、倒れる。

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・か、勝った・・・・」

がくがくする足でなんとか立ち、血が腹をおさえ、白目向いて気絶している弘斗を見下す。

その弘斗から背を向け、鎮守府に向かって歩き出す葉子。

「はあ・・・・戻ろないと・・・みんなが・・・・」

「その傷では無理でござろう」

「!?」

突如、後ろから聞こえた声に、思わず振り向く葉子。

そこには、先ほどまでいなかった弘斗の傍に、一人、赤い忍び装束と覆面で顔を隠した男がいた。

そのガタイはかなりムキムキのマッチョメンで、首から風になびく赤いマフラーがなぜかとてもよく似合っている。

思わず身構える葉子。

「待て、拙者は戦う為にここに来たのではない」

そして、両手を合わせ、お辞儀をする忍者。

 

「ドーモ、馬坂葉子=サン。赤島(せきしま) 小太郎(こたろう)デス」

 

それに、アゼンとする葉子。

「ア、アイエエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」

そして、NRS(ニンジャリアリティショック)を起こすのだった。

「先ほどの戦い、見事であった。拙者、実は、お詫びに来たで(そうろう)

 




次回『姉の想いを乗せて斬れ 『天翔龍閃・加賀岬』』

一歩は生きる意思、二歩は守る意思、三歩は大切な人の意思。

お楽しみに!

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